Vtuberフランドール・スカーレット 作:ピュレルーズンガル
Vtuberフランドール・スカーレットとして活動している私だが、ただの人間である現実の私―――紅フレンドルにあんな異形な翼は生えていないし、きちんと鏡に姿が映る。
逆に言えば吸血鬼という人外が持つ異常な要素以外はフランドール・スカーレットとの違いが全くないのだが、今は置いておこう。
当然のことながら現在12歳の少女である私は、義務教育を受けるべく学校に通わなければならない。
中学に通わなければならない。
「はぁー」
それは私にとって憂鬱だった。非常に憂鬱だった。
なぜなら―――
「どうしたのよ、溜め息なんてついて」
隣の席で一緒に電車に揺られている私の姉―――紅リミーリアが不思議そうにこちらの顔を覗いてくる。
オメーが原因だよ、とは言えなかった。
私が姉に釣り合わない実力しか持っていないのが悪いのだ。だから「なんでもない」と苦笑して誤魔化す。
姉は深く突っ込んでこなかった。少しの間だけ私の心の中をを見透かすような深く透き通った目で私の目を覗き込んできたが、すぐに軽い口調で「そう」と言って一度視線を前方に向け、すぐに話題を私の配信へと切り換えた。気付いているのか気付いていないのか微妙に判断できないが、気付いていても姉は私に手加減したり自分を曲げたりはしないだろう。
姉は背中で語るタイプなのだ。
負けず嫌いという子供っぽい側面も多少ある気がしないでもないが。
「今日はどんなゲームの配信?」
「最大60人の中から1位になるために蹴落とし合いをするパーティゲームだよ」
「それってパーティゲームなのかしら?」
「パーティゲームに蹴落とし合いは付き物でしょ······っていうか、また混ざってくるつもりなの?」
今日までのゲーム配信の中で、姉はレミリアというアカウントでコメント欄に書き込みを残したり、ゲームに乱入してきたりすることが多々あった。そして我が姉の才能はゲームでも発揮されるらしく、滅茶苦茶プレイが上手いし強い。
そして大概は私がボコボコにされる。
最早私の配信では名物と化しており、姉のスーパープレイやそれにボコされる私を見たいがためにチャンネル登録している人間が割と一定数いるぐらいだ。まぁ、姉にボコされている私の切り抜き動画の一つが伸びていたので、それの影響だろうが。
これでチャンネル登録者が増えるのは少し釈然としない部分があるが、フランやレミリアという東方の存在を広める助けになっているので文句はない。
ちなみに姉が全てのアカウントにレミリアという名前を使っているのは、姉が初めてゲームプレイで操作キャラの名前選択で迷っていたときに、私が「レミリアにしよ」と言ったからだ。それ以来、ずっと姉はレミリアという名前を使っている。
これをリスナーに話したら『てぇてぇ』『いいお姉ちゃんじゃん』『流石お姉様や』『さすおね』などと勘違いされてしまった。
別に姉がレミリアという名前を使うのは私が付けた思い出深い名前だからとか、そういう理由ではない。いつも私がゲームの操作キャラの名前選択で脳死でフランと名付けるのと同じで、ただ単純に名前を考えるのが面倒だからだ。
(そういうところは私と似てるよなぁ)
他にも打ち解けた相手だと丁寧な言葉遣いは止めてだらけきったりするとことかも同じだし、妙に負けず嫌いだし、なんだか姉妹って感じがする。
実際本当に血の繋がった姉妹なのだが、姉は私の髪と違って青みがかった銀髪なので、かなり顔立ちが似ているとはいえ本当に姉妹なのか疑われることが少なくない。
まぁ、大体それについて聞かれるのは母と同じ髪色の姉ではなく、金髪を持つ私の方だ。幾らかは優秀な姉とは違うなという嫌味も含まれていることも多かったりするが。
「いいじゃない。私もフランと遊びたい〜」
子供っぽい―――というか実際子供だ―――駄々をこねている様子を無視すると、もうすぐ目的の駅に到着する旨のアナウンスが流れてきた。
私たちの身長では荷物を上に置くことはできないので、電車の中に荷物を置き忘れないようにチェックする必要はない。電車が駅のホームへと停車し扉が開くと、私は膝の上に乗せていた通学鞄を右手に持ち、姉と一緒に電車から出る。
「日傘はなくても大丈夫そうね」
「まだ日差しが強い時期じゃないしね。一応、折り畳みの日傘は持ってきてるけど」
姉妹揃って肌が弱いので、いつも外出するときは日傘を持ち歩いている。
こんなところまで吸血鬼っぽくしないで欲しい。流石に流水が渡れないなんてことはないが、日差しが強いと日傘をささないといけないのは面倒であり不便なのだ。
しかし日傘をささないと余計面倒なことになるのは目に見えているので、面倒がっても怠りはしないことにしている。
「そろそろお別れね。じゃ、また放課後で会いましょう」
校門が見えてくると、姉はそう言って早足で私より早く学校の敷地を跨いでいった。
この学校は確かに高等部と中等部の校舎は違うが、私の記憶が正しければ姉は中等部3年生の筈なので、まだ中等部校舎の生徒玄関までは別れる必要はない筈だ。
「まぁ···いいか」
別に一人で登校できない年齢なわけでもないし、一緒に登校する必要性があるわけでもない。
私も姉と同じように私立月面学園、月之宮財閥が出資したという女子校の校門を跨ぐ。そして中等部の校舎へ行こうとしたが、ヒソヒソと話す声が耳に入ってきたので、思わず足を止めた。
「ねぇねぇ、レイ様と理沙様よ!」
「本当だわ!今日もご一緒されているのね!」
どうやら話題は私ではないらしい。
それに少し安堵して、私は何ごともなかったかのように再び歩き出す。周りが何を話しているか、少し敏感になりすぎていたようだ。
そして話題にされている二人組の有名人は私の左斜め前を歩いていた。
一人は周りの視線など気にしないといった感じの雰囲気を放っている綺麗な黒髪の少女、もう一人は周りの視線を楽しんでいる雰囲気の金髪の少女。
(博麗怜と霧雨理沙ねぇ)
姉から話には聞いていたので、特に驚かない。東方のキャラに似た人物がいるのは既に把握済みだ。
名前が微妙に違うのはよく分からないが。
(それは考えても仕方ないか)
それよりも私が今考えるべきは友だちを作ることかもしれない。このまま憂鬱な気分で学校に通うよりも、友だちを作って楽しい学校生活にするべきだろう。
可能であれば同級生かつ同じクラスの人物がいい。
友だちになれそうな人物はいただろうか。
まだ全員の名字すら曖昧にしか記憶していないクラスの人間を思い出しながら、私は自分の教室へ向かうことにした。