何もない草原に、一本の川が流れる。当たりは常に昏く、幽霊が放つ火の影響もあって、この世のものではないように感じられる。
まあそれもそうだろう。何故ならここは三途の川。死した人間の霊魂が運ばれる場所なのだから。
以前は結界の力が強く、私みたいな生者は入れなかったのだが、春雪異変からは幽冥の結界が薄くなり、割と気軽に来れるようになった。
とはいえ、あまりここには来たくない。魔法の材料になるものがあるのならいざ知らず、まだまだ私は生きてる人間。ここに来るのは早すぎるし、何よりいて居心地の良いところではない。
じゃあ何で来てるのかって?
川岸で幽霊と話してる華胥の亡霊に会うためだ。
「よう、幽々子」
私が名前を呼ぶと、幽霊と戯れていた女性―西行寺幽々子―はこちらに振り返った。美しくも、生きている血色ではない白い柔肌と、優しげな顔が視界に入る。
「あら、魔理沙じゃない。珍しいわね、こんなところにいるなんて」
「まあな。そういうお前も、三途の川で何してたんだ?」
幽々子は先ほどまで話していた霊魂に語りかけると、霊魂はフワフワと上下に動く。会話しているのだろう。
「この子は三日前にここに来たの。見たことない青い妖怪達に襲われてね。それはもう、痛かったらしいわ」
「おい、それって」
「この子を冥土に送ったのはモンスターよ。ランポス?だったかしらね」
その名は知っている。編纂書にも書かれていた、小型の肉食竜だろう。鋭い爪をもち、集団で獲物を襲う知能の高いモンスターだ。幻想郷にも来ていたことは知っていたが、既に人を襲っていたとは。
「……なんでお前は動かないんだ?」
「動くって?」
「どうもこうも、モンスターだよ。お前が動けば、あいつらをすぐに殺せるだろ?」
西行寺幽々子は、死を操る程度の能力を持っている。生きているものなら問答無用に殺せるような、美しい彼女の見た目に反して凶悪な能力だ。モンスターも生き物であるため、幽々子の能力を以てすれば赤子の手をひねるくらい簡単だろう。
「それは出来ないわ」
「なんでだよ。お前がもっと早く動いていれば、その幽霊だって死なずに済んだだろ」
「……随分命の価値を軽々しく口にするわね」
「あー?」
幽々子は懐から扇子を取り出し、口元を覆う。その艶姿は妖艶でありながら、どこか底知れない恐ろしさを感じた。
「そもそも地上は強いものが生き延び、弱いものがその糧となる弱肉強食の世界。それは命ある所の不変の鉄則。竜の世界は特に顕著だけど、それは幻想郷だって同じよ。少し、システムが違うだけ」
妖しい雰囲気に、私は思わず唾を飲む。
「私は確かに死を操る亡霊。でも地上の生命を無理やり殺すのは、死の世界の住人としてはタブーなのよ。だからこうして冥界があり、幽霊が地上に溢れないようにしている。違う?」
「……それで人妖が多く死んでもか」
「これくらいのことは地上がやるべきことよ。亡霊に頼むのは筋違いも甚だしいわ」
気づけば辺りの空気はより一層暗くなり、濃厚な死の匂いに包まれていた。幽々子のタブーに触れてしまったのを、今さら後悔する。
「……まあ、本音を言えば手を貸すのもやぶさかではないのよ?だからそんなに身構えないで頂戴」
先ほどまでの重苦しい空気は晴れ、いつも通りの三途の川の風景に戻った。
「最初は私も手を貸すって言ったのよ」
「それは紫にか?」
「ええ。でもそしたら彼女、急に真剣な顔になって『もうそんなことはしないでほしい』って言われてね。意味はよく分からなかったけど」
「……もう?」
幽々子は扇子を懐にしまい、いつもの飄々とした雰囲気に戻っていた。
「残念だけど仕方ないわよね~、親友の頼みだもの」
「……まあ、それならいいぜ」
「あーあ。私もあっちのモンスターのお肉食べてみたかったな~」
一時はどうなる事かと思ったが、幽々子の発言にずっこけるくらいの日常には戻ってこれた事に、私は内心安堵した。
帰る頃には既に日はもう沈みかけていた。家に着く頃には夜になっているだろうが、そこら辺の妖怪風情なら何も問題はないだろう。
……いや、今警戒すべきなのはモンスターの方だった。寺や霊廟、紅魔館や白玉楼の連中に聞いた限り、私が拾ったものに書かれていないモンスターを、奴らは知っているらしい。大方紫の仕業だろう。…何だか私だけ損した気分だ。ついでに、やっぱりあのクシャルダオラは特異な奴だったらしく、何だかすごい量と純度の古龍エネルギーを摂取した、元の世界では歴戦王と呼ばれていたらしい。
まあ、何も知らないでいるよりは知っていたほうがいいだろう。これまでの異変みたいに、行き当たりばったりで倒せるような奴らじゃないのは私が一番よく知っている。
あの霊夢があそこまでやられたんだ。もしあのオロミドロと戦い続けていたら、私と霊夢は死んでいただろう。そう思わせるほど、あいつは強かった。弾幕ごっこにはない、確実な死。……あの時私は、それに怯えてしまったのだ。
そして、直後に地から姿を現した、あの謎の龍。
並々ならぬあの絶対的な存在感。神様や妖怪じゃない、もっと原始的な威圧感。例えるなら、あのクシャルダオラに近いものだ。
「……ふふっ」
それもそうか。あんな奴らがわんさかいる世界で、王の名を冠する程の実力を持てるのなら、あいつも相当な努力を積んだのだろう。文字通り血反吐を吐くような、幾多の死線を潜り抜けた存在。
そうだな、こんな弱気になるのは私らしくない。
今回の異変では、霊夢は余り活躍できないだろう。というか、出来る限りしないでほしい。もう、あいつのあんなところを見るのは嫌だから。
私が引っ張るんだ。魔法ならば、あいつらにも効く。モンスターのタフネスを突破できるのは、私の火力あってこそ。
「よし!」
私は速度を上げて、家へ急いだ。
まずは研究だ。魔法の火力を上げるのだ。研究材料なら、あっちから来たキノコが沢山ストックしてあるし、必須そうなニトロダケやらは多めにある。香霖の所にも行って、八卦炉を改造してもらうか。あいつは面倒くさがるだろうが、今は緊急事態だ。妖怪用のものでは火力が足りない。
扉を勢いよく開け、研究室兼私の部屋にこもる。昨日から広げっぱなしの研究に手をつける。
組成は何が良いか……ニトロダケにアオキノコを入れて増強させるか?回復用にも使えるらしいし、また補充しないとか……
誰も寄り付かない魔法の森で、私は夜明けまで作業を続けた。
綺麗な星の光を見ながら、静寂を楽しむのが、ここに来てからの私の楽しみの一つであった。
ただ、最近は竜どもの咆哮もあってか余り楽しめてはいない。煩わしいことだ。もし妖怪どもの目が無ければ、即刻全て吹き飛ばしていた所だ。
……妙に最近気が立つな。たがたが竜どもに趣味を邪魔されたところで怒ることなぞ、若輩者のやることだというのに。いかんいかん、平静を保て。平常でなければ思わぬところで深い痛手を負うのは分かり切っているだろう。
だが、何も出来ないのも少々ストレスだ。華扇は色々面白い話を聞かせてくれるが、最近あまり来ない。竜にかかりきりなのだろう。
私がやれば一瞬だろうが、妖怪どもがやかましいしなあ……もどかしいものだ。
まあ、なにかやって気を紛らわせるか。
故郷にいたころは、岩賊竜を転がしたりして遊んでいたのだがな。
そういえば、妖精たちが時々綺麗な弾を当てあうじゃれあいをしていたな。あれも見てみるか。うん。
とりあえず今は寝るとしよう。
幽々子様はああいう底知れなさなのだと思います。本気で怒ってるように見えて、全く本気じゃないっていう。
そしてクシャが弾幕ごっこに興味を持ち始めたようで……あれ、この小説の主役って誰だったけ?
ではまたいつか。
作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。
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このまま続ける(頻度は相当落ちる
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モンハン東方で新しく書き直す
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モンハン東方はもう出さなくていい