一
「……という結果になったわ」
「ふーん」
「……あんまり興味なさそうね?」
「まあ、余り私がでしゃばるようなものでもないかなって」
神社で互いに話し合っていたのは、華扇と霊夢。既に梅雨は終わり、夏の暑さが近づいてくる弊害なのか、霊夢にあまりやる気はなさそうに見えた。
だが華扇は、霊夢の無気力さが暑さのせいだけではないだろうと、推測していた。
「そういえば、怪我の調子はどう?」
「ああ、もう全快よ。永遠亭の薬はよく効くわね」
前に霊夢が、オロミドロというモンスターに攻撃され怪我をした事は、幻想郷ではちょっとしたパニックのような自体だった。
霊夢はその年では考えられないほどの修羅場を潜り抜けてきた猛者である。それらはほとんどが人知を超えた妖怪などであり、霊夢の戦闘能力はそこらの野生動物を凌駕しているだろう。
だが今回は相手が桁違いであった。
異世界のモンスターは私が目にしているような動物とは、一線を画すような存在だったのだ。単純な戦闘力やタフネスなら、妖獣などはおろか妖怪すら超えてしまいかねない。
そしてそれらとモンスターの違いは、魔に属するか否かということ。
鬼だって明確な弱点がある。ただ炒った豆をぶつけるだけで水ぶくれが出来るし、それ系のものは見たくも無い。それぞれの妖怪の弱点さえ知っていれば、対策は非力な一般人ですら可能である。
だがモンスターは違う。言い方こそ西洋の妖怪だが、彼らは立派な生き物なのだ。弱点がないことはないが、それを突くのには相応の技術と体力が求められ、とてもじゃないが一般人に太刀打ちなんて出来ない。
ましてや霊夢が遭遇したオロミドロは、モンスターが構成する生態系の中でもほぼ頂点に位置する強大な存在。巫女という魔を封じることに特化した職業では対抗はほぼ不可能だ。よく生きて帰って来てくれた。
霊夢の調子の悪さは、それに起因するのだろう。
これまでとは毛色の違う大きな異変でありながら、モンスター相手に何も出来ないことが。最近彼女の手に負えない異変がまだ続いているのも、それに拍車をかけているのだろう。鬼巫女だの人外扱いされる彼女でも、あくまで普通の少女。精神を病むことだってあるのだ。
「今回の異変は、魔理沙に手柄を持っていかれそうね」
「もしそうなら、異変終わりの宴会は魔理沙の家かしら?」
「ええ~?魔法の森は湿度高いし、嫌だなあ」
私が出来るのは、こうして冗談を言って彼女の機嫌を少しでも持ち直してもらうこと。
命に関わる重大な怪我より、気持ちの問題の方がよっぽど対処が難しい。
「じゃあそうならないように、私も出来ることをしましょうか」
「何をするの?」
「何って、こんな大きな異変なら幻想郷側にも異常があるはず。とりあえずは、それを調べるつもりよ」
じゃあね、と霊夢は飛んでいった。飛び去って行く後姿は、いつもの機嫌を取り戻したように、紅かった。
「……私も出来ることから始めましょうか」
私は霊夢とは反対方向、あの鋼龍の巣へ足を運んでいく。
私、霧雨魔理沙は今、冥界の白玉楼にいる。
相も変わらずここには幽霊が腐るほどいる。いや幽霊だから腐ることなんてないし、あっても悪霊に堕ちるくらいだが。今の季節はもう冥界の桜は散ってしまい、あの世らしい虚しい光景が広がっているが、春の時期は本当にすごい量の桜が咲く。
とはいえ、今回は桜を見に来たわけじゃない。
ここの主か、もしくは庭師に、今回の異変の話を聞きに来たのだ。
「モンスター……ですか?」
「ああそうだ。今幻想郷中にどんどん来てるから、何か情報は無いかなってさ」
私はちょうど庭の手入れをしていた妖夢と話をしていた。
私は正直、モンスターが冥界に侵入しているとは思ってはいない。何故なら、彼らモンスターは生き物の分際であって、死の世界である冥界にはそもそも来れないだろうから。
ここに来た主目的は、白玉楼の主である西行寺幽々子に会うためだ。
彼女は八雲紫と旧知の仲である。どういういきさつで会ったのかは知る由もないが、あいつと友人の間柄なら、間接的にモンスターの異変にも知っているかもしれない。
「うーん、私はモンスターについては全く知りませんねえ」
「あれ?そうなのか。話くらい聞いてるのかと思ったぞ」
「そのモンスターという単語も初耳です。というか、今幽々子様はお留守ですよ」
「はあ、本命も空振りか……どこに行ったかとか知ってるか?」
「いえ、朝起きたらもういなくて。今日は妙に早起きですねー、とは思いましたけど」
自分が仕える主人の行先も知らないのか…まあ、妖夢ならありえるけど。
「ありがとよ、それじゃ」
私は箒にまたがり、現世へと戻って行った。
……何だか最近妙に喧しい。
幻想郷に日に日に近づいているという夏の暑さのせいではあるまい。しかとこの耳で、竜の咆哮や足音を拾った。それも、私の知らない竜の音ばかりだ。
なぜだ。幻想郷の結界とやらは、我らいにしえの竜以外の種族は入れないのではなかったのか?新しき竜が移住してきた?餌もそんなになく、気温の変化が結構激しく、妖怪という油断できない輩が大勢棲んでいるこの地にか?
正直言って、ここに移住するには無視できないデメリットが多くあるのだぞ。私のような存在であれば、向こうもそうそう手を出さないのだが。この地には、あの龍結晶のように竜を引き寄せるようなものは無いはず。わざわざここに来る理由は無いと思うのだが……
森の中から、見慣れた桃色の髪が見えてくる。妖精たちがそれに気づくと、おのずから道を開ける。
「久しぶりね。調子はどう?」
『華扇か。ああ、まあいつも通りさ』
「相も変わらずねえ」
『普通に過ごせるのが最も良い状態だからな。
ところで、最近竜がここに来てはいないか?』
華扇は少しハッとしたような顔、しかしすぐに呆れるような笑みに変わる。
「やっぱり、気づいていたのね」
『なめて貰っては困る。これでも竜種の音は多く聞いているからな。なぜ、竜どもはここに来たのだ?』
「まだよく分かっていないの。これから、来たモンスターたちにちょっと聞いてみるつもり。あなたも、何か知ってないかしら?」
『……心当たりはないな』
華扇は残念そうな顔になるが、知らないものは知らない。そもそも私は、結界とやらもよく分かっていないのだ。
『ただ、私の故郷と同じような現象が起きているかもしれないな』
「あなたのいた故郷と?」
『ああ。あの地では、強欲な龍が集めた古龍の力に惹かれて、多くのモンスターが集っていた。マグマも噴き出しているから、棲める奴らは限られていたんだが、それでも多くの竜があそこに来ていた。幻想郷でも同じことが起きていたら、多種多様な竜が来ても不思議ではない』
「そうなの……ありがとうね」
『ああ』
華扇は引き返し、森の奥へと消えていった。後にはもう、妖精の笑い声が残るのみ。
私もなにかするべきかな……いや、やめておこう。ここはあくまで妖怪どもが統べる地。今はそいつらに任せておけばいいし、対処がダメであれば私が奪ってしまえばいいのだ。
そう考えながら、私は深くあくびをした。
ここだ。ああ、間違いない。鼻と胸から肺に流れるエネルギーは妖しい力を持ちながらも、確かに私が求めるそれも秘めていた。警戒せざるを得ないが、こんな空よりはるかにマシではある。
穢れなど知らないような青空を離れ、遥かなる幻の空へ、それは半ば必然のように引き寄せられていた。
天に棲む者どもすら見えぬ、大気圏に不吉なまでの赫い軌跡を残し、やがて西の風が運び去っていく。
これからちょっと更新ペースが遅くなるかもです。
ではまたいつか
作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。
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このまま続ける(頻度は相当落ちる
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モンハン東方で新しく書き直す
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モンハン東方はもう出さなくていい