「……ま、まさかあんな人がウチに来るなんて」
私は女子バスケットボール部に所属する、どこにでもいる中学二年生の女の子。両肩を抱き小刻みに震えながら家路を歩く私の脳裏には数時間前の光景が頭から離れなかった。
数時間前。私が所属する女子バスケットボール部に一人のと
バスケットボールは身体能力や技術もさることながら背の高さも重要になるスポーツ。入部した転校生は小学生と見間違えるほどの背の低さだった。
「私は
そう言って手を差し出した私に美樹さんは「こちらこそよろしくお願いします」と握手を返した。
そう笑顔で言った私だが心の中は違っていた。「この女子バスケットボール部のエースとして新参者のアナタに格の差を思い知らせてあげるわ」と。だがその考えは彼女の実際のプレイによって早くも打ち砕かれた。
実力を測るためと実際にチームに打ち解けてもらうために実施したミニゲームで美樹さんは卓越したドリブルテクニックで敵陣をかき回し、私の姿を確認することなくノーマークになった私に正確なパスをしたのだ。
私は難なく3ポイントシュートを決める。
「ナイスシュー!」
文字通り邪気のない、私のシュートを喜ぶ美樹さんの笑顔。そんな彼女に私は「美樹さんこそ」と笑顔で返す。しかし内心は彼女の実力に大量の汗を流していた。
彼女の実力差を感じさせられるプレイはまだまだ続く。敵チームの素早いパス回しによってゴールを守っていたのは私と美樹さんという状況に追い込まれていた時だ。美樹さんはパスを警戒する素振りを見せボールを持った敵に直接ゴールを狙わせるように仕向け、すぐにボールを持った敵に張り付いた。
地面にこびりついたガムのように執拗な美樹さんのガードに敵はパスも出来ずコートの端に追いやられ、苦し紛れのシュートを放った。ゴールリングにも当たらないヘナチョコシュートをあっさりとカットした私はそのまま速攻。敵陣の守りががら空きだったこともあり私はそのままシュートを決めた。
「ハァ、ハァ……久米田さん、ナイス!」
肩で息をしながら私の得点に屈託のない笑顔でグーサインを出す美樹さん。そんな美樹さんに私は大粒の汗を手の甲で拭いながら同じようにグーサインで返した。自分には出来ない、相手にドリブルさせるように誘導したフェイントと執拗なガードを見せた彼女の技術根性に内心震えたのを隠して。
こうして30分のミニゲームは28‐10と私たちのチームの勝利に終わった。得点11というチーム一の得点数を叩き出した私に2ポイントシュート一本の美樹さんはダイヤモンドのようにキラキラとした瞳で「久米田さんスゴイです!!」と称賛の言葉を贈った。
「いや、私なんてまだまだよ」
私はそう謙遜の言葉で返した。
貴女の卓越したドリブルテクニックとフェイント、ガードがなければこんなに得点を稼ぐことは出来なかったわ。
その本心を隠して。
「ただいま」
私がリビングの扉を開けるとそこには
「やあ、お帰り」
黒い和服の上に『五』と書かれた白い羽織を身に着けた、某韓流スターを彷彿とさせる眼鏡をかけた柔らかな物腰の優しい眼差しの男が立っていた。
「どうしたんだい、妹? 何か悩み事があるならこの兄に相談してほしい。微力ながら力になれると思うから」
また何かの漫画の影響を受けたな、と思った私の心を知ってか知らずか、優しく問いかける。
「まぁね、実は今日──」
それから私は某韓流スター風の姿になった兄に事の説明をした。美樹陽多梨という背の低い可愛らしい女の子が女子バスケットボール部に入部したこと。得点にはほとんど絡まなかったが卓越した技術で味方が活躍できるように試合を運んだこと。そして女子バスケットボール部のエースである私を脅かす存在であること。
「──というわけよ」
私が説明し終えると兄は開口一番予想だにしない言葉を口にした。
「それはよかったじゃないか」
「……はぁ!?」
自分の存在を脅かす存在を祝福する兄の言葉に私は耳を疑う。そんな私を尻目に兄はなぜそう言ったかを説明する。
「妹よ。人が一番成長する要因は何だと思う? それは強烈な感情だ。『何かが欲しい』、『自分を変えたい』と現状では満足しない・してはいけないと思える感情で人は動き成長する。その機会を彼女は与えてくれた。これは喜ばしいことじゃないか。だからお前は彼女と言う脅威が来たことに怯えて立ちすくむのではなく、そうならないように動くべきだ」
「……」
兄のもっともな言葉に何も言えず固まってしまった私に、兄は続けた。
「妹よ。これだけは覚えておくがいい」
そう言うと兄はかけていた眼鏡を握り割り、髪をオールバックにさせて言った。
「進化には恐怖が必要だ。今のままではすぐにでも滅びきえうせてしまうという恐怖が」
本編とは全く関係ない登場人物紹介プロフィール№2
護廷十三隊五番隊隊長
久保帯人先生の『BLEACH』のキャラクター。優しい眼差しが特徴の男。しかしそれは演技で、ある目的のために周囲を欺き踏み台にする。
自分を殺すために近づいてきた部下が反旗を翻した時、偶然にも兄雄が言った「進化には恐怖が必要だ。今のままではすぐにでも滅びきえうせてしまうという恐怖が」と感謝してから殺害した。
久米田兄雄→アニメオタクのアナグラム
久米田妹→妹は筆先文十郎が彦根城に行った帰りに通った滋賀県東近江市にある交差点の名前。初めて見た時は「妹!?」と驚きました。
美樹陽多梨→右左