ヘスティア・ファミリアが大所帯になるのは間違っているだろうか   作:妹めいたなにか

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あの日抱いた願望は少年の中でいつまでも燃え盛っている。


誤字報告ありがとうございました


それは兎と言う割には亀のように頑丈で

ボクの名前はヘスティア、炉の女神だ。

 

最近になってボクの元に新しく、そして初めての眷属が増えた。

 

ボクにとって勿体ないと思うくらいとってもいい子でその「二人」は血は繋がっていない兄妹らしい。

 

兄の方は【ベル・クラネル】ボクの初めての眷属で、何でも多くのファミリアを門前払いにされたとか。

 

こんなに可愛くていい子達を門前払いにするとは何事かと憤ったものだけどその御蔭でボクのもとにベル君が来てくれたと考えると良いことのように思えるから我ながら身勝手な話だ。

 

正直妹の言うお兄ちゃん?と言うには憚られるくらいに可愛くて最初は姉妹と見間違えた、というかファルナを刻むまで信じられなかったくらいにベル君は魅力的に過ぎた。

 

紅くクリっとした目は兎を思い起こすような愛らしさを醸し出しているし、笑顔なんかとても眩しい

 

長く邪魔にならない程度に整った透き通るくらいの白髪は物凄いキューティクルで女として少し負けた気がしたほど綺麗な髪でファルナを刻むときに少し触った、負けた気がしたのが強まった。

 

というか上半身裸なのに色気がすごいんだけど、危うく処女神の名誉を投げ捨てるところだった。

 

妹の方は【クミ・クラネル】最初見たときに本当に血は繋がっていないのかと問い詰めたくらいに彼女の見た目はベル君に似通っていた。

 

白い髪に紅い目、兄に似た童顔とあまりに似過ぎていて彼女の耳がエルフ特有の尖っていたのを見過ごしたほどだ。

 

そんな二人を眷属に迎え入れたボクの日常は驚く程に変わった。

 

まずベル君は連日ダンジョンに潜っては1~4階層を行ったり来たりでお金を稼いでボクを養ってくれるし、最近サポーターを雇ったとかで収入がさらに増えてる、まあベル君には例のスキルがあるから多少の無理はできるんだろうけど心配なものは心配だ。

 

クミ君はすごく多才でメインストリートでギルドの許可を取り演奏をしては多額のおひねりを貰って帰ってくる。

 

更にはその多芸さを余すところなく発揮しては更に大金を稼いできてあらゆる派閥が彼女を引き抜こうとしているらしい、ボクの大切な可愛い子を渡すわけないが。

 

バイトこそ続けているが生活環境がガラリと一変した。(というか働いてないとボクがヘファイストスのところにいた時みたいに何もしてないニート神みたいに二人にダメにされる気がする、あの生活を思い返すと自分がどれだけぐうたらだったのかとベッドに転がって悶えたい衝動に駆られるから正直思い出したくない)

 

ただ、ベルくんは時折物憂げな感情をチラリと覗かせるときもあって、それがまた魅力的なんだからずるい。

 

そんな折、クミ君がボクに話があると話題を持ちかけてきた。

 

ベル君がダンジョンに稼ぎに行っている間彼女は自分の生い立ちを隠すこともなく語ってくれた。

 

何でも彼女は戦乱を生き抜いたエルフの末裔(彼女の故郷ではエレアというらしい)と血の繋がっていない妹(!?)との間に残された遺伝子からできた子どもらしい。

 

・・・ツッコミどころが多いと思うのは間違っているだろうか?

 

しかし彼女の言葉に嘘はなく、その言葉が全て真実だということを思い知らされた。

 

「よりにもよって【ノースティリス】かよ・・・!」

 

彼女の出身地は魔境だった、どんな退屈な神々でさえ「近づきたくねえ」といいたくなるほどの無法地帯を通り越した人外魔境。

 

神の力を十全に活かした神すら屠る可能性を超えた者たちの集う恐るべき大地。

 

そこには恩恵や眷属と言ったこちらの常識はまるで通用しない別世界、彼らが本気を出せば【三大冒険者依頼】など児戯にも等しい。

 

何故かって?ここの住人たちが1桁のレベルで一喜一憂している中で彼ら彼女らはそんな限界を息を吸うように、目の前のパンを食べるように何事もなかったと言わんばかりに超えていくのだ。

 

人間の命など木の葉一枚ほどに軽いし、何なら死んだところで本人が望めば何の感慨もなく【這い上がる】だけで復活できる、文字通り人間の構造が違う。

 

ならば疑問に思うだろう、そんな存在がいて何故【三大冒険者依頼】なるものが存在したのかと。

 

簡単だ、ノースティリスは文字通り別世界なのだ、超えてはならない次元の壁、ある意味神々が地上に降り立ったときのような異常事態、今その異常事態の権化がボクの目の前にいる。

 

【それ】をボクが知っているのはなんのことはない、そこには【神友】がいたからだ。

 

その名前はクミロミ、収穫を司る神で、中性的なその見た目は男神とは思えないくらいの可愛らしさを持つ。

 

彼らは天界でも有名で娯楽を求めて別世界に渡ったという下天してきた神と同じくらいのぶっ飛び加減で周囲の度肝を抜いた。

 

とはいえ全知無能のボクらと違ってあっちは別世界で全知全能のままだから制約などに縛られず連絡を取ろうと思えば普通に取れる、そういうものなのだ、神という存在は。

 

「・・・その名前は、クミロミから貰ったのかい?」

 

「いえ、名前は親からもらいました、親もクミロミ様の信者なので、クミロミ様に見守ってもらえるような健やかな子に育ってほしいと、でもできれば家名も引き継がせてもらいたかったです。」

 

(それはわかったけどこの子はどれだけクミロミに愛されているんだ!?)

 

ノースティリスではこの世界のように神々が外界に降りていない、寧ろ、天界から人間たちに干渉しその生き方を見守るというやり方はこちらとはまるで正反対だ。

 

才能やアーティファクトがあれば神の声を普通に聞き取れるし、信心深いものが神に祈れば何らかの奇跡を与えるのだ。

 

ゆえにこそ彼女の持つ【農具】は如何に彼女がクミロミから寵愛を授かっているかがよく分かる。

 

というかこの子寝ているときにクミロミと交信できるらしい、愛され過ぎにも限度がある

 

「それがあると知られれば間違いなくデメテルファミリアからその手を引かれただろうに、何かあったのかい?」

 

「いえ、一応誘われましたが無理にとは言わないとは言われました、間違いなく眷属のやる気が削がれると、「別神の加護で収穫した農作物は受け入れがたいの」とも言われましたね。」

 

「あー・・・まあ、本分が似てるようで違うもんね、デメテルとクミロミは。」

 

クミロミの加護を持った農具とその信心深い信者が組み合わされば豊穣は約束されたようなものだ、確かに農作業をするものからしてみれば今までの苦労は何だったのだと興が削がれるのは間違いない。

 

それにクミロミの神としての役割は収穫だ、刈り取る収穫者の役割は農業に限った話ではない、其処にある生命を刈り取りその生命を別な生命に転じることもまた収穫者の役割だ。

 

死神の武器が農具に近い鎌なのは死神の別名が魂を刈り取る収穫者とも言われているからなのは有名な話だし、かの男神が与える潰えた(腐った)生命を新たな生命()へと転じる加護や、死体を食した妖精(下僕)が新たな生命()を生み出すのはそれに近い。

 

そのためかクミロミの信仰者は生命を無碍に扱うことを快く思わない、寧ろ価値観はこちらに近く、限りある命を尊び、自然の恵みに感謝する素晴らしい心を持っている。

 

其処にあそこの大陸からして比較的という前文がつくのはお約束だが、まあ、クミ君は間違いなくいい子だろう。

 

それでいて彼女は頑なにダンジョンに潜ることは固辞した、自らの存在は間違いなく義兄、ベル・クラネルの輝きを曇らせる。

 

英雄を目指す上で自らの存在は邪魔にしかならないと、彼女はそのことを理解していた。

 

「でも私も誤算だったんですよね、まさかこっちで育てた【私の農作物】でもノースティリスと同じ現象が起きるなんて、幸い効果はそんなに高くなかったんですが、それでもこの世界では半ば超越に近いです。」

 

「まあ、そりゃそうか、そうでもなければ・・・。」

 

ボクが視線を移すのはベルのステイタスを書き出した図面、そこにあるステイタスのスキルに目を向ける。

 

「【こんなもの】がステイタスに出るわけないかぁ・・・。」

 

 

 

 

 

no side

 

オラリオから地下深くに続くダンジョン、5階層に少年少女が探索を深めつつ歩いていた。

 

「4階層が手応えが少なくて勢いに乗って5階層まで来ちゃったなぁ・・・。」

 

「ベル様、そろそろ帰還を視野に入れたほうがいいかと、バックパックが魔石とドロップアイテムで一杯になってきました。」

 

少年の名はベル・クラネル、クミの義兄で、零細ながらヘスティア・ファミリアの団長である。

 

尚その容姿のせいで一部の神々からは兎属性の男の娘だとか兎人より兎人とか、挙句の果てにはアルミラージの擬人化だの散々な言われようであるが本人は気がついていない。

 

「ああ、ごめんリリ、もう少し潜ったらいい時間だし帰還しようか。」

 

「はいです。」

 

ベルの側に控えるのはリリルカ・アーデ(リリ)、小人族(パルゥム)の少女で「ソーマ・ファミリア」所属のサポーターだ。

 

 

 

 

少年と少女が出会った日はまだ浅く、パーティを組み始めたのも数日前である。

 

ベルはヘスティア・ファミリアに入ってから数日、1~4階層での鍛錬を繰り返し、魔石やドロップアイテムを換金して稼いではいたが、最初のうちはその稼ぎはあまり良いものではなかった、魔石やドロップアイテムは落ちていてもベルはソロでダンジョンに潜っており、どうしても持って帰れる量に制限が付きがちだった、そこでアドバイザーのハーフエルフ、エイナの勧めに耳を傾け、サポーターを雇うことに決めた。

 

のだが、今までソロでダンジョンに潜っていたことが災いしどういった人物を雇うか全く想像がつかない、そうやってサポーターをどうやって雇うべきか悩んでいたところ声をかけたのがリリであった。

 

「そこ行くお兄さん、サポーターは必要ですか?」

 

そうしてベルはリリを自らのサポーターとして契約することに決定した。

 

(にしても、はぁ・・・ベル様、ここまでの人だったとは、少々誤算でした。)

 

・・・最初こそリリは自分の目的のためにベルを利用してやろうと、いくらか信用を得てからバックパックの魔石をちょろまかしてやろうかと考えていたのだが、そんな企みは組んだ初日に脆くもいい意味で崩れた。

 

このベルという少年、見た目こそなよなよしいというか、女のリリをしてふざけるなと言いたい美貌の持ち主なのだが、戦闘になるとその顔は瞬く間に戦士のそれへと変わり、ナイフ片手にモンスターの屍の山を築き上げる。

 

当然その屍の山から魔石だったりドロップアイテムを回収するのがリリの役目なのだが、その光景に目を見開くことになる。

 

(魔石は当然ですが・・・・ド、ドロップアイテムが多すぎます・・・!?)

 

リリは思わず小声で零した、どういう幸運の持ち主だと、今まで奴隷のそれであった扱いのときの収穫の数倍、低層での稼ぎにも関わらず下手をすれば、一日であの地獄のような環境での稼ぎ数週間分に値するような、そんな【宝の山】がリリの目の前に広がっていた。

 

しかも・・・。

 

「じ、10万ヴァリス・・・!?」

 

換金された金額はリリの予想の遥か上、上層から中層へと進めぬ弱者がソロで命をかけて必死に潜ったダンジョンでの一日の稼ぎでは決して届かない金額だ、下手をすれば中層での稼ぎにすら届きかねない。

 

「はいこれ、リリの取り分。」

 

「は、はいぃ!?」

 

挙げ句手渡されたリリの取り分は換金された半額5万ヴァリス(尚少しばかりリリがちょろまかしているが)、ここで平然と半額渡すあたりベルのお人好しさが伺い知れる

 

「いやちょっとまってください!?サポーターがこんなに受け取っては立つ瀬が・・・!」

 

「いや、そもそもリリが居なかったら今日の僕の稼ぎ2万ヴァリスくらいだったんだけど、リリが居なかったら僕ドロップアイテムこんなに持って帰れなかったよ?」

 

「えぐぅ!?」

 

確かに数字でみれば2万よりも3万多いならば普通に考えれば大儲けだろう、そこに自分で倒したモンスターの稼ぎ5万ヴァリスを放り投げていなければの話であるが。

 

「そうだね、じゃあこうしよう、リリが納得できないんならこれは契約金ってことにしよっか。」

 

「け、契約金ですかぁ。」

 

「本音を言うとね、うちのファミリアって人手が少なくって僕しかダンジョンにもぐれないんだ。」

 

恥ずかしがるように頬を掻くベルの顔はわずかに赤みがかっていてその顔にとても惹き込まれる。

 

「でも、リリみたいに頼りになるサポーターがいればダンジョンにもっと深く探索できるって今日わかった。」

 

生活費においては正直妹がいれば問題ないがそれとこれとは話は別だ、ダンジョンに潜るには自分の力だけでなく、優れた装備や回復薬となるポーションが必要だ、そしてそういった物を整えるには当然お金がかかる、そしてベルの目の前には、今日とても探索をするのに役に立ってくれたサポーターがいる。

 

「だから、君が良ければ、僕とサポーターの契約を結んでくれないかな?」

 

「は、はひ、こんなリリで良ければ、喜んで・・・。」

 

(そ、その笑顔は反則過ぎますベル様ぁー!?)

 

あの環境に比べれば雲泥の差、事を起こさなくともそれ以上の見返りがあり、何よりも、彼の側は心地よかった。

 

あれほど毛嫌いしていた冒険者から差し出されたその手を、リリは握ることしかできなかった。

 

 

 

 

そんな経緯でリリがサポーターに加わって4日目

 

モンスターの討伐も効率化し始め、稼ぎは更に増えた、今となっては一日の稼ぎは15万ヴァリスにすら届きかねない。(しかも例によって半額を報酬で渡されている)

 

もはやリリはベルと組むのはある意味欠かせないものとなっている、一日で高額の報酬が約束されている上に、ベルはリリをよく気遣ってくれた、サポーターである自分を蔑ろにせず、一人の仲間として接してくれる。

 

はっきり言って、この環境はソーマ・ファミリアでの地獄の切欠である神酒にすら並ぶほどに酔ってしまう、心地よく、そして一度知ってしまえば否が応でも離れることはかなわない。

 

ベルが本心からただサポーターだからと言うだけでなく、リリと言う自分を必要としてくれているのがひしひしと伝わるのがこそばゆくそれ以上に心地いい、組んで数日だと言うのにすっかり絆された自分はチョロいのだろうかと利用している宿で悶えたこともあった。

 

今までならリリはベルのことを他の冒険者と同じで利用して必要となったら切り捨てるかもしれないという先入観を持っていたし、今もそういう不安を抱えているのは変わらない。

 

それ以前の話だが、あの環境での自らの境遇や所業から見て自分はベルの仲間としては不足なのではないだろうかと思い悩むこともあった。

 

それでもリリは、ベルとともに歩みたいと密かに思い始めてしまった、ベルの役に立ちたいと、初めての【仲間】の役に立ちたいと願う。

 

「それじゃリリ、5階層の探索行ってみようか!」

 

「はいベル様!お供します!」

 

しかしそんな少年少女たちの和やかな空気は突如離散する。

 

ズシン……

 

「ん?」

 

ダンジョンには突如として異常事態が起きる。

 

ズシン・・・

 

「ベル様?・・・ッ!」

 

それはダンジョンのモンスターが突如凶暴になったり。

 

ズシン・・・

 

「リリ、気をつけて、何か来る!」

 

予想だにしない凶悪なモンスターが突如として現れたり。

 

ズシン・・・!

 

「なぁ・・・!?なんで「こいつ」が5階層にいるんですかぁ!?」

 

下層のモンスターが、どういうわけか上層に現れることもある、それがダンジョンである。

 

ヴオオオオオオオォオオオオオオォォォオオオオオオオ!!!!!

 

「リリ、今すぐ逃げて!」

 

突如現れた脅威を前に、少年は逃げるよりも、立ち塞がった。

 

「ベル様!?無茶です!ベル様がどんなに強くてもまだミノタウロスは・・・!」

 

人間の話を悠長に待つモンスターなど居ない、猛然と襲いかかる拳がベルにそのまま直撃した。

 

 

 

 

ベル・クラネル

 

スキル

 

収穫祭事(ハーベスト)

 

モンスターを討伐した際ドロップ率超補正

 

食事を摂ると確率でアビリティ(主能力)極微増加し最終アビリティに加算する

 

祝福された食品の場合効果は増幅する

 

加算値

 

耐久+2500

 

器用+1500

 

魅力+計測不能

 

魔力+500

 

 

「何だよこのクミロミの信仰者がもつ奇跡のいいとこ取りが具現化したようなスキルは!?・・・っていうかこれのどこが【そんなに】!?」

 

(何だこの食べた分が加算されるってのは!?耐久だけで半端な冒険者を超えてるじゃないか!?)

 

2500、アビリティで言えばSクラスの999二回半分そこまでになった耐久がどうなるか、それがわからぬヘスティアではない。

 

「い、一応神の加護の食材(主に穀物と果物)はもう食べてないのでここから一気に上がることないんですが、それでもお兄ちゃんたくさん食べるから気がついたときにはお兄ちゃんゴブリンの攻撃くらいではかすり傷つかない体になっちゃって。」

 

「そうだろうね!2500あったらゴブリンの攻撃なんて虫に刺される以下の感覚もないだろうね!?」

 

「言い訳をさせてください!私の世界ではこんなに上がることなかったんですよ!?度重なる訓練と潜在能力を鍛えて漸く1上がるか上がらないかなのに、お兄ちゃんなんでこんなに上がってるんですか!って思いましたがお兄ちゃん村の頃からかなり特訓してました、ごめんなさい!」

 

「それだそれだそれだ間違いなくそれだぁあああああああああああああああああ!!!!」

 

「うえええええ!?」

 

(神の加護モロ乗った作物の栄養とかファルナに過剰反応するに決まってるし、元々そんなに高くなかったんだろうけどそれがステイタスに見事に乗っちゃったんだなぁ・・・。)

 

「ある意味神酒よりもだめなやつだこれ、神会でどう説明すりゃいいんだよぉ・・・。」

 

「だ、大丈夫です!最悪のときには私が祈ってクミロミ様を神会にお呼びすれば皆様納得してくれると思います!」

 

「それが一番ダメなやつだからね!?君が祈って召喚したら間違いなくクミロミ喜んできちゃって余計に収集つかないよ!?」

 

(ああ、ベルくん早く帰ってきて・・・。)

 

ヘスティアは思わず天を仰いだ。

 

(っていうかそれよりも、何よりもー・・・・・・ッ!!!!)

 

話を終えたクミが【四次元ポケット】という危ない名前のポケットから大量の資材を運び出すと、団員ではない【相談役】の彼女に話しかける。

 

「【アルフィアお義母さん】、頼まれた資材買ってきたけど補修こんな感じにすればいい?」

 

「ああ、記憶頼りの補修になるが、今よりはマシな具合にしなければな。」

 

「アルフィアお義母さんの部屋は他よりも壁を厚めにしたほうがいい?多分これからここ凄く賑やかになるけど、そういうのお義母さん苦手でしょ。」

 

「・・・ふむ、どうするか。」

 

一つ補足だが、ヘスティアは相談役である彼女がどういう存在かは本人から聞いた、知らぬものはおらぬ【ヘラ・ファミリア】のその中でも実力者。

 

その名は【アルフィア】。アホみたいな攻撃性能を持った超高火力短文呪文と、それの威力を彼女なりに割と抑えておきながら絶対的な防御も可能な反則エンチャント、そして何より彼女自身が接近戦すら敵なしという敵からすれば階層主のほうが可愛く見える理不尽の権化。

 

本来なら彼女はその強さを代償としたような大病を患っていた、が、そこはアルフィアすら霞む世界から来た、訳わからねえ【最強の理不尽】曰く・・・。

 

「アルフィアお義母さんの病気?【祝福された肉体復活のポーション】で才能そのまんまにさっぱりと消えましたよ?ぶっちゃけエーテル病より軽い病でしたし。」

 

「スキルに刻まれるくらいどうしようもない不治の病が軽い病って言うエーテル病って何?」

 

「諦めろヘスティア、こいつの前では我々が刃が立たなかった黒竜すら、「体だけがでかい蜥蜴」扱いだったよ・・・。」

 

「とかげかぁ・・・。」

 

アルフィアはとある分岐点で【絶対悪】になる切欠となった「黒竜?ヴェスタのほうが強いけど?」とお散歩感覚でそんな隻眼の黒竜の首を刈り取り塵とした【義娘】を何処か悟った眼差しで見つめていた、因みにヴェスタとは【Lv25】相当の赤龍である、ここまで雑に死んだ黒竜さんは怒っていいと思う。

 

「ザルドもベヒーモスの猛毒で死に至る筈だったがクミの言うタダの解毒ポーションであっさりと猛毒が消えてしまった、今は自分など必要ないとあの狒々爺とともに楽隠居だ、お前たち神をして近づかぬ混沌の地には一体何があるんだ?」

 

「一言で言うなら、廃人の集まりかなぁ・・・。」

 

「酷いこと言わないでください!?普通な人も居ますよ!少しは!」

 

「それは反論にはなっとらんぞクミ、後少し声を抑えろ。」

 

呆れるヘスティアの足元にベルのステイタスを記載した紙が落ちる、そこには収穫祭以外にも、あるスキルが発現していた。

 

 

静寂継承(ゴスペル・サイレンス)

 

魔法に超短文魔法【福音】発現

 

逆境においてアビリティ高補正

 

英雄至誓(アルゴノゥト)

 

能動的行動に対するチャージ実行権

 

早熟する

 

誓いが続く限り効果持続

 

誓いの丈により効果上昇

 

 

魔法

 

福音(ゴスペル)

 

超短文詠唱魔法

 

 

【絶対悪】と【正義】の衝突が起こらず、オラリオには【邪神】と【英雄】は現れなかった。

 

起きたのは闇派閥とそれを防ぐ冒険者の衝突のみ。

 

それでも英雄は現れるだろう、かつて【道化】が紡いだように、この物語にはそんな道化がドン引きする喜劇しかないのだから。

 

 

 

 

「ヴモォ・・・?」

 

怪物が感じた手応えは予想とは違った、雑魚だと思っていた、先程であった【驚異】からしてみれば目の前の存在などとてもちっぽけに見えた。

 

だが、そんな存在を殴った時、感じた手応えは、殴り飛ばした手応えではなく、強いて言うならば、壁を殴ったかのような・・・。

 

「えぇ・・・?」

 

思わずリリは目を瞬いた、怪物の拳を受けたベルは、受けた姿勢そのままであった、殴り飛ばされたのではない、防いだのではない、【受けた】のだ、他ならぬミノタウロスの拳を。

 

「そのくらいじゃ・・・クミの蹴りより、アルフィアお義母さんの拳骨<ゴスペルパンチ>よりも軽いよ。」

 

ベルにはたしかに少なからずダメージがあった、それでもリリにはベルが怪我以上にどこか辛そうな顔をしているのが映る。

 

「遠い、まだまだ遠いんだ・・・!」

 

歯を食いしばってベルは一歩下がってナイフを構える、ミノタウロスの攻撃を受けて勝てると思ったからではない、寧ろ目の前のミノタウロスは自分よりも相当な格上だ、自分は打たれ強いが、まだまだ打たれ強いだけなのだ。

 

「クミならもっと巧くやってる、攻撃を受ける必要さえないんだ、義母さんならそもそもこうなる前に出会い頭に一撃で終わってる!」

 

一人言葉を零すベル、だが、その言葉一つ一つに、ミノタウロスはどこか自分が気圧されている感覚に陥る、目の前の存在がどんどんと別の存在に映っていく。

 

「お前がどれだけ強くても、お前がどれだけ高みに居ても関係ない・・・!」

 

少年は突撃を開始した、それはただ我武者羅になったのではない、純然たる誓いと決意。

 

「いつか誓ったあの日の約束のためにも・・・ボクは、お前と戦う!」

 

ナイフを逆手に構えミノタウロスに刃を突き立てる、当然というべきか、あくまで刺さった程度でダメージはまるで軽微だ、ミノタウロスの命を奪うにはこれでは足りない。

 

「・・・ッヴオオオォオォォォォォオオオオオ!!」

 

だがそれは布石でしかない、モンスターには必ず急所が存在する、それを察したミノタウロスは「それ」だけはさせぬとベルに猛攻撃を開始する。

 

「が、ぐぅう!?まだ、まだぁああああああ!!!」

 

予備のナイフを取り出し、ベルは果敢にミノタウロスの攻撃を凌ぐ、自分の何倍もある拳や足を見切り、受け流し、時には態とその頑丈さを利用して受けきってその間に一撃を入れたりなど。

 

いくら頑丈なベルでもミノタウロスの猛撃を何度も受ければ流石に負担が大きい、だがそれがどうした。

 

【家族】から扱かれた薫陶はこんな猛攻ではなかった、何度も超えた限界、およそ常識では修行と呼べぬ地獄絵図、だがそれを超えて今、ベル・クラネルはここに立っている。

 

「ヴォ、ヴオオオオ!!!?」

 

ミノタウロスは混乱した、何故だ、先程まで弱者だった存在が瞬く間に己を追い詰めていく、だが。

 

「ォオオオ・・・ブモォオオオオオ!!!」

 

ミノタウロスは吠えながらも悔いた、最初から獲物としてみずに戦うべき【敵】としてみるべきだった、自らの心臓部とも言える魔石から熱のようなものがこみ上げる。

 

眼前に構えるのは驚異でも獲物でもない・・・敵だ、自らの命を脅かし、全力で排除せねばならぬ敵。

 

「ミ、ミノタウロスが笑った?」

 

その時リリは見た、ミノタウロスの口角が上がり、4つ足の構えで突進の態勢を作る、自らが持ち得る角を用いての最強の攻撃、そうでなくては目の前の敵には届かない。

 

「・・・受けて立つ!」

 

対するベルも構えを取り、チャージを開始する、突進に負けぬ力を得るために、目の前の敵を倒すために。

 

二人の雄の視線が交差する、自らの最高を持ってこの敵に勝利する、勝つのは自分だと雄々しく吠える。

 

うおおおおおおおおおおおおおお!!!

 

ブモアアアアアアアアアアアアア!!!

 

そして二人の影が重なった。

 

「・・・ッベル様ぁ!!」

 

そして一度も目をそらさず戦いを見届けたリリは見た、その輝くナイフを持ってミノタウロスの角を折り、先程刺さったナイフを掴んだベルが、叫んだ。

 

福音(ゴスペル)ッ!!!」

 

その刹那、ダンジョンに響く鐘の音、その音は何処までも綺麗な音色で、掴んだナイフを伝わりその振動を持ってミノタウロスの魔石を砕いた。

 

「ガ、ガアァアアアアァア・・・・!」

 

自らの命を砕かれたミノタウロスは灰へと変わっていく、それでも視線は敵へと注がれた。

 

嗚呼、「次」があるのならば、今度は最初から全力でこの敵と戦いたい・・・。

 

その強い願いを抱いて、ミノタウロスは消失した、戦いの証である自らの角を残して。

 

「ベル様、ご無事ですか!?」

 

「リリ、心配賭けてごめん、それにしても、ナイフ2つとも砕けちゃったな・・・。」

 

その視線が向けるのは今日の探索の前日、エイナとともに「ヘファイストスファミリア」で購入した安物のナイフの残骸2つ。

 

片方は無銘だったがもう片方の名前は確か「試作兎牙(プロトぴょんが)」とか言う名前だったはず。

 

握りがとてもしっくり来ていて今回の探索でもお気に入りの一振りだったのだが、ナイフを伝って音を伝えさせるという初の試みに武器がついてこれなかったのだろう。

 

(クロッゾさんすみません、買ってすぐに壊しちゃいました。)

 

会計の人に製作者に御礼の言葉をお願いしますと言っておきながらこの体たらく、次に買いに行くときが気まずいと思いながらも。

 

ベルは自分の視界が揺れるのを感じた。

 

「べ、ベル様!?」

 

「あ、あれ、ごめん少し疲れて・・・。」

 

何度もあった逆境とはいえ、今回のは尚の事激しい戦いだった、福音とチャージを使った精神力の限界が来たらしい、チャージはともかく福音は使ったのは二度目だが負担が段違いだと流石義母の魔法だと何処か感心したベル。

 

(だめだ、ここで意識を失ったら、ここはまだダンジョンでそばにいるリリを危険に晒すわけには・・・!)

 

「いいから寝とけガキ。」

 

倒れかける寸前に誰かに荒々しく支えられた、視線を向けると、そこには狼人の男性と金髪の少女が居た。

 

誰かと確かめる前にベルの意識は途絶えた。

 

「あ、あなた方は・・・!?」

 

「そこの小人族、てめえらは何処のファミリアだ、かってにケツ拭かれた落とし前をつけなきゃならねんだよ。」

 

「・・・。」

 

金髪の少女が視線を注ぐのはベル、先程の顛末を途中から見ていた。

 

戦いの内容はオラリオの最大派閥、【ロキ・ファミリア】の自分たちからしてみれば些細な戦いだ、ミノタウロスなどもう経験値にもならない。

 

だが、あの戦いは、何よりも雄弁で、あの【ベート】が手を出すなとまで言っていた。

 

(「俺達の不手際だとはいえ男同士の戦いとあのガキの冒険に手を出すんじゃねえ」ってベートさんは言ってたけど・・・。)

 

目の前の少年は冒険者になってまだ浅いだろうが相当に修羅場をくぐった所作が戦いに見えた。

 

歯を食いしばって何処までもミノタウロスに勝とうと懸命だった。

 

(君が持つ意思の強さは何処から来るの・・・?)

 

ロキ・ファミリア所属の【剣姫】、アイズ・ヴァレンシュタインはベルの戦いに何処か惹かれるものを感じていた。

 

 

 

 

その日、ロキ・ファミリアがダンジョンにてミノタウロスを上層に逃してしまう不手際をしたことがギルドに報告された。

 

ロキ・ファミリアには罰則が言い渡され、ギルドへの罰金と被害を受けたファミリアに賠償が課された。

 

その影で、その不手際の後始末を図らずもしたベルのミノタウロス討伐も明るみに出てヘスティアは卒倒した。

 

尚、これは完全に蛇足だが・・・。

 

「ほほう、ミノタウロスを倒したが、サポーターをそっちのけでマインドダウンを起こしたと?私の義息子はいつからそんな無責任な男になったのだ?ん?」

 

「ひぃ!?言い訳のしようもないです!?」

 

「べ、ベル様が獅子を前にした兎のように縮こまってしまいました・・・。」

 

「あれがタケの言っていた極東に伝わる奥義の土下座かぁ。」

 

「でもアルフィアお義母さんの前では無駄だと思うよお兄ちゃん。」

 

ヘスティア・ファミリアのホームで一人の兎が折檻を受けていた。




喜劇と言う割には一話目から激闘するスタイル
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