ここは幻想郷のどこか。
随分アバウトな言い方と思われるかもしれないが、実際こう言うしかないのだ。そもそもこの場所が地理的に幻想郷内部なのか、それすらもはっきりしてないのだ。ここの主のことを考えると、らしいといえばいいのだが。
そんな土地柄だからか、ここに来るものは人妖問わずほとんどいない。人の姿のみ見えないような里には、普段は妖力を持った猫や本物の化け猫が暇そうにたむろしていて、たまにここの主、もしくはその代理が様子を見に来たりするだけである。
だから猫たちが全て姿を消し、数多くの魑魅魍魎が神妙そうな面持ちで来ているのは、極めて異常というべきなのだ。
いずれも人ならざる者どもは、幾つかの境界を越えてある母屋に辿り着いた。外見からは大きな日本家屋にしか見えないそこは、分かるものには分かる異常さを醸し出している。
彼女らは家主を探すまでもなく、一匹の化け猫に案内され、ある部屋の一角に連れられた。
その部屋は、家の外見からすると余りに広すぎるように思える作りだった。まず畳の上にテーブルとイスが置かれている様は、日本文化と西洋文化が奇妙な合致の仕方をしたよう。
そしてその奇妙な間の奥には、イスに座りかける賢者とそれに侍る式神が見えた。
「どうぞ皆さん、お好きな席にどうぞ」
八雲紫は普段と変わりないような妖しい口調だが、この会議の議題を知っている彼女らからすれば、何だ何だと余計に気が締められるものだ。
全てのイスが埋まったところで、八雲紫は改めて口を開く。
「今回こうしてあなた方を緊急招集したのは他でもなく、異世界から流入してきたモンスターについて、私から得られる限りの情報と今後の指針について説明するためです。」
それは会合に参加した面々が皆知っていることである。というかこんな緊急招集など、余程の大事態でなければ開かれないのだ。
「まずは早急に対処すべきモンスターに関して話させていただきますわ」
紫はスキマを通して、まとめられた書面を席の参加者に提示する。
表には、極めて写実的にある生物の姿が描かれていた。一見すると泥ナマズみたいな生き物だが、当然こんな生物は幻想郷にも外の世界にも存在しない。
「そのモンスターの名はオロミドロ。泥翁竜とも呼ばれ、人里付近で調査をしていた博麗の巫女と魔法使いと戦闘。魔理沙は軽傷、巫女の方は命に別条はありませんが、治療には一週間かかる怪我を負いました」
あの博麗の巫女が、と参加者の一部はざわめくが、紫は話を続ける。
「…その後泥翁竜は逃走。現在は魔法の森で姿が確認されています。では次に…」
参加者たちはページをめくり、二枚目のそれを目にする。
前足を翼として持ち、鋭い逆鱗で全身を覆った、見るからに攻撃的なシルエットのワイバーン。
「千刃竜 セルレギオス。極めて好戦的な性格の飛竜であり、天狗の射命丸文が遭遇しました。本人は即座に撤退。多少の傷を負い、その後の千刃竜の行方は不明ですが、はげた鱗が確認されていますので、いずれ見つかることでしょう」
そして三ページ目。今度は一見するとオオカミのような生物。金と碧の甲殻が、猛々しくも美しく見える。
「迷いの竹林には、雷狼竜 ジンオウガの出現を確認。竹林の案内人が遭遇、案内人は重傷。その後雷狼竜は姿を消し、現在も迷いの竹林に潜んでいると考えられます」
会議の参加者たちはモンスターの姿と共に添えられた、そのモンスターの生態についての文もしっかりと目を通していた。
それから、危険度は下がるものの注意すべきモンスターに関する情報が話された。
どういう因果か、襲った妖怪たちと同じ異名を持つ丸呑み力士。
河童蛙 ヨツミワドウ
泳ぐ速度は全速力の馬を抜き去る巨大な足つき怪魚。
水竜 ガノトトス
鋭い爪を持ち、群れで襲う肉食竜、ランポス。
簒奪者とも呼ばれる、知能の高い肉食竜ジャギィと、それを統率するドスジャギィ。
話している間、聞いているもの皆に嫌悪感を走らせた珍獣。
桃毛獣 ババコンガ
傍から見るとかなり異形、近寄りがたい怪鳥。
毒妖鳥 プケプケ
どのモンスターも未知の存在。分かるのは、これらに対して早急な対策が必要であるということだろう。
「……以上で大まかなモンスターの情報は終わりです。なお草食種に関しては、こちらは人間ですら狩れるものですので、これらに関しては基本的に放置とします。農作物などに被害を出した場合、その際は各々の判断で対処していただきますよう」
幻想郷にはガーグァやケルビといった小型草食種も侵入しているが、今のところ目立った被害を出している報告はなく、現状放置という形に。
ただ、紫をよく知っているものなら分かるだろうが、彼女は大方危険度の高い大型モンスターを先に処理し、草食種を後でまとめて処理するのだろう。幻想郷にこれほどの異常事態を起こした原因を、野放しにすることはありえないからである。
「それと、博麗の巫女や天狗が見たという巨大生物に関しては、目下調査中です。何か情報があれば、協力お願いいたします」
それと、未だ正体の掴めていない巨大生物。幻想郷の誰かが起こしたものなのか、それともあれもあちらからのモンスターなのか。最も調査すべき対象とも言える。
「では、何か質問のある方は?」
最初に手を挙げたのは紅魔館の当主、レミリアだ。
「単刀直入に言うけど、紫、あんたこの異変のどこまで知ってるの?」
「と、言うと?」
「とぼけないでよ。五百年前に古龍とやらの侵入を許しておいて、今度は大型モンスターの流入すら許すなんて、企みとまでは言わないけど、何か考えがあるんでしょう」
レミリアの発言に続いて、次に手を挙げたのは神子だった。
「私からも加えて問おう。魔理沙殿から貰った本には、彼らの世界にはモンスター以外に人間や亜人のような者どもも多くいると聞いたが、これから幻想郷にそれらが入ってくる可能性はあるのか?」
「それはあり得ませんわ。調査の結果から、この異変に結界の異常が関わっていることはない。従って、常識を隔てる博麗大結界は、人類のように固有の文化を持つ者たちには、開かれることはないでしょう」
そもそも結界は、動物たちには余り干渉しない。外の世界で数が減少すると幻想郷内に増えてはくるが、そうでなくとも普通に野良犬や野生動物は入ってくる。動物であるモンスターが入ってきても、さしたる影響は無いのは、結界のことを知っているものなら理解できるもの。
だがここで、思わぬ人物の手が挙がった。
「ではなぜ、あの鋼龍を野放しにしている?」
声を挙げたのは、周りの者からすると、余りにも古典的な衣装をまとっている妖怪。しかし、顔につけた鼻の長い仮面と、烏の濡れ羽色のように流麗な翼を持っているのは、現妖怪の山の当主であり、天狗の頭領でもある天魔だ。
「普通に考えて、あやつが最も怪しいだろう。そもそも奴が来たのは半年前、そして今、奴のいた世界からモンスターが大挙して押し寄せている。どう考えても、奴を真っ先に調べるべきだろう」
「あら、天狗の頭領ともあろう方が、随分あの古龍に怯えているようじゃない」
「みすみす館を半妖ごときに破壊された当主には言われたくない」
天魔と吸血鬼が睨みあう様に、参加者たちはそろってため息をつく。プライドの高い妖怪同士、こういう場所では衝突するのももはや恒例と言うべきか。
「落ち着きなさい、お二方。質問に答えましょう」
紫は二人を宥めるようにそう言った。
「レミリアの質問だけれど、この事態が〝異変〟たるのはモンスターの流入そのものではないのよ」
「……?」
「〝異変〟なのは、『なぜ多くのモンスターたちが、幻想郷にピンポイントに押し寄せたのか』。外界にも来ているのなら、外界とその世界の問題といえるけど、こうして幻想郷という異界に押し寄せたのは、何か大きな元凶があるはず。それを鎮めるのが、我々の目下の目標。古龍とはいえ、たかが一頭なら問題はないのよ。あのネルギガンテは例外だけど」
そして…と、紫は天魔に向く。
「あのクシャルダオラが来たのは僥倖よ。事実、あの個体は月の浄化から幻想郷を〝守った〟
おまけに彼女はここを気に入ってくれてる。今回のモンスターの流入が大きな被害に繋がっていないのは、あの龍のおかげとも言えない?」
「だが、異変の元凶かどうかはそれでは分からないぞ」
「ああ、それに関しては確定してるわ。元の世界で彼女は歴戦王と呼ばれ、本来永い寿命を持つ古龍が、さらに寿命を超越した個体。
でも、それだけでは彼女がこの異変を起こせることは無い。歴戦王は確かに強大無比な存在だけれど、異界の境界を弄れる力は持っていないわ」
なおも懐疑的な視線も向ける天魔に、紫は少し言うのをためらうように口を開いた。
「……それに、あの世界が原因とする世界線の交錯の原因は、もう既に判明してるのよ」
会議の参加者たちが少しざわめく。
「ただ、我々だけでは解決できる問題ではないし、あちらの世界も大きく巻き込む可能性があるから、こちらから何か出来ることは無いわ。流入そのものは止められないけど、幻想郷に対する局所的な流入の原因はおそらく別にあると推測するわ」
天魔さんの書き方に非常に苦労しました…一応今の段階では男でも女でも断定されてない、という感じです
随分雑な終わりになってしまいましたが、次章からはかなり動きます
ではまたいつか
作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。
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このまま続ける(頻度は相当落ちる
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モンハン東方で新しく書き直す
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モンハン東方はもう出さなくていい