ご注文はうさぎですか?―ラビットハウスの看板姉弟― 作:テクト
「ありがとうございました!」
昼時のラビットハウス。
ココアが退店する客を見送る。
「店員さん、注文いいですか~?」
「は~い!少々お待ちください~」
客の注文にココアがぱたぱたとそちらに向かう。
そんな様子をチノはカウンターでコーヒーを入れつつ、雪兎は横でカップを洗いながら見ていた。
ちなみに、リゼは今日は休みである。
「ココア姉ちゃん、うちの仕事にもだいぶ慣れてきたみたいだね」
「そうだね」
「最初はどうなるかと思ったがの。あの小娘」
ココアが香風家に来てある程度がたった。
ラビットハウスでの初仕事、引っ越しの荷解きに入学式と、忙しなく日々は過ぎていた。
千夜と出会い、看板メニューのパン作りに甘兎庵で和菓子を堪能し、コーヒーカップを買いに行ったお店でシャロと出会い、フルールでお茶会、そしてラビットハウスでお泊りとこれでもかとイベントが目白押しだったのだ。
そんな、濃い日々が今では大分落ち着きを見せたといえる。
「ちょっと遅くなっちゃったけどさ、最近は生活も落ち着いてきたし、ココア姉ちゃんの歓迎会をやりたいって思っててさ」
「ほぉ」
「歓迎会?」
「うん。せっかくうちに来てくれたんだからさ、親睦を深める会ということで」
「ココアさんには必要ない気がする…」
親睦といえば、ココアは姉弟にぐいぐいと来るのでもう深まってるような気もするチノ。
「気持ちの問題だよ。父さんにはもう相談してて、次の僕が休みの日に実行するからよろしく」
「具体的に何をするの?」
「うちの祝い事の日といえば、いつものやつだよ」
「いつものというと、雪兎と息子の手料理じゃな。ほっほ、楽しみじゃわい」
ティッピーが歓迎会の内容を想像し、楽しそうに笑う。
香風家のお祝い事の日といえば、タカヒロの豪華な手料理が定番であったが、雪兎はその様子を後ろで見て、自分なりに練習していった結果、タカヒロも驚く程に腕を上げて今では二人で作るのが定番となっている。
「チノちゃん、雪兎くん!注文だよ!ブルーマウンテンとサンドイッチお願いします!」
二人で話しているところに、注文を取り終えたココアが戻ってくる。
「はい」
「了解~。じゃ、そういうことだから」
雪兎はチノに人差し指を立てて口に対して垂直に当てるジェスチャーをすると、キッチンへと向かっていった。
「チノちゃん。雪兎くんと何話してたの?」
「それは、姉弟の秘密です」
「えぇ?」
―――――――――――――――――
次の雪兎が休みの日。
タカヒロと打ち合わせをした雪兎は、学校帰りに足りない食材の買い出しをすることになった。
『準備の方が俺がやっておくから、雪兎は帰りに足りない分を買ってきてくれ。学校帰りの時間に近くのスーパーが特売をやってるはずだから頼むぞ』
と、言われ雪兎はリクとカケルに断りを入れて一人、スーパーへと来ていた。
(お、もも肉が安い。それに必要な野菜も結構ある。さすが父さん、抜け目ないなぁ)
スーパーの入り口でチラシを取ると、今日の料理に必要なものがいくつか入っていた。
籠を手に取り、中を見て回り特売商品の配置を確認する。
(第一目標はもも肉。後の野菜は取れるだけ取る!)
心の中で気合を入れて、特売開始までの時間を潰す。
時間が近づくにつれて周りの客も殺気立っているような雰囲気を感じる。
ケータイの時計を見ながら秒読みを行い、時間を合わせる。
『ただいまより。特売を―』
店内アナウンスが流れ始めた瞬間に周りに客が駆け出すと同時に雪兎も走り出す。
小柄ながらも足にはそれなりに自信がある雪兎は、客の集団を縫うように躱し、一気に抜き去る。
(ッ!速いっ!)
客の集団を引き離し、一番手を走っているはずだったが、それよりも先に前に走っている客がいた。
お嬢様学校の制服を着たくせ毛の生徒だった。
先客はもも肉の入った冷蔵ケースを瞬時に見渡すとお一人様三パックまでをきっちり守り、素早く籠に入れるとケースから離脱する。
雪兎もそれに続き、ケースを見渡しできるだけ多いパック三つを籠に入れ、ケース前から脱出する。
離れた瞬間に、客の塊がケースの前に殺到する。
雪兎はその様子に目もくれず次のターゲットに向かう。
一番人気のもも肉以外の野菜類の販売場所はそれほど混んではいない。
雪兎よりも先にもも肉を手に入れたお嬢様学校の生徒は、流れるような動きで特売野菜を籠に入れていき離脱していく。
(すごいな。あの人…。しかし、どっかで見たことあるような…?)
雪兎は頭に疑問がよぎるが、争奪戦はまだ終わってはいない。
雑念をすぐに振り払うと、必要な野菜を素早く籠に入れてその場を離脱した。
(ふぅ~。上々上々)
特売が終わり、籠の中の戦果を確認すると必要なものは全部取れていた。
特売外の必要な食材を籠に入れ、会計を済ませてスーパーを後にした。
―――――――――――――――――
それなりの人が入っている甘兎庵。
台の上でじっとしていたあんこが突然、扉の方に顔を向ける。
「あら、来たかしら」
千夜があんこの動きからある客の来店を予感する。
「こんにちはーっと!あんこー、いきなり飛びついたら危ないだろ?」
甘兎庵の扉が開くと同時にあんこが駆け出し、来店した客に飛びつく。
来客の雪兎は両手に一杯の荷物を持ちながらも、しっかりとあんこをキャッチする。
「いらっしゃい。雪兎くん」
「千夜さん。こんにちは。もう出来てますか?」
「ええ。今持ってくるから、席でちょっと待っててね」
「はい」
千夜は厨房の方に向かい、雪兎は扉の近くの席に座る。
あんこと戯れていると、千夜が紙袋を持って雪兎の元にやってくる。
「はい。ご注文の千夜月と雪原の赤宝石よ」
「ありがとうございます。これお代です」
「はい、確かに。ココアちゃんの歓迎パーティ上手くいくといいわね」
「パーティっていう程のものでもないですけどね」
雪兎が甘兎庵に来たのは、今晩の歓迎会のためのデザートとして、千夜に和菓子を依頼したためだ。
「ココアちゃん、雪兎くんのご飯が美味しいっていつも自慢してたわ。さすが私の弟ってね♪」
「あはは、言ってそうですね」
「もちろん、今日の事はココアちゃんに内緒にしてあるから安心してね」
「ありがとうございます。では、僕はそろそろ行きますね」
雪兎はあんこを台に戻して、またなと声をかけて頭を撫でる。
席に戻り、荷物を持って扉へと向かう。
「雪兎くん、ココアちゃんによろしくね」
「はい。こちらこそありがとうございました。また来ますね」
「あっ」
千夜に見送られて甘兎庵を出て扉を閉じると、そこには驚いた表情で固まっているシャロがいた。
「シャロさん。こんにちは」
「あ、こここ、こんにちは!」
シャロは慌てて、スーパーの特売で買った荷物を体の後ろに隠す。
(危ないっ!家バレしそうだったっ…!)
「学校帰りですか?」
「そ、そそ、そうなの!ぐ、偶然ね!ゆ、雪兎くんも、すごい荷物ね」
「はい。今日は香風家でココアさんの歓迎会をやろうと思ってちょっと奮発しましたので」
歓迎会、と聞いてシャロは思う。
(美味しいものがいっぱい出るんだろうなぁ…。雪兎くんって料理が上手だって聞いてるし)
香風家の食卓に並ぶご馳走を想像してしまい涎が垂れそうになる。
「そろそろ帰って準備しないといけないので、ではまた」
「あ、うん。気を付けてね」
シャロは家バレしなくてよかったと、ご馳走いいなぁという感情が入り交ざり、複雑な気持ちで早足で帰路に着く雪兎を見送った。
―――――――――――――――――
「ただいま~」
「おっ!おかえり」
「おかえり」
「雪兎くん!おかえりなさい!」
雪兎がラビットハウスに帰ると、リゼ、チノ、ココアが出迎える。
「ずいぶんたくさん買ったんだな」
「ええ、スーパーが特売だったので」
「おお~。すごいねぇ」
雪兎の手に持っているぱんぱんに膨らんだレジ袋をを見てリゼとココアが驚いている。
「今日は雪兎、休みなんだろ?」
「はい。お二人とも、お店はお願いしますね」
「ああ。任せろ!」
「お姉ちゃんに任せなさーい!」
リゼは胸をたたいて自信満々の表情をし、ココアはいつものお姉ちゃんポーズで返す。
「じゃ、姉ちゃんも後はよろしく」
「うん」
雪兎は荷物を持ったままキッチンの方に向かっていった。
キッチンではすでに、タカヒロがエプロンを着けて待っていた。
「おかえり。早速始めるか」
「うん。準備してくる」
雪兎は買ってきた食材をタカヒロに渡すと準備のため。部屋に向かった。
―――――――――――――――――
「今日の晩御飯は何かな~♪」
客がいなくなったラビットハウスのホールでココアが日向ぼっこをしながら晩御飯の想像をしていた。
「こら、さぼるな」
「ここに初めて来たときに食べたチノちゃんのシチューも美味しかったなぁ。雪兎くんの唐揚げや、カレーもすごく美味しかったよ」
「チノと雪兎が交代で作ってるのか?」
「はい。基本は交代で、どちらかが休みの日には休む方が作るって感じですね。朝は雪兎が全然ダメなので、私か父が作ってます」
「確かに、あの様子だと役に立たなさそうだな…」
リゼはラビットハウスに泊まったときの朝を思い出す。周りが騒がしくしていても全く起きず、起きたら寝ぼけて二度寝しようとした雪兎のことを。
「その分、自分の担当の日は前日に仕込みをしたり、休みの日は凝ったものを作りますね」
「へぇ~」
「じゃぁ、今日はご馳走かな!」
ココアの発言にチノの表情が緩む。
チノ自身も今日の晩御飯は楽しみにしているのだ。
「今日はお腹を空かせておいた方がいいと思います」
「え?」
―――――――――――――――――
閉店の時間になり、三人は店を閉めてリゼは帰っていった。
リゼを見送ったココアとチノはリビングに向かっていた。
「いい匂いがするね~」
「はい」
二人がリビングに入るとそこにはテーブルに所狭しと並んだご馳走の山があった。
「お、主役の登場ですね」
「こ、これは!?」
ココアはテーブルの上のご馳走を見て驚く。
真ん中を占拠している、3、4人前くらいはありそうな巨大なオムライスに、唐揚げ、ナポリタン、サラダやスープが並んでいる。
雪兎はしてやったりといった顔をして、タカヒロは優しく微笑んでいる。
「遅くなっちゃったけど、今日はココア姉ちゃんの歓迎会ですよ」
「え?私の!?」
「前からやりたいとは言ってたんですが、中々合間が取れなくて今日やろうという話になったんです。企画したのは雪兎です」
「チノちゃん…、雪兎くん…」
ココアは涙目になりプルプルと震えている。
「ありがとうー!姉想いの妹と弟を持てて嬉しいよーーー!!」
感極まってチノと雪兎に抱き着くココア。
「ココアさん、やめてください!」
「あはは…」
チノは引き剥がそうとし、雪兎は諦め気味に笑っている。
「このオムライスすごく大きいね!」
「うちの祝い事があるときはいつも雪兎が作ってるんです」
「香風家の風物詩みたいなものじゃな」
「姉ちゃんもこれが好きで、昔はいっつも作ってほしいって言って――」
「わー!わー!」
チノは顔を真っ赤にして、慌てて暴露話をしようとした雪兎の口を塞ぐ。
「ははは。昔はよく雪兎に作ってと言っていたな」
「お、お父さんまで!」
「そっかぁ~」
ココアはチノの頭を撫でまわす。
チノはむくれ顔になっている。
「千夜さんから和菓子もいただいてますので、デザートに食べましょう」
「わぁ!千夜ちゃんも協力してくれてたんだ!」
ココアはケータイでお礼のメールを千夜に送った。
「さぁ、冷めてしまう前に食べよう」
「はい!」
タカヒロに提案にそれぞれ席に着く。
「では」
「「「いただきます!」」」
「いただきます」
全員で手を合わせて食事が始まる。
―――――――――――――――――
歓迎会は終わり、片付けも済みそれぞれの私室に戻っていた。
雪兎は部屋でのんびりしていると、扉からノックがした。
「はーい?」
「雪兎くん、入っていいー?」
「あ、どうぞ」
扉から聞こえてきた声はココアだった。
雪兎が入室許可を出すとココアが入ってくる。
「雪兎くん!今日はありがとう!」
「喜んでもらえたなら嬉しいですよ。せっかくうちに来てくださったので歓迎会はしたいと思ってましたから。遅くなってしまってすいません」
「全然大丈夫だよ!すごく嬉しかった!」
ココアは雪兎の手を取りぶんぶんと上下に振り回す。
「私!ここに来てよかった!これからもよろしくね!」
「こちらこそお願いします」
「お姉ちゃんとして頑張るね」
「あはは…、頑張ってください」
ココアが最初に来た日の事を思い出す雪兎だった。
完全オリジナルを書きたいとは思ってたんですが、一から書くってホント大変ですね。
雪兎くんの料理が得意な部分をメインにしようとしたんですが難しいですね~。
調理描写書いてたらキリがなさそうなので省きましたがこれでいいのやら…w
気が付いたら、お気に入り40超えに、アクセス3000手前とすごい伸びててびっくりしました。
いつもありがとうございます。