逆行した天使は人間寸前   作:那由多 ユラ

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元天使と落書きと美少女のちょっとした休日

001

 

 

 

 翌日早朝。

 ハジメ達がクラスメイトや愛子を連れて北の山脈地帯に向かったのを見届けた彩織とカインは、朝食を済ませ、宿でだらけていた。

「なぁ、オレら最近、働き過ぎじゃね?」

「ええ。時間も日付も曖昧な異世界とはいえ、流石に休日が足りていません。久方ぶりの休日に思い知らされるとは」

「日本でも喧嘩は多かったが、ストレスは貯まらなかったもんなぁ」

「カイン、あなたは良いですよね。喧嘩相手が居て」

「彩織も姉御がいるじゃねぇか」

「姉妹喧嘩は返ってストレスが溜まるんですよ」

「本末転倒じゃねぇか」

「本末が覆らないと姉妹喧嘩なんておきませんよ」

「そーか。オレにはさっぱりわからん」

「あなた、きょうだい居ないですもんね。羨ましいものですか?」

「やー、別に。オレの知ってるきょうだいって、彩織と姉御の姉妹と、平和主義者と隷属主義者の姉妹しか知らねぇし。居たら面白そうだとは思うが、常に一緒ってのは理解できねぇ」

「別に、常にべったりというわけではありませんがね。私たちは元より、あの姉妹は生まれてから一緒の時間が限りなく無に近いですし」

「だとしてもだ。愛とか絆とか同族意識とかじゃなくて、血で繋がる家族なんてさっぱりわからん」

「親子はともかく、きょうだいに家族だという意識もありませんよ。血の繋がった他人という言葉があるくらいです」

「あいつらはともかく、彩織達はそうは見えねぇが」

「それこそ、他人から始まった仲ですもの。幼少期の私たちなんて、区別差別大別のオンパレードで、嫌悪憎悪のフルコース、血と汗と涙の雨霰ですよ」

「……義母さんの苦労しか想像つかん」

「バカな姉と、愚かな妹、といった感じでしょうか。双子なので姉、妹という感覚は曖昧ですが、結局は同族嫌悪ですよ」

「彩織との子供は、マジで計画を練らなきゃだな」

「相手が私でなくとも計画は練りなさい。子育ては二人だけの責任じゃないのですよ」

「……了解。ただ別れるフラグを建てるのはやめてくれ」

「……大丈夫です。言ってて泣きそうになりましたから、二度と言いません」

「言う前に分かれ」

「はい」

「……きょうだいと言えばよぉ、あいつも妹居たよな」

「誰ですか?」

「天之川」

「……いましたね。そういえば昔、喧嘩した覚えがあります」

「したのか」

「しました。五歳か、六歳の頃に」

「……雫関連か」

「彼女の母親気質も困ったものです」

「どっちかっつーと、お前の精神年齢が低いんだろ」

「それは仕方ないでしょう」

「んなわけあるかよ。ガッコ通ってたはずのお前が、なんで通ってなかったオレより精神幼いんだよ」

「それは、……まだ明かされていない秘密の裏設定的なプロフィールがあるんですよ」

「あってたまるか、んなもん」

「じゃあないです。私が愛しのあなたに隠し事なんてあろうはずがないじゃないですか」

「あるんだな? そういやファーストキスが姉御だってのも昨日初めて聞いたぞ」

「安心してください。処女は間違いなくあなたにあげたはずですから」

「そうだな。それはわかってる。で、あと何が残ってる」

「実は穀物アレルギーです」

「なんでそれをもっと早く言わなかったんだ!!」

「言うだけ無駄ですから。食べられないわけでもありませんし」

「いいか、お前の胃袋握ってんのはオレだ。アレルギーと好き嫌いは包み隠さず全部言え。いま改めて全部言え」

「いやん、ぜんぶだなんて、はずかしいですぅ」

「んな言い方されても可愛いだけだかんな。言え。メモるから」

「……ゴーヤと人参とトマトとカレーは死んでも食べたくありません。食べるくらいなら飢えて死を選びます

「何があったお前の人生に」

「なんでもありませんよ。……食べれないというほどではありませんが玉ねぎ、ナス、キャベツが嫌いです」

「ほぉん」

「ナスは天ぷら限定で食べられます」

「まぁ、気持ちはわかる。ナスは天ぷらが一番美味いからな」

「アレルギーはそうですね、米と小麦と大豆、とうもろこし。この辺りがダメですね」

「ぜんぶじゃねぇか」

「そうですよ。だから普通に食べます。ご飯もパンも好きですし」

「……蕎麦みたく、食ったら死ぬわけじゃないんだな?」

「はい。そこまでじゃないです」

「そうか。次、好物は、聞かなくていいか」

「はい。カインの料理なら全部好きです。カレーだって、死を覚悟で食べます」

「やめろ。残さず食ってくれるのは嬉しいが、嫌いな物まで食って欲しくはない」

「作る側の意見ですね」

「おう。だから今、食べる側の意見を聞いてんだろうが」

「今日のお昼はチャーハンがいいです。作ってください」

「オーキドーキー。海鮮か? 普通に肉か?」

「どっちも捨てがたいですが、海鮮でお願いします」

「まかせろ」

 

 

 

002

 

 

 

 カインと彩織がのんびりいちゃついてる頃、偶然にも、迷宮から帰還した勇者パーティも休日になっていた。

 隙を持て余した恵里と鈴、雫の三人は宿の二人部屋に集まり、雑談に花を咲かせていた。

「鈴ってさ、何気にママと仲良いよね」

 ベッドで仰向けに寝そべった恵里は、銀のブレスレットを弄りながら言った。

「ママって、あぁ、キャノンくんのこと?」

 同じベッドにうつ伏せで寝転がる鈴が首を傾げる。

「……二人とも、なんで普通に呼ばないのよ」

 一人椅子に座り、紅茶を飲む雫。

「だってママはボクのママだからね。本人はカインって呼んで欲しいらしいけど」

「みんなと一緒じゃ面白くないからねー」

「よく殴られないわね。いや、鈴は殴られたんだっけ」

 雫の言葉に、「ヒゥッ」っと、頭を抑える鈴。

「殴られてはないよっ、うん。キャノンくんは髪を直してくれてるだけだからねっ!」

「そうだねぇ。おさげが増えたのは、ママを名前に、あろうことかちゃん付けで呼んだからだもんねぇ。カノンちゃーんって」

「ひやぁ!! やめてよエリリ〜ン」

「……あなた一体何があったのよ」

「……シズシズも呼んでみればいいよ。キャノンくんを、名前で。ポニーテールが九本に増えるよ。タマモテールだよ」

「いやよ。それに彼、女子相手でも普通に殴るじゃない」

「「そうなの?」」

「あなた達見てたじゃないの……。ほら、香織が教室でイレズミマンって呼んだとき」

「あ〜。それ一個聞きたいんだけどさ」

 と、鈴は体を起こして雫の方に向いた。

「キャノンくんとイオリンって、小学生の時には会ってたんでしょ? カオリンとは会ってなかったの?」

 雫は懐かしみながら答える。

「あら、そんなことないけど。彩織ちゃんもカインくんも、香織と一緒にうちに来たこともあったし、香織とカインくんも仲良く、まで行かずとも遊んだりはしてたわよ」

「じゃあなんであの、イレズミマン事件は起きたの?」

「天之川くんが怒って大変だったよね〜」

 雫は「多分だけど……」と、前置きしてから答える。

「友達ならともかく、恋人は無しって思ってたんじゃないかしら。ただでさえ香織の惚れた男の子が真逆の属性だし」

「じゃあさ、じゃあさ、もし南雲君とカオリンが付き合いだしたら、イオリンは怒ったりするの?」

「しないだろうね」と、恵里は断言した。

「彼はボク達九人が認めた男の中の男だよ。仮に、彼が鬼か悪魔にでもなって奈落の底から這い上がって来たとしてもそれは変わらない」

「……彼、一体何をしたの?」

「彩織ちゃんの友達やってる時点で頭おかしいよ」

「待ってそれ私もおかしいことにならない!?」

 ケタケタと笑いながら、恵里も鈴にならって体を起こす。

「これは超頭の良い女の子に聞いたんだけど、彩織ちゃんの人間関係って基本的に家族だけなんだよ。それ以外はその他大勢。赤の他人」

「えっと、つまり、ドユコト?」

 鈴は首を傾げ、どころか体も傾げて恵里に寄り掛かった。

「彩織ちゃんと仲良しな人、例えばボクとか雫ちゃんとか鈴とか、ママとか香織ちゃんとか愛ちゃんとか、みんなみーんな、彩織ちゃんの家族ってこと。彩織ちゃんから見た場合だけどね?」

「……その話だと、南雲君だけなんか寂しいわね」

 雫は照れながら言う。

「彩織ちゃんは友達っていう概念を理解仕切れていないから、家族との境目が曖昧なんだってさ。ちなみにママはその逆だけど、だからこそ似たような感覚みたい」

「逆って?」

「彩織ちゃんは生まれてから家族以外と過ごさなかったから、《友達》を知らない。ママは、生まれた時から家族がいなかったから、《友達》と《家族》の区別がつかない」

「キャノンくん、孤児ってやつなの?」

「ちょっと違うんだけど、これはボクが語るべきじゃないと思うんだよね……」

 鈴は「え〜」と項垂れた。

「鈴、私も知ってるわよ」

「そうなの?」

「彩織ちゃんから前に聞いたわ。……彼の両親は宗教家だったらしいのよ。それも、かなりカルト的な」

 何かを察した鈴が、「もしかしてあの刺青……」と呟いた。

 恵里も雫も頷く。

「天使を召喚する魔術だか魔法だか、そんな儀式で生まれたのが彼なのよ」

 儀式の内容とは、言わずもがな。鈴の中に潜む竿役っぽいおっさんがすぐに導き出した。

「儀式は失敗。女の子が生まれるはずだったのに、生まれて来たのは男の子だった。そして、両親となる夫婦でも恋仲でもない二人の男女はこう思った――『これは神の悪戯だ』――って。だから、彼の顔には《神の落書き》っていう意味の刺青が掘られてる。自分を産んだ父親も母親も他人同士で、ただの落書きに意味は無く親子同士も他人同士。彩織ちゃんは彼に出来た初めての家族なのよ」

「…………」

 予想外に重たい話だったからか、重い溜息を吐く鈴。

「あいっ変わらず茶化しづらい話だよね〜。あはは〜」

 ――実は儀式は成功しており、結果、本来存在しないはずの香織の双子の妹なんていう存在が同じ年に産まれているのだが、それを知るものは何処にもいない。

「恵里、デリカシーがないわよ」

「ボクには人の両親を語る資格はないけれど、笑う資格くらいはあると思うんだよねぇ」

「あなたの話こそ笑えないし茶化せないのよ」

「笑って良いよ? ボクが許す!」

「ねぇシズシズゥ、もしかして鈴の家だけ平和で、みんなは苦労してるの?」

 枕を抱きしめ、今にも泣き出しそうな鈴。

「そんなわけないじゃない鈴。ああちょっと泣かないでよ」

「だってぇ〜」

「うちだって普通……じゃないらしいわね。そういえば」

「やっぱりぃ!!」

「待って泣かないで鈴! 別に怖かったり暗かったりなやつじゃないから! ただ忍者屋敷らしいってだけだから!」

「「忍者!?」」

 恵里も知らなかったのか、面白いものを見つけたような目で見つめている。

「昔、彩織ちゃん達とうちで戦争? が、あったらしくて、お父さんとかおじいちゃんと戦ったらしいのよ。その話を、割と最近聞いたわ」

 溜息まじりに雫は言った。

「ボクは知らなかったし、ボクん家が戦争する前のことかな」

「もう突っ込まない! 鈴はツッコミじゃないからね! 突っ込まないよ! ……で、それいつの話?」

「んー、ボクは中学生の頃だったから、なら小学生高学年くらいじゃないかな」

「イオリンぱねぇ!!」

「鈴あなたね……」

「やー、他にもチームは居たと思うよ。夕空(くれあ)さんとか刹那さんはボクより前に居たはずだし」

「「だれ??」」

 鈴と雫が首を傾げた。

「んーとね、夕空さんは後輩の男の子をレイプして、そのまま付き合ってるカメラ好きな大学生。太陽みたいな人。刹那さんは、その頃は宇宙飛行士してたかな。今はメイド喫茶のメイド長。月面一周した最新の偉人って言えばわかる?」

「……イオリンっぱねぇ!!!」

「……そうね。マジぱないわね」

「まあ、ボクも同感なんだけどね。なんでこのメンツにボクが……、とか思うこともたまにあるし。姉が大統領、兄が天皇、ボクはただの美少女、みたいな」

 

 日はまだまだ高い。

 三人の姦しい雑談は、日が落ちるまで続いた。

 

 

 

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