言い訳をするなら、この区切りがちょうど良かったから、とだけ言っておきます。
はい、そうですね。さっさと次話に移ります。なるべく早く投稿できるように心がけますが、最近忙しくなってきたので分かりませんね。ですが、読んでくれたら嬉しいです。感想など書いてもらえればもっと嬉しいです。
某県、床主市。太平洋に面した港町で、人口100万人を超える地方都市である。その床主市の西部に位置する丘陵部には、私立藤美学園高等学校が建っている。進学校というわけではない、普通のどこにでもある全寮制の高校だ。
その校内にある剣道場では、バシンバシンと竹刀を激しく打つ音が絶え間なく響いていた。道場の中にいるのはたったの二人。どちらもこの学園に通う生徒なわけだが、両者の気迫はもはや常人が到達できる域をとうに超え、滲み出る闘気がさらにその場の緊迫感を高まらせていた。
両者ともに防具を付けていてその詳しい容姿は分からないが、一人は腰まで届くほど長い紫髪で、起伏の富んだ体型をしていることから女性だということが分かる。そしてもう一人も一見何の特徴もなさそうだが、無駄なく鍛えられた筋肉から男性だということが伺えた。
「…………ッ」
間合いを図りながら機を伺い睨み合う二人。すると先に動いたのは少女の方だった。2メートルほどの間合いを一息で詰め、手に持つ竹刀を上段から振り下ろす。対して青年はその一撃を真正面から受けた。バシンと再び打ち鳴らされた爆竹のごとく激しい発破音。同時にビシッという竹の軋む音を聞いて、青年は面の奥で表情をわずかに歪めた。だが青年はそこで少女の攻勢を切り返し、反撃に転じた。二合、三合、四合と続け様に打ち合っていき、再び両者はお互いの間合いを図るために距離を取る。
──ビィィィィィッ!
その時、竹刀を打つ音とは違う、試合終了を告げるブザーが鳴り響いた。
「………ふぅ、引き分けだな」
ブザーを聞いて構えを解いた青年がそう言いながら面を取る。それに続いて少女も面を取った。
額を流れる汗を拭い、「ふぅ……」と少女は小さく息を吐く。
「やはり一真は強いな。全力で当たったつもりだったが、簡単に受け流されてしまった」
「っはは、そう言ってもらえるのは嬉しいが、そう言う冴子もまた一段と強くなったな。さっきの一撃なんかはかなり効いたよ。俺じゃなかったら一本だな」
青年──一真がそう言うと、冴子は不満そうに頬を膨らませた。
「むぅ……私はどうしても一真から一本を取りたいのだ。他の者には有効でも、一真を倒せぬようではダメだ」
そうして続けて「もう一戦やろう」と駄々をこねる冴子に、一真は苦笑した。凛々しい、クール、大人の女性。校内でそう言われて男女問わず人気がある冴子だが、今の彼女にそんな高貴な品格は微塵も感じない。負けず嫌いな子供がいるだけだ。こんな態度は他の部員の前でも見せることはない。後にも先にも一真の前だけである。
「喜んで、と言いたいところだが、残念ながら時間切れだ」
そう言って一真は自分の後方にかけられている時計を顎でしゃくった。時刻は午前8時25分。あと10分ほどでHRを告げるチャイムが鳴る。
「む、もうそんな時間だったか。一真との仕合いに夢中になりすぎて気付かなかった」
「それは俺もだよ。本当はもう一試合したいところだが、生徒会長が遅刻じゃあ皆に示しがつかないからな」
冗談めいた口調でそう言えば、確かにと冴子も頷いた。二人は制服に着替えて剣道場を後にし、肩を並べて教室に向かう。窓の外では満開に咲いた桜が見えた。鮮やかな桃色の花びらが優雅に宙を舞い、それはさながら舞踏会のよう。
「この桜も、そろそろ見納めだな」
感慨深げにそう呟けば、隣の冴子も同じように頷いた。暦で言えば5月も中旬の今日。『晩春』とも呼ばれるこの時期は、色々なものが終わる時期である。文字通り春が終わると6月に入って梅雨になり、暑い夏がやって来る。そしてその時には、満開に咲いているこの桜も跡形もなく散ってしまう。
そう、5月は終わりの季節。
しかし、春や桜と共にこの世界までもが終わってしまうなど、この時はまだ誰も知る由はなかった。
◇
それは、3日後の午後に突然起こった。
それまで満開だった桜もすっかり花の数を減らし、地面に桃色の世界を創り出している。一真はその光景を教壇に立つ教師の授業を聞きながら寂しげに見つめていた。同じクラスの冴子は今この教室にはいない。彼女は剣道の全国大会出場を決めているので授業免除で自主練習が許されている。去年も全国優勝しているし、学校は彼女に大いに期待しているのだ。
昼休み後というのは睡魔に襲われやすい。事実、眠そうに目を擦っている者、周りを気にせず大きな欠伸を溢している者、その逆で欠伸を噛み殺している者、既に寝息を立てている者──そんな者達がちらほらといる。かく言う一真もその中の一人で、周りに気付かれないように口元を手で覆い隠しながら小さく欠伸をした。生徒会長という立場にいる一真は堂々と欠伸をしている姿など見せてはいけないのだ。だが正直なところ、別に一真は『生徒会長』という意識はあまり強く持ってはいない。こっちだって眠くなる時もあるし、サボりたいと思う時だってある。ただ、周囲の期待というのはなかなか面倒なもので、そういった感情は抑えなえればならない、というのが先代の生徒会長のありがたいお言葉である。特に一真の場合、いつからか周りの生徒から『完璧超人』などというはた迷惑なアダ名まで付けられて一層ストイックにならなければならないのだ。決して不真面目なわけではないが、非常に面倒である。
……と、長々と語ってしまったが、つまり何が言いたいのかというと、こうやってのんびりと現実逃避できるほどに、平和な日常を過ごしているのである。
そう、平和。これはきっといつまでも続くであろう、と。この時は、誰しもが思っていた。
──だが、“それ”は突然に、途端に、そして一瞬で、全てを終わりへと導いた。
『全校生徒・職員に連絡します! 全校生徒・職員に連絡します! 現在、校内で暴力事件が発生中です! 生徒は職員の誘導に従って直ちに避難してください!』
終焉は、たった一つの放送から始まった。