鋼鉄は泡沫の幻想に坐す   作:柴猫

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幻想郷において唯一の人間の集落、人里。

ただ里と呼ばれるこの集落に決まった名前はない。誰も困らないので固有の名詞を持っていない。幻想郷という風土を見れば、それもむべなるかなではあるが。

 

 

そんな里の一角の、こじんまりとした本屋に客が一人来店する。

 

「いらっしゃ……何だ、阿求か」

 

「ねえ、まだそのいじり、続けるつもり?」

 

店番である本居小鈴と、現稗田家当主の阿求のいつも通りの掛け合い。違うのは、阿求の表情が少し硬いところか。

 

「そうだ、あんたが頼んでた奴だけど」

 

「!何か分かったの?」

 

いつにもなく阿求が興奮して小鈴に近寄る。

 

「一年くらい前かな。魔理沙さんが写本に持ってきた本があるんだけど、そこに載ってる奴らが話題の妖怪たちにそっくりなのよ」

 

小鈴が一冊の本を机から取り出し、適当なページをめくる。めくられたページには、青い鳥竜の姿が描かれていた。

阿求はそれを熱心に見つめる。

 

「間違いないわ、猟師が狩ってきた死体とそっくり……小鈴、魔理沙さんはこの本をなんて?」

 

「ええと、『森に面白そうな偽書が落ちてたから、製本してそこら辺の奴らに売りたいんだ。印税はあげるぜ』って言ってたわね」

 

「それって妖魔本の類?」

 

「いや、原本は普通の本だったけど」

 

阿求が頭を抱え、熟考し始める。

そう、彼女らが調べているのは最近出没したという新種の妖怪。里の住民はそう思っているが、九回の転生を経て妖怪を見てきた阿求は、ただの妖怪騒ぎではないと踏み、こうして独自に調査をしている。

 

「……森で拾ったってことは、付喪神化したのかしら。いや、だとしても数が大きすぎるわね」

 

「それに、目撃されている奴らの中にはこの本に書かれていない奴らもいたから、多分付喪神の可能性は低いんじゃないかしら」

 

小鈴は半ば好奇心で阿求の調査を手伝っている。最初は阿求から反対されたが、こうして有力な情報を持っているあたり、ただのお荷物にはなっていないようだ。

 

「うーん、寺や山の神社で情報が出されてはいるけど、どうにも信用出来ないのよね。小鈴、今度魔理沙さんが来たら詳しく聞いてくれる?あ、でも首は突っ込みすぎないでね」

 

「最後のは余計よ。まあでも今度詳しく聞いてみるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻想郷の実力者たちは、モンスターを舐めていた。

 

人間が狩れるのなら、人より上位の存在である妖怪には大した障害ではないと高を括っていたのだろう。

ネルギガンテという例外が侵入してきた事態はあれど、例外すぎるがゆえに大した準備を進めていなかったのだ。

 

 

 

結果として、かなりの妖怪が死んだ。

 

久しぶりに存分に腕が振るえると驕った鼻高天狗は、千の刃に五臓六腑を引き裂かれた。

竹林に住まう古の妖怪たちは、凝り固まった先入観にとらわれ、蒼い雷に打たれた。

野良の妖怪たちも、獣らしい考えで突っ込み、泥寧に沈んだ。あるいは、群れで襲われ生きたまま肉を貪られた。

 

 

人知れず狩られた妖怪や獣たち。

しかし、消えたやつらは弱かった。他者と関われる者が、その利点を捨てて挑めば強大な個に敗れるは半ば必然。それだけの話。

 

 

 

 

だからこそ、もう油断はしない。

 

どんな生態を持っているかは、先に死んだ彼らが身を持って示してくれた。それが何者かの作為的なものであったとしても、遺された情報は有効活用しなければならない。

 

 

そしてそれを活かす準備も、すでに出来ている。

 

 

 

 

 

 

妖怪の山の一角に、多くの天狗が集まっていた。俊敏性を無駄なく活かせるような軽装鎧に身を包み、ただの哨戒任務とかでは決してない雰囲気。

 

「これより我々は天魔様の命より、千刃竜の討伐作戦に赴く!」

 

部隊を率いているのは、射命丸文。いつもの新聞記者としての姿はどこへやら、戦闘用の服装に身を包んだ本気の姿。

 

「かの竜は我らの領地を侵し、挙句に鼻高天狗殿の命すら葬った。これは天狗の支配体制確立以来の由々しき事態である!」

 

射命丸が団扇を掲げ、風を起こした。風は天狗たちの頬を撫で、彼らの顔を引き締めさせる。

 

「我らの力を以て、かの不埒な侵入者に裁きを与えるぞ!」

 

おおおおお!!と、勇ましい掛け声が山に響く。

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって玄武の沢。

 

河童たちの住処には誰もおらず、一頭のヨツミワドウが川底に嘴を突っ込んでいた。好物のウリナマコを求めているのだろう。

 

だがいくら川底に目を凝らしても、好物の緑色のそれは見つからない。彼らが来たと同時にモンスター以外の生物も多く来たのだが、ウリナマコには幻想郷の環境は合わなかったようだ。

大陸を渡ってまでウリナマコを求めた執念は流石というべきか。一向に好物を口に出来ないことが、ヨツミワドウにはストレスとなっていった。

 

 

そんなヨツミワドウの視界に、川岸に積まれた大量のキュウリが目に入った。腹ペコからか、ヨツミワドウの目にはうず高く積まれたウリナマコに見えたのだ。

 

這ってキュウリのもとへ進む。キュウリは目前に迫っている。

 

 

 

 

ヨツミワドウが進んでいた川底が、突如沈んだ。

正確には、仕掛けてあった落とし穴が作動した。突然の異常事態に、ヨツミワドウは暴れてその場を脱しようとする。

 

 

そして暴れる河童蛙の周囲から、河童たちが虚空から出てきたかのように出現した。

 

「今だ!全員総攻撃!」

 

 

光学迷彩を解除した河童たちが握る水鉄砲から高圧縮の水が、ヨツミワドウに襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

「よーし、みんな集まったな!」

 

霧の湖の畔では、チルノを筆頭にして妖精たちが集まっていた。クシャルダオラの周りにいるほど多くはないが、それでも五十は超えているだろうか。

 

「大ちゃんが集めてくれた本に、あのモンスターはらんぽすとかいうらしい。これ以上湖で勝手なことをされたら、あたいたちはろくに遊ぶこともできない!」

 

そう、湖の周辺ではランポスたちが大量に巣を作っていた。今は群れを統率するリーダーがいないのが幸いだが、もしこれ以上に統率の取れた行動をするようになれば、湖周辺の生態系は大きく変わってしまう。

妖精たちは自分の気質に合うところにしか住めない為、湖に住めなくなるのは死活問題なのである。こうして妖精たちが一堂に会しているのも、ある意味異常事態ではあるが。それほどひっ迫しているということなのだろう。

 

「妖精だってやるときはやるんだ!あたい達の力見せてやるぞー!」

 

おー!と妖精たちが手を掲げる。一見かわいらしく見えるが、彼女らの決意はかなり固いものであろう。

 

 

 

なおこの後作戦決めに一時間かかり、ランポスの群れからかかってきたので混戦になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寺の下に位置する、本来ならば巨大な地下空間のはずの場所は、荘厳な霊廟が並ぶ美しい場所だった。

 

 

 

神霊廟。

高貴な血筋である仙人、豊聡耳神子が居とする場所である。

そのとある一角において、神子の前に侍る者がいた。

 

「布都よ、それは本当なのですね」

 

「はい、確かに」

 

彼女の名は物部布都。尸解仙である仙人である。豊聡耳神子の片腕であり、かつては神子の為に自ら命を投げ捨てた程である。

 

「……あの地震が起きた直後でしょうか。龍脈が異常な活動を見せているのです。本来の脈動の波長が極めて大きなものになり、また龍脈の揺らぎも一定の場所で止まっているような……固定化しているようなのです」

 

布都は風水師でもある。世界に流れるという龍脈の流れから、繁栄するとされる場所を見極める職である。彼女は一週間前の地震から、幻想郷を流れる龍脈の異常に気付き、それを主に申しているのだ。

 

「思えば、あの地震の直後にモンスターたちが湧いて出たように現れた。巨大な龍と思しきものを見たという噂も聞きましたし、龍脈の異常も無関係ではないでしょう」

 

太子は少し考え、布都に命じる。

 

「物部布都。龍脈の異常を調べ上げ、結果を報告しなさい。お前でダメな相手であれば、すぐに戻ってくるように」

 

「はっ」

 

布都はすぐに御前から退出し、龍脈の調査へ出かけた。

 

一人、残された神子は口を開く。

 

 

 

「こんな異常事態であるのに、師匠はどこに行ってるのでしょうか。ま、そのうち戻ってくるとは思いますけど」




次章から本格的に戦闘ですね。待たせてしまい申し訳ないです。

ではまたいつか

作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。

  • このまま続ける(頻度は相当落ちる
  • モンハン東方で新しく書き直す
  • モンハン東方はもう出さなくていい
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