結局この地を回ることは出来なかった。
山の麓に行ったら、どぎつい赤色の服の人間と足が寒そうな翼人間に会った。どちらも華扇のように話すことは出来なかったが、翼人間がこちらに手を振ってきた。華扇に習ったのだが、あの仕草は〝ついてこい〟という意味らしい。なので私は取りあえずその翼人間に付いていった。
もっと速くしてくれないかと思いつつも後をつけていくと、木で組まれた私の体高程あるものに付いた。人間の巣であることは分かったのだが、赤い色の変な木組があるのが不思議で、これも自分の縄張りを強調するものなのかと思った。ここの奴らはどうにも自己顕示が強いらしい。
近くに来ると華扇の匂いがしたので、私はわざと派手に着地しておびき出した。ついでに二人の人間が出てきて、私が華扇にここを観て回りたいと言うと、しばらく話し合った後に、それは出来ないと言われた。
華扇が言うのならまだしも、私と碌な面識のない人間が私の観光を拒否するのに、私は少し腹を立てたが、代わりに華扇が自分の巣に案内してくれるという。
来る前まではそこまで期待していなかったのだが、華扇の巣は非常に凄いものだった。
外はかなりの雪が積もっていたのに、彼女の巣はそれがなかった。非常に過ごしやすい場所に、私は少々驚いた。
古龍が巣を作る時にもその種に応じた環境が作られるのは常識だが、華扇のそれはとにかく細かかったのだ。風土に合わせた食物を作れる環境を緻密に作れるのは、古龍には出来ない所業。華扇の能力、そして「こういうものを作れる存在は他にもいる」という幻想郷の常識には、やはり大きく驚かせられた。
また華扇はそれ以外にも、多くの動物たちを自分の巣に住まわせていた。脆弱そうなそこらへんの獣から、見たことない稀有な獣なども、それぞれが争うことなく平和に暮らしていたのだ。興味深かったのはこの地に住む龍の幼体で、翼を持たないのに宙を飛んでいる姿は、夫から聞いた嵐の龍を思い出させた。
まあ、あそこに来た時は結構なパニック状態だった。私の姿に一目散に逃げだしたり、変わり種は私に向って威嚇したりと。華扇がそれを落ち着かせるのにかなり疲弊していた。古龍はこれが日常だから、別に気にも留めていないが。
そして帰り際、こんなことを華扇から言われた。
「あと少しもすれば、幻想郷で最も美しい季節がやってくるわよ」
今、私の目の前は桃色で覆い尽くされていた。
見渡す限り、桃色の海。故郷のヒカリゴケのように自分から発光するような目立つものでも無いのに、ここまで綺麗と思わせるのは木と言えど驚嘆してしまう。
翼をはためかせ、風を生み出す。天を我が物とするかのように大量の花が飛び、妖精たちはその光景にはしゃいでいる。
桜、だったか。厳しい冬を乗り越え、暖かくなると一斉に開花して実を結ぶ。そんな生態を持っている植物は故郷にもあったが、目の前の光景を埋めつくすような生命に溢れた咲き方はせず、か細いものであった。
この光景ばかりは私のみならず人間や妖怪たちも感嘆するようで、〝花見〟というものをして、豪華な飲み食いをするらしい。大物を捕ったときと同じような感覚だろう。気持ちは分かる。
前に行った赤い木組のある人の巣―――博麗神社―――では特に大勢集まるらしく、人間妖怪が入り混じっているらしい。
そういえば妖怪は人間を食う捕食者なのに、どうして同じところで飲み食いするのだろうか?例えるなら、轟竜と岩賊竜が一緒に同じ食べ物を食べるようなものだろう。異様な光景と言わざるを得ないが、ここにはここのルールがあるのだから、別の場所から来た私がとやかく言うことではないだろう。こっちに不都合が無ければそれでいい。
「おお、ここにいたのか」
桜を見ながらのんびりしていると、そんな声が聞こえ、振り返る。
そこにいたのは妖精だ。気配で分かる。ただ、そいつはあまり見ない格好だった。
変な頭に、半分青で半分赤の模様が入った皮を着た妖精。そいつは私を興味深そうに眺める。私も同じようにそいつを見る。
「うーん、ご主人様から話半分には聞いていたけど」
するとそいつは私の甲殻に抱き着いてきて、触感を確かめるように触って言う。
「すごい生命力ねあんた!地上でもこんな生命力に溢れている奴は他にいないわよ」
何か興奮しながらそいつが言ってくるが、当然何を言ってるのかは分からない。私はそいつの変な頭を鼻先でつつく。
「ちょ、やめろ、くすぐったい!」
しばらく経って、別の妖精たちが食い物を持ってきて私の巣で飲み食いし始めた。ここでやるのか…と思ったが、嫌な気分はしないし、ついでにそいつらの食べ物も貰えたのでこちらも良い気分にさせてもらった。量は余りにも少なかったが。
その喧騒は、竜どもの咆哮と違って、心地よいものだった。
博麗神社に桜が咲き、そして宴の喧しい響きがこだまする。
去年は色々あったけれど、こうして豪華な食べ物を飲み食い出来るのはいつもの事。参加者はほぼ妖怪だらけだが、まあ今回は無礼講である。余程のことが無い限り咎めはしない。
「おーい霊夢、飲んでるかぁ?」
「魔理沙……ってあんた酒臭いわよ!」
「いいじゃないか別にぃ。みんなそんなもんだろ?」
「今は特によ!顔洗ってきなさい」
へーい、と言いながら魔理沙があちらへ行く。また酔った勢いで魔法をぶっ放されては困るが、まあこれだけ参加者がいるし、誰かが止めてくれるだろう。
お猪口に注がれたそこそこの日本酒を味わいながら、山菜のてんぷらを口に運ぶ。
ふと、残った日本酒の上に桜の花びらが浮かぶ。それを見て縁起が良いと思ったのなら、そのまま勢いよく飲み干す。
あの鋼龍に関する近況は、華扇からこまめに聞いている。
秋の頃に動きがあると聞いた時には一目散に見に行ったのだが、栗をそのまま食べようとしてのどに針が刺さっていたという何とも間抜けな珍事であり、聞いた時にはげんなりさせられた。本にはクシャルダオラは鋼を食うと言っていたが、未だ月の探査船の残骸は形を残していて、華扇の話だと「彼女らは基本的には、生きるために食をほとんど取らない」という。どうやらクシャルダオラは甲殻の補強の為に鉄を摂取しているというのだ。これ以上硬くしてどうするのか。
じゃあなぜ食事をしなくても生きていけるのかは、『いにしへの竜が持つ始まりの力があるから(原文ママ)』という相変わらず分からないものだった。古龍の力の根源らしいが、分からないのなら放っておく。重要なのは古龍への対処の仕方だ。それさえ分かればいい。
しかし肝心のそれも未だ分かっていないのだ。編纂書には、毒を打つとまとう風が弱くなるとか、角が能力の制御に深く関わっている、というのはあるのだが同時に「それらを持ってしても、クシャルダオラに吹き飛ばされる狩人の数は人知れない」とも記されていた。要するに、これさえあれば絶対撃退出来るというものが無いのだ。
上位の妖怪や神様だと明確な弱点が無い奴も結構いる。ただそれらとあの古龍の違いは、精神的な存在か肉体的な生物かだ。
クマやイノシシなんかに魔除けは効かないし、恐らくあれもそうなのだろう。その場合、魔を封じることに特化した巫女である私はどうすればいいのか……
「ま、何とかなるでしょ!」
もう一度酒を注ぎ直そうと一升瓶を手に取ろうとして、ふと視界の端に誰かが映った。
(……ん?)
ここからかなり離れた花見の席、その近くに彷徨とした様子の誰かがいた。鬼やら天狗やら河童やらが視界を通るのでよく見えない。
人っぽい……白い……少女?
「ああ霊夢さん~」
頭の中で掴めそうだった既視感は、しかしそこで霞のように消えていった。
頬がかなり赤らんでいる早苗が、一升瓶片手にお酒を進めてくる。
「ちょ、近い近い」
「えへへ~~」
今年の宴会は、私の中で妙な残滓を引いて終わっていった。
どこなの……
約束が……
結ぶ……
作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。
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このまま続ける(頻度は相当落ちる
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モンハン東方で新しく書き直す
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モンハン東方はもう出さなくていい