「到着した、はいいんだが......」
全速力で自転車を漕いで数十分。
噂の虹ヶ咲学園の正門前にやって来た。迷わず、躊躇いもなくやって来たのはいいんだが最大の難関を目の前に身震いしてしまった。
「女子高、なんだよな」
そう。女子高。女子高生の女子高生による女子高生のための学校の園。
そして異分子、俺。
入って捕まる未来しか見えないのだが。
しかし、確認したいことは山ほどある。それこそ、大学受験よりそれだけは優先しておきたかった。
「すぅー、はぁー」
大きく深呼吸、そして昔のことを思い出す。
それは俺が何か大事なことをする前に必ず行うルーティーンのようなもの。
「俺は
自分に自信を持つことが大事だ。
そうして今まで乗り越えてきたのだから。
意を決して校舎内に足を踏み入れる。
───瞬間。
「そこのお兄さん!!ここは女子高ですよ!!」
「ああああごめんなさいごめんなさい俺が悪かったですわけがあるので話を聞いてから逮捕してください!!!」
後ろからの伏兵の声に瞬時に反応し、振り返りながら後退りし、ついでに平謝りする。
「ごめんなさい不審者に見えるかもしれませんが訳あってここに来ました話を聞いて下さい!!」
オタク特有の早口をまくしたてる。
多分俺に声をかけたのは女の子。多分ここの学生、だと思う。顔はまだ見てないけど見たら殺される気がする。
「......一度、顔を上げてもらってもいいですか」
「...話を、聞いてください」
女の子の言う通り、静かに警戒しながら顔を上げる。
黒髪をおさげに結って、細くて白いフレームの眼鏡をつけている、いかにも真面目な女子生徒がそこにいた。
身長はそれほど高くないけれど、雰囲気は3年生...いや、2年生のようで女子高生であることに
「.....ここは女子高であることはご存じですか?」
「はい」
「知っていて、何故ここに来たのですか?」
「ええと、それはぁ...」
そりゃ理由聞かれますよねぇ。
正直に話してよいことなのか、それともぼやかして伝えるべきか悩む。
───ふと、あることに気が付いた。
「というかお姉さん」
「はい?」
「......
俺の質問から数秒くらい空白があった。
ぼっと
「き、ききき気のせいではないでしょうか!!私は虹ヶ咲学園の生徒会長
「......」
本当に気のせいだろうか。
雰囲気は違えど、声とかしぐさとかネットで見た彼女そのもののような気がしてならない。
「俺、
「っ!!??」
彼女の楽曲の一つを挙げた途端、赤い顔がさらに赤くなった。
まるで成長するトマトのようにそれはもう真っ赤に熟し始めていた。
「この前の駅前でやってたストリートライブも目の前で観てましたよ」
「貴方目の前にいたのですか!?!?!?!?!」
「......」
「...あ、いや」
ごめんなさい。
ボロを出させてしまって本当に申し訳ない。
まさか優木せつ菜が別名義だとは思わないじゃないですか。どっちが本名なのか知りませんけどさ。
「...この事をバラすのですか?」
「バラすって。俺は貴方が中川さんだろうと優木さんだろうとどっちでもいいです。俺は今日目的があって来たので」
「目的ですか?」
「
「.....」
一瞬、彼女の表情に陰りが見えたような気がした。だけどそう思った時には既に先程までの凛とした顔に戻っていて。
「.....ある人物、と言いますと?」
「.......」
当然彼女はそう質問する。
「──
「彼女とはどのようなご関係で?」
「ただの一ファンって名乗ったら追い出します?」
優木せつ菜...いや、中川菜々はうんともすんとも言わずにただ黙って俺の顔を見据える。生徒会長と名乗るだけあって見定めるような雰囲気に貫禄があって、身震いしてしまう。
「少なくとも邪な気持ちで来たわけでは無さそうですね」
「わかってもらえて?」
「えぇ、ですが残念ながら彼女は今何しているかはわかりませんので、校舎内にいるかどうかは...」
「それはどういう事だ?同好会の活動は?」
一応週刊誌には毎日やってるって書いてあった。
だからこそ今日会えると確信して自転車をとばしてきたわけなんだが。視線を下ろして静かにため息をついた彼女の心情が読み取れない。
「同好会は.....
「.....は?」
「正確には、
「な、なんで」
「それこそ貴方が知る必要はありません」
バッサリと切り捨てられた。
何故そうも非情な言い方ができるのか俺にはわからない。貴女だって同好会の一員であろうに.....
「...彼女は、桜坂しずくはどうなったんですか」
「書類上では、演劇部に所属しているはずです。そちらを回ってみてはいかがでしょうか」
「今日やってるのでしたら、俺はここで待ってます」
それだけ言って、正門に寄り掛かる。
優木せつ菜は中川菜々だった、中川菜々は虹ヶ咲学園の生徒会長...そして、その生徒会長がスクールアイドル同好会を解散させた。
「(なんの為に?)」
たった一人の少女を知るが為にスクールアイドルという夢の形にある闇に触れてしまったような気がして、胸の奥がザワザワと落ち着かない。
「詳しく聞こうとはしないのですね」
「部外者っていう自覚くらいはありますよ」
部外者...なんて虚無な言葉だろうか。
部外者だから口出しできない、意見さえ通らない。
「(アイツ...アイツの意見が知りたい)」
ただ雑誌を見て行方を知っただけど元隣の住民。
だけどその小さな付き合いがあったからこそ、ちょっとだけ心配な気持ちが湧いてくる。
「大丈夫です。俺は校舎内に入りませんし悪さをする気はありませんから。仕事?の邪魔して申し訳なかった」
「...名前」
「名前?」
「伺ってませんでしまから」
そう言えば彼女の一方的な名前を知ってただけで、名乗ってなかったことに気づく。
「俺は...立島向陽。ご覧の通り一般ピーポーさ」
「立島くんね。覚えておくわ」
「あ、スルーですか」
「じゃあ...またどこかで」
それだけ言って中川菜々は校舎内に入っていく。
静かになった正門前で俺はただ1人、空を見上げながら大きくため息を着く。
「...部外者、かぁ」
自分で言っておきながら、味わう虚しさと来たら。
ふと、
「我慢...俺は前の俺とは違う」
あんなクソッタレな毎日はもう二度と送りたくない。
「俺は普通の日常に戻れたんだ...こんなしょうもない疼きくらい屁でもない」
ムズムズした気分を押し込めるように、
──第1話 片鱗