ご注文はうさぎですか?―ラビットハウスの看板姉弟― 作:テクト
甘兎庵。
木組みの家と石畳の町にある、甘味処の喫茶店だ。
「いらっしゃいませ~♪」
今日もお客が一人やってくる。
私のクラスメイトの千夜ちゃん。
甘味処、甘兎庵の看板娘さんです。
千夜は来店したココアを席に案内し、注文の品を持ってくる。
「強者どもが夢の跡。お待ちどう様」
「わぁー!今度の新作もすごいねぇ!」
奇抜なメニュー名の正体は、どんぶりのような器に大量に盛られたフルーツと白玉ぜんざいだった。
そして、あまうさと書かれたのぼりが無数に立っている。
「まるで本物の戦場だよ!」
「うふふ♪」
ココアの感想に千夜は気分をよくする。
ココアはぜんざいを1つスプーンですくうと口へと運ぶ。
「う~ん。でも、味はちょっと物足りない気がするかな?」
「ココアちゃんもそう思う?…やっぱり、形から入らなきゃだめね」
「おぉ~」
ココアの感想に千夜はなぜか、うさ耳の着いた兜を装着するのだった。
―――――――――――――――――
昼間のラビットハウス。
ホールではチノ、雪兎、リゼの三人が働いていた。
チノはコーヒー豆を挽き、リゼがコーヒーを淹れてラテアートの練習、雪兎はカップを洗っている。
リゼは出来上がったラテアートを見て満足気な表情をすると、ホールを見渡す。
「…ココアがいないと静かだな」
「ええ」
「そうですね」
ココアがいない理由。
それは少し前にさかのぼる。
「テスト前の連休だから」
「千夜の家で勉強合宿?」
「それで、一日うちを空けますと」
「そうなの」
ココアの学校ではテスト前らしく、千夜と勉強合宿をすることになったようだ。
「というわけで、チノちゃん、ティッピー貸して?」
「何を企んでるんです?」
「私…、モフモフしないと寝れないから!」
ココアはワキワキと手を動かしてティッピーに迫る。
「安眠グッズじゃないです!」
「抱き心地がいいのは分かります」
「おいこら雪兎」
ココアの言葉に若干の肯定を見せる雪兎に、ティッピーが突っ込む。
「じゃ、じゃぁせめて、夜を越すために!今からモフモフ成分の蓄えをー!」
ココアはチノと雪兎に抱き着くと、頬を二人に擦り付ける。
「冬眠する熊かっ!」
そんな一幕があった。
「でも、今は静かですがこれから騒がしくなります」
「え?」
「マヤとメグ、リクとカケルが泊りに来るんですよ」
雪兎が言うと同時にラビットハウスの扉が開く。
「やっほー!チノ、雪兎、リゼ!」
「来たぜー!」
「お世話になりま~す」
「よろしくお願いします」
マヤ、リク、メグ、カケルが揃って扉が入ってきた。
チノと雪兎が4人方へと向かう。
「4人お揃いでようこそ」
「待ってましたよ」
「ココアの代わりにお店を盛り上げるよー!」
「頑張ろうね~」
「任せろって!実家の店番で鍛えた接客技術を見せてやるぜ!」
「あはは、はしゃぎすぎないようにね」
ワイワイと盛り上がる6人の様子をカウンターから見ていたリゼ。
「ココアがいたら喜んだろうに」
『妹と弟がいっぱい~!』
大喜びするココアの様子が頭に浮かぶ。
「今日はよろしく」
「はい」
「それじゃ、二人は僕の部屋に荷物持っていこうか」
「オッケー」
「うん」
雪兎はリクとカケルを連れて、カウンター横の扉に入っていく。
ホールに残ったチノ、マヤ、メグを見てリゼが唸る。
「う~ん。小さいのが三人うろつくと、名前を間違えそうになるな」
(私も!?)
「あいつらがユカリだから、チノ、マヤ、メグでまとめてチマメだな!」
「「なんかやだ!」」
(私も!?)
女子中学生三人小隊、チマメ隊が誕生した。
荷物を部屋へと置いた雪兎たちは、女子たちよりも先に着替えを終えてホールへと戻ってくる。
「あいつらがいると騒がしくなりそうだな」
「そうだね。なんだかんだ、二人ともテンション高いからね」
「あはは、違いない」
三人でホールで雑談をしていると、バーテンダーの制服に着替えたリゼが戻ってくる。
「あれ?リゼさんはその恰好は?」
「これか?バーテンダーの制服だ。私の分はマヤに貸したからな」
「おおー!かっこいいなそれ!」
「さて、お前らもサボってないで仕事するぞ」
「おう!」
「じゃ、二人はとりあえず机を拭いててよ」
「分かったよ」
雪兎は二人に布巾を渡して机を拭かせる。
しばらくすると、チノ、マヤ、メグがホールへとやってきた。
「お待たせー!私たちが働いてる間はツインテだよね!
「お揃い~♪」
「妙なルールを…」
「リゼの真似ー♪」
マヤとメグは結った髪の毛を触ってリゼに見せる。
「まぁ、いいでしょう」
「悪くないな」
続けて戻ってきたチノとなぜかティッピーも髪型がツインテになっていた。
「ほら、お前らもツインテにしよう!」
「「「できるか!」」」
マヤがユカリ隊にまでツインテにしろというが、三人とも髪が結えるほどの長さはない。
「メグ!本物のリゼはどーれだ?」
マヤとチノはリゼの左右にそれぞれ付くとマヤがメグに問題を出す。
「えっ!?えと…、えっとぉ…」
「みんなツインテだから見分け付くかな~?」
「わ、ワカンナイヨ~」
「律儀に乗らなくていい!」
「だってぇ~」
明らかに分かる問題だが、マヤの期待にメグはわざとらしく棒読みで答える。
「こらマヤ。遊んでんじゃねーぞ」
「いいじゃん。お客もいないんだし」
リクが遊びに夢中になるマヤを叱る。
実際、マヤの言う通り、ラビットハウスに客の姿はない。
「この時間はね。これからは少し増えるからみんなよろしくね」
ちょうどその時に、来店を知らせるようにラビットハウスの扉が開く。
「「「「「「「いらっしゃいませ」」」」」」」
それなりに時間が経ち、客がまばらに入り始めたころ。
「2000円預かりましたので、400円のお釣りです。ありがとうございました!」
「お待たせしました!カプチーノとサンドイッチになりまーす!」
「コロンビアとパンケーキですね~。少々お待ちくださ~い」
「雪兎くーん!追加でパンケーキお願いしまーす!」
「了解ー!」
リクがレジ打ちをし、マヤが客に配膳を行い、メグが注文を取り、カケルが客の食べ終わった食器の片づけと雪兎に調理の追加要請を行う。
「へぇ。こいつら、中々いい連携だな」
「はい。とても頼りになるお友達です」
食器を洗っているリゼと、ドリンクを作ってるチノはカウンターから様子を見ながら4人の働きぶりを見て感心する。
所狭しと動き回る4人だが、うまく役割分担をしており滞りなく客を捌いている。
(……)
一方、チノはいつもの騒がしい声が聞こえないことに心にぽっかりと穴が開いたような気分だった。
「ありがとうございました!…ふぅ、これで一段落だな」
客足が多かった時間が終わり、店内の客が少なくなってきた。
ほぼ張り付きっぱなしでレジ打ちを終えたリクが、レジを閉じると息を一つ漏らす。
「お疲れ様、リクくん。さすがに手際がいいね」
「おう。うちで散々打ってきたからな。これくらい軽い軽い」
「二人ともお疲れ。みんな要領よく動いてくれるからこっちもやりやすかったよ」
雪兎もキッチンから戻ってくると二人に労いの言葉を掛ける。
ユカリ隊が談笑している一方で、メグは最後の客にドリンクを運んでいる。
「お待たせしました~」
「あら?私が頼んだのはカプチーノよ?」
「あっ、すみません!」
「ん?」
メグがドリンクを持っていくが中身が間違えていたようで、客に謝るとすぐに戻ってくる。
しかし、リゼはメグがドリンクを間違えたことに違和感を覚える。
「間違えてミルクココア出しちゃった」
「飲み物作ってるのって…」
「ん?おいチノ。お前、そんなにミルクココア作ってどうすんだ?」
「へ?」
リゼが確認する前に、リクが気づくとチノは気の抜けた返事をする。
「チノ!?何でミルクココアばっかり作ってるんだ!?」
ドリンク担当のチノの目の前には、ミルクココアの注がれたカップが大量に並んでいた。
自分で作っていたはずのチノが目の前の光景に驚く。
「い、いつの間にこんなに!?」
チノの方は無意識で大量に作っていたようだ。
「…まさか、ココアシック!?」
「ココア姉ちゃんが居ることが当たり前になってたから!?」
「す、すみません…。ボーっとしてて…」
「…仕方ない。カプチーノは僕が作るよ」
雪兎は棚からコーヒー豆とサイフォン式の機材を取り出すと、コーヒーを淹れ始める。
「コーヒーの方は雪兎くんに任せて、ボクらはこれ飲んじゃおうか」
「捨てるのももったいないしな」
「そうだね~」
「たっだいまー!お、何々!?ミルクココア大飲み大会?」
ホールを外していたマヤも戻ってくると、みんなで大量のミルクココアを飲み干すのだった。
ミルクココアの処理を終えたラビットハウスでは、リゼがキッチンでパスタの調理をしていた。
そこにマヤがやってくる。
「ねぇねぇリゼ。私にもアルゼンチン教えて?」
「アルゼンチン?社会の宿題でも教えてほしいのか?」
「アルデンテのことじゃないかな~?」
二人の間に割って声を入れたのは、チノ、ユカリ隊と共にキッチンに来たメグだった。
「そう!それそれ!」
「通訳か!?」
「メグさん達は以心伝心なんです」
「ほんとになんで通じるんだって疑問に思うレベルでこいつら伝わってるからなぁ…」
普段からやり取りを見ているリクは、しみじみといった雰囲気で言う。
「へぇ~」
「…私とリゼさんも心が通じ合えば」
チノはリゼに言葉なしで伝われば、注文と同時にリゼを見るだけで伝われば楽だとイメージする。
『(じーっ)』
『エスプレッソにミックスサンドだな!』
「言葉なしで通じ合いたいなら、ハンドシグナル教えてやるよ」
「ハンドシグナル?」
「これが撃て」
リゼは肩の高さまで持ってきた右拳を前に出す。
「っで、これが弾よこせだ」
次は右拳を上下させる。
「そんなの使わないです」
「そうか?あはは」
「なんで喫茶店でサバゲーのシグナル出すんだよ…」
「もしかして、雪兎くんとチノさんは双子だから、二人と同じことができるんじゃないの?」
「「え?」」
カケルの疑問に香風姉弟が同じように声を出すと、向かい合ってじっと互いを見つめる。
「「……」」
互いを見つめ合うとこ数秒、二人は考えを読む。
「眠たい」「ココア姉ちゃんに会いたい」
「「…は?」」
お互いの答えが不服だったのか、明らかにお互いの声のトーンが下がる。
姉弟はがっちりと互いの両手を組むと握り潰すようにギリギリと力を入れる。
「何言ってんの姉ちゃん?今何時だと思ってるの?いくら僕が寝坊助だからって、そんな考えしか読めないとか脳みそ寝てるんじゃないの?」
「そっちこそ、ココアさんに会いたいなんて答えが出るなんて13年間、弟として私の何を見てきたの?」
ギリギリと握り合う手の力が明らかに増していくが、互いに引く素振りを見せない。
「おい、お前ら喧嘩するな」
「二人ともそこまでだよ」
見かねたリクとカケルが仲裁に入る。
「じゃぁ、リゼ!」
「ん?な、なんだ?」
「私は今、何を思ってるでしょう?」
マヤは覗き込むようにリゼの顔を見る。
「ん~…。えっとぉ…。銃貸してとか?」
「ブブー!」
「はいはい!」
「はい、メグ!」
リゼが外すと、メグが勢いよく手を挙げる。
「仕事が終わったら、温水プール行って疲れを取ろう!」
「ピンポーン!」
「すごい…!」
メグの答えはピンポイントだったが、見事に正解した。
「この前、チノに話し聞いてから行きたかったんだー!」
「それでこいつ、水着持って来いって言ってたわけか…。てか、なんでメグは分かるんだよ」
「これもうテレパシーの類だよね」
「マヤちゃん、すぐ顔に出るからわかりやすいよ~」
「顔を見て分かるのレベルが高すぎる…」
「んもー、リゼ、それくらい分かってもらわないとー」
「分かるか!」
(そうじゃよ)
マヤの無茶ぶりにリゼが声を荒げるが、内心ティッピーも同意するのだった。
ラビットハウスの仕事を終えた7人は温水プールへと向かった。
チマメ隊&ユカリ隊のお泊り会仕事編でした。
中学生6人組がついにラビットハウスに揃い踏み。
マヤとメグがボケに走るので、リクとカケルがツッコミに回るという図が多いですねぇ。
この二人もボケに走らせると収拾がつかなくなりそうです…w