逆行した天使は人間寸前   作:那由多 ユラ

10 / 20
世界最強と吸血姫と兎と女神

001

 

 

 カランッカランッ、と、愛子を彩織に任せ、生徒達は宿の扉を開いた。

 ウルの町の高級宿だ。名を《水妖精の宿》という。

 一階部分がレストランになっており、ウルの町の名物である米料理が数多く揃えられている。

 その味は優花、カインの舌をして見事なもので、この町に来てから二人が料理をする機会は減り、彩織だけが少々ご立腹だ。

 全員が一番奥の専用となりつつあるVIP席に座り、その日の夕食に舌鼓を打つ。

「ああ、相変わらず美味しいぃ~異世界に来てカレーが食べれるとは思わなかったよ」

「まぁ、見た目はシチューなんだけどな……いや、ホワイトカレーってあったっけ?」

「いや、それよりも天丼だろ? このタレとか絶品だぞ? 日本負けてんじゃない?」

「んなわけないでしょ。そういうことは師匠の天ぷらを食べてから言いなさいよ」

「そうは言うが優花、この世界の文化レベルで此処までの天ぷらができるのは普通にヤベェぞ」

「うぐ……」

「優花ちゃん、何気にカインくんのこと大好きすぎるよね」

「え、マジ? ツンデレってやつか」

「うがぁああ!! 師匠このあと喧嘩!! 絶対付き合ってよね!!」

「やだよめんでぇ。愛子とやってこい」

 極めて地球の料理に近い米料理に毎晩生徒達のテンションは上がりっぱなしだ。見た目や微妙な味の違いはあるのだが、料理の発想自体はとても似通っている。

 美味しい料理で一時の幸せを噛み締めている生徒達のもとへ、六十代くらいの口ひげが見事な男性がにこやかに近寄ってきた。

「皆様、本日のお食事はいかがですか? 何かございましたら、どうぞ、遠慮なくお申し付けください」

「おぅ」

 話しかけてきたのはオーナーであるフォス・セルオ。

 スっと伸びた背筋に、穏やかに細められた瞳、白髪交じりの髪をオールバックにしている。宿の落ち着いた雰囲気がよく似合う男性だ。

「や、うめぇうめぇ。オレが教わりたいくらいだ」

 カインが笑いながら答えると、フォスも嬉しそうに「それはそれは」と微笑みかえす。

 しかし、次の瞬間には、その表情を申し訳なさそうに曇らせた。

 何時も穏やかに微笑んでいるフォスには似つかわしくない表情だ。何事かと、食事の手を止めて皆がフォスに注目した。

「大変申し訳ないのですが、……香辛料を使った料理は今日限りとなります」

「えっ!? それって、もうこのニルシッシル(異世界版カレー)食べれないってことですか?」

 カレーが大好物の優花がショックを受けたように問い返した。

「はい、申し訳ございません。何分、材料が切れまして。……いつもならこのような事がないように在庫を確保しているのですが、ここ一ヶ月ほど北山脈が不穏ということで採取に行くものが激減しております。つい先日も、調査に来た高ランク冒険者の一行が行方不明となりまして、ますます採取に行く者がいなくなりました。当店にも次にいつ入荷するかわかりかねる状況なのです」

「不穏だぁ? 何があったってんだ」

「何でも魔物の群れを見たとか……。北山脈は山を越えなければ比較的安全な場所です。山を一つ越えるごとに強力な魔物がいるようですが、わざわざ山を越えてまでこちらには来ません。ですが、何人かの者がいるはずのない山向こうの魔物の群れを見たのだとか」

「ほぉん?」

 カインが珍しく眉を潜める。

 他の皆も若干沈んだ様子で互いに顔を見合わせた。

「師匠!」

 優花が何かを決意したような表情で立ち上がる。

「あん? んだよ」

「私たちで解決しちゃおうよ! 師匠、リアル無双ゲーム得意だったよね?」

「んまぁ、別に構わねぇが……」

 カインも渋々頷くと、フォスが「いえ、それには及ばないかもしれません」と、明るい口調で話す。

 

 

 

002

 

 

 

「どういうことですか?」

「実は、今日のちょうど日の入り位に新規のお客様が宿泊にいらしたのですが、何でも先の冒険者方の捜索のため北山脈へ行かれるらしいのです。フューレンのギルド支部長様の指名依頼らしく、相当な実力者のようですね。もしかしたら、異変の原因も突き止めてくれるやもしれません」

 生徒達は一人としてピンと来ないようだが、食事を共にしていたデビッド達護衛の騎士は一様に「ほぅ」と感心半分興味半分の声を上げた。

 フューレンの支部長と言えばギルド全体でも最上級クラスの幹部職員である。その支部長に指名依頼されるというのは、相当どころではない実力者のはずだ。騎士達の頭には、有名な《金》クラスの冒険者がリストアップされていた。

 生徒達が、デビッド達騎士のざわめきに不思議そうな顔をしていると、二階へ通じる階段の方から声が聞こえ始めた。男の声と少女二人の声だ。何やら少女の一人が男に文句を言っているらしい。

 それに反応したのはフォスだ。

「おや、噂をすれば。彼等ですよ。騎士様、彼等は明朝にはここを出るそうなので、もしお話になるのでしたら、今のうちがよろしいかと」

「そうか、わかった。しかし、随分と若い声だ。金に、こんな若い者がいたか?」

 デビッド達騎士は若干、困惑したように顔を見合わせた。

 そうこうしている内に、三人の男女は話ながら近づいてくる。

 カーテン越しに若い男女の騒がしめの会話の内容が聞こえてきた。

「もうっ、何度言えばわかるんですか。私を放置してユエさんと二人の世界を作るのは止めて下さいよぉ。ホント凄く虚しいんですよ、あれ。聞いてます? ハジメさん」

「聞いてる、聞いてる。見るのが嫌なら別室にしたらいいじゃねぇか」

「んまっ! 聞きました? ユエさん。ハジメさんが冷たいこと言いますぅ」

「……ハジメ、……メッ!」

「へいへい」

 その会話の内容に、そして少女の声が呼ぶ名前に、香織が銃声のごとく爆音を轟かせながら飛び上がった。

 テーブルを軽々飛び越え、空中でカーテンを引きちぎりながら彼らの前に着地した。

 一秒足らずの間に起きた香織の奇行に、誰も反応出来なかった。

 遅れて騎士達が一体何事だと顔を見合わせている。

「南雲くん!!!!」

 香織は確認する余裕もなく叫んだ。

「あぁ? ……………………………………違います人違いですごめんなさい他を当たってください間違い電話ではないでしょうか」

 破れたカーテンの先にいたのは、片目を泳がせ、必死に表情を殺そうとしている、眼帯をした白髪の少年だった。皆の記憶の中にある南雲ハジメとは大きく異なった外見だ。外見だけでなく、雰囲気も大きく異なっている。

 しかしどれだけ変わっていようと、私が抱いた男の子だ! 間違いない!!

「南雲くん!! 良かった……」

 香織は握っていたカーテンを手放し、ハジメに思いっきり抱きついた。

「いえ、人違いです。では」

「へ?」

 死んだと思っていた想い人と奇跡のような再会。感動して、涙腺が緩んだのか、涙目になる香織。言いたいことは山ほどあるのに言葉にならない。それでも必死に言葉を紡ごうとする香織に返ってきたのは、全くもって予想外の言葉だった。

 思わず間抜けな声を上げて、腕を解き涙も引っ込む香織。

 宿の出口に向かおうとするハジメを呆然と見ていたら、カインが胸倉を掴んだ。

「おいコラハジメぇ。テメェいつから姉御に他人の振りできるくれぇ偉くなりやがったアァン!!」

「……」

「女連れは別に構いやしねぇが姉御勝手に振るってんなら檜山食わすぞゴラァ!!」

「……」

 怒るカインに、気まずそうに顔を逸らすハジメ。

 怒声がレストランに響き渡る。

 生徒や護衛騎士達もぞろぞろと奥からやって来た。

 生徒達はハジメの姿を見て、信じられないと驚愕の表情を浮かべている。

 それは、生きていたこと自体が半分、外見と雰囲気の変貌が半分といったところだろう。だが、どうすればいいのか分からず、ただ呆然とカインとハジメ、香織を見つめるにとどまっていた。

 一方で、ハジメはというと見た目冷静なように見えるが、内心ではプチどころではないパニックに襲われていた。

 まさか偶然知り合ったギルド支部長から持ち込まれた依頼で来た町で、自分を半ば強引に抱いた香織と再会するどころか、友人に殺さんばかりの怒りを向けられるなんて予想だにしていなかったのだ。

 そして檜山は食べたくない。

 と、そこでハジメを救おうとしたのは、ハジメが連れていた金髪の少女。

 ツカツカと二人のそばに歩み寄ると、ハジメを掴むカインの手を外そうとして、プランとぶら下がった。

「……離して」

「誰だテメェ」

 冷めた目で自分を睨む美貌の少女に、カインは見下すように睨み返す。

 二人の身長差はかなり大きい。カインの手にぶら下がっている少女の足は浮いていて、側から見たら兄達に構ってもらいたい妹のような構図だ。

 しかし、このままではまともに会話もできないと冷静さを取り戻したカインは、ハジメから手を離し、少女をゆっくりと下ろした。

 と、その時――

「お待たせしました。……おや」

「祈和くん何事ですか!! 騒ぎを起こさないでと何度もっ!!」

 愛子と彩織が、遅れてやってきた。

 カーテンが引きちぎれているのを見てすでに涙目の愛子に気がついた様子はないが、彩織は即座に気がついたようだ。

「おやおやおやおや。あなたは一人の女を一途に愛するタイプだと思っていたのですが、それは思い違いだったようですね、ハジメ」

「……いや、あんたらだけ反応がおかしいだろ。女云々より先に無事を確認しろよ」

 

 

 

003

 

 

 

「コホン。……改めて、南雲君ですよね?」

 場を取り直し、確信を持った声音で、真っ直ぐに視線を合わせながらハジメに問い直す愛子。

 ハジメは深い溜息と共に肯定した。

「……ああ。久しぶりだな」

「季節外れの高校デビューですか? いえ、異世界デビューでしょうか。どちらにしても、後悔することになりますよ?」

「「彩織さんちょっと黙っててください」」

 愛子とハジメがハモった。

 涙目になる愛子に、ハジメは特に感慨を抱いた様子もなく肩を竦めた。

「……まぁ色々あったが、何とか生き残ってるよ」

「よかった。本当によかったです」

 それ以上言葉が出ない様子の愛子を一瞥すると、ハジメは近くのテーブルに歩み寄りそのまま座席についた。

「ええと、ハジメさん。いいんですか? お知り合いですよね? 多分ですけど……、元の世界の……」

「別に関係な、……くはないが、元々晩飯食いに来たんだし、さっさと注文しよう。マジで楽しみだったんだよ。知ってるか? ここカレー……じゃわからないか。ニルシッシルっていうスパイシーな飯があるんだってよ。想像した通りの味なら嬉しいんだが……」

「……なら、私もそれにする。ハジメの好きな味知りたい」

「あっ、そういうところでさり気ないアピールを……流石ユエさん。というわけで私もそれにします。店員さぁ~ん、注文お願いしまぁ~す」

 最初は、愛子達をチラチラ見ながら、おずおずしていたシアも、ハジメがそう言うならいいかと意識を切り替えて、困った笑みで寄って来たフォスに注文を始めた。

 が、気まずそうにフォスが動きを止めた。

 視線の先には、静かに微笑む香織の姿があった。

 芯から冷えるような思いをしながら、ハジメは顔を逸らす。

 ハジメは知っている。

 あれはラブコメヒロインが怒っている時の笑顔だと。

 主人公が他の女の子と仲良くしているところに遭遇してしまった時の顔だと。

「南雲くん、その二人は、一体どこの誰なのかな?」

 皆言いたいことは山ほどあったが、香織の言葉を遮るわけにはいかないと団結し口をとざす。

 無言の圧力に屈し、ハジメはしどろもどろしながら口を開いた。

「こ、こいつらは……」

 ハジメが視線をユエとシアに向けると、衝撃的な自己紹介した。

「……ユエ」

「シアです」

「ハジメの女」

「ハジメさんの女ですぅ!」

「お、女?」

 愛子が若干どもりながら「えっ? えっ?」とハジメと二人の美少女を交互に見る。

「よし。殺すか」

「待ちなさいカイン。殺すにしても、許されるのはお姉ちゃんだけです」

 皿を片手に立ち上がったカインを、彩織が抑えた。

 彩織の見る先にはナイフの刃を握り歪める香織の姿があった。

 その様子を見てハジメは顔を引きつらせる。

「お、おい、ユエはともかく、シア。お前は違うだろう?」

「へー、ユエちゃんは、ともかく?」

「そんなっ! 酷いですよハジメさん。私のファーストキスを奪っておいて!」

「いや、何時まで引っ張るんだよ。あれはきゅ「南雲君!」……何だ、先生?」

 顔を真っ赤にして、ハジメの言葉を遮る愛子。その顔は、非行に走る生徒を何としても正道に戻してみせるという決意に満ちていた。

「し、白崎さんがいながら他の女の子のファーストキスを奪うなんて!! 直ぐに帰ってこなかったのは、遊び歩いていたからなんですか! もしそうなら……許しません! ええ、先生は絶対許しませんよ! お説教です! そこに直りなさい、南雲君!」

 きゃんきゃんと吠える愛子を尻目に、面倒な事になったとハジメは深い深い溜息を吐くのであった。

 

 

「……そういえば私のファーストキスはカインではなく香織でしたね」

「え、マジで?」

「な、なんのことかな〜、なんて、アハハ……」

 

 

 

004

 

 

 

 他の客の目もあるからと別のVIP席の方へ案内されたハジメ達。

 そこで怒涛の質問を投げかけられつつも、ハジメは、目の前の今日限りというニルシッシルに夢中で端折りに端折った答えをおざなりに返していく。

Q、橋から落ちた後、どうしたのか?

A、超頑張った

Q、なぜ白髪なのか

A、超頑張った結果

Q、その目はどうしたのか

A、超超頑張った結果

Q、なぜ、直ぐに戻らなかったのか

A、戻る暇がなかった

 そこまで聞いて愛子が、「真面目に答えなさい!」と頬を膨らませて怒る。全く、迫力がないのが物悲しい。

 目を合わせることもなく、美味そうにニルシッシルに舌鼓を打つ様子を香織だけは微笑みながら見つめる。

 その様子にキレたのは、愛子専属護衛隊隊長のデビッドだ。愛する女性が蔑ろにされていることに耐えられなかったのだろう。拳をテーブルに叩きつけながら大声を上げた。

「おい、お前! 愛子が質問しているのだぞ! 真面目に答えろ!」

 ハジメは、チラリとデビッドを見ると、はぁと溜息を吐いた。

「食事中だぞ? 行儀よくしろよ」

 全く相手にされていないことが丸分かりの物言いに、ハジメから矛先を変え、その視線がシアに向く。

「ふん、行儀だと? その言葉、そっくりそのまま返してやる。薄汚い獣風情を人間と同じテーブルに着かせるなど、お前の方が礼儀がなってなっァアアア!!」

「るっせぇよ。食事は全生命体に許された行為だ。差別してんじゃねぇ」

 叩きつけられた拳に、カインがフォークを突き刺した。

 デビットは深々と刺さったフォークを抜きながら見苦しく叫ぶ。

 人を人と思っていないような行為に、庇われたはずのシアがビクッと体を震わせた。

「何をしているんだ貴様!!」

 チェイス達他の騎士達がカインに向けて剣を抜いた。

「だから、うるせぇっての。テメェら檜山に食わせるぞ」

(((檜山にどれだけの恨みが!?)))

 生徒達の心はハジメを含めて一致した。

 あんまりと言えばあんまりな状況に、愛子はまず誰を注意すべきかとオロオロしていると、その前に俯くシアの手を握ったユエが、絶対零度の視線を悶えているデビッドに向ける。

 デビッドは一瞬たじろぐも、見た目幼さを残す少女に気圧されたことに逆上する。

「何だ、その眼は? 無礼だぞ! 神の使徒でもないのに、神殿騎士に逆らうのか!」

 手の甲からピューピューと飛び出る血を、店を汚さないようにか彩織がコップに溜めていて、どう頑張ろうと格好がつかない。

 冷めた目で見るユエの言葉がやけに明瞭に響き渡る。

「……小さい男」

 それは嘲りの言葉。

 怒りで冷静さを失っていたデビッドは、よりによって愛子の前で男としての器の小ささを嗤われ完全にキレた。

「……異教徒め。そこの獣風情と一緒に地獄へ送ってやる」

 無表情で静かに呟き、傍らの剣に手をかけるデビッド。

 血を零すまいと、彩織も動いた。

 その瞬間、

 シャリン♪

 妙に綺麗な音が通った。

 遅れて金属の塊が地面に落ちる騒音が宿全体に響き渡る。

 カインに向けられていた剣も、デビットに抜かれようとしていた剣も、不規則にバラバラになりながら落下した。

「お店に迷惑を掛けない。虫でもなきゃ誰でも知ってる常識だよ」

 切ったのは優花のミシン糸。

 誰もが、今起こった出来事を正しく認識できず硬直する。

 騒音に何事かと、フォスがカーテンを開けて飛び込んできた。

 そして騎士達が刀身のない柄をカインに向けている光景に、目を丸くして硬直する。

 実家が料理店である優花がフォスに、ちょっとした喧嘩だと説明して追い返し、全員に「喧嘩なら外でやりなさい!!」と、叫んだ。

 最後に両手から伸びるミシン糸がブンと鳴り、誰も文句を言えずその場は解散となった。

 

 

 

「……あ、私まだご飯食べてないです」

「カイン、私はお腹が空きました」

「……別の店行くか」

 

 

 

005

 

 

 

 夜中。

 深夜を周り、一日の活動とその後の予想外の展開に精神的にも肉体的にも疲れ果て、誰もが眠りついた頃。

 しかし香織は眠れずにいた。

 今日の出来事に思いを馳せ、疼く体を抑えられず、当てもなく外に飛び出した。

 迷子にならないようにだけ気をつけながら歩いていると、背後から声を掛けられた。

「……探したぞ」

「っ!?」

 ギョッとして後ろに振り向く香織。

 そこには、歩み寄ってくるハジメの姿があった。

 他には、誰もいない。

 あの日の夜以来の、ハジメとの二人っきりであった。

「こんばんは、南雲くん」

「あぁ、こんばんは。……えっと、白崎、さん」

「いいよ、呼び捨てで。それか彩織みたいに名前で呼んでくれると嬉しいかな。私もそうする」

「えっと、じゃあ、……香織。久しぶりだな」

「うんっ。久しぶり、ハジメくん」

 満足げに微笑む香織。思わずハジメは顔を赤らめた。

「ずっと会いたかったよ。信じてた」

「……そうか」

 二人肩を並べて、夜空を見上げる。

「なんでこんなとこにいるんだ? 天之川とか、八重樫はどうした?」

 沈黙に耐えきれず、ハジメはふとした疑問を口にする。

「彩織と一緒にいたかったから、ついてきたの」

「……そうなのか」

「雫ちゃんはいってらっしゃいって、言ってくれた」

「そうか」

「光輝くんとは絶交した」

「そうか。……ん?」

「思いっきり殴ったの」

「んん?」

「生まれて初めて、ちゃんと怒った気がする」

「……そっか。良かったな」

 ただならぬ話を、楽しそうに話す香織。

 内容はともかく元気そうだと安心したハジメだが、今日までの努力の成果である視力と聴力が上空に何かを捉えた。

「「ハッハハハハハハハ!!!」」

 星に紛れて流星の如く飛び交う金属片。飛ぶ先を見ると、カインと優花が笑いながら屋根の上を飛び回っていた。

 香織も気がついたのか、微妙な表情をする。

「……宿に戻るか」

「今夜は寝かさないよ?」

「仕事があるんだが、……了解」

 ハジメはいつかの夜より濃厚な、眠れぬ夜を過ごすこととなった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。