鋼鉄は泡沫の幻想に坐す   作:柴猫

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クシャルダオラは飛び続けた。

 

晴れを越え、雨を越え、嵐を越え、

そして、目の前の嵐を吹き飛ばした。

 

 

 

そこには緑があった。

見渡す限り、緑の大地。所々、湖が見える。

私の暮らした龍結晶の地にはこんな自然豊かな場所はなかった。あるとしてもわずかな草木と、濁った海があるだけ。こんな場所があることは、私の夫の話でしか出てこなかった。

 

ああ、長い旅をして正解だった。

クシャルダオラはこれまでにない昂揚を覚えた。生まれた時から一歩も出てこなかった大地からの、初めての旅。

もしこの状況を誰かが見ていたのなら、まるで見たこともない物を見てはしゃぐ子供のようだと言っただろう。

 

 

少し興奮を抑えたクシャルダオラは、目を据えて周囲を見回した。

ここは彼女にとって未知の地。どんな地形なのか、どんな存在がいるのか全く分からない。だからこそ、興奮もほどほどにして観察しなければならない。

今彼女は、この地―――幻想郷―――の高空域を滞空しているため、すぐさま襲われることはないだろう。それでも、警戒はしていく。

 

鋼龍のような飛行能力に秀でた生物というのは目がいい。古龍であれ、飛竜であれ、か弱き鷹であれ、これは例外でない。

目を凝らせば、幻想郷がどういう場所なのかは何となく分かるのだ。

 

 

まず、最初にチラッと見た通り水源が多い。樹木がこれだけ多くても、これなら十分に根を伸ばせる。その中でも特に大きい湖のほとりに、何かがあった。

石で造られているのは分かるのだが……紅い。血をぶちまけたかのような色だ。何かが意図して作ったのは分かるが、威嚇のためであっても少々近づく気が失せる。

 

視点を下方にずらすと、森ではないものが見える。木で作られた、自然物ではないもの。それが集まっていて、そこそこな広さになっている。

更に目を凝らすと、蠢く生き物が見えた。ひらひらとした、皮と呼ぶには余りにも貧弱なもの、それを纏って二足で立っている。人間か。まあ、あまり気にするようなモノでもないが、一応覚えておく。

 

見たことない植物が群生している森があった。森を構成する木は、樹の葉と比べると色が薄く、幹も細い。風に煽られ揺れている。一本一本確かな違いがある樹木に比べると、幹が余りにもまっすぐ立っているので分かりづらい。

それと人間の巣を隔てた方向には山がある。その中にも生き物はいるが……速い。風に乗った空の王の速さと遜色ない。そこまで大きくはないが、ここからでは遠すぎるので生物の詳細が分からない。強いて言うならば……人間に似ている?だが、人間はあそこまで速く動けたか?

 

その山の中腹にも紅い石の湖程ではないが、湖がある。そこには柱のようなものが百本以上刺さっていたのだ。水源が重要なのは分かるが、湖はこんなにあるのにああも過剰に縄張りの誇示をするのはどういうことだ?

そして衝撃なのが、少し離れた場所にある建造物。他の建造物と違い、なんと宙に浮いているのだ。私がいる高さに比べると少々低い。いや、そんなことはいい。翼もないのに空に浮く生き物もいない。まして建造物が空を飛ぶなど、有り得ない。

 

 

クシャルダオラは少々おっかなびっくりといった飛び方で宙飛ぶ建物―――輝針城―――に近づいていく。

近くを飛行してみても、生き物の気配は何も感じない。当然といえば当然だ。こんな奇怪な場所に留まるのは、せいぜい休憩する小鳥程度だ。

危険はないことが分かり、私は再び周囲の環境を見る。昔の私なら気に入った場所は嵐でその地の竜を全て吹き飛ばしていただろうが、今は静かな場所に来たのだ。私から騒がしくする必要はない。

森の中に、少し開けた場所があった。周りには建造物は見られない。そこそこの広さだから、翼を伸ばすのにも支障はなさそうだ。

 

幻想郷の奥深くに鋼の翼が舞い降りる。

 

 

 

 

 

 

幻想郷の端の博麗神社。僅か数刻前には魔理沙と霊夢の二人しかいない場所には、三人目の人影がいた。

 

「で?何よ。私の妖怪退治を邪魔するつもりで来たなら、アンタも倒すけど」

 

「妖怪退治?ふふ、あれは妖怪じゃないわよ。性質においては、全くの別物ね」

 

博麗神社の参道の中央に立つ紫色の衣服を身にまとった妙齢の女性。金髪に、ドアノブカバーに似たような帽子を被る。

八雲紫。幻想郷の維持と創造に大きく関わる大妖怪。彼女は今、異変解決者二人を通せんぼするような形で話していた。

 

「妖怪じゃない?でもあいつは嵐を操ってきたぞ。そんなこと妖怪か神様しかできないだろ」

 

「あら、あなたは妖気か神の気配をあの〝りゅう〟から感じたの?」

 

紫にそう言われ口ごもる魔理沙に代わり、霊夢が再び口を開く。

 

「あれ龍なの?だったら……いや、確かに……だとしたら、あれは何なのよ」

 

霊夢の質問に、紫は口に扇子を当てて言った。

 

「外の世界から入ってきたのは当たり。でも、あれは外の世界の存在ではない」

 

首をかしげる二人に紫は寺子屋の先生が答えを言うように

 

「外の世界とは違う時間軸に存在するもの。そこから境界を越えてやってきたのよ」

 

「!それって異世界ってやつか!」

 

「そうね」

 

「だとしたら、どうしてそれが私の仕事を邪魔する理由になるわけ?」「私〝達〟だろ」

 

「なるわ」

 

霊夢の質問に即答した紫。

 

「あれを討伐するのなら、百年前の龍神の災いと同じ被害が出るわ」

 

「龍神と同じ!?そんな力があるっていうの?」

 

「ええ」

 

「でも、妖怪でも神様でもないんだろ?どうやってあいつはそんな力を使えるんだよ」

 

魔理沙の質問に対して紫は扇子を閉じた。

 

「答え合わせはここで終わり。これからは自分で考えなさい。そうでないと、あれと同じ土俵にすら立てないわよ」

 

「ちょっと、それってどういう」

 

霊夢の言葉が終わらないうちに、紫はスキマの中に消えていった。

 

「なんなんだよ……」

 

 

魔理沙の愚痴は虚空に消えていった。

 

 

 

 

 

 

妖怪すらも寄り付かない森の奥。

といっても、ここが別に過酷というわけではない。

 

何もないのだ。ごつごつとした岩場があるだけであり、珍しい花が咲いているわけでも、高い妖力を持つ奇岩があるわけでもなく、何もない。特徴が無さ過ぎて、妖精すらもいない。

おまけに周囲は高い広葉樹に覆われており、空からだと見つけにくいことこの上ない。何もない秘境、まさにそういった場所だ。

 

そんな限りなく面白みのない場所に、鋼の翼が降り立った。

クシャルダオラは辺りをキョロキョロと見回して、生き物が見えないことを確認した。

乱立する岩の中で、ひときわ大きい岩があった。クシャルダオラの全長よりも高く、形は洞窟などにある石筍に近いものだ。

 

彼女はその巨岩を見る。当然、岩は身じろぎもしない。

 

 

彼女は大きく息を吸う。

 

 

吐く。

 

 

生き物としてごく当たり前の動作に、巨岩は根元を残して砕け散る。微細な塵が葉を抉り、幹にねじ込んだ。

 

かつての巨岩は、丸テーブルのような形へと造形されていた。

彼女は満足そうに喉を鳴らし、その丸テーブルに乗る。荒々しい凹凸が鋼龍の甲殻に刺さるが、逆に凹凸のほうが押しつぶされていった。

彼女は後ろ足を折り曲げ、岩に座った。彼女が座ると、何の変わりもない平石も高貴なものが座るもののように感じられる。

 

既に日は落ちかけ、空の多くを暗闇が支配していた。人の時間は終わり、妖怪の時間が訪れる。

しかし彼女は、噴煙のない空の移り変わりを楽しんでいた。

 

間もなく日は完全に落ち、太陽に隠されていた星々が空に瞬く。月光が黒鋼の躰に降り注ぎ、反射し、美しい光を放っていた。

 

 

そこから数時間が経ち、クシャルダオラは欠伸をする。眠気に従い、鋼龍は目を閉じた。




調子がいいので連続で書いちゃいました。


ではまたいつか

作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。

  • このまま続ける(頻度は相当落ちる
  • モンハン東方で新しく書き直す
  • モンハン東方はもう出さなくていい
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