ご注文はうさぎですか?―ラビットハウスの看板姉弟― 作:テクト
夏の暑さが鳴りを潜め、木の葉が緑から黄色や赤に染まり始めた季節。
チノと雪兎は二人で下校をしていた。
「すっかり秋になってきたね」
「そうだね。時間が経つのは早いなぁ。…ん?」
二人で雑談をしながら公園横の道を進んでいると、どこからか紙飛行機が飛んでくる。
それに気づいた雪兎は飛んでくる紙飛行機をキャッチする。
「…紙飛行機?」
「原稿用紙で出来てる。どこから飛んできたんだろう?」
紙飛行機を見ると、中は原稿用紙のようだ。
持ち主を捜そうと辺りを見回していると、遠くから駆け足の音と共に声が聞こえてくる。
「すみませーん!思いの方向に飛んでしまってー!」
声の主は青山だった。
慌てた様子で二人の方へと駆け寄ってくる。
「青山さん、いいんですか?原稿用紙こんなにして」
「小説家の大事な仕事道具ですよね」
「…そのぉ、やめたんです。…小説家」
そう言いながら、雪兎から受け取った紙飛行機を開くとそこには、失職の二文字が大きく書かれていた。
「「ええっ!?」」
―――――――――――――――――
「ごめーん!また遅刻しちゃった!私の制服、洗濯中だっけ!?…え?」
ラビットハウスでは、ココアが慌てた様子でカウンター横の扉からホールに入ると、何かに気づく。
「おかえりなさいませ!ココアさん、このお店で働いていたんですね」
そこにはココアの制服を着た青山がいた。
ココアはその光景見て固まると、膝を折り、地面に手をつく。
「今度こそリストラだー!」
「失職ですか?実は、私もさっきまで――」
「制服間違えてます!青山さん!…ん?」
「騒がしいですけど、何かありました?…え?」
バーテンダーの制服を持ってチノとキッチンから戻ってきた雪兎がホールに来るが、泣き崩れるココアと困惑する青山に呆気にとられるのだった。
青山とココアは制服を着替えなおし、リゼも合流してホールへと戻ってくる。
「青山さん、小説家やめちゃったの!?」
「就職先に困っていたので、とりあえずうちに来てもらいました」
「すごくぴったりです。まるでこの仕事が天職かのような」
「本当にそれでいいのか?」
あっさりと小説家をやめてしまった青山に、リゼは疑問を抱く。
「あの、ところで、白いお髭のマスターは?私、ずっとお会いしたくて…」
「…知らなかったんですか?」
「え?」
「チノちゃんと雪兎くんのおじいちゃんは、もう亡くなられてるの」
「えぇっ!?でも、この前、お声を聞きましたよ?」
(ちょっと爺ちゃん!)
すでにチノと雪兎の祖父は亡くなってはいるが、ティッピーにその人格が乗り移っているのは香風家だけの秘密である。
青山の声を聞いたという発言に内心、冷汗をかいてるティッピー。
「会いた過ぎて幻聴を聞いてるんだ…!」
青山の発言にココアが慄くと、チノの頭の上のティッピーをひったくるように取り上げて、青山の前に勢いよく差し出す。
「代わりに!こっちの白いお髭をモフモフして、心を癒してください!」
「勝手に!?」
ティッピーを取られたチノは慌てるが、青山はティッピーを受け取るとじっと見つめている。
「…青山さん?」
「…この子、気に入りました。特に目を隠しているところが、とても共感できます」
「よく見たら毛がすごい!」
リゼが驚くほどに、普段のティッピーよりも毛の量が増えていた。
「生え変わりの時期なので最近、毛がボリューミーになってきてまして」
「ちょい悪な感じが気に入ってるみたいです」
ティッピーを見つめながらも、青山は悲しそうに目を伏せる。
(マスターと同じ、コーヒーの匂い…。信じられません…。本当にいなくなってしまったんですか…)
学生の時、書いた小説を真っ先にマスターに読んでもらい、感想を貰っていた日々の事を思い出す。
(もう、小説の感想を聞かせてくださることは、無いんですか…)
―――――――――――――――――
青山がラビットハウスで働き始めて数日。
ココアが千夜を連れてラビットハウスに戻ってくると、カウンターには人生相談窓口という穴あき看板が置かれており、中には青山がいた。
「……」
何が何だかわからないと千夜が一瞬固まるが、ココアは構うことなく、千夜を引っ張ってカウンターに向かう。
「この受付、よく出来てるでしょ?」
「…あの、これは一体?」
「このお店に貢献するために、自分しか出来ないことをやろうと思いまして。人のお話を聞くのが好きなので、タカヒロさんが、お客さんの愚痴を聞いてるのを参考にしました」
「タカヒロさん?」
「父です」
「確かに、人生相談は僕らには出来ないですけども…」
でかでかと置かれている看板が邪魔でしょうがないと感じてしまう雪兎。
「素敵!とてもいい考えだと思うわ!」
「千夜ちゃんのために、こんなのも作ってみたよ!」
ココアがさらにもう一つの穴あき看板を取り出す。
「特技は生かしてなんぼだよね~♪」
「ね~♪」
もう一つの看板には手相占いと書かれていた。
それを、リゼは呆れた様子で見ている。
「特技を生かせるといいのですけど、何故か皆さん、愚痴ってくれないんです…」
「青山さんってミステリアスだから、みんな一歩引いちゃうのかもね」
(そういう問題じゃないだろ…)
(あんなでかでかと人生相談とか書かれてる看板の前で愚痴るとか、周りにバレバレで恥ずかしいでしょ…)
別の客に配膳をしていたリゼと、調理を終えて戻ってきた雪兎が心の中で突っ込みを入れる。
「マスターは人のお話を聞くのが、とてもお上手でした。私も、そんなマスターのように一息つける存在になれたら…」
「そっかぁ~」
千夜とチノがカウンター横の扉から戻ってくる。
チノは両手いっぱいにぬいぐるみを抱えていた。
「ファンシーさがもっと出たら、学生の子も話しやすいかしら」
「ぬいぐるみも配置してみましょう」
置き看板の周りに、四体のぬいぐるみが置かれる。
しかし、青山はぬいぐるみを畏怖の目で見ている。
「こっ、こんな可愛いものに囲まれたら…!呪われる!」
「「「呪われる!?」」」
「なんで!?」
「と、とにかく、数をこなせば相談しやすいオーラが出るんじゃないかしら」
千夜の提案により、学校帰りのシャロをラビットハウスへと連れてくる。
「というわけで、日々思い悩んでいそうな子を連れてきたわ」
「日頃の鬱憤、発散しろって言われても…」
シャロを客としてカウンター席へと座らせ、青山はコーヒーを出す。
「よくいらっしゃいました。おもてなしのコーヒーです」
「シャロさんにコーヒーは…」
「あ、でも…、この後バイトが…」
バイトの事を考えて、コーヒーを酔いを避けるために断ろうとするシャロ。
「ああそれ、私がブレンドしたんだ」
「えっ!?」
リゼがブレンドしたコーヒーを無下にするわけにはいかないと、シャロはコーヒーを一気に呷る。
「…大丈夫ですか?」
「…う、うぅ…」
コーヒーを飲むと突然、シャロが涙ぐむ。
「…あれ?なんか涙出てきた…」
「まさか!?ブレンドの具合によって酔い方が変わる!?」
「えぇ…」
「そんなバカな!?」
「やってらんないですよー!」
シャロはいつもの酔い方のハイテンションモードとは違い、突然叫ぶと机に突っ伏す。
「また今月も厳しくて…!うさぎにも噛まれてー!うぅー…!」
「まぁ、落ち着け」
泣きながら愚痴をこぼすシャロの頭をリゼは優しく撫でる。
「私も、こういうのがやりたかったんです」
「うん、間違ってはない…、と思います…」
今度はココアが、青山の肩を叩くと手紙を渡す。
「悩める相談者さんからお手紙が届いたよ!」
「だんだん、ご意見ボックスみたいになってきたわね!」
青山は手紙の封を開けると、内容を読み上げる。
「妹が野菜を食べてくれません。弟は食べてくれるのですが、このままじゃいつまでたっても妹の方はちっちゃい妹のままです。…お返事を書かなくてはいけませんね」
青山は手紙をカウンターに置くと、ペンを取り出し、返信の文章を考え始める。
チノは内容が気になったのか、手紙を手に取り内容を確認する。
雪兎も気になり、チノの横から覗き込む。
『そのままでもオッケーなのですが、セロリが嫌いな子でも食べられるお料理を教えてくれるとうれしいです』
「ぶっ!くくっ…!」
内容を見たチノは自分の事だと気づき、恥ずかしさで顔を真っ赤にしてプルプルと震えだし、それを見た雪兎は吹き出して笑うのを堪えている。
チノは雪兎の頭を一発叩くと、別の手紙を青山に押し付ける。
さらには、雪兎も手紙を持ってくる。
「私もお手紙貰ってきました!自称姉が自分も野菜が嫌いなのに、押し付けてきて困ってます!それと、弟も毎朝、寝坊助で中々起きてこないことも困ってます!」
「僕も持ってきました。姉二人が野菜食べなくて困ってます」
(お前ら直接言え!)
「急に忙しくなってきましたね!」
仕事が増えたことに喜んだのか、青山は気合を入れて返事を書き始める。
「…あのー。そんな簡単に小説家やめちゃってよかったんですか…?」
酔いでダウンしていたシャロが復活すると、青山に小説家をやめてしまったことを問いかける。
「…本当は、続けていたかったんですが」
青山は悲しそうな顔でそういうと、続きを待つことなくリゼが勢いよく両肩を掴む。
「やりたいこと諦めるなって、私に言ったのは誰だよ!」
「おおー!リゼちゃんが熱い!」
リゼの熱い説得に一瞬呆ける青山だが、手に持っているペンを見つめながら答える。
「実は、マスターに頂いた万年筆を失くしてしまって以来、さっぱり筆が乗らなくて…。他の万年筆じゃ、ダメなんです…」
「確かに、手に馴染んだものじゃないとな…」
「あの、どこで失くしたかわからないんですか?」
「いつとかも分かれば、参考になると思いますけど」
「ココアさんと初めて会ったあの日までは、確かに持っていたんですけど」
―――――――――――――――――
青山から聞いた情報から、ココア、チノ、雪兎、ティッピーは青山の万年筆を捜すために、ココアと初めて会ったという公園に来ていた。
ココアは青山と初めて会ったベンチの下を捜していた。
「私と初めて会った日に失くしたらなら、ここに落ちてるんじゃないかな」
ベンチの下をのぞき込んで辺りを捜すが、目的の万年筆は見つからない。
「あ、チノちゃん、雪兎くん。見つかった?」
「見つかりません」
「辺りを捜してみましたけど、それらしいものは何も」
「本当にここなんですか?」
ココアの視線が二人から外れると、その先には野良うさぎがいた。
「あ!うさぎだー!わーい♪」
「「捜す気あるんですか!?」」
ココアはうさぎを追ってどこかへ行ってしまった。
二人は手分けをして、ベンチの下や茂みをの中を捜す。
「ピンポイントでここに落ちてる何て思えない。ねぇ、雪兎」
「とはいえ、捜さないことには始まらないし、とにかく捜そう。爺ちゃんそっちはどう?…あれ?」
雪兎がティッピーに聞くが返事がない。
チノの頭の上に乗っていたティッピーがいないことに気づくと、二人が振り返る。
そこにはティッピーと目の前に落ちてる万年筆があった。
「もしかして、これですか?」
チノと雪兎が尋ねながらティッピーの元に向かい、しゃがみ込むと、ティッピーはそうだと言わんばかりに跳ねて答える。
「…え?私たちが渡すんですか」
「それでもいいけど…」
孫二人にティッピーは青山に万年筆を渡すように促す。
しかし、二人は青山の事と祖父の事を思い、遮るように言葉を紡ぐ。
「…えっと、おじいちゃんとティッピーがこうなった理由はよくわかりませんが」
「内緒にするって、窮屈じゃない?」
「…おじいちゃんと雪兎にしか話そうとしない私のこと思って、内緒にする必要はもうないんですよ?」
「それに、爺ちゃんが渡してあげた方がいいと思うんだ。青山さんは、爺ちゃんに会いたがってんだからさ」
「だから、励ましてあげてください」
「爺ちゃんの言葉でさ」
二人の孫は、思い人のために祖父の背中を優しく押すのだった。
―――――――――――――――――
その日のバータイム。
青山はカウンターに立ちながらも、自らが著したうさぎになったバリスタの本を見つめていた。
(…せめて、この小説だけは読んでもらいたかったな)
叶うことない願いを心の中で青山が呟く。
「…面白かった」
「え?」
突然聞きなれた老人の声に驚き、辺りを見回す。
視線をカウンターに移すと、そこにはティッピーと万年筆が置かれていた。
「…っが、主人公より息子の出番が多かった」
ココア、チノ、雪兎はチノの部屋でくつろいでいた。
その時、どたどたと駆けがってくる足音と共に声が聞こえてくる。
「た、大変ですー!」
「「「ん?」」」
それに気づいた三人が扉の方を見ると、勢いよく扉が開きひよこのぬいぐるみを抱えた青山が飛び込んできた。
「このぬいぐるみから!マスターのお声が!」
「えぇー!?」
「「それじゃないっ!」」
ココアは驚き、真実を知っているチノと雪兎は突っ込みを入れるのだった。
―――――――――――――――――
こうして、万年筆が戻ってきた青山さんは小説家に戻りました。
バーテンダーにもはまったらしく、時々手伝ってくれます。
「私も、チノちゃんと雪兎くんのおじいちゃんに会ってみたかったなぁ」
「私が来た頃には、もういなかったからなぁ」
ココアとリゼの会話を聞いた青山は、笑顔になると二人の祖父の事を語り始める。
「マスターは、いつも見守っていますよ。困ったときにはひょっこり出てきて、私たちを助けてくださるんです」
それを聞いたチノと雪兎は、間違ってないと笑顔になる。
「次は、ティッピーさんの体を借りて、話し出すかもしれませんね」
「…ちょっと怖いなぁ」
「…そういうのやめてくれよ」
((間違ってない…))
死者が体を借りて話し出すというホラーに、ココアが震え、リゼが引いている。
しかし、実際そのとおりであることを知っているチノと雪兎は何とも言えない表情をするのだった。
スランプの青山編でした。
青山のキャラは中々掴みづらいですねぇ。
そして、アニメ本編で初めてチノから青山という名前が出てくるという二人が自己紹介した場面は本編中には出てきませんでした。
結果的にお話をするお話2のラストで名前出したのは正解かもしれません…w
さて、一期も残すところあと3羽ですね。
マイペースに続けていきますのでよろしくお願いします。