Vtuberフランドール・スカーレット   作:ピュレルーズンガル

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テストプレイヤー

 それは偶然の出会いだった。

 高僧の娘だとかいう割には暴力に頼っている気がしなくもない高等部の風紀委員長から「徳を積みなさい」と言われて絶対に風紀委員の仕事ではない面倒な雑務を押し付けられた―――押し付けた本人は任せたとか思っていそうだが―――のを終わらせた帰りのことだ。

 最初は知り合いの風紀委員たちを邪魔してやろうと嫌がらせをしていたのに、今ではその風紀委員の末席に属している自分に不満を覚えつつも、しかし反対に今の自分にどこか満足しているという矛盾を抱えている私―――夜鳥空は下校するべく生徒玄関を目指して廊下を歩いていた。別に下校を急ぐ用事もなかったので、廊下の窓から校庭で部活に勤しんでいる運動部の生徒を歩きながら眺めていたのだが―――

 

「だぁー!クリアできねぇー!」

 

 ―――突如、知っている人間の声が廊下に響いた。

 知り合いとも言えない一方的に知っている人間の声の方へと視線を向けるが、廊下にそれらしき人影はない。聞こえた感じでは声の発生源は割と自分に近い位置で発せられたはずなので、どうやら先程の声は廊下の壁を隔てた向こう側にある教室の中―――コンピューター室から発せられた声らしい。少し興味が湧いてコンピューター室のドアをスライドさせると、冷たい空気が彼女の全身を通過して後ろの廊下へと吹き抜けていった。

 暑い季節なのに廊下側に面している窓やドアを閉めている時点で気付くべきだったかもしれないが、冷房が効いていたらしい。冷気が煩わしく感じていた暑さを攫っていく。浄化されるようで気持ちいいが、ドアを開けっ放しのままにはしておけないので、すぐに冷たい空気が教室の外へと逃げないようにドアを閉める。

 

「貴女、思ってたよりシューティングが下手ね」

 

「別に無敵モードで一回通してるから大丈夫だよ?」

 

「うるさいな、これから成長するんだよ。それに無敵モードのときは発生しないバグがあるかもだろ」

 

「少なくとも被弾時やコンテは問題なさそうね」

 

 教室の中を見渡すと一つのパソコンに椅子を寄せ合って騒いでいる三人が見つかった。先程聞こえてきた会話と後ろ姿からして廊下まで響いてきた声の主は寄せあっている三脚ある椅子の真ん中に座っている他の二人と比べて背が高い金髪の少女だろう。彼女たちはパソコンの画面に夢中なようで自身の入室には気付いていないらしく、視線がドアの方へ向く気配がまるでない。

 先程から聞こえてきている音楽や効果音もドアのスライド音が聞こえるのを邪魔したのかもしれない。

 そろりと覗き見るように近づくと、彼女たちが夢中になっているものが段々と見えてきた。

 

「ゲーム?」

 

 どうやらプレイしているゲームのジャンルはシューティングのようで、パソコンの画面に表示されているのは上から下へと流れる背景と敵らしき存在が色とりどりの鮮やかな弾を放ち、それをプレイヤーが操作するであろう一人の箒に跨った黒い魔女らしきキャラクターが当たらないように回避しながらも敵を倒していく姿だった。

 彼女の呟きにビクッと金髪の二人が驚きで肩を上げて勢いよく振り向き、青みが強い銀髪の生徒はどこかで気付いていたのか特に驚いた様子はないまま振り向いて、ただ要件を問いかけるように彼女の顔を見る。

 

「あ、先輩。画面!画面!」

 

「うわ、やっちまった!」

 

 しかし操作していたのであろう少女がパソコンの画面から少し目を離したため、あっさりと魔女っぽいキャラクターはピチュンといった感じの音を立てながら消え、同時に赤いモノを周りにばら撒いた。すぐに操作キャラは復活したがゲームを続けるつもりはないらしく、ゲーム画面がポーズ画面へと切り換わる。

 

「いやー、邪魔しちゃってごめん。廊下まで声が響いてきたから気になっちゃってさ」

 

「あー、悪い」

 

「いいよ、いいよ。別に気にしてな・・・ません?まぁいいや・・・・・・それより、そのゲーム何?」

 

 この場所へやってきた理由を話すと声の主である有名人な金髪の少女―――霧雨理沙は微妙に気まずそうな顔で謝ってきた。特に先程の叫びで気分を害したわけではないし、このまま微妙な空気になるのは嫌なので、さっさと理沙先輩が先程プレイしていたゲームに話題を変える。敬語を使うべきか迷った私を見てか、理沙先輩は「敬語は気にしなくていいぞ」と気を利かせてくれた。

 そして軽い自己紹介を挟んでから本筋である先程のゲームの話を聞く内に驚いたことが幾つかあった。

 一つ目は双子だと思っていた姉妹が普通に年齢差があり、姉のリミーリアが自分より先輩だったこと。姉妹の身長は大して変わらなかったので驚いたし、妹の方が先に自己紹介したので尚更驚いた。

 風紀委員ではないのに度々だが風紀委員会室に図々しくも乗り込んでくる珍しいというか変人である霧雨理沙という先輩は他の風紀委員からも話題に出されるので知っていたが、風紀委員になる前の自分は学校をサボって街でバイトに励んだり遊んだりしている不良だったため、学園には余り詳しくなかった。更に元不良かつ風紀委員会―――というより風紀委員長である暴力僧侶の陣営に属しているので、他の生徒から避けられることが多く、交友関係などが全く広がらないし築けない。だから部活動としてゲーム制作をしていることも私は把握していなかった。

 二つ目は先程プレイしていたゲームが自主制作であり、この小学校中学年にしか見えない姉妹の二人だけで作ったことだ。しかも立ち絵だけでなくBGMとかまでもが自作らしく、そこまで自作できるものなのかと驚いた。

 三つ目はこの作品を冬のコミケを機に販売することだ。学校が金儲けを推奨するのは驚いたが、全て部費に当てられるので彼女たちの懐には一円も入らないからセーフらしい。ちなみにネット販売も学校側が受け持つらしく、やはり彼女たちには一円も入らないようだ。

 

「よくやってられるわね、貴女たち」

 

 どうやら最初から彼女たちに金を稼ぐ気は微塵もないらしい。金も貰えないのに情熱をそこまで注げるのは感嘆する。

 私なら絶対にできない。

 

「だって趣味でしかないし、私たちの家―――というかお母さんの実家からのお金がいっぱいあるし」

 

 ・・・忘れていたが、ここは金持ちが多い学校だった。

 私の親も金持ちではあるのだが、親とギクシャクしているので余り親と関わりたくはないし、親の金も当てにはできないので、その思考が頭から抜けていた。

 

「お前だって金にもならない手伝いをしてるだろ」

 

「風紀委員長に押し付けられたのよ。しかもサボったら説教と拳骨の制裁が待ってるし」

 

 あのクソ長くて眠い説教とクソ痛い拳骨は流石に勘弁願いたい。

 説教中に眠ったら拳骨で叩き起こされて長い説教が更に長くなったのは悪夢だった。

 

「あら、だったら学校に行かないという発想はなかったの?貴方って元は不良なんだから学校をサボることに躊躇いは大してないでしょう?」

 

「いや~、アレは家まで追ってくるよ」

 

 そんなことをしても絶対に彼女は自身の家までやってくる。彼女が家に赴く程度で面倒なんて思うわけがないし。

 

「何回も門前払いすれば諦め―――」

 

「―――それはない」

 

 理沙先輩の言葉を思わず遮ってしまった。

 だけどアレが何千回、何万回も門前払いしたところで諦めない確信がある。というか門前払いをしても暗くなるまで門前に居座りそうな気さえする。

 あの聖人は人を―――いや命というものを見捨てることは絶対にしない。

 

「・・・・・・やっぱ、お前も風紀委員だな」

 

 理沙先輩は呆れるように苦笑していた。

 他の風紀委員ほど私は彼女に入れ込んでるつもりはないが、それでも入れ込んでいる自覚はある。

 あの日―――邪魔していた風紀委員たちから彼女が親と進学先で争っていることを知ったとき、親の締め付けに嫌気が差して不良になった自分と少し重ねてしまった。それと同時に彼女の助けになろうとした風紀委員たちの邪魔をしてしまったのを後悔した。

 間接的にではあるが彼女の親の締め付けに加担してしまったのだ。それは私が自分の両親と同じような人間になったかのように思えてしまって怖かった。だから私は騒動の決着が着いた後、すぐに風紀委員たちと彼女に謝ったのだ。

 そして彼女はあっさりと私を許した。

 風紀委員たちも怒りを収める時間差こそあったものの、彼女が許すならと賛同していった。

 

(まぁ、惚れた弱みみたいなものか)

 

 文句を言いつつも私が結局手伝っているのはそういう面もあるのだろう。

 彼女が私を許したあの瞬間、私には彼女が眩しいぐらい輝いて見えた。それは別に彼女から許しを貰えた嬉しさからではなく、自分と同じように親に縛られながらも、自分とはまるで違う結果―――生き方をする彼女の尊敬からだ。

 あのとき私は理想の人というものを見たのだ。

 

「別に風紀委員会は何も怪しいことはしてないよーだ。勧誘もしてないし、徳だって積みまくってるじゃない」

 

 現状だと風紀委員会は風紀委員長のファンクラブのようなものでしかないので、そんな怪しい組織のような発言はしないでほしい。それが新興宗教と大して変わらないような組織体系だとしても。

 私の発言で理沙先輩の呆れるような苦笑が消えることはなかったが、反論も飛んでこなかった。言っても無駄だと思っているだけかもしれないが。

 

「それよりさ!そのゲーム、私にもプレイさせてくれないかな?」

 

「・・・・・・いいんじゃない?感想とか聞いてみたいし」

 

「構わないと思うわ」

 

「風紀委員会の仕事はいいのか?」

 

「押し付けられた仕事は終わったし、風紀委員としてはこのゲームに問題がないかチェックしないとね」

 

 制作者の姉妹から認可を得たので適当に近くの椅子を確保してガラガラと引っ張ってくる。理沙先輩が椅子から立ち上がって貰う手もあったことを行動した後に気が付いたが、そこまで気を使われると話し辛くなって困りそうなので、これで良かったのかもしれない。

 既に理沙先輩がパソコンの前から椅子ごと移動していたので、グッと体と椅子をパソコンに近づける。

 

「まだ他の難易度は六面まで完成してないから難易度はノーマルしか選べないようになってるわ。あとクリアしたらエクストラステージが解放されるけど、そっちもまだ完成してないからプレイできないわ」

 

「へぇー、ていうかキャラ選択とかあるんだ。しかもモデルが怜先輩と理沙先輩じゃん」

 

 どうやら動かせるキャラは黒い魔女一人だけではなかったようで、動かせるキャラを二人の内どちらかを選択できるらしい。紅白の巫女みたいなキャラと黒い魔女みたいなキャラ―――怜先輩と理沙先輩がモデルであろうキャラは、見比べると移動速度や攻撃範囲などが違うらしいが、ぶっちゃけスクロール型のシューティング初心者である私にはまるでピンとこない。

 なのでオススメを聞くことにした。

 

「初心者なら霊夢がいいよ。あと御札はホーミングって入ってる方を選んでね」

 

 後半のフレンちゃんの言葉には首を傾げたが、紅白巫女の霊夢を選択すると疑問はすぐに氷解した。どうやらキャラ選択で終わりではないらしく、今度は御札を二種類の中から選択するように求めてきた。

 しかし先程のキャラ選択はキャラの特徴が星の数で表されていたが、御札に書かれているのは技の名称っぽい文字列だけで具体的な性能は一切書かれていない。ホーミングアミュレットはどういう性能なのかなんとなくホーミングの単語から想像できるが、他はパッと見ても名称からは性能が想像しにくい。

 

「この選択って魔理沙って方にもあるの?」

 

「あるよ。霊夢と同じ二種類」

 

 ふと湧いた疑問だったが、魔理沙の方にも御札の選択―――いやキャラの選択画面では魔法使いと出ていたから御札ではなく魔法の選択とかだろうか―――があるらしい。私は「へぇ~」と相槌を打ちながらゲームを開始した。

 

 

 

 

 

「あぁー⁉やられたー!」

 

 なんとか粘っていたが、遂に時を止めてくるトリッキーなメイドの攻撃に振り回された私は、操作していたキャラ―――霊夢がピチュンという被弾音を立てた。すぐにコンテニューの選択画面が表示されるが、このままコンテニューすると負けた気分になるのでコンテニューしないことを選択するとリザルト画面に移行した。

 

「五面の中盤までノーコンでいけたのは普通に凄いと思うよ、しかも初回プレイだし」

 

「ボムを無駄撃ちしたり抱え落ちしたりしてなきゃ普通に六面ボスまではいけてたな」

 

 それを言われると辛い。

 序盤も序盤にボムの説明があったときお試しとして雑魚敵相手に使ったのだが、つい気持ちよくなってしまって少しの間だけ雑魚敵が増えた瞬間を見計らってボムを連発して無双してしまったのだ。そして無駄遣いをしてると後半が辛くなると言われたので使うのを渋っていたのだが、使わなさ過ぎて三面で普通にボムを二つほど抱え落ちしてしまった。

 

「シューティングが初めてにしては避けてたから、あと十数回もやれば確実にクリアできそうね」

 

「こういうタイプのシューティングは初めてだけどゲーセンでガンシューティングは結構やり込んでたから、反射神経には結構自信があるのよねぇ」

 

「気合避けが割と多いのもあるかもね」

 

「気合避け?」

 

 フレンちゃんの言う謎の単語に私は疑問符を頭に思い浮かべてしまうが、すぐにリミーリア先輩が「地力が試される弾幕のことよ」とざっくりとした説明をしてくれた。大体の弾幕は多かれ少なかれ気合避けの要素が混じるようで明確に定義されているものではないらしいのだが、このゲームは特にランダム要素が強い攻撃をしてくるボスが多いらしい。

 たしかに戦ってきたボスからは法則性を強く感じられる攻撃は少なかった印象がある。

 しかし最終ステージである六面まで到達できなかったのは悔しい。再度プレイしてもいいかと、彼女たちに許可を取ろうと思ったとき、胸ポケットに入れていたスマホから無料通話アプリの通知音が鳴った。

 私は「ごめん、私の」と一言謝ってから胸ポケットからスマホを取り出して誰からの通知なのか画面を覗いてみると、明日の風紀委員の活動予定が風紀委員のグループに送られていた。送られてきた予定に軽く目を通すと、どうやら明日は休日だというのに早朝からゴミ拾いのボランティアをやるらしい。

 寝坊して朝っぱらから彼女の有り難い説教を受けたくはないので、さっさと家に帰って明日の準備をして寝ることにしよう。このゲームのリベンジは残念ながら次の機会だ。

 

「ごめん、明日の予定が早朝から入っちゃったから準備もあるし帰るね」

 

 私は急いで彼女たちに小さく手を振って荷物を取りに行くためにコンピューター室から廊下へと出る。嫌な暑さが全身を包むが気にせず、冷気を逃さないように素早くドアを閉める。走ると後で説教を受けることになるかもしれないので、走っていると判定されないギリギリの速度で歩く。

 すると私が下へ降りる階段に辿り着く前に後ろからガラガラと勢いよく教室のドアがスライドする音が聞こえ―――

 

「ねぇー!!、ゲームどうだったー!!」

 

 ―――先程の姉妹の妹が廊下に出て言いそびれていた感想を大声で聞いてきた。

 私は振り返って笑顔で答える。

 

「面白かったよ!!リベンジするから次もよろしく!」

 

 こうして私は結構な頻度でコンピューター室に入り浸るようになり、あの姉妹たちが作ったゲームのテストプレイに協力する形でゲームをプレイさせて貰えるようになった。

 ゲームに熱中しすぎて有り難い説教の頻度が増えたのは嬉しくないけどね。




標準の難易度ってあるしノーマルから作り始める設定のしたけど、実際のところ東方ってどの難易度から作り始めるんでしょうね
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