一
「もう、本当にタイミングの悪いこと」
まるで生き物のように大きく揺れ動いている細長い洞窟の中、一人の女性が青い白いひかりを纏い、洞窟を小走りしていた。
青い髪を後頭部で輪にし、羽衣をまとった姿は天女のよう。見た目だけで判断するなら、なぜこんな地の底にいるのかが不思議なくらいである。
霍 青娥。目的のために手段を選ばないその性格から邪仙と呼ばれ、ずっと地上に残っている仙人。地獄からも追われる身であるが、それでも彼女は未だに地上で生き残り、非道なふるまいを続けているという。
頭につけた簪を抜き取り、すぐそばの壁へと押し当てる。
「まあ、良しとしましょうか。良いものを見つけましたし」
青娥の手に収まっているのは、美しい輝きを放つ結晶。質屋に出せば間違いなく高値がつくような、美しい玉石。
ただ、彼女はこの結晶がただの宝石ではないことを見抜いていた。
「ここまで純度の高い石桜……どう使いましょうか?」
艶やかでありながら、背筋を粟立たせてしまうような笑みを浮かべ、青娥は穴の空いた壁に入っていった。
穴が無くなってからしばらくして、小さな洞窟は完全に崩落した。
幻想郷を襲った、二度目の大地震。
霊夢と魔理沙は空を翔け、遠方に見える竜の頭のようなものを目指している。
今飛んでいる間も龍は動き続けており、そのたびに地が震えているのが分かる。
幻想郷に在来の龍か。いや、龍は相当の巨体を持っているが、皆あそこまで巨大ではない。東洋の龍は蛇が成長したものであり、細長い体つきをしているのだ。
では西洋の龍がやってきた可能性は、恐らく最初からない。
ここはあくまで龍神様の統治する地域。西洋からの竜が来たとなれば、龍神が黙っていない。
今までの状況から見て、考えられるのは一つだけ。
「あれも、古龍なのかしら」
「多分そうだろうぜ。頭だけであのデカさなんだ、胴体も入れたら相当なものだろうな」
魔理沙と霊夢はそう言いながら、高速で空を飛行する。二人ともかなりのスピードが出ているが、それほど本気なのだろう。そのとんでもない速度に、鳥たちも驚いているようだ。
「早くどうにかしないとね……!」
そうだな、と魔理沙が頷き、更に速度を上げた。
しかしその矢先、巨龍が動きを止めた。山すら飲み込んでしまいそうな咢が開かれ、口内の闇があらわになる。
次に、口から黄色い液体があふれ出てくる。地面に落ちた巨大な滴が、木々を根こそぎ溶かし、地面に大きな穴をあけていく。
二人はその様子を見て急停止し、霊夢は防御用の術式を作り出す。
「あいつ何をする気…?」
次第に龍の口内は黄色の液体で満たされ、明らかにまずい雰囲気を漂わせている。
そして龍が、口を閉じる。
次の瞬間、開けられた咢から超巨大なブレスが放たれた。
「避けて!」
生来の勘が警鐘を鳴らしたのか、霊夢は展開していた防御術式を捨て、上空へ避難した。魔理沙も一歩遅れて追随する。
最初からブレスは霊夢たちを狙っていなかったようで、眼下の森の一角に着弾した。
着弾した地点から、大規模な爆発が森一帯を襲う。爆風は高度を高く維持していた二人にも襲い掛かり、周囲の木々を跡形もなく消し飛ばした。
未だ彼女たちが見たことのない、森にぽっかりとあいたクレーター。魔理沙のマスタースパークを鼻で笑うような超威力に、二人は唖然とする他なかった。
ブレスを打ち終わった龍は、口の隙間から硫黄色の煙を残しながら地に沈んでいく。
「おい、あいつが逃げるぞ!」
二人は龍のもとへ急ぐも、時すでに遅く、龍は大地へと沈んでいってしまった。
霊夢と魔理沙は歯がゆい思いで地面を睨んでいたが、地面が次々と隆起を起こしながら西の方へと向かって行くのが見えた。
「そっちね!」
異変解決者たちは再度急加速し、地の下の巨龍を追った。
地中を潜航する巨龍の後を追跡する二人。巨龍もかなりの速さで潜航しているらしく、少し速度を緩めれば逃がしてしまうだろう。
あの威力のブレスを放つ存在をこれ以上野放しにすれば、どれほどの被害につながるのか。少なくとも、直接的な被害では類を見ないことになるのは、火を見るよりも明らかだ。
魔理沙は地面に向かって魔法を放ち、巨龍を引きずり出そうとしているが、隆起した地面を貫通して直接ダメージを与えるのは、ここまで高速で移動しながらだと困難。
そして最悪の光景が、霊夢の目の前に広がっていた。
「!まずい……!」
巨龍の進行方向には、人里が位置していたのだ。このまま行けば、巨龍は地下から人里に被害を与えてしまうだろう。
いや、被害どころではなく、最悪それだけで里が再生不可能な状態になる可能性もある。
「おい霊夢!早くこいつを止めないと!」
「そんなこと分かってるわよ!でも、どうすれば……」
二人が悩む間にも、地面の大波は里へと迫っていく。
「里の皆に避難するように言ってくる!霊夢は何とか足止めしてくれ」
「無理よ!あいつのスピードから見れば、避難する前に里が呑まれるわ!」
「言わないよりマシだ!それとも、あいつをこの場で止められるのかよ!?」
地面の隆起の異常に、ようやく人里の住人も気づいたようだ。慌てて逃げようとするが、もう間に合わない。
突如として、大地から岩の大壁が出現し、地の下の巨龍が激突した音が響いた。
「な……」
パニックになる里の住人の姿を尻目に、霊夢と魔理沙は大壁の上に立つ者を見る。
「やあやあ、元気そうだね二人とも」
壁の上に立っていたのは、特徴的な帽子を被った小柄な少女。だが二人は、彼女の正体が外見ほど穏やかではないことを、弾幕を通して知っている。
「諏訪子じゃない!あんたどうして」
「いやいや、あんなバカでかいやつに気づかない方がおかしいでしょ。里が潰れたら困るし、ちょっくら参上した次第よ」
諏訪子はいつも通りの態度で霊夢と接している。こんな異常事態でも落ち着いているのは、土着神の頂点たる力の表れか。
巨龍の進行を止めた祟り神に続いて、続々と多くの者たちが参上する。
守矢神社の一柱に現人神。命蓮寺の面々に、天狗や河童といった山の妖怪たち。全部数えればかなりの数になるだろう。中には紅魔館のメイド長や、冥界の庭師の姿も見えた。
「ん?天狗や命蓮寺の奴らは分かるが、なんでお前らが来てるんだ?」
「本来ならばお嬢様が来る予定だったのだけれど、今は昼でしょ?だから代理で私が来たの」
「お前んとこの主は難儀だなぁ」
魔理沙が咲夜と話していると、そばから妖夢も話に加わる。
「咲夜さんもそうなんですか」
「あれ、あんたもいたの」
「ええ。幽々子様から『地上で珍しい食材を持ってきて』、と言われたので降りてきたら、何だか騒がしかったので付いてきたんです」
相変わらずの無茶ぶりに振り回されているようだが、本人達は特に気にしていない様子だ。元からこんな調子であるので、特に突っ込むようなことでもないが。
四人が話している中で、それに口をはさむ者が出てきた。
「皆さん気が緩みすぎですよ……もう少し真剣になりましょうよ」
「ふふ、確かに気を緩めすぎではあるかな」
早苗の呆れに、神奈子も同調する。
それに比べて天狗たちは整然と隊列を組み、巨龍への攻撃準備を整わせている。隊を管理する射命丸も、千刃竜の時よりも心なしか気が張りつめている気がする。
命蓮寺の妖怪たちも同じく気を引き締めており、遅れて人里の方から一輪が飛んで来た。決して遅刻なぞではなく、住人に対し避難勧告をしていたのだろう。見てみれば、人々が全力で里の反対側へ走っているのが分かる。
「……全員、そろそろ奴が出てくるよ」
諏訪子の言葉に、それまで話していた彼女らも戦闘の準備を一瞬で整える。
そして諏訪子の言葉通り、巨大な頭が地から出てきた。山とも見まがう巨頭に、全員が驚きの声を上げる。
だが彼女らは、再度驚かされることになる。
巨龍の頭のそばから、鈍い青色の柱のような物が四本飛び出してきたのだ。それは途中で折れ曲がり、まるで足のように地面についていた。頭部は地面から這い出てくるように見えるが、あるはずの首は一向に見えない。
代わりに再び、二本の柱が出てくる。先ほどのとは違い、先端は二股に分かれていた。
遂に正体を現した巨大龍は、しかし龍ではなかった。
その正体は、
砦蟹 シェンガオレンであった。
最近蟹食べてないな……
ではまたいつか
作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。
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このまま続ける(頻度は相当落ちる
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モンハン東方で新しく書き直す
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モンハン東方はもう出さなくていい