ヘスティア・ファミリアが大所帯になるのは間違っているだろうか 作:妹めいたなにか
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ロキ・ファミリアのホーム【黄昏の館】オラリオ2大ファミリア片割れの主神ロキが率いるファミリアで幹部から新人までとても層が厚い。
主に美少女美女が多くその多くが実力者揃い。
これはロキが女好きなのもあるがそれにも劣らないどころかオラリオ有数な強さの男性の団員もいるし、団長である【勇者】フィン・ディムナはパルゥムの男性である。
そこに幹部としてエルフ王族で副団長の【九魔姫】リヴェリア・リヨス・アールヴ、ドワーフでありロキ・ファミリアの最古参、【重傑】ガレス・ランドロック。
この第一級冒険者である3人が主軸として下の育成にも腰を入れており、強制任務である遠征にも大きな成果を残している。
数年前に起きた闇派閥との戦いでも多大な貢献をしてフレイヤ・ファミリアとともに2大ファミリアの名に恥じぬ活躍をした。
今は戦いはとある事情で壊滅的な打撃を受けた闇派閥が沈静化する形で収まったが、未だにその芽は潰えていないだろう、闇派閥を指揮していたファミリアの主神は数人送還したが全員を討ち倒したかといえば疑問が残るし、新たに加わる可能性だってある。
更に送還しても眷属が無事だった場合、普通のファミリアと違って、世界を転覆させるという理念を持った連中は他の闇派閥の主神ファミリアに合流するという手を取れるし、人間の悪心があの組織を未だに求めているのが厄介極まりない。
何せ絶望した人間、他者の失墜や狂乱を求める人間にとって闇派閥はお誂え向け、自然とその闇の誘惑に手を伸ばしてしまうのだ。
だからこそオラリオの巨大派閥はその邪悪の胎動に目を光らせなければならない。
自らの愛すべき家族を守るためにも。
「みんなおかえりーなんや偉いことがぎょうさんあったみたいやなー。」
主神ロキは遠征帰りの団員全員をいつもの調子で出迎える。
「ロキ、済まない、今回は色々と予測できないことが多くあった。」
謝罪を述べるのは団長であるフィン、そのフィンの肩に手を置きいつもの笑顔でロキは笑う。
「ええって、ミノタウロスの集団が一目散に逃げるってのは初めて聞いたことや、それ完全に予測できたらそれはそれでおかしいってもんやで。」
ロキは全員を労うとまずは休むようにと神命を下し、団長のフィンを自室に招いた。
「それで、詳細はどんなもんなんや?ウチの方でもいくらか情報はもらっとる、ミノタウロスの群れが戦いの途中で上層へと逃走して、それを追討する形で掃討したが、最後の一匹は別のファミリアに後始末されて、結果としていくらかのファミリアに被害が出たのは確かなんやな?」
「ああ、全体的な情報はそれであってる、被害の出たファミリアは2つだが、問題はその中に【ソーマ・ファミリア】のサポーターが居たというところか、しかもそのサポーターがパルゥムだったのだから心苦しいばかりだ。」
「うへぇ、そらきついなぁ、ソーマ自体は金銭欲はそんなでもあらへんが団長のザニスは噂じゃ相当な守銭奴らしいし。」
「怪我はなかった、が迷惑料としてそこそこの金額は取られると思ったほうがいい、これで怪我でもあったら有る事無い事でさらに金銭を要求されそうなものだった。」
「ならその後始末したファミリアもソーマ・ファミリアなんか?」
「いや、最近結成されたヘスティア・ファミリアだ、そのレベル1の団長がミノタウロスを討伐した。」
「ヘスティアやとぉ!?」
その名を聞きロキが立ち上がる、よりにもよって目の敵にしていた相手に自らのファミリアの後始末をされてしまった、いくらか歯ぎしりをしそうな気分だったがぐっとこらえそのまま座る。
「・・・あのドチビがファミリアの結成か、しかもレベル1でミノタウロス討伐、間違いないんか?」
「ないな、その場はベートとアイズが目撃しているし、独力を持って倒したようだ。」
「そか、そんならしゃーないか、ドチビに頭下げんのは心底気に食わんが聞きたいこともある、それに不始末は不始末や。」
「気に入らない相手に謝罪をさせることになって済まないねロキ。」
「勘違いすなや、ウチの家族の不始末はウチの不始末と同じや、ならケツ持つんはウチやろ、それが
「ああ、ありがとう。」
オラリオ有数の冒険者が所属するロキ・ファミリアが何故大派閥で居られるのかはここにある。
主神であるロキにはいくらか問題はある、言動も控えめに言って良いとは言えないかもしれない、酒は好きだし、女も好きだ、だがそれ以上の家族愛、ロキは自分の子どもたちが大好きだ。
自らの子どものためならばロキはいくらでも知恵は絞るし、出し惜しみはしない、だからこそ団員に慕われているし、文句はあれども改宗もしない。
そうでなければ貞操観念が強いエルフ、そのうえその王族であるリヴェリアがロキ・ファミリアに所属しているわけがない。
「よっしゃなら善は急げや、早速伝令出してギルドに要請出しといてや、今んとこドチビのファミリアが何処にあるんかわからん、ギルドを介して正式な謝罪するための場を整えんとあかんからな。」
「わかった、すぐに手配しよう。」
「あーそれにしてもホンマ惜しいわーそないに将来有望なやつがドチビんとこ流れたんは痛いってもんやないで。」
「そうだね、有望な新人はいくら居ても足りないよ。」
ロキたちは知らない、その将来有望な新人はロキ・ファミリアの門を叩こうとしたが門前払いされたことを・・・。
「ああ、それとこれは不確かなんだが、いや、できれば間違いであってほしい情報がある、だがこの疼きから見て間違いはないのだろう。」
「何や不気味な切り出し方しおって、これ以上悪い方向になるんか?」
「その件の団長なんだが、ベートとアイズが聞いた言葉の中に気になる言葉があった。」
「あの二人は当時まだ所属していなかったが、【
一方日が明けてバイトへと行ったヘスティアを見送ったベルは身支度を整えるとクミと一緒にギルドへと向かう。
クミは今回はギルド前の路上での演奏をするようで途中まで一緒に行くことにした。
「うーん神様をバイトさせないでファミリアを運営するにはまだまだ稼ぎが足りないかぁ。」
「お兄ちゃんそれなんだけどヘスティア様ファミリア普通に運営しててもバイトは続けるみたいだよ。」
「えっなんで!?神様がバイトは普通にマズイんじゃないの!?いや、僕はそういうの平気だけどこれから入ってくる人とかに悪いイメージがぁ!?」
「えっとね、ヘスティア様は以前ヘファイストス様のお世話になってたことがあるらしくて、その時にお世話になった分をアルバイトで働いて自力で返そうとしてるみたい、ヘファイストス様は別にいいって言ってたみたいだけど。」
「そ、そうなんだ。」
因みにどうしてそうなったかといえば、自分に働き尽くしてくれる眷属二人を前にその前のあまりの自堕落さを振り返り悶絶したヘスティアがヘファイストス・ファミリアに突撃し友神であり主神のヘファイストスに「今までお世話になった分の料金算出してくれぇ!バイトで頑張って個人借金ってことで返すからぁ!」と泣きついた、元々バイトしていたのもあり額はすぐに返せる値段らしい。
勿論周囲からは驚愕の目で見られたことを追記しておく。
「まあ大丈夫大丈夫、ファミリア入団希望者は私が探すからお兄ちゃんはお兄ちゃんがやりたいように冒険するのが良いよ!」
「いやそれってどうなのかな、まだ僕たち家族しか団員が居ないけど一応僕団長になるとして、冒険しているだけの団長ってどうなんだろ。」
「じゃあお兄ちゃん、ギルドに提出する義務のある予算作成に含まれるファミリア運営資金資料作成とか、探索ファミリアの関係上いつか必ず課される遠征任務やギルド依頼の処理、ファミリア団員の実力を見定めて遠征での人員選別、ダンジョン探索で使用したアイテムの内約、ギルドに課される上納税、多分これからこれ以上のものが必要だけど全部処理できる?」
「あうう・・・。」
「まあ私も両親がメイドさんに委任しているのしか見てなかったからそういうの詳しくないけど、ファミリアを大きくしたいなら間違いなく会計や書類仕事ができる人は必要だよ?」
「た、たしかに。」
「まずは団長が大量の書類に承認判子が押せるくらいな大きなファミリアになってからの話だけど、ミノタウロス打倒の報告とかエイナさんに言うのが気まずいだろうお兄ちゃんにはまずはそこからだね!」
「それ言わないで!多分エイナさんにはすっごい怒られる気しかしないんだかっ!?」
「お兄ちゃん?」
「いや、なんだろう、誰かに見られているような気がして・・・?」
ベルが感じ取った無遠慮な視線、まるで自分の深部まで覗き込まれるようなそんな感覚が伝わってきた。
「んーよしお兄ちゃん笑っちゃおう!」
「え、なんでいきなり!?笑うってなんで!?」
「お前なんかに見られても気にしないぜ!みたいな感じでこう、前ファミリア結成祝だって言ってお祝いした時のお兄ちゃんの笑顔でヘスティア様がまぶしっ!?って言ったくらいにペカーってした感じの!」
「いやペカーって!?」
相変わらずこう言うときのクミはテンションがおかしいというかなんというか、しかしたしかにこの無遠慮な視線に対して思うところもあるしと思いベルは・・・。
「こ、こうかな?」
その時ベルからあふれる
「うわぁ・・・。」
自分で振ってなんだが本気で眩しいとクミは思った、村の女性達は当然として一部の男性が危険な扉を開きかけたのは何度目かと思い返すクミだが。
(うん、例の視線はなくなったね。)
どうやら予想外の反撃を食らって精神的ダメージを与えることに成功したらしい、流石デメテルにちょっと危ない息遣いで抱きしめて少し頭なでさせてほしいと言われただけはあると思う。
「あれ、そこの人大丈夫ですか!?」
クミがうんうんと頷いていたらベルが一人の少女に駆け寄っていた、銀髪の少女で若草色と白で構成されたメイド服のような格好で壁に手を置いてもう片方の手で顔を覆っていた。
「だ、大丈夫です!すみません少しのぼせてしまって!?」
「お兄ちゃんそっとしといたほうがいいよ、無理に動かすと悪化の危険もあるし。」
「そうなのかな?でも本当にのぼせたみたいで顔も赤いですよ?」
「お気遣いだけでとても嬉しいので大丈夫です!そそ、それでですね、これ落としたみたいですよ?」
やや挙動不審になった少女から渡されたのは・・・。
「あ、あれ!?ミノタウロスの角!」
渡されたものは間違いなく自分が倒して切り落としたミノタウロスの角だった、ベルが慌てて腰袋を見れば、今しがた空いたような穴が破れてポッカリとできていた、幸い落ちたのは角のみで、他のものは穴につっかえる形で辛うじて落ちていなかったが。
「ありゃりゃ、角が尖ってて袋に穴あいちゃったんだね、ちょっとまってて。」
クミは四次元ポケットから裁縫道具を引っ張り出し、ベルに腰袋の荷物を預けると手慣れたように糸を通し瞬く間に穴が塞がる。
「あら、すごい手が器用なんですね!」
具合の悪さから立ち直ったらしい少女がパッとした明るい笑顔で話しかけてくる。
「ダンジョンで装備が悪い状態になった時応急処置が必要な場面だってありますからね、装備関連から日用品まで一通りの補修はできる自信があります。」
(いや、一通りのってクミは家もこんなスピードで修復できるんだけども・・・。)
義母と祖父による騒動で家を直すのは毎度クミの仕事でホームの教会も圧倒的なスピードで建て直しているんだからすごいものだとベルは思い返した。
「ああ!お礼が遅れてすみません!僕はベル・クラネルといいます、大事なものだったので助かりました!」
喜色満面の顔で感謝全力された少女が内心再びはうっとなるも、ギリギリ顔に出さず笑顔を作る。
「いえ、喜んでいただけてよかったです、私はシル・フローヴァっていいます、ここの近くの酒場で豊饒の女主人という場所で働いているんですよ。」
とても綺麗に笑う少女にベルは少し見惚れるが反対にクミは。
(んー?この人からクミロミ様やエヘカトル様に近いもの感じるけど、この人は人間だし、いやそれにしては違和感が。)
怪しいと言うには首をかしげる程度の違和感で、少なくとも悪人ではないが、なにか不思議な気配を感じるという、ノースティリスながらの感覚でシルという少女を探るも正体を掴むには情報が足りない。
だがクミの安全基準は兄に害があるか否かの2点のみ、シルからは敵意や害意は感じ取れなかったので深く考えるのをやめた。
「なるほど、つまりシルさんはミノタウロスを倒せるくらいの稼ぎのいいお兄ちゃんに客としてきてほしいと。」
「え、その、あははは・・・恩を着せるつもりはないですが、客引きなのは否定できません。」
ズバリ言い当てられたのかシルは笑うもそこにあざとさはあれど騙し取ろうとする悪意はない。
「あの、僕大食いなので多分お店の人に迷惑だと思います、たくさん食べるお客としては多分僕は適任なんですけど、その、量が・・・。」
「まあ、それなら大歓迎ですよ!でもそんなに細いのに大食いなんて意外です。」
「お兄ちゃんは食べたものは文字通り力に変えちゃうからね、食べた分以上に働くからたくさん食べるくらいで丁度いいの。」
「そうなんだけど筋肉がつかないんだよね、筋トレとか結構してるのに。」
「いいじゃんお義母さんがマッチョになるのは許さんって言ってるし。」
「それにしたってこう、リリにも筋肉が少ないのになんでそんな動けるんですかって驚かれたし。」
ため息を吐くベル、あれ程の鍛錬をして筋肉がつかないのはいっそ才能なのかと悩むベルだが、真実は違う。
ベルの主能力である魅力、これは周囲からの視線が心地よくなる効果があり、それに応じて容姿にも強く影響が出る、さらに他主能力の耐久や器用にも肉体に高い補正が出ており半端なことでは傷つかず、速く動くための強くしなやかな美体を維持できているのだが、これが筋肉として見た目に現れないというベルからしてみれば頭を抱えたくなる現象である。
「では、私はこれで、ご来店お待ちしてます。」
笑顔で手を振り去っていくシル。
「何気に行くのが確定しちゃった・・・。」
「でも行くんでしょ?」
「いや、角拾ってもらったしね。」
なにせ誰もが認めるレベルの偉業であるレベル1によるミノタウロス討伐、ベルにとってもこの角は特別なものがある。
苦戦の上で倒した強敵なのもあるが、あの時ミノタウロスとたしかに交わした意思、勝つのは自分だというミノタウロスの声無き咆哮が強くベルに伝わった。
あの時感じた熱さが今もこの角から伝わってくるようで、お守りとして持っておきたい気持ちも強い。
「さて、少し遅れたけど、ギルドの報告行こっかお兄ちゃん!」
「はい・・・。」
思い出して気が重いベル、【冒険者は冒険してはいけない】を信条として担当冒険者に徹底しているアドバイザーの彼女からしては今回の件は間違いなく
「ベールー君ー?」
「す、すみませんでしたぁ!エイナさあああああああん!!!」
そして案の定である、義母に説教され担当アドバイザーであるエイナからも面談室にて雷が落ちた。
今回の異常事態はロキ・ファミリアの不祥事とはいえ低層でのミノタウロス遭遇は明らかに命の危機だ、ミノタウロスは俊敏も強さ相当に高いためまず逃げ切ること自体難しい。
にもかかわらずこのベルという少年は生き残っただけでも儲けものだというのに逆に倒してしまったのだ。
間違いなく神々の話題になるのは明らかで、それで尚この容姿である、目をつけられるのはもはや秒読みであるし、先程も受付時に伺うような視線があちらこちらから感じ取れた。
零細ファミリアである冒険者になって間もない新人がミノタウロス討伐、これで話題にならないほうがおかしい。
別にエイナとしてはそこを咎めるつもりはない、問題は、1~4階層で稼ぎを繰り返しているはずのベルが何故5階層にいるのかという一点だ。
「4階層時点で物足りないと言った新人が何度5階層の
「返す言葉もありません・・・。」
結果論だがミノタウロスを倒せるベルがウォーシャドウにやられるというケースはほぼありえないのだろう、だが、その後がいただけない。
今回はそのロキ・ファミリアに救助されたがサポーターを危険な目に合わせたという事実は確かなのだ。
「今回は本当に例外中の例外で、滅多にないケースだとしても、そのままの心構えで居たらベルくんだけじゃなくて同行しているサポーターにも危険が及ぶのを忘れないように!いいわね!」
「はい!すみませんでした・・・。」
別にエイナとてベルのことを気に食わないわけではない、寧ろエイナからしてみればベルは好感の持てる担当冒険者だ、素直で心優しく、荒くれ者が目立つ冒険者の中でも自分の非を認め改められるとても行儀の良い希少な存在だ、だからこそそんなベルが冒険で過失を起こしたり、悲劇に見舞われることは担当アドバイザーとしても避けねばならぬことである。
「よし、反省したなら私からはこれでおしまい、今回は気をつけようがないにしても、ダンジョンには危険がいっぱいなんだから、常に最悪を予想しようね。」
「ありがとうございますエイナさん。」
「ああそれと、ベル君空いている日程はない?」
「はい?いえ、うちのファミリアはクエストも受けていないので日程ならいつでも開けられますが?」
「ロキ・ファミリアが謝罪の申し入れをしたいから希望の日程を教えてくれないかな?それに合わせてロキ・ファミリアが場を設けるって。」
「・・・うえええええええ!?ちょっと待って下さい!ロキ・ファミリアって!そんな大きいファミリアが謝罪って!?」
「たしかにこれは異例だけども、ベル君はロキ・ファミリアの後始末をしたってことでこれを蔑ろにするとロキ・ファミリアとしてもマズイのよ。」
「あー。」
異例のミノタウロス逃走だが、結果としてその後始末の一部を零細ファミリアに尻拭いさせといて何の謝罪もなし、たしかにそれはマズイとファミリア運営において素人のベルにも理解できた。
ダンジョンにおける出来事は自己責任、冒険者の中でもこれは最早暗黙の了解だ、過度な干渉は控え、いらぬ諍いは避けるべき。
ギルドでもそうなのだが冒険者同士で半ば共有されたこの鉄則はあれど、今回のケースは謂わばロキ・ファミリアがミノタウロスの群れを上層に追い立てるというその気はなくとも変則型
これはロキ・ファミリアをやっかむ連中からしてみれば格好の攻撃材料だろう、巨大派閥を追いやり自分が頂点になど考える神も居なくはないのだ、だからこそできる手を打っておくという方針だとエイナは伝える。
「ベル君が組んでいるリリルカ・アーデ所属のソーマ・ファミリアは賠償金の請求をギルドを介してするみたいだけどね。」
「わかりました、では神様とも相談して改めて来ます。」
「よろしくねベル君。」
エイナとも話が済み、面談室から出るとギルドの外での広場から心地よい音楽が聞こえる、これはクミだ、あの四次元ポケットから立派なピアノを取り出して路上演奏をしているのだ、勿論これはギルドの許可ありで、業務に支障が出ないように外での演奏となっているが、音楽の素人でもあるベルにもわかる高度な演奏技術、観客は聞き惚れてるし、クミが演奏をしている間冒険者たちからは喧騒が止むため大助かりだとエイナが零していたのを聞いた気がする。
(でもこれはこれで迷惑な気もするんだけど大丈夫なのかな?)
ギルドの外、といえばなるほど確かにわきまえているだろう、だが聴衆はどうだろうかと思えば誰も彼もが聞き入ってるのだからすごいものだ、後ろからしか見えないが屈強な冒険者も演奏に釘付けのようだし。
(こう言うところでも敵わないなぁ・・・。)
幼少の頃からわかっていたことだ、クミという少女の次元を超えた技術の幅広さ、基本的に彼女にできないことなどないのだろう、ダンジョンだって多分クミならばそう時間もかからず最下層まで行けるだろうし、黒龍すらあの有様なのだからダンジョンの最下層に何が居たところでクミの敵ではない。
(でもクミはそれをやらない。)
これを力あるものの責任を果たせだとか驚異に対し無関心だと言われてもそれは違う、クミは誰よりも自分を信じてくれているのだとベルは知っている、かつて抱いた願望を実現してほしいと期待してくれているのだ。
(頑張らないと。)
今回は得るものはあったがそれと同じくらいの失敗をした、まずはリリに謝り食事でも奢るかとベルは思ったが、ふと考える、それは世間一般で言うところでのデートというものでは?
(だ、大丈夫なはず、パーティの親交を深めるためとか、結成祝とかで誘えば・・・あれ!?なんかそういうのを建前にリリをデートに誘うってことにならない!?)
頭に浮かぶ邪な考えを振り払い頬を叩く、今はそれはおいておこう、演奏を終え一礼したクミがおひねりをもらった後聴衆からのアンコールに応え今度は別の曲を弾き始める、その様子を見てベルはため息一つ。
(本当に、頑張ろう。)
まだまだ遠い目標を前に、ベルは苦笑いをしながらヘファイストス・ファミリアへと向かう、少しでも妹に追いつくためにダンジョンに挑む際の武器を求めようと、ベルは走り出した。
神々が住むバベルに店を構えるファミリアはあれどまず話題に上がるのがヘファイストス・ファミリアだ、オラリオにおいて同じ鍛冶関連ファミリアであるゴブニュ・ファミリアもよく話題に上がるが、ヘファイストス・ファミリアの武器は上級冒険者からそこそこ稼ぎのある冒険者まで利用できる幅広さを持つことで有名だ。
勿論一流冒険者が使用する装備となればその金額は駆け出し冒険者が途方もなく努力をしても尚届かない逸品が並ぶが、そこから駆け出しとなると一気に安価なものになる。
これはヘファイストス・ファミリアの運営方針で、団員が専用の鍛冶場を用意され、駆け出しであっても最低限のラインさえ超えれば売りに出せるというシステムがあるからだ。
当然ベルもこの階層に用があった、ここに来るのは早くも二度目だがまず目を向けるのは以前【試作兎牙】あった場所。
「あ、これ・・・。」
斯くしてベルの期待を裏切らず【ヴェルフ・クロッゾ】の札がついた武具があった、しかも前回は試作兎牙のみだったが今回は自分が求めていた軽鎧、名前は【
さらに改良が済んだのか【
(よし、これも買おう!)
諸々含めてそこそこの値段だがリリとのダンジョン探索を繰り返したベルには軽々と買える値段だ、早速会計に向かうと一人の赤髪の男が会計の人に騒いでいた。
「なんでその時名前聞いてくれなかったんだよ!いや、名前聞いたとこでどうしようもないのはわかるが!滅多に来ない俺の客なんだぞ!」
「そうはいってもなぁ・・・。」
「まだ試作で出すかも迷ったが売りに出してみれば速攻で売れた!しかも気に入ったので買わせてもらいました、大事に使わせてもらいますね、ありがとうございますの伝言付き!?こっちこそありがとうだよ!」
「お、おう、よかったな?」
なにやら騒いでいるが、近づいて会計すべきなのだろうか?そう迷いつつ近づくベルに鎧などが出す金属音に気がついた二人がこちらに視線を向ける。
「はいいらっしゃ、っておいあんた。」
「ああ、悪かったな、今どく、っておいお前それ・・・。」
「はい?」
会計の人が向けるのはベルの顔、赤髪の男性が目を向けるのはベルが持ってきた鎧一式と兎牙。
「良かったなヴェルフ、その冒険者がお前の客だ。」
「・・・本当か?」
「あ、はい、もしかしてヴェルフ・クロッゾさんですか?この前はいい武器を買わせてもらいました、もう一度来たら鎧とナイフも売っていたので買いに来たんです。」
商品を持ったまま一礼するベル、ここらへんに彼の人柄と義親の教育の成果が出ているが、当の本人は一瞬動きを止めるとすぐに大笑いした。
「はぁーはっはっは!!いや、笑って悪かった!何せ求めていた客がそっちから来てくれたもんだから嬉しくてな!」
「は、はぁ・・・。」
その後会計を済ませると、ヴェルフに話を持ちかけられたベル、この後は夜まで予定がないので時間があるため了承した。
話を聞けば、ヴェルフは専属鍛冶師になってくれて、自分がランクアップするために協力しパーティを組んでくれる冒険者を探していた、だが自分の腕はまだまだで、売上に出す武具もあまり売れ行きが良いとは言えない状態だった、ちなみにベルは単に武具についた名前のせいではと思い至ったが彼のために言及は自重した。
それとヴェルフは自らの家名が嫌だと言ったため、ベルも呼び方をヴェルフと改めた。
「ヴェルフさんすみません、ミノタウロスと戦った時に試作兎牙を壊してしまって。」
「いや寧ろ魔法を通せるようにはできてなかったから、そこは謝らなくても大丈夫だ、それで、お前からの答えを聞きたいんだが、どうだ?」
「僕としてもパーティメンバーが増えるのは嬉しいので願ったりです、寧ろ僕からお願いしたいくらいですよ。」
「本当か!?」
今リリと続けていた探索方針ではどうしてもリリに危険が及ぶ、それを守る前衛が一人増えるだけでもありがたいとベルは喜んだ。
「ただ僕はまだ駆け出しなので上層の探索しかできないのでランクアップについては・・・。」
「なぁに、それくらい気にすんな!駆け出しなのは俺も一緒だ、それにベル・クラネルって言ったら今鍛冶師の間では有名だぜ?」
「そうなんですか?」
「おうよ、なんせレベル1でミノタウロスを討伐した期待株だからな、未契約とあればオラリオの新人鍛冶師なら是が非でも契約を結びたいと思うぜ?」
人の口に戸は立てられないとはよく聞くが、それほどまでに話が広がったのかと驚愕するベル。
「まあロキ・ファミリアがポカした話は有名だからな、それにつられて公表された話の関係上広がるのは時間の問題だったと思うぞ。」
何にせよ契約は完了だ、ベルとヴェルフは握手をすると明日からでもダンジョンに潜れるからいつでも呼んでくれとヴェルフと別れた。
「今日は嬉しいことがいっぱいだなぁ、新しい鎧も買えたし、新しいパーティーメンバーも増えた、思った以上の収穫だ。」
喜びのあまり笑顔を浮かべたまま街を歩くベル、その姿を見た某連中がやや不気味なものを見たり、若しくは美人の浮かべる笑顔に見とれてたりした。
「あ、お兄ちゃーん!」
「クミ!」
そこに手を振って走ってきたクミ、彼女も笑顔でなにか嬉しいことでもあったのだろうかと推測する。
「クミ聞いて!僕新しいパーティーメンバーが増えてその人が専属鍛冶師になってくれたんだ!しかもその人の作った鎧すごいんだよ!」
「お兄ちゃん喜んで!ヘスティア・ファミリアに新団員増えたよ!」
「「・・・え?」」
今日一日の外出で凄い収穫ではなかろうか?奇しくも兄妹の心境は一致した。
フライングヴェルフさん、兎鎧は前から売りに出されたのではと思い兎鎧もこのタイミングで追加。
話の展開上、次の話からオリキャラも挟んでいくため次話投稿されたら後出しで申し訳ないのですがタグに「オリキャラ多数」を追加します。