ご注文はうさぎですか?―ラビットハウスの看板姉弟― 作:テクト
パン作りを行った次の休日。
雪兎、チノ、ココア、リゼは千夜の喫茶店に向かっていた。
「この辺りのはずなんだけど」
先日のパン作りを終えたときに、
『パン作りでお世話になったお礼に、うちの喫茶店に招待するわ』
っと千夜からお誘いを受けたのだった。
「どんなところか楽しみだね!」
「なんて名前の喫茶店ですか?」
「あま…うさ…だったかな?」
「甘兎とな!?」
「チノちゃん知ってるの?」
突然ダンディな声が響くがチノが腹話術と押し通してるので怪しまれることはない。
(いまだに信じてるのかな…)
ココアはともかく、リゼにもばれないのはなぜなのかと疑問に思う雪兎。
「おじいちゃんの時代に張り合っていたと聞きます」
「あー、昔、爺ちゃんがよくババアがどうとか言ってたお店のことかな」
「お、ここじゃないのか?」
この町らしく外壁が赤く塗られた木組みの家には、年季の入った木製の看板がついてる。
看板には「庵兎甘」と書かれている。
「看板だけやたら渋い…。面白い店だな」
「俺…、兎…、甘い?」
「昔の看板は右から読むんですよ?」
「…甘兎庵な」
甘兎庵の扉を開き四人は中に入る。
「「「「こんにちはー」」」」
「あら。みんな、いらっしゃい」
中に入ると着物にエプロンを付けた千夜が出迎える。
「あっ!その服、お店の制服だったんだ!初めて会ったときもその恰好だったよね」
「あれは、お仕事で羊羹をお得意様に配った帰りだったの」
「あの羊羹、美味しくて三本いけちゃったよ~♪」
「三本丸ごと食ったのか!?」
「ん?おっとぉ!?」
雪兎の視界の端で黒い何かが動くと飛びついてきた。
雪兎は驚くがなんとかキャッチする。
「う、うさぎ?」
「うさぎだ!」
「あらあら、あんこったら」
雪兎の腕に収まっているのは黒い毛の王冠を被ったうさぎだった。
「看板うさぎのあんこよ。あんこはよっぽどのことがないと動かないんだけど、珍しいわね。雪兎くんのこと気に入ったのかしら?男の友情ね」
「へぇ~」
「おとなしいですね」
雪兎が背中を撫でるがピクリとも動かない。顔はこっちをじっと見ている。
ふと横を見るとチノが羨ましそうな顔で見ている。
チノが近づくとあんこの視線がチノの上に乗ってるティッピーに向くと雪兎の腕を蹴りティッピーに飛びつく。
「わっ!?」
「姉ちゃん!?」
「チノちゃん!大丈夫!?」
チノが驚き尻もちをつく。
ココアが手を取りチノを立たせる。
「…びっくりしました」
ティッピーは叩き落したあんこはそのままティッピーを追い回している。
「わあぁぁーーーーーーーーー!!」
「じいっ…、ティッピー!?」
「縄張り意識が働いたのか?」
「いえ…、あれは一目惚れしちゃったのね」
「一目惚れ…」
「恥ずかしがり屋くんだと思っていたのに、あれは本気ね」
千夜は笑顔で手でハートを作る。
「あれ?ティッピーってオスだと思ってた」
「ティッピーはメスですよ」
(中身は違いますが…)
ティッピーは叫びながら店外へと飛び出していき、あんこもそのあと追っていった。
4人はテーブルに着くと、千夜が4人分の抹茶を持ってくる。
「私も、抹茶でラテアートを作ってみたんだけどどうかしら?」
「わぁ、どんなの?」
「ココアちゃんみたいに可愛いのは描けないんだけど…、北斎様にあこがれていて」
「…浮世絵?」
抹茶に描かれていたのはそれぞれ女性の顔と山、そして波の絵だが、浮世絵のようなタッチである。
「芭蕉様にもあこがれていて」
4つ目の抹茶には「ココアちゃん どうして今日は おさげやきん? 千夜」と書かれている。
「風流だ…」
「あとはい、おしながきよ」
千夜からおしながきを受け取ったリゼが開く。
内容を見た瞬間リゼは顔をしかめる。
「煌めく三宝珠…、雪原の赤宝石…、海に映る月と星々…、なんだ、この漫画の必殺技のようなメニューは…」
チノと雪兎もわからないのか顔を見合わせて首を傾げている。
「わぁ~、抹茶パフェもいいし!クリームあんみつも白玉も捨てがたいなぁ!」
「わかるのか!?」
(あ、そういう…)
ココアの解読から雪兎はなんとなくメニュー内容を理解する。
和菓子の連想ゲーム的なやつだと。
「じゃぁ、私、黄金の鯱スペシャルで!」
「よくわからないけど、海に映る月と星々で」
「花の都三つ子の宝石」
「雪原の赤宝石でお願いします」
「はーい。ちょっと待っててね」
メニューを取り終えると千夜は厨房に向かう。
「和服ってお淑やかな感じがしていいねぇ」
千夜の後姿を視線で熱心に追うリゼの様子に気づくチノ。
「着てみたいんですか?」
「いっ、いや、そういうわけじゃ」
「リゼちゃんならきっと似合うよ」
「そ、そうか?」
リゼは照れながらも嬉しそうな顔をしている。
「うん!すっごくかっこいい」
「うんうん!」
「「…」」
この二人のイメージにものすごく差異がある気がする。
そんなことを思う雪兎とチノ。
「お待ちどう様」
千夜が注文の品をもって戻ってくる。
「リゼちゃんは、海に映る月と星々ね」
「白玉栗ぜんざいだったのか」
「チノちゃんは、花の都三つ子の宝石ね」
「餡蜜にお団子が刺さってます!」
「雪兎くんは、雪原の赤宝石ね」
「やっぱりイチゴ大福だった」
「ココアちゃんは、黄金の鯱スペシャルね」
「おぉ~♪」
「鯱がタイ焼きって…、無理がないか?」
「さぁ、召し上がれ♪」
「「「「いただきます」」」」
みんなで手を合わせてそれぞれ食べ始める。
「う~ん♪美味しい!」
「このお団子、桜の風味…!」
「中の餡子も美味しいです。あ、あんこ」
雪兎の言葉にみんなが一斉に台の方を見るとあんこが戻ってきていた。
「あんこは栗羊羹ね。ん?」
千夜があんこの台に栗羊羹を置くがあんこはこちらのテーブルをじっと見ている。
「どうしたの?」
「こっちのを食べたいんでしょうか?」
「いや、あの目は…」
「しょうがないなぁ、ちょっとだけだよ?その代わり、後でもふもふさせてね」
ココアはスプーンにアイスを乗せてあんこを誘うが、あんこは本体の器に一直線に向かうとすごい勢いで食べ始める。
「本体まっしぐら!?」
「…獲物を狩る目ですね」
「あらあら」
ココアの料理の大半を食べ尽くし、満足したあんこを千夜が台に戻す。
「それにしても、このぜんざい美味しいな!」
「うちもこのくらいやらないとダメですね」
「確かに、すごく凝ってます」
「あっ、それなら、ラビットハウスさんとコラボなんてどうかしら?盛り上がると思うの。コーヒー餡蜜とか」
「いいねぇ!タオルや、トートバックなんてどうかな?」
「私、マグカップ欲しいです」
(ん?)
(そっち?)
(料理の方じゃなくて?)
談笑しながら食事は進み、4人とも完食する。
「「「「ごちそうさまでした」」」」
チノがじっとあんこの方を見てる。
「チノちゃん。あんこには触らないの?」
「あー、それがですね」
「チノはティッピー以外の動物が懐かないらしい」
「あれ?でも、雪兎くんはすぐ仲良くなってたよね?」
「僕は逆に動物に懐かれやすいんです。あんこはおとなしいから大丈夫だと思いますけど」
雪兎ばっかりずるい!っと言われてた小さい頃を少し思い出す。
こればかりはどうしようもないのだが。
意を決したチノが席を立ち、あんこに近づく。
あんこはやはり微動だにしない。
チノが指先で恐る恐るあんこの耳に触れる。
「っ!」
あんこの耳がピクリと動いてチノはびっくりするが、やはり本体は微動だにしない。
次は背中をゆっくりと撫でる。しかしあんこは動かない。
さらに両手でゆっくり抱き上げ、あんこの顔に頬をこすりつける。だがあんこは動かない。
あんこに敵意がないと感じたのか最後は頭の上に乗せる。
「すごい!もうこんなに仲良く」
「頭に乗せなきゃ気が済まないのか!?」
「癖ですね、あれ」
やり遂げたチノの表情がドヤ顔になる。
「じゃぁ、そろそろお暇するか」
「みなさん。また来てくださいね」
荷物をそれぞれ持つとテーブルから立ち上がる。
「うん!私の下宿先が千夜ちゃんの家だったら、ここでお手伝いさせてもらってたんだろうなぁ」
着物の制服を着て千夜と二人で働く姿を想像するココア。
「今からでも来てくれていいのよ?従業員は随時募集中だもの♪」
「それいいな」
「同じ喫茶店ですし、すぐ慣れますね」
「そうですね。こっちでも頑張ってください」
「じゃぁ、部屋を開けておくから、早速荷物をまとめてきてね♪」
「誰か止めてよぉ!」
とんとん拍子に話が進んでいき悲鳴を上げるココアだった。
「じゃあね、千夜ちゃん!」
「「ごちそうさまでした」」
「またなー」
4人は甘兎庵を後にし帰路に着く。
「昔はあのお店とライバルだったんだよね」
「今はそんなこと関係ないですけどね」
「今の今まで忘れてましたし」
「私たちも、お客さんに満足してもらえるように頑張らないとね!」
「だな!」
(…う~ん。何か足りないような…?)
こんな会話をしてたら絶対割り込んでくるはずの声がないような?
そんなことを思いながらみんなについていく雪兎。
誰にも気づかれずチノの頭に乗っているのはあんこであった。
「なんじゃこの栗羊羹!?甘すぎるわ!甘すぎ甘すぎ!旨すぎ旨すぎ!甘すぎ甘すぎ!」
「あら?」
その頃、ティッピーはなぜか甘兎庵の台で栗羊羹を頬張っていた。
第2羽終了です。甘兎庵編でした。
文字数的に前後編になりましたが、これからも1話分を、2、3分割の構成になりそうです。