鋼鉄は泡沫の幻想に坐す   作:柴猫

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壱章 鎮座する鋼の翼


 

龍が支配する世界の少し特殊な場所。

人からは新大陸、その地を調査する人からは龍結晶の地と呼ばれる。

 

 

王たる強欲な者が古龍のエネルギーを吸い込み誕生した、美しく、歪なこの大地。

その美しさに惹かれてか、数多くの竜たちがここに訪れる。

 

 

モンスター、神も仏も物の怪もいないこの世界の、強大にして、畏れられる支配者たち。

彼らは生きるための糧を食らい、それでいて必要以上の欲はなく、今を生きる。

今日も己が足掻くため、他の竜たちと争うのだ。

 

 

 

 

 

天を我が物とするかのように生える、巨大な龍結晶。

それに隣接する柱の奇岩の山の頂上に、それはいた。

 

 

鋼だ。全身が鋼で覆われている。だが、決して人が作った偶像などではなく、生きる生物だ。他のモンスターとはかなり異なるが。

四足で地に座り、その体の何倍にも思える翼。そして、頭部から後方へかけて伸びる剛角は言いもしれぬ力を感じさせる。

 

 

鋼龍 クシャルダオラ

人間からそう呼ばれる、竜の力を、常識を、寿命を超越した次元の、古龍種に分類されるモンスター。

 

かの龍は、唇を尖らせて―――全身が鋼なので尖らせはできないのだが―――下の大地を見ていた。

 

 

 

 

大剣の如き尻尾を持つ斬竜と、大岩を砕く拳と粘菌を持つ砕竜が各々の縄張りを巡って死闘を繰り広げている。

 

火炎をまとう危険な車輪の爆槌竜と、マグマを水のように泳ぐ溶岩竜が熱き争いを演じている。

 

 

彼らの戦いは何度も見てきた。何代にも渡って争う彼らには、遥か下の者であっても思うところがあった。だが、今の鋼龍の意識はあまりそちらには向けられていない。

 

 

 

 

岩奬の海のちょうど真ん中に浮かぶ孤島のような場所。

炎そのものを具現化したかのような姿の、古龍の番。

 

周囲の溶岩の赤よりも更に濃い色に、鬣と角は王冠のよう。

 

対して気品あふれる青に体を染める、だがその熱量は溶岩の海を蒸発させるかのよう。

 

炎王龍と炎妃龍。彼らもまた、この地に生きるもの達を睥睨するかのように佇んでいた。王が闘技場の殺し合いを楽しむような感じ。

 

 

龍結晶に一番近い所では、世にも稀なる金と銀の飛竜が巣を作っていた。下手な古龍種ならば追い返してしまうような殺気を放っている。雌が孕んだのだろうか、鋼龍と炎龍の番の動向に目を光らせている。

 

 

 

ここも随分にぎやかになったものだ。彼女は胸中で呟いた。

 

 

覚えていないほど遥か前には私と、今はどこかへと飛び立った古を喰らう龍しかいなかった。双方で死闘を繰り返し、龍結晶が成長してからは炎王龍とが来てそれとも戦った。時には滅尽と三つ巴の死闘になったこともある。

 

やがて竜たちもここへ来て、古龍の影響を耐え忍びながらこの地で命を繋いできた。

 

少し前には二足で立つ人間たちがここへ来た。そのうちの一匹はあの古龍の王とも呼べる赤子を討ち取ったのだ。それを認識したときは、生まれて一番に驚いた。今でも忘れていない。最近はめっきり姿を見せなくなったが、人間がやってくる前のこの地こそありのままの姿であり、大したことではない。

 

 

 

悪いこととは微塵も思っていない。生命が繁栄することは、我々にとっても益がある。闘争を繰り返し、より強くなることは生物として当然。

 

だがどうしても思うのだ、静かに暮らしたいと。

子は十分に成長して飛び立った。鋼龍の雌としての責務は全うしただろう。

生まれてからはずっとここにいた。外に興味はあったが、それでも縄張りを守り、長い年月に渡って番を待った。

 

 

 

なら、少しくらい自分の欲に従ってもよいのではないか。

 

 

 

鋼の翼が動く。それだけで辺りの小石が吹き飛ばされる。

極めて重い鉄鋼の体が、見る見るうちに天へと上っていく。

 

行先は分からない。だが世界は広大だ。きっと、ここより静かで、綺麗で、見たこともない場所はあるだろう。

 

空飛ぶ鋼は龍結晶を飛び越え、遠い空へと去っていく。

縄張りを巡る争いをしていた竜たちはその姿を注視して、すぐに戦いを再開した。

 

空を飛ぶ青い王者は進路を変え、紅蓮に染まる危険な爆発物は場所が空いたと、かの竜が座っていた場所にマーキングをした。

 

二組の番は脅威が減ったのに息を吐いた。炎の帝王は、別れを告げるように吠えた。

 

 

やがて鋼は長年の縄張りを名残惜しそうに振り返り、凄まじい速度で飛んで行った。

 

遠く、遠く、更に遠くへ

 

 

 

 

遥か幻想の地へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新緑が生い茂るとある神社。

お世辞にも大きくはないが、この地に住まうものにとっては極めて重要な場所。

 

博麗神社。妖怪神社だの貧乏神社だの色々と可哀想なあだ名で呼ばれる神社の縁側で、一人の少女がお茶を啜っていた。

由緒正しい巫女装束―――脇が空いているのが不思議だが―――を身に着け、黒髪を頭のリボンで結んでいる。

 

名は博麗霊夢。幻想郷という、忘れ去られた者たちの楽園の守護者。

今の姿からは想像し難いが、異変の際には道行く妖怪たちを蹴散らす、妖怪の恐れる人間である。

 

 

 

そんな穏やかな空気流れる博麗神社に、何かが飛んで来ていた。

 

大きな帽子の魔法使いの格好で、箒にまたがり空を飛ぶ姿は絵にかいたような魔女。風で金髪が揺れるが、少女自身は気にしていない。

 

霧雨魔理沙。霊夢と同じ人間であり、職業としての魔法使いである。

彼女もまた、異変解決の要であり、中々に波乱の人生を歩んできた強かな少女だ。

 

 

魔理沙は霊夢の目の前に勢いよく着地する。風で埃が舞い散る。

 

「人がお茶啜ってる時に、そんな勢いよく来ないでくれる?」

 

「いいじゃないか、いつも啜ってるようなもんだろ。一回二回で文句言うなよ」

 

この軽口の応酬も、二人にとっては日常である。魔理沙は箒を縁側に掛け、茶の間に出ていたお茶を取り、霊夢と同じように縁側に座った。無論、使っているのは神社のものだ。

霊夢もいつもの泥棒には、若干迷惑そうな視線を一瞬送っただけで済ませた。

 

「それで、今日は何の用?」

 

「ああ、前のオカルトボール騒ぎのさ。」

 

魔理沙のいうオカルトボール騒ぎというのは、少し前に起きた幻想郷の異変である。とある超能力者の女子高生が幻想郷の結界の破壊を計った異変。異変は霊夢によって解決され、首謀者は今では夢の中でのみ幻想郷に来ている。

 

「月の都のオカルトボールのことね」

 

「そうだ、董子に聞いてきたんだが、本人は全く知らなかったらしい。いつの間にかあったって」

 

「用意しすぎて、自分でも忘れてたみたいな所じゃない?」

 

「そうかなー……あいつ割と頭良いし、その可能性はないと思うんだよな~」

 

博麗霊夢は基本的に面倒くさがりな性格だ。ろくに修行もせず、何かあれば人を(あるいは妖怪を)使って楽をしようとする。巫女としてはどうなのかというところだが、実力が高いのであまり問題には発展しない。

対して腐れ縁の魔理沙はというと、疑問に思ったことは徹底的に追及する。魔法に対しての努力は惜しまない努力家。…少し手段を選ばないところがあるが。

 

「何にせよ、面倒ごとはもう起きないでほしいわ」

 

「何言ってるんだよ、これはもう面白いことが起きるに決まってるだろ」

 

両者の意見は割れたようだ。これもいつもの事だが。

 

すると、空に暗雲がかかり始めた。青色の空が、見る見るうちに暗い灰色へと染まっていく。

 

「こりゃ一雨きそうだな」

 

魔理沙が引き戸を閉める。ここで雨を凌ぐようだ。霊夢は茶の間に退避する。

 

 

 

魔理沙の予報は当たったらしく、しばらくしない内に土砂降りの雨が降ってきた。雨粒が木の屋根を激しく叩く。

 

「この時期にこんな大雨が来るとはな」

 

「面倒ね」

 

小一時間が過ぎても、雨音は止まない。どころか余計に強くなっている。

 

「おい、長くないか?」

 

「おかしいわね……秋雨にしては時期が早いけど」

 

そんなことをぼやいていると、雨音が突然、フッと途切れた。

 

「お、止んだか」

 

魔理沙が勢いよく引き戸を開けた。

 

瞬間、神社の茶の間に煌々と太陽の光が差し込んできた。沈みゆく太陽が最後の力を振り絞った陽光は、二人の少女の目を眩ませた。

 

「おい、これはおかしいだろ!何であそこまで土砂降りだったのに」

 

驚き、声を上げる魔理沙。一方の霊夢は考え込んで

 

「妖精か何かかしら。いやでも、あそこまで土砂降りの雨は妖精じゃ無理よね」

 

 

突如、二人に風が吹いた。室内であるというのに竜巻の如く二人の間を駆け抜ける。

妖怪と多く戦ってきた彼女たちは、これは普通ではないことを、文字通り肌で感じ取った。

 

「今度は何だよ!」

 

二人は急いで外に出て、辺りを見回す。一見、何も見えないが……

 

「上!」

 

霊夢の指差した先は空。

 

 

大きな翼を羽ばたかせ、日の光に当てられたそれは鈍い金属光沢を放っていた。

二人が見上げるうちに、その者は遥か遠くへと飛び去って行った。

 

 

 

幻想郷に新たな風が吹いた。

 

 




どうしても書きたかった。後悔はしていない。
こちらは本当に書きたくなったら書きます。伝記のほうを優先で行きますので、


ではまたいつか

作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。

  • このまま続ける(頻度は相当落ちる
  • モンハン東方で新しく書き直す
  • モンハン東方はもう出さなくていい
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