「はあ……」
私は女子バスケットボール部に所属する、どこにでもいる中学二年生の女の子。肩を落としトボトボと家路を歩く私の脳裏には数時間前の光景が頭から離れなかった。
数時間前。地区大会決勝の試合で私たちのチームは63-60とリードしていた。
残り10秒。3点を死守するため私たちは守備を固めた。
あと10秒を守れば勝てる。
私たちはそう考えていた。しかし相手は違った。むしろそこから逆転することを考えていた。相手は私たちの守備を突破して強引にシュートをしようとした。
これを入れられても2点。逆転は不可能。
そのことを理解していた私たちであったがだからといって入れさせるわけにはいけない。すぐさま数人がそいつをマークした。しかしそれは陽動だった。
そいつは数人が張り付くとすぐさま3ポイントギリギリに立っていた選手にボールを渡したのだ。
まずい! このままでは同点にされる!!
止めようと焦った私はボールを放った選手に触れてしまう。そしてボールは無情にもスッと綺麗な音を立ててリングをくぐった。
得点を認めるコールとともに私のファウルを告げる審判の笛の音が轟く。シュートをした選手を妨害した場合、その選手にフリースローの権利が与えられるのだ。もちろん入った得点は認められた上で。
そしてその選手は見事フリースローを決めて私たちは63-64で敗退した。
「ただいま」
失意の中、家へと帰った私は自分の部屋に戻ろうとリビングの扉を開く。
誰にも会いたくない。静かな所で一人で泣きたい。
そんなささやかな願いは
「ふっ、ふっ、ふっ!!」
二本の刀を持った甲冑姿の男によって見事に打ち砕かれた。
私は目の前で素振りをしている男の名を知っている。
「……何をしているの? ……お兄ちゃん」
アレを呼び出すために地球を腐らせようとする悪の組織の科学者兼武士という異色の二足のわらじを履いていそうな姿をした兄に、私は呆れながら尋ねた。
「おぉ、帰ったか。妹よ! 仕事だったとはいえ、今日はお前の試合を見ることが出来なくてすまなかったな」
男は両肩に刀を納めて振り返る。
「母さんから聞いたぞ。……まぁ、あまり気を落とすな」
兄はポンと私の肩を叩く。
(試合を見ていないくせに!)
今の私にとって、兄の慰めは不快でしかなかった。
「私のせいで負けたのよ! 私が失敗しなければ……皆は優勝という栄光を掴むことが出来た。なのに『あまり気を落とすな』ですって? 何も知らないくせに適当なこと言わないでよ!!」
「ならばその怒りや失敗を次のために向ける糧にしろ。ただ失敗を悔いるだけで何もしないのはお前を始め優勝を掴むことが出来なかった仲間への裏切りだ」
「!?」
ぐうの音も出ない兄の言葉に、私は何も言えなかった。
「……ッ!」
私の目から滝のように涙が流れてくる。それは優勝することが出来なかった悔しさからではない。その失敗から何も得ようとせず逃げていた自分自身の弱さを知った悔しさからだった。
そんな私の頭を無理やり上に向かせ、甲冑姿の兄は私の目を見据えて両肩を強く掴む。
「妹よ! これだけは覚えておけ!! 『負けること……即ち勝つことへの一歩!』」
本編とは全く関係ない登場人物紹介プロフィール№1
暗黒七本槍 五の槍 サーガイン
『忍風戦隊ハリケンジャー』に登場する敵組織、ジャカンジャの幹部の一人。科学者と武士という異色の二足のわらじを持つ。
『巻之十二テッコツと父娘』では自身が作ったクグツ、テッコツメーバがあっさりハリケンジャーに倒された際に、
「何よ何よ何よあれ!赤点」
「あれなら僕でも勝てるラ!」
「そうよ、コピージャイアントでも再生できないなんて!」
「はぁ。早くも、俺の番か……」
と同僚から呆れられる中「負けたわけではない」とすぐさま反論。その際、兄雄同様「負けること……即ち勝つことへの一歩!」と締めている。