ヘスティア・ファミリアが大所帯になるのは間違っているだろうか 作:妹めいたなにか
再びのフライングイベント、過去にクミロミが天界に居たらという捏造設定がチラホラとあります。
誤字報告ありがとうございます。
豊穣の女主人での宴会から翌日、その日は新しく加入した三人はダンジョンに潜る準備とした。
アルスとクロードは元々ギルド登録をしていたが所属ファミリアを変えた申告を済ませ正式にヘスティア・ファミリアに所属を認められ、新たに冒険者登録を終えたブーケも同じくヘスティア・ファミリアに登録された。
その間ベルはリリとダンジョンに潜りつつ日課の稼ぎを行っていたがエイナからの許可もおりたので更に下の階層まで足を伸ばした。
人数が増えれば探索は楽になるだろう、だがそれに含めて予算も増えるのは誰だってわかる。
怪我人が出た際のポーション、
そしてそんなものを揃えるには当然お金は必要だ、そして冒険者がお金を稼ぐには当然ダンジョンでの収入を当てにしなくてはならない。
だからこそ、次の探索のための資金を前もって数をこなした探索の【貯金】で稼がなくてはならないのだ。
これが大規模な遠征任務となれば今行っている探索のための資金稼ぎすら霞むほどの大金が消えていく。
まさに自転車操業だ、人が増えれば増えた分一回での探索での出費は増えるのでそれ以上の成果を出さねばならない、だからこそ冒険者はダンジョンでのモンスターが落とす魔石やドロップアイテムはなるべく持ち帰りたい、稼ぎは1ヴァリスでも多いに越したことはないのだ。
(だと言うのに本当にこの人は・・・。)
自分の感覚がおかしくなる、リリは思わずそう零した。
「どうしたのリリ?」
「いえ、ベル様の桁外れの運に少し、嬉しさと同じくらい途方に暮れただけですので。」
「え、なんで!?」
「いくらなんでも可笑しいって話なんですよ!なんで倒したゴブリンやコボルトから魔石はともかくほぼ確実にドロップアイテムが落ちるんですか!?しかも質がいいのばっかりですし!」
おまけに見てくださいこれ!とベルに突き出したそれはウォーシャドウからドロップした爪なのだが、これは爪であってそうではない。
「上層でのドロップアイテムでもそこそこ高額な【ウォーシャドウの指刃】がこんなにポロポロ落ちてたら流石に怪しみますよ!何なんですかベル様の運は!」
しかもそのウォーシャドウも難なく倒していた、ミノタウロスも倒せる上に今となってはアビリティもオールSになっているため完全な見た目詐欺な実力をしているのだから笑えない。
感覚からして今の時間はいつもの時間の半分程度、にも関わらず既にリリの大きいパックパックはパンパンで、今は一度帰還して余った時間でもう一回行こうぜな勢いである、しかも当のベルは未だに疲れなど欠片もなく先程の蹂躙劇がまるで準備運動だったかのような健在ぶり。
「あはは、神様にステイタスの更新してもらってから体の感覚がちょっとずれててそれを直すために色々してたらこんなことに・・・。」
「理由になってないですし今までの蹂躙が準備運動!?ベル様は本当に何なんですか!」
「えっと、ミノタウロスを倒した普通の冒険者?」
「普通の定義がおかしくなりますからやめてください!」
うがぁ!とばかりに怒り散らすリリを尻目に苦笑いを零すベル、たしかに今は【目標】に比べれば僅かばかりの強くなった実感が身に染みる、先のミノタウロスとの戦いも今やれば苦戦ではなく、そこそこ楽に戦えるのだろう、だが、だがなのだ。
「こんなこと言ったらもっと可笑しいけど、僕を育ててくれた家族は僕よりもっと強くて、これだけ強くなってもまだ遠く感じるんだ。」
「はぁあ、そうでしょうね、一度ベル様のホームにお邪魔した時に見ましたよ、あれがヘラ・ファミリア幹部の【静寂】アルフィア様ですか。」
リリは自分がどれほど軽率なことをしたのか後悔してもしきれない、契約しているサポーターだからと、今まででは考えられない契約者への見舞い、そこに居たのは、暖かい印象を持つ女神と契約者によく似た少女、そして自らの契約者を正座という縛りで平伏させた【絶対者】。
そして彼女の閉じた目がこちらを向いた瞬間にわかった、「あ、この人に関わった瞬間自分終わった」と。
『ほう、お前がベルが自慢していたパルゥムのサポーターか、義息子が相当に世話になっているようだ、礼を言おう。』
『は、はひぃ!?いえいえいえいえいえいえいえ!?リリの方こそとてもベル様にお世話になっているので!?』
『そうか、義息子の見る目には信を置いているが、くれぐれも【よろしく】頼むぞ。』
神でもないのにこちらの心底を見透かされた気分だった、関係ないが客人という扱いだったためベルの妹らしき少女から出されたお茶が染み渡るくらい美味しかった。
(はぁ、逃げるにはもう遅いってことですかね・・・。)
直に【奴ら】が絡んでくる頃合いだろう、神酒に溺れた連中は金を稼ぐためならばどんな手段でも使ってくる、弱者たる自分から搾取するなど日常茶飯事だ。
(それに巻き込みたくないなんて、はは、お人好しさが感染っちゃいましたかねぇ。)
自嘲するように内心笑うリリ、以前の自分では考えられない考えだ、冒険者など誰も彼も乱暴でサポーターの自分など精々荷物持ちの囮程度にしか思っていないとリリの考えはずっとこれだった。
だと言うのに、そんな考えを目の前の少年は知ったことかと自分の心に堂々と入ってきた。
今日の探索を始めるときだってそうだ、快復して翌日に待ち合わせ場所で心配をかけたと平謝り、昨日休んだ分頑張るからとベルが奮起してこの
(地上に帰ったとしてもまだ日も昇りきってないはずです。)
今日の探索は6階層、にも関わらず、1~4階層の探索よりも明らかに早く一時切り上げることになった。
これはダンジョン探索において駆け出しを卒業した者たちなら周知の事実だ、1~4階層はまさに初心者向きの階層なのだ、湧き率も言うほどではなく、駆け出しが鍛錬をするにはうってつけの環境だ、だが、それは裏を返せばダンジョンの甘い罠、先にエイナも語ったように5階層以降に到達した駆け出しの冒険者を悪意の歓迎でダンジョンが迎えるのだ。
【新人殺し】の異名を持つウォーシャドウや7階層の【新米殺し】キラーアントもそうだが、モンスターの湧き率も一気に上る、4階層まで到達してもの足りぬという慢心をダンジョンは容赦なく刈り取りに来る。
故にこそギルドの担当アドバイザーは5階層の危険を周知させるように徹底している、まあそんなギルド職員の良心を踏みにじって医療ファミリアのお世話になる未熟者もいるのがオラリオの日常だ、寧ろそんな慢心をして生きて帰れたら運が良い方だろう。
にも関わらず、二度目の5階層でその湧きまくったモンスターを瞬殺&蹂躙でドロップアイテムの山を築き上げた眼の前の少年。
ギルドで換金を済ませれば案の定、そこには予想通りの高額換金、その額なんと30万ヴァリス。
その半額をお決まりのようにベルから手渡される、正直もうちょろまかす必要なんてないなこれと実は最初の1回以外やっていないリリは遠い目をしつつ待ち合わせ場所に向かっていた。
15万ヴァリスなどという高額な金を持っていれば間違いなくあの連中が絡んでくると予想したリリは隠し金庫に大半の金をしまい込むが、やはり予想通りに絡まれた。
「ですからこれが全てだと言っているではないですか!」
「嘘つきやがれ!知ってるんだぞてめえが最近稼ぎのいい冒険者とつるんでるってことくらいよぉ!」
ソーマ・ファミリアは腐敗していて神酒に溺れた連中が屯する無法地帯、団員が信仰しているのは神ソーマではなく彼が作り出す神酒。
それを手に取るには大幅な金額が必要で、ステイタスの更新にも大金がいるため、更新を申し出れば金を持っていると睨まれ同じ団員に狙われる。
「そんな冒険者とつるんでおいて稼ぎがこれだけなんてあるわけねえ!よこさねえなら・・・!」
慣れた暴力をただ受ける、力のない自分はこうやって自分より上の者からただ搾取されるだけ。
何故こんなふうに産まれてしまったのだろう、なんでこんな自分になってしまったのだろうとただ暴力に耐えるリリだったが、そんな彼女にも救いがある。
「やめろ!何をしているんだ!」
痛む体を起こして慣れ親しんだ声が聞こえたほうを見れば、やはり彼が居た、その後ろに知らぬ数人を連れて。
「ちぃ!」
姿を見られたらマズイと判断したのかとっさに逃げる男だが、その前に数人が素早い動きで回り込んだ。
「随分と陳腐な輩だ、自分は搾取する側だと疑わぬ阿呆の目をしている。」
「なに・・・っ!」
「どう見ても加害者はあなただ、ベル団長の仲間に手を上げたのなら我々の敵も同じ。」
「うるせえパルゥムごときが偉そうにしてんじゃねえ!」
リリの同族であろうパルゥムの少女が男の拳を避けて殴りかかる、リリとは違う、自分よりも早く、力強い一撃で男を殴り飛ばし、アマゾネスのような猫人が拘束した。
「てめ、離しやがれ!」
「やーだよ、あんたみたいに乱暴なやつ、ダイダロス通りにも溢れてたからねー。」
「メレンだろうがオラリオだろうがこういった輩はいるものですね。」
「憎まれっ子世に憚るとはよく言ったものだ、こういう輩はどこに行っても無くならんよ。」
瞬く間に無力化するとベルは真っ先にリリに駆け寄った。
「リリ!大丈夫!?」
「だいぶひどい傷を受けたな、少し染みるが我慢しろ、応急処置にはなる。」
エルフの男性がリリへとポーションを惜しみなく振りかける、瞬く間に傷がふさがり痛みも和らいでいく。
「ベル団長、こいつどうしますか?」
「ガネーシャ・ファミリアに突き出すのが一番手っ取り早いけど、その前にリリだよ。」
「ベル様・・・この方々は?」
「僕のファミリアに新しく入った団員だよ、皆冒険者登録が終わったからリリにも紹介しようと思って。」
「団長殿からリリ殿の話は聞いたが随分と過酷な環境に居たようだな、まあ所属がソーマ・ファミリアならば納得とも言える、あそこは色々と黒い話が絶えんからな。」
「クロード、ソーマ・ファミリアを知っているの?」
「これでもそこそこのファミリアに居たのでな、オラリオのファミリア情報関連はそこそこ頭にある。」
「だがその前にリリ殿の手当が先だ、余り目立ってソーマ・ファミリアの連中に見られれば面倒なことになる、フードを深く被っておけ。」
「あ、あの、リリは大丈夫で・・・。」
「気にしないでくださいリリさん、我々がそうしたいんですよ、ベル団長お願いできますか、我々が人目避けになるので。」
「わかった。」
「じゃあ私はこいつをガネーシャの人に渡してくるねー後で合流するからー。」
そうしてベル一行はリリを連れヘスティア・ファミリアに帰還する、ベルにおぶられてその中リリは思う。
(何故この人達はリリなんかにこんなにも優しいのでしょうか・・・。)
いっそ泣きたくなるほどの暖かさ、リリは今、ベルから伝わる背中の温もりを感じていた。
「なるほどね、ベル君の雇ったサポーターがそんな目にあっていたのかい。」
「同じ派閥同士での金の奪い合いか、随分と腑抜けた連中だな。」
「お金なんて頑張れば稼げるものなのにねー、リリお姉ちゃんこのポーション飲んで、骨にヒビが入っていても治るから。」
「あ、あの先ほどポーションをもらっているのでこれ以上は・・・。」
「遠慮するなリリ殿、先にアルスも言ったが団長殿の仲間であれば我々の仲間も同じだ。」
「はい、ベル団長の仲間であれば信も持てますし。」
「ただいまーガネーシャさんのところに突き出してきたよー。」
ヘスティア・ファミリアのホームで手厚い看護を受けたリリは、色々と堪えていたものが決壊した。
ソーマ・ファミリアでの苦境、脱退のために金が必要なこと、その金を稼ぐために駄目なのは理解していた上で少ないが悪事に手を出したこと。
本当は助けてほしい、泣いて助けを請いたい、だがそれではまた過去のように誰かに迷惑をかけてしまうとリリは思いの丈をぶちまけた。
ヘスティアがいるため嘘ではないことも事実だし、クロードの知る情報からも今のソーマ・ファミリアの腐敗ぶりは明らかだった。
ヘスティア・ファミリアは誰もがリリのことを否定しなかった、確かに悪事に手を染めたのは許せるものではないが、だからといってリリの境遇を見過ごすほどヘスティア・ファミリアは腐っていない。
「神様、お願いです、リリを助けられた時、リリをヘスティア・ファミリアに迎え入れていいですか?」
「仕方ないねベル君は、家族のお願いを聞けないほど、僕は器の小さい神じゃないぜ?」
「なんで、なんでリリなんかのためにここまでしてくれるんですか・・・リリにこんな価値なんてないのに・・・。」
「困っている女の子が居たら見過ごせない・・・ってのは建前なんだけど、リリだからかな、一緒にダンジョンで冒険して、リリが色々と辛い目にあっているのを知った、なら放っておけないよ。」
ベルは知っている、目の前のサポーターが自らの冒険にどれだけ貢献してくれているのかを、探索の際教えてもらった【縁下力持】のスキルやサポーターとしての能力、ダンジョンでの気配り、そんな優秀なサポーターとして自らを助けてくれた自分の仲間を見捨てるような真似は、ベル・クラネルには絶対にできない。
しかし未だ弱小ファミリアの枠を出ない自らに何ができると考える中、クミが口を開く。
「ソーマ様、ソーマ様って・・・。」
「どうしたんだいクミ君?」
「いえ、クミロミ様から下界に降りてきたソーマ様に会ったら言付けと届け物を頼まれてたんです。」
「クミロミから?」
「本人の前以外では言わないようにと言われていたんですが、届け物の準備は終わってますし、そろそろ会いに行こうかと思いまして、それに交渉次第で無償でリリお姉ちゃんがファミリアから脱退できるかもしれません、備え金は用意しておきますが。」
「クミさんの言うクミロミ様とはヘスティア様と同じ
「クミ君は特別でね、一柱だけだけど天界の神と交信できるのさ、それでクミ君はそのクミロミ信者ではあるけど、ヘスティア・ファミリアで問題はないし。」
「クミロミ様はこの命ある限り信仰する神様だけど、ヘスティア様は家族なんです、クミロミ様からも許可はもらってますよ。」
「いや、天界から神の声が聞こえるだけで相当なものだと思うのだが・・・。」
「細かいことは気にしなくていいよー、今はリリちゃんをなんとかしないとねー。」
色々と突っ込みどころがあるが話はまとまった、早速とばかりにクミは用意を済ませるとヘスティアに要請して人員を決める。
「行くのは私とお兄ちゃん、ヘスティア様とリリお姉ちゃんだね、数が多すぎるとあっちも警戒するし、もしソーマ様の団員が仕掛けてきても私が相手するから安心して。」
「ありがとうクミ君よろしく頼むよ。」
「後これは一応の備えとしてブーケお姉ちゃんにやってもらいたいことがあって・・・。」
「なにー?副団長さんのお願いなら聞くよー?」
夕方にソーマ・ファミリアを訪れればそこには人が屯していた、誰も彼もがソーマの作る神酒に溺れていた、あの味が忘れられない、あの感覚をもう一度味わいたい。
中毒ではないのだ、神酒の酒気は時間が経てば消える、ただ単純にその心地よき酔いに身を委ね、もう一度味わいたいと大金を持ちソーマ・ファミリアを訪れる。
恐れるべきは、この神酒はこれで失敗作だ、ならば完成した神酒はどれほどかとソーマ団員や顧客は血眼になって素材の金や神酒の購入費を稼ぐ、そこにどんな手段をも厭わぬという行動をもってだ。
リリは所属ファミリアのため中に入ることはできたがソーマと接触できるかはリリも不明だった、しかしクミのこの一言で容易に面会が叶った。
「ソーマ様に言付けを頼みたいのですが、【至高の葡萄酒や果実酒、米酒、これらの酒作りで難航した時デメテルのと同じくらいうちの作物アホみたいに使ったの、誰だっけ?】と。」
頭に疑問符を浮かべた門番の団員だが【握らされた】物もあるのでまあ言付けくらいはいいかと神ソーマのもとに向かった。
「クミ君それは。」
「乗り込んで暴れるよりは随分とマシな方法だと思いますよ。」
しかし賄賂はなぁ、と思わなくもないが、走ってきた先程の団員に直ぐに会いたいとのことだから来てほしい、と言われた。
(ソーマはクミロミに何やらかしたんだ・・・。)
若干不安を覚えたヘスティアだが騒動もなしに会えるのならば否はなし、そう言わんばかりに面会が叶った。
通された場所で待っていたのは緑髪の男に黒髪の男、近くに酒造りの道具があるのを見るに黒髪の男のほうがソーマなのだろうとベルは思った。
「ようこそヘスティア・ファミリアの方々、何でも交渉事があるとかで?」
言葉は丁寧だが、明らかな不機嫌も貼り付けているのはソーマファミリアの団長ザニスだ、無理もないだろうあの趣味の酒造り以外関心のないソーマがやや冷や汗を流したように交渉相手を招けというものだから、何があるのかと警戒している。
それに歩み出るのはベル・クラネル、打ち合わせ通りに動かねばと緊張しているが決して顔には出さないようにと団長としての気概を見せる。
「交渉があってきました、ソーマ・ファミリアの所属リリルカ・アーデをヘスティア・ファミリアに
「アーデを?」
ザニスはリリを一瞥し一つ鼻を鳴らすとその顔を醜悪に歪ませる。
「それは構いませんが我々ソーマ・ファミリアは脱退するのにも資金が必要でして、その額は1000万ヴァリスです?払えますか?」
(ッこの人は!!!)
リリは改めて辟易とする、大規模ファミリアとてこのような所業はしないだろう、自らの団長は金に汚く悪事に手を染めるのにもなんの躊躇もない。
この無法状態のファミリアを最も歓迎しているのは誰よりもやりたい放題ができるこの男だからだ、だがそれに歩み出るのはクミだ。
「即金は用意できませんが、【1000万ヴァリス以上の価値の出る素材】なら如何ですか?」
「・・・何?」
クミが荷物より取り出したのは【作物や果実】だがそれに最も反応したのはソーマだった。
「これを素材にしてお酒を作れば、物好きな神ならば1000万なんて簡単に稼げますよ。」
「それは・・・そうか、お前がクミロミの縁者か。」
「はじめまして、神ソーマ様、お話はクミロミ様より良く聞いております。」
「そうか・・・ならお前の俺への印象はあまり良くなさそうだ。」
(なっ!?)
それに驚いたのはザニスだ、酒造りにしか関心を示さぬ己が主神が動いた、目の前の少女に警戒度が一気に上るもなんとか顔に出さずに済む。
「ソーマ様、地上での酒造りに難航しているそうですね、やはり材料もあるでしょうが何よりも、モチベーションが足りない、そうでしょう?」
「そうだな、地上の子どもはこの失敗作の酒に簡単に酔う、そんな子どもたちに何を見出し、どう耳を傾ければいい。」
「ふざけるな!」
ソーマの言葉に誰よりも激怒したのはヘスティアだ、彼女はリリからの話を聞いてずっと溜め込んでいた不満が爆発した。
「たしかに君の神酒はそういう魔性の魅力がある!だがそれは君が勝手に失望しているだけだ!」
ヘスティアはベルとクミを交互に見る、そこにあるのは信頼と慈愛、自らの家族になった二人に主神は揺るぎない信頼を見せる。
「金が必要だというのなら払おう、この二人に神酒を飲ませてみせるといいさ!」
「ヘスティア様いけません!?」
「ほう?」
それに口に弧を描くのはザニスだ、それならば構わない、ただ顧客が増えるだけだと内心嘲った。
「いいだろう、これを飲んで尚意見が変わらぬならば、お前たちの願いを聞こう。」
「・・・!」
「はい、いただきますソーマ様。」
ベル兄妹の前に差し出された失敗作の神酒、クミは平然と神酒を煽り、ベルもまた意を決して神酒を煽る。
その時ベルに襲い来るのはいっそ暴力的なまでの甘美な衝撃、自らの語彙では到底表しきれぬほどの味わいだった。
(こ、これが神酒!?)
なるほどとベルは陶酔しそうになる、これなら何度でも飲みたくなるだろう、必要なら金だって払いたくなるだろう。
(だけど、だけど・・・!)
それでも尚、ベルは揺るがない、ずっと抱いている誓いがある、それを蔑ろにしてまでこれは飲みたいものなのか?
(・・・違う!)
こんな物に酔っている場合ではない!
あの日の誓いを叶えたいならば!
助けてほしいと願った彼女を助けたいならば!
ここで踏ん張らずいつ踏ん張る!
「お願いしますッ・・・ソーマ様っ・・・リリの改宗を認めてください!」
「・・・ぷぅ、美味しいですけど、やっぱり酔いが強めですねこれ、これで結構味を損なってますよソーマ様。」
必死に食いしばって懇願したベルと違いクミは平然と飲み干した。
「な、なんだと!?」
当然ザニスは驚いた、自らの思惑と違い確固たる意志で神酒に抗った、剰えもう片方は平然としているのだ、これに驚かずになんとする。
「・・・そうか、俺が勝手に失望していただけか、そうかもしれんな。」
それを見たソーマも認める、目の前の二人は神酒に酔わず自分を貫いた、ならば間違っていたのは自分だろう。
それを見たリリもザニスと同じく驚愕する、自分のためにベルは神酒に抗った、このまま行けばソーマの言う通り願いは叶うのだろう。
だがそれでいいのか?
このままで、本当にいいのか?
恩人たちにおんぶにだっこ、そんな様で踏み出したと言えるのか?
「リリ君、君のやりたいようにやるといい、家族になるかもしれない君に僕は協力は惜しまないよ。」
「ヘスティア様・・・ソーマ様、お願いします!リリからもお願いをさせてください!ヘスティア・ファミリアに改宗をさせてください!」
「ソーマ、君の流儀に倣うなら、彼女の分も僕が払うかい?」
「いや、構わない、俺の勝手な失望で辛い目に合わせてしまったアーデに惜しむほど、まだ俺はそこまで腐っては居ない。」
そしてリリにも差し出される神酒、今見ても過去を思い出し震える、しかし踏み出すと決めたのだ、自分を家族に迎え入れたいと言ってくれた暖かい人達に自分だって報いたい。
その一心で神酒を煽った。
一気に全身に駆け巡る酔い、色々と投げ出してこの酔いに身を委ねたい、そんな甘えをここで断ち切る時だ。
「ソーマ様、お願いします、どうかリリのファミリア脱退を認めてください・・・!」
「そうか・・・わかった、アーデの脱退と改宗を認めよう、それからすまなかったな、アーデ。」
リリに手を差し出し謝罪するソーマ、自分が勝手に失望して、様々な人に迷惑をかけた、自分の犯した罪に向かい合い償わなくてはならない、だがソーマは不思議と霞が晴れた気分だった。
「ベル様・・・こんなリリですが、改めてお願いします・・・。」
「喜んで、歓迎するよリリ・・・。」
「ではソーマ様、それで契約は完了ですね、クミロミ様からも定期的に作物は卸していいとのことでしたので、材料が切れたら申し付けてください、クミロミ様の商売相手には協力は惜しみませんよ。」
「ああ、助かる、だが暫く神酒は作れそうにないな。」
(馬鹿な!馬鹿な馬鹿な馬鹿な!?)
話が纏まる中、煮えたぎるような感情を包み隠すザニスを、一人、冷たい目で見つめていた。
その日の夜、ヘスティア・ファミリアが去った後、ソーマ・ファミリアから数人の人間が出立した、その目的は・・・。
「いいかカヌゥ、どんな手を使っても構わん、魔剣も用意する、アーデの奪還とヘスティア・ファミリアに痛撃を与えろ、二度とこちらに手を出さんように徹底的に痛めつけろ。」
「へへ、任せてくださいよザニスの旦那、その代わり報酬は期待してますぜ?」
闇夜に紛れて行動を起こすのはザニスとその取り巻きであるカヌゥ達数人。
「奴らに与えるものなど何一つない、アーデに関してもこの際手土産代わりに貰い受ける。」
リリが別の派閥に行き、万一悪事を告発でもされたら一番困るのはザニスだ。
自らが染めた悪事の数をザニスとて知っている、ギルドは金に汚い上の連中に握らせるものを握らせれば黙らせられるが、
最早ソーマ・ファミリアに留まるのは自分の身が危険だ。
故に例の伝を頼りにザニスはソーマ・ファミリアを捨て、闇の中に消えようとしていた。
だが・・・。
「ちぃっ・・・それにしても雨が降ってきたな、いや、事を起こすには雨は好機か、半端な音は消してくれる。」
違和感を探ればいくらでもあった、雨が降ってきたの以外にも、寝静まった時間にしては、静かすぎる事、街灯や明かりが一つとして点いていないこと。
「ザニスの旦那、なんか聞こえやせんか?」
「なに?」
「こう、馬の歩く蹄のような音が・・・この時間にタクシーってやってましたっけ?」
確かに雨音に紛れて聞こえなかったが、夜の街に響く重く、重量感のある蹄の音。
「なんだ、この音はタクシーではない。」
やがてザニス達の視界に現れたのは雨中の夜の街にしてははっきりと見えるシルエット。
「・・・ヒィ!?」
思わず悲鳴が漏れる、あれは馬などではない、たしかに四足だ、蹄もある、だが・・・。
「馬の首の上が人体になっている・・・モンスター!?」
伝承で言うなら正しく【ケンタウロス】のそれは巨大な大斧を持ちザニス達に真っ直ぐと接近してくる。
当然、迎え撃つなり逃げ出すなりできたはずだが、唐突にザニス達に襲う不可思議。
「【鈍足】」
「あ、足が動かん・・・なんだこれは!?」
あの目に睨まれた時、その場に足が縫い付けられたかのような異常が襲う。
「か、カヌゥ!何をしている!魔剣だ!やつに向かって魔剣を・・・!」
だがその声がカヌゥには届かなかった、黒い影が刹那過ぎた後には、カヌゥの首は胴から離れていた。
「な、なぁ・・・!?」
(ガネーシャ・ファミリアは何をしている!?アストレア・ファミリアだってそうだ!これほどのモンスターが街中を堂々と闊歩しているにも関わらず何故誰も動かない!?)
普段の悪事を棚に上げ、秩序の面々が動いていないことに憤るザニスだが。
「罪を贖え・・・。」
「・・・ッ!」
ケンタウロスらしきモンスターはザニスに語りかける、呪いのような響きを持った男の声色はザニスの魂にすら響くような重さでのしかかる。
「搾取した罪を・・・欲に狂った罪を・・・罪無き人を傷つけた罪を・・・贖え!」
「まて・・・!?」
大斧が振りかざされた時ザニスの視界は暗転する。
冷たい雨が降りしきる中、物言わぬ骸がオラリオの夜中に転がっていた。
「まぁ、これくらいが丁度いいかな?」
それを屋根の上から見下ろしているのはクミ、見下ろしているのは【気絶】したザニスたち。
「やっぱり軽い【幻惑】でもこれくらいのことはできちゃうか、幻惑に惑わせて殺すっていうのはやりすぎだから気をつけないとね。」
クミのしたことはノースティリスではありふれたこと、ただ幻惑付加の魔法でザニスたちを惑わした。
「やっぱり悪人には【正義の断罪者】の幻惑が一番効くよね。」
クミの見せた幻惑のケンタウロスはノースティリスで暇つぶしに
ノースティリスで交易品を運んでいる時に襲ってくる泣く子も黙る盗賊団。
そんな連中を相手取り、逆に連中を刈り取る正義の断罪者としてノースティリスで勇名を馳せるカオスシェイプの男冒険者。
カオスシェイプは成長するにつれて自らの体の部位を増やすことができる。
ちなみに蹄は部位として増えないが、彼の場合はエーテル病で無理やり生やしたらしい、こだわりが強すぎる。
中には盾を10枚以上持ち無敵を誇るものも居たが、その男は自らの部位を意図的にケンタウロスのように増やし、大斧を得物にノースティリスで暴れまわった。
そんな彼も家に帰れば妻の居る2児の父なのだからノースティリスの混沌ぶりが伺える。
「後は予め通報したガネーシャ・ファミリアに任せよっと、あれだけ脅せば、暫く悪さなんてできないでしょ。」
泡を吹いて倒れるザニスたちを尻目にホームに帰還するクミ。
(神に嘘は通じないって言っても、ケンタウロスを見たなんて証言、悪事で捕まって気が狂っておかしなことを言っているってしか見做されないだろうなぁ。)
今オラリオには【雨は降っていない】し【街灯も消えていない】、そこで見た【大斧を持ったケンタウロス】、目を覚まそうとも、彼らは自分の証言を真実として認めてもらえるだろうか?
(あ、でも闇派閥なんて存在もいるし、それ関連かもしれないって無駄に警戒されるかもしれないけど、大丈夫かな・・・?)
もしかしなくても黒龍以来で軽率にやらかしたかもしれない、家に帰るクミは珍しく冷や汗をかいた。
Elonaらしさを出したいと思ったらオリキャラカオスシェイプ挟むしかなかった。
そして例の連中がいるのを知らないクミ、盛大にやらかしてます