Vtuberフランドール・スカーレット 作:ピュレルーズンガル
「こんフラ~」
『こんフラ』『こんフラ~』『サムネ見たけどコラボ?』『SNSでコラボじゃないって事前に告知してたぞ』『配信タイトルにもコラボじゃないって入ってるね』『どう見てもお姉さまのシルエットじゃない』『翼がないな』『でもドアノブカバー被ってるぞ』『新衣装か?』『フランちゃんより先に⁉』『立ち絵書いてるのお姉さまだし・・・』『でも翼が』『翼入れたらシルエットがデカすぎるから消したのでは?』
「今日はお姉さまじゃないよ。いやお姉さまも出てくるけど」
「出てくるのは私の親友よ」
『つまり新メンバー?』『お姉さまに親友がいたのか』『おかしくはないだろ』『いやフランちゃんがアレだから・・・』『まぁ分らんでもない』
喧嘩を売ってるのだろうか?
反論の言葉を口にしそうになるが、視界の端に先程からジト目で私たちを見ている彼女を捉え、私は自重することにした。準備の時間を含めてこれ以上の時間を彼女に待たせてしまうと、どんな陰湿な仕返しが後でくるかわからない。引きつりそうな顔と怒りを胸に戻して、私はいつでも立ち絵を表示できるようにする。
準備が完了すると目線で合図を新メンバーの彼女に送る。合図を受け取った彼女は諦めの混じった顔でコクッと頷き返してきた。
「コメント欄のみんなも待ってるし、さっそく紹介しよっかな。お姉さまの親友、パチュリー・ノーレッジさんです!パチパチパチ!」
「・・・あーあー、どうも、いつの間にか勝手にレミィに立ち絵を準備され、半ば強引に配信に参加させられることになったパチュリー・ノーレッジよ。設定上は魔女とか魔法使いっていう種族らしいわ」
『勝手に参加させられたのかww』『かわいい』『設定言うなww』『レミィって誰や』『お嬢様でしょ』『親友だから愛称呼びなのいいね』『魔法使いなのか』『魔法使いって種族か?』『普通は役職って感じだよな』『ドアノブカバー被るの流行ってるのか?』『ナイトキャップと言って差し上げろw』『お姉さまの性癖かもしれない』『特殊すぎるだろwww』
どうやら新メンバー登場の反応は上々のようで、すごい速度で質問や感想のコメントが流れていく。最後の方の変なコメントはスルーだ。
「どうやら魔法そのものとなっている人外を魔法使いと呼ぶらしいわね。人外としての名称以外に人の職業としての魔法使いも存在するみたいだけど・・・・・」
『へー』『魔法を使える人じゃなくて人外の名称なのか』『魔法そのものってよく分からんな』『さっきから目線がチラチラと下に向いてて草』『設定が多いんやろなぁ』『フランちゃんの廚二設定を読み上げさせらてるの罰ゲームだろw』『無駄に凝ってるから聞いてる側は結構面白いんだけどね』『ウキウキしながら設定考えてそう』『やめてくれ、その言葉は俺に効く』
「たしかに設定が多いわね。普通こういうのって特徴を箇条書きで何個だけか書かれてるメモぐらいのものだと思ってたけど」
「それはゲームの設定も兼ねてるからね」
別に私が考えた設定ではないので廚二やら黒歴史と言われても問題ないが、設定が長いのはきちんとした理由があるのだ。
私の“ゲーム”という単語に反応した視聴者たちが疑問と説明を求めるコメントで緩やかになってきたコメントの流れを再び加速させていく。凄まじい視聴者の食いつきに私は少し驚いたが、すぐに喜びに変わっていく。
「なんと!お姉さまと私が部活動としてゲームを作ることになりました!」
「コミケで販売する予定だから楽しみにしておきなさい」
「あとコスプレして売り子もするよ!会場に行って私たちと握手!」
『いやいやいや』『情報が多いw』『年齢的にコミケに参加ってできるん?』『保護者が監督すれば大丈夫なはず』『ゲーム制作の部活とかあるのか』『VTuberがコスプレして売り子するのか(困惑)』『手元とか映すVTuberもいるし・・・』『部活で金稼ぎってオッケーなんやろか』
「ゲームの売り上げは全て学校側―――というか部費になるよ。あとゲーム制作の部はお姉さまが新しく作った部だよ」
『それならセーフ・・・なのか?』『社会学習みたいなもんやろか』『文化祭の店が出張しているようなもんだと思えばいい』『ならヨシッ‼』『現場猫やめろ』『でも冬コミまで間に合うんか?』『流石に夏は間に合わないだろうしな』『お姉さまを信じろ』『しかし新しい部活を作るとか凄いな』『お姉さまだからね』『なるほど(思考停止)』『さすおね』
どうやら姉のチートっぷりを視聴者も理解してきたようで少し苦笑してしまう。
面倒を嫌がったり家では子供っぽかったりするので完璧超人とはいかないが、確実に超人の域にいると思う。
というか私より転生者らしいのではないだろうか?
実は私の転生チートは姉に奪われていた、なんて言われても私は信じてしまうかもしれない。別に神様に転生チートやらを授かったり転生させて貰ったりした記憶はないのだけど。
「実際、お姉さまの方が作業量が多いから大丈夫よ。私はストーリーとかキャラ設定とかセリフとかを考えるのとBGMの作曲だけだし」
「あ、そのことだけど立ち絵はフランが描きなさい」
「・・・・・・は?」
頭が真っ白になった。
何を言ってるんだコイツ、そんな目で姉を見つめるが姉の顔は真剣だった。
「貴女が描いたキャラの立ち絵の原案、それに表情差分を付け加えて出しましょう?」
「・・・は?」
『二度目で草』『真顔で聞き返してるw』『呆然としてて草』『お姉さま描かないの?』『フランちゃんの絵は壊滅的ではないけど・・・・・・』『俺は好きだぞ、フランちゃんの絵』『俺も好き』『温かみがあるよね』『童話感があって好き』『絵本にありそうな絵だよね』『わかる』『結構フランちゃんの絵が好きな人多くて草』
姉や視聴者が言っているのはZUN絵風に描いた私の絵のことだろう。少し前のお絵描き配信で姉をZUN絵っぽく描いたし、姉に渡したキャラの原案も確かZUN絵風に描いた筈だ。
「あら、視聴者でも案外人気なのね」
「そこまで需要は高くないと思うし、なにより私が納得できないんだけど?」
「え~、パチェどうしよ?フランが反抗期だわ」
明らかに不満そうな表情を浮かべた姉が自身の親友に助けを求めたが、話を振られた当の彼女は面倒だという顔を隠しもしなかった。
しかし、この程度で姉が怯むことはない。
「ゲーム制作の話すら初耳の私に、そんな話をいきなり振られても困るのだけど・・・・・・」
「そんなこと言わずに親友でしょ~。そもそも今回の配信の主役は貴女なんだしー」
巻き込むな、と遠回しに彼女は断ったが、姉は駄々っ子のように彼女の体を揺さぶる。
揺らされる彼女は鬱陶しそうな表情を浮かべたが、この手のやり取りで姉が譲ったことが皆無なのは身に染みて理解しているのだろう、すぐに表情は諦めへと変わっていった。
姉が面倒を持ち込み、それを渋々ながら彼女が助けるのは私でさえ見慣れているぐらい日常茶飯事だ。
「レミィ、話しにくいから揺さぶるのをやめてくれないかしら」
「乗り気になった?」
「えぇ、乗り気にさせられたわね・・・・・・嫌々だけど」
「嫌よ嫌よも好きの内って言うじゃない」
「はぁ、私に大した助言なんてできないと思うけど・・・・・・そうね―――」
嫌味を軽く流す姉に馬鹿らしくなったのか、彼女は呆れた表情を浮かべる。
そんな馬鹿らしさに引きずられてか、彼女は実に適当そうに―――そして最も姉にとって適当な案を出した。
「―――両方とも描けばいいんじゃないかしら?」
その後はコメント欄の視聴者たちからの賛同もあって、私もゲーム内のキャラの立ち絵を描くことになった(ちなみに決まった後はパチュリーの質問が再開され、彼女の好きな本やオススメの本を紹介する配信になった)。
これで単純に私の仕事が増えたわけだが、よくよく考えてみると画力的に姉がZUN絵を描くのは問題が出そうなので、案外これで良かったのかもしれない。
ZUN絵も東方の魅力の中の一つ―――東方というゲームを構成する一つの要素だ。
それをなくしてしまえば東方の魅力の魅力の一つが失われることになるし、なにより東方―――いや東方紅魔郷っぽくない。
姉も立ち絵を切り替える設定を追加しなければならなくなったが、それを苦にしてる様子は全くないし逆に楽しんでるまである。
私も楽しい。
私も今の苦労を楽しんでいる。
不自由を楽しんでいる。
借り物で偽物のゲーム制作だが、この時間はきっと本物に違いないだろう。
Vtuber回は地の文が書きにくいのが難点