Vtuberフランドール・スカーレット 作:ピュレルーズンガル
最近、フレンドルさんが休み時間にノートを広げて何かを書き込んでいる。
彼女と私は別に親しい間柄ではない―――二ヶ月ほどの期間ただ同じクラスに在籍しているクラスメートにすぎないけれど、それでも休み時間は黄昏るばかりがほとんどだった彼女の行動が変化したのは、彼女の隣の席に座っている私の目を引いた。
いや私を含むこの教室にいるクラスメート全員の目を引いていた。
サラサラとした眩しい金髪に透き通るような白い肌、そして引き込まれるような紅い目を持つ彼女の美しい容姿に目を奪われなかった人間は私たちのクラスでは存在しない。彼女と同性しかいない学び舎であるはずなのにだ。
更に彼女は勉強やスポーツもそつなくこなせるみたいで、先生から授業中に指名されても淀みなく回答するし、屋外での体育は見学になることが多いけど運動神経も凄かった。
そんな人気者になりそうな要素盛りだくさんのフレンドルさんだけど、実際のところ彼女が誰かと友だちという関係を築いている人は私の知る限りいない。
理由はフレンドルさんの放つオーラというか雰囲気。小学校の中学年ぐらいにしか見えない背丈だけれど凛とした雰囲気を持つ彼女はクラスにいる私たちの誰よりも大人に見えた。
親の意向か個人の感情からかは知らないけれどフレンドルさんの友人になりたそうな子は何人もいたが、しかしその全てが彼女の孤高というか人を寄せ付けない圧倒的な存在感に気圧されて諦めていった。今まで一度も彼女とクラスメートとの間に会話がなかったわけではないけれど、大体は連絡事項を伝えるだけの事務的な会話で終わってしまうのが大半だった。
連絡事項の伝達をきっかけに会話しても彼女自身が話題を提供するところは見たことがないし、相手が話題を提供してもあまり興味なさそうな顔で相槌を打つだけで会話が膨らまない。
(まぁ、他人に興味がないって感じだよね。私と同じだけど正反対)
私は作り笑いとはいえ笑顔で答えるし、話題も提供するけど打ち切れそうなら会話をすぐに打ち切るタイプ。一方、彼女は冷たく応対して相手が諦めて話を打ち切るのを待つタイプ。
そして彼女は他人の様子にほぼ無関心だが、私は周りが気になって仕方ないタイプなのだ。他の人間が何をしているのか、何を考えているのか、何を思っているのかを把握しないと気が収まらない。こうやってフレンドルさんを観察している理由もそこからだ。
シャーペンを持つ手の動きから見て絵のような気がするけど確信は持てない。
ノートのページ全体を使って何かを書いている―――描いているのは判別できるけれど、私が座っている位置と目線の高さでは肝心のノートの描き込んでいるページが見えないからだ。
しかし、幸運にも知る機会はやってきた。
「あっ」
描くのに意識を割きすぎて消しゴムの位置を失念していたのだろう。フレンドルさんの腕の動きによって消しゴムが隣の席に座る私の近くの床まで転がってきた。
これ幸いとばかりに消しゴムを拾い視線を上げるとフレンドルさんがこちらを見ていた。彼女の引き込まれそうなほど美しい紅い目で見つめられるのは少し照れくさい。それを誤魔化すように笑って「はい」と言って消しゴムを彼女の机に置く。
それと同時にノートのページに描かれていた絵が自然と視界に入る。
「ありがとう」
「うん、それよりノートに描いてる絵、何のキャラクターなの?漫画?ゲーム?」
私は事務的な彼女の感謝を聞き流し、視界に入った絵―――おそらくメイドであろう服装をしたキャラクターについて尋ねる。私の見知った使用人はこんな短いスカートじゃないし、夏用の半袖も肘ぐらいまであるはずなんだけれど、きちんと知識としてはこういうメイドが存在していることを知っている。
しかし彼女がサブカルに傾倒しているのは私にとって少し意外だった。
前に珍しく彼女が読書をしていたときは分厚いSF小説だったし、本の内容を尋ねた子が「難しい本を読んでるんだね」と言って何とも言えない引きつった笑いをしていたのは今も記憶に新しい。
「ゲームのキャラかな。と言ってもどう・・・いや自作ゲームのキャラだけど・・・・・・」
「自作?自分でゲームを作ってるの?」
そう聞くと彼女は少し照れくさそうに笑った。
それは本当に小さな笑みだったが、私は今まで見たことがない彼女の表情が見れたことで嬉しくなる。
今まで彼女は他人との会話で話を広げようとはしなかったけれど、それは他人に話したいことが―――伝えたいことがなかったからだと思う。だから普段は事務的に質問に答えはするけれど、会話を膨らませようとしないのだろう。
私も姉と同じくらい人間観察眼には自信があるし、それほど間違ってはいないはずだ。
(しかも立ち振る舞いがザ・お嬢様って感じだしね・・・・・・)
思い出してみれば彼女にサブカル方面の質問をしている子はいなかった。
大体はお茶とか習い事とかの質問ばかりだった気がする。
「うん、お姉さまと部活でゲームを作ることになったから絵の練習中なの」
「へぇー、絵本みたいな絵でかわいいね」
「ありがと」
いつもの事務的な会話と違ってフレンドルさんの声と表情は柔らかい。
それが今だけなのは凄くもったいないと思ってしまった。
「・・・もっと笑った方がいいよ」
「え?」
不思議そうな顔を向ける彼女に思わず私は笑ってしまった。
今までとのギャップがありすぎて抑えられないほどの笑いが込み上げてきてしまったのだ。
「フフッ・・・フフフ・・・・・・やっぱり笑った方がいいよ。そっちの方が親しみやすいし友だちもできるよ」
「・・・やっぱり、私ってクラスから浮いてる?」
「浮いてる、浮いてる。浮きすぎて誰も手が届かない高嶺の花みたいになっちゃってるよ」
「私そんなんじゃないんだけどなぁ~」
彼女は困ったような笑いを浮かべた後、教室の天井を見上げて両足を空中でパタパタと揺らしながらそう嘆いた。
それが実に子供っぽくて一気に親近感が湧いてくる。
どうやら彼女は人間関係において不器用というか受け身で消極的すぎるみたいだ。いやこの場合は面倒が嫌いな性格も出ているのだと思う。
「―――でもいいや。友だちはできたし」
「え?だ、誰?」
まさか、もう既に友人を作っていたとは予想外だ。
ぼっち同盟をお互い密かに結んでいたと思っていたのだけれど、こちらの勝手な勘違いだったらしい。いや最初から同盟なんて結んでいないので勘違いもクソもないんだけれど、なんだか裏切られた気持ちが湧いてくる。
「・・・?あなただよ?」
「え?」
「・・・・・・えっと・・・もしかして私が勝手に友だちだと思ってただけ?」
フレンドルさんがキョトンとした顔で発したセリフに私は驚きで思わず聞き返してしまった。
そんな私の反応に、彼女が深い悲しみの混じった引きつりそうな笑みを浮かべるのを見て、私は慌てて友だち認定されたことに驚いただけだと説明する。そのアタフタと焦る私の様が滑稽で面白かったのだろう、さっきの悲しみの混じった笑みは彼女の顔から消えていて、笑いが抑えられないといった様子の楽しそうな笑みに変わっていた。
その純粋な笑みで私の胸の中の焦りも霧散した。
「・・・えっと、これからよろしくね?フレンドルさん」
「フレンでいいわよ。こちらこそ、よろしくね。えっと・・・こ「レンでいいよ」・・・・・・」
「わかったわ、レン」
「改めてよろしくね、フレンちゃん」
こうしてお互い初めての友だちができた。
気兼ねない友だちができた嬉しさでジャンプしたくなるけれど、ここはグッと抑えることにする。
(早く、お姉ちゃんに報告したいな)
お姉ちゃん、私にも友だちができたんだよ。
事故で両親が死んじゃって遺産目当ての親族から一緒に厄介者扱いされて人間の汚い内面ばかりを見せられてきたけれど、そんな私でも友だちができたんだよ。
人間不信になって、人の内面を見抜く観察眼が育って、人から心理的に距離を取るようになって、あいつ等みたいな作り笑いが上手になっていく自分が嫌で嫌で仕方がなかったけれど、そんな私でも友だちができたんだよ。
だからお姉ちゃんも諦めないで。
いつか信頼できる人が見つかるから。
「レン、そろそろ授業が始まっちゃうわよ?」
フレンドルさん―――ううん、フレンちゃんの声で急いで席に戻って教科書とノートを机の中から引っ張り出す。
まだ胸のワクワクは収まらない。なんだか夢のようで酷く現実感がない気がする。
そんな漠然とした不安に襲われた私は気になって隣のフレンちゃんを見てしまった。しかし彼女も私と同じく気になっていたのか、視線をこちらへと向けてきていて、図らずも私たちは目が合ってしまった。
お互い同じことを考えていたことを察した私たちはクスッと笑い合って小さく手を振った。
ガラガラと音を立てて教室の横開きのドアがスライドする。どうやら先生が教室に到着したらしく、私たちは向かい合わせていた視線を前へと向ける。
胸のワクワクは続いているけれど、漠然とした不安感はもう私の中になくなっていた。
(今日は楽しい一日になりそう!)
その日の古明地
さとり妖怪っぽい精神が現代でもし生まれるとしたらって考えたら酷い家庭環境になっちまったぜ
本当に申し訳ない