ご注文はうさぎですか?―ラビットハウスの看板姉弟― 作:テクト
開店前のラビットハウス。
雪兎、チノ、ココアはホールのテーブルを囲みコーヒーを飲んでいる。
「美味しい…」
「あ~、身に染みる…」
「うん♪私もコーヒー大好き。チノちゃんが入れてくれたコーヒー飲んでからはまっちゃったんだよ。なんでかなぁ?えへへ」
「…でもココアさんは味の違いがわからないじゃないですか。ただのカフェイン中毒ですよ」
(中毒扱いされた…)
「コーヒーが好きって言ってくれる人が一人でも増えてくれたことは、喜ぶべきことだと思うよ。そこから自分の好きな味を探していくのも楽しみ方の一つだし」
「むっ…、…それとこれとは話が別…」
「うんうん♪雪兎くんはいいこと言うね。さすが私の弟♪」
「雪兎は私の弟です」
ココアに対するチノの当たりは強い。コーヒーに関しては強いこだわりを持っているので尚更である。
雪兎もチノの態度が照れ隠しなのはなんとなく察している。
「さぁ、そろそろ開店だぞ」
「は~い」
カウンターで作業をしていたリゼが呼びに来る。
飲み終わったカップを手に取りココアが席を立つと、手元のカップをじっと見つめる。
「ラビットハウスのカップってシンプルだよね」
「シンプルイズベストです」
ラビットハウスで使用してるコーヒーカップは白の無地だ。
「柄物で揃えようと思うと経費が掛かりますからね。何も考えずに買うと統一感もなくなりますし、無地のものは揃えやすいんですよ」
「そっか~、でも!もっといろんなのがあったらきっと、みんな楽しいよ」
「そうでしょうか?」
「この前、面白いカップ見つけたんだ!みんなで買いに行かない?」
「へぇ~。どんな?」
「えーっとねぇ。蝋燭の炎が揺れて、いい匂いがしてね」
「…それ、アロマキャンドルじゃないか…?」
「…はっ!」
「店に置けばアロマ効果で売り上げアップ?」
「…そんな簡単にはいかないと思う」
―――――――――――――――――
後日、放課後にコーヒーカップを買いに店に集まった4人。
「わぁ~!可愛いカップが一杯!」
ココアは楽しそう辺りを見回しながら動き回っている。
「あんまはしゃぐな~」
その時ココアが足を挫き棚に頭をぶつける。
リゼと雪兎は倒れそうになるココアを支え、チノは棚から落ちてきた写真立てをキャッチする。
(((予想を裏切らない!)))
「えへへ~。ごめんね~。あっ!」
ココアはぶつけたおでこをさすっているとチノの持っている写真立てに気づく。
写真にはティーカップに入ったうさぎが写っている。
「可愛い!ティッピーも入ったら注目度アップだよ」
「いや、ティッピーがカップに入ったらどう見ても…」
「でも、そんな大きなカップはないだろ?」
「ありました」
「え!?あるのかよ!?」
チノが見つけたのは両手で抱えるくらいの大きさのカップだ。
机にカップを置きティッピーをチノの頭の上からカップに移す。
「「「「…」」」」
その姿はどう見ても大盛ご飯にしか見えない。
「何か違う…」
「ご飯にしか見えないです」
「…だよね。黒い折り紙を千切りにして乗せます?」
「やめろ。余計にご飯にしか見えなくなる」
全員から微妙な反応をされてティッピーがむくれる。
「あっ!これなんていいかも!」
その後も店内を物色していたココアが見つけたカップに手を伸ばすと誰かの手とぶつかる。
「「あっ」」
ココアの隣にいたのはココアより少し小さい金髪くせ毛の少女だった。
「こんなシチュエーション、漫画で見たことあります」
「よく恋愛に発展するよな?」
「女の人同士だから違うのでは?」
「はぁ~」
(なんか意識されてる!?)
ココアはなぜか目をキラキラさせてハートをまき散らしながら少女を見ている。
「あれ?シャロじゃん」
「リ、リゼ先輩!?どうしてここに?」
シャロと呼ばれた少女、桐間斜路はリゼの存在に驚いている。
「知合いですか?」
「私の高校の後輩だよ。ココア達と同い年」
「え?リゼちゃんって年上だったの?」
「今更!?」
「リゼさんって高二って言ってた?」
「…言ってないね」
雪兎とチノはココアとリゼのやり取りを思い出すが、言っていた覚えがない。
「先輩はどうしてここに?」
「バイト先の喫茶店で使うカップを買いに来たんだよ。シャロは何か買ったのか?」
「いえ、私は見てるだけで十分なので」
「見てるだけ?」
「この白く…、滑らかなフォルム、ほあぁぁ~♪」
シャロはカップを手に取ると愛でるような手つきで表面を撫でる。
「ウィンドウショッピングってやつですか」
「それは変わった趣味ですなぁ」
「え!?お前が言う!?」
もふもふ魔であるココアに対し、自覚がないのかとリゼが突っ込む。
「二人は学年が違うのに、いつ知り合ったんです?」
「それは…、暴漢に襲われそうになったところを助けてくれたの」
「へぇ~かっこいい!」
「ん!?」
――暴漢に追われ、路地裏に追い込まれたシャロ。へっへっへと下衆な笑いをしながら迫りくる二人の暴漢。
『あ、あ、あぅぅ…』
行き止まりを背にシャロはもうだめだと目を強く瞑る。
『伏せろ!』
『『なっ!?』』
突然、路地裏に響く声。
暴漢が驚き振り返るとそこにはシャロと同じ制服を着た黒いツインテールの少女、天々座リゼ。
『この私が!断罪してくれる!』
とても学生とは思えない気迫と共に銃を構え引き金を――
「違う!そんなこと言ってない!本当は」
シャロの回想に慌ててリゼが割って入る。
「ああ!言っちゃダメです!」
――夕暮れ時、シャロが路地裏を進もうとすると前方にいたのは、赤く目を煌めかせ頭をまるでリーゼントのように前に跳ねた草を咥えたガラの悪そうなうさぎ。
『不良野良うさぎ!?噛まれる!怖いっ!通れないっ…!』
シャロが恐怖で硬直しているとリゼが通りかかる。
『ん?ああ。また通行の邪魔してるな。シッシッ!』
リゼはシャロが困っているのに気づくとうさぎを追い払う。
不良野良うさぎは草をペッと吐き捨てるとどこかへ去っていった。
『はぁぁ~』
助けてくれたリゼの顔を見つめるシャロの目は輝いていた――
「ってわけだよ」
話しを聞いていたチノ、雪兎、ココアの生暖かい視線がリゼからシャロにゆっくりと移る。
「う、うさぎが怖くて!わ、悪い!?」
「いえ、それは大変だなぁっと」
「あっ!」
シャロは振り返るとカップを手に取り3人に見せる。
「こ、このティーカップどう?」
「…話を誤魔化そうとしてますね」
「違うの!」
チノの容赦ない突っ込みに慌てるシャロ。
「ほら見て、この形。香りがよく広がるの」
「へぇー、カップにも色々あるんですね」
シャロは別のカップを手に取りココアに見せる。
「こっちは持ち手の触り心地が工夫されているのよ」
「わぁ。気持ちいい!なるほどね~」
シャロはまた別のカップを手に取り、次は雪兎に見せる。
「これなんて、カップ全体が鳥の形をしてるの」
「細かいところまで作りこんである!すごいですね」
「詳しいんだな」
「上品な紅茶を飲むには、ティーカップにもこだわらなきゃです!」
シャロは得意気にティーカップのこだわりを語る。
「確かに、カップをそういう方向で見たことなかったかも」
「うちもコーヒーカップには丈夫でいいものを使ってます」
「私のお茶碗は実家から持ってきたこだわりの逸品だよ!」
「何張り合ってるんだ…?」
「あとココア姉ちゃんは土俵が違いますね」
「でも、うちのコーヒーの店だから、カップもコーヒー用じゃないとな」
「えっ!?そうなんですか!?リゼ先輩のバイト先行ってみたかったのに…」
リゼの言葉にがっくりとシャロは肩を落とす。
「あれ?もしかして、コーヒー苦手?」
ココアが尋ねるとシャロは苦い顔で頷く。
「砂糖とミルクを一杯入れれば美味しいよ」
「に、苦いのが嫌いなわけじゃないのよ!」
「では何が?」
「…カフェインを取りすぎると、異常なテンションになるみたいなの…」
「コーヒー酔い!?」
「そんなのあるんですか!?」
「自分じゃよくわからないんだけど…」
「飲めなくてもいいから遊びに来なよ」
「カフェインレスのコーヒーはうちには無いですが、紅茶も少し取り扱ってますのでいつでもお待ちしてます」
「…はいっ!雪兎くんもありがとう」
ココアが棚のカップに目をつける。
「あっ!このカップオシャレだよ!って思ったら高い!」
「5万円…」
「これはさすがに買えないですね」
「アンティークものはそれくらいするわよ」
「あ、これ…」
――幼少期のリゼ。
使用人が持っていたカップが気になり指さす。
『え?処分しようとしてたのですか、要るんですか?お嬢様』
頷くとカップを受け取り――
「昔、的にして撃ちぬいたやつじゃん」
「「「「えっ!?」」」」
リゼの謎がまた一つ増えた。
すっかり存在を忘れられたティッピーはカップに入ったまま鼻提灯を膨らまし熟睡している。
「チノちゃん、雪兎くん、お揃いのマグカップ買おうよ」
「私物を買いに来たんじゃないんですよ?」
「マグカップ…。確かに最近買ってないなぁ」
「雪兎も乗らないの」
3人のやり取りを横目で見ているリゼ。
(先輩が羨ましそうに見てる。あっ!)
「これなんて、色違いのセットで、か、可愛くないですか?」
「ああ!それ可愛いな!」
シャロが手に取ったカップは片方に青いうさぎ、もう片方にピンクのうさぎが描かれたペアカップだ。2匹のウサギは絵をつなげると一本になるマフラーを巻いている。
(ああ!?って、これよく見たら恋人用!?)
「よし、買うか。シャロに一つあげるよ」
さっきの葛藤はどこへやらとリゼの提案に笑顔になるシャロ。
「わぁ~…、あ、ありがとございます!」
「シャロちゃんは、高いカップにも詳しくてお嬢様って感じだね!」
「お嬢様!?」
「カップに詳しいのはお嬢様と関係ないのでは…」
「その制服の学校は秀才とお嬢様が多いと聞きます」
「おまけに美人さんだし、完璧だね」
「そ、それリゼ先輩に言いなさいよ!」
「二人とも、シャロさんのハードル上げすぎじゃない?」
「シャロにとっては、このカップも小物同然だろうな」
(あ、あなたが言うの~!?)
シャロはカップを手に取ると髪をかき上げる。
「末代まで家宝にしますけど?」
妙に様になってるシャロの後ろには華やかなバラの背景が見えるような気がする。
「お嬢様ポーズだ!ほんとカップを持つしぐさに気品があるよね!」
「普通に持ってるだけなのに…」
「髪もカールしてて気品があります」
「癖毛なんですけど…」
ココアとチノ中でシャロは完全にお嬢様のイメージが定着している。
「やっぱりキャビアとか食べるんですか?」
「そ、そういうことはリゼ先輩に聞いた方が…」
シャロがリゼの方を向くとリゼは手を顎に当てて考える。
「う~ん。私がよく食べるのは…、ジャンクフード?あと、レーションのサンプルとか?」
「レーション?」
「軍用の携帯食料ですね。ゲームの回復アイテムとかでたまに出てきます」
「即席で食べられるものっていいよな!」
「わかります!卵かけご飯とか美味しいですよね!」
「きっと卵ってキャビアのことだよ!」
うんうんとココアの言葉に頷くチノ。
「いや、普通にニワトリの卵でしょ…」
―――――――――――――――――
夕暮れ時の甘兎庵前。
千夜が店前は箒で掃いていると、シャロが歩いてくる。
「あら、シャロちゃん。おかえりなさい」
千夜は声かけるがシャロは下を向いたままとぼとぼと歩いている。
千夜の前を通り過ぎたところでしゃがみ込む。
「…リゼ先輩に余計なイメージ持たれた…。あと頭に変な生き物が…」
「ココアちゃん達に会ったのね」
「…絶対内緒よ…?」
「何が?」
「私がこんな家に住んでるってことをよぉぉぉーーー!!」
シャロは勢い良く立ち上がると甘兎庵の隣の物置を指さす。
この物置こそがシャロの家である。
「慎ましやかでいい家だと思うけど~?」
「ふんだ!」
千夜の言葉にそっぽを向くシャロ。千夜はその様子に微笑んでいる。
―――――――――――――――――
その夜。
リゼは早速マグカップを使っており、一方シャロはあこがれの先輩からもらったマグカップを手にベッドで悶えていた。
メイン5人組の最後、シャロ登場回でした。
カップのお店の話、今までとテイストが違って大変でした。チノからココアへの突っ込みがあまりないからでしょうか。この回、チノとココアがコンビでボケてるようにも見えるんですよね。シャロが実情を隠してるからそんな感じに見えるんですかね?