「うそだろ……」
隣の魔理沙がそう呟き、呆然としている。他の妖怪たちも、同じように固まっている。
それもそのはず、私たちが巨大な古龍だと思っていたのは、とんでもないサイズの蟹だったのだから。
海のない幻想郷でも、サワガニくらいは見かけたことあるし、華扇やレミリア達が外の世界から大きな蟹を持ってきたことはある。
ただ、これは蟹がどうとかいう次元ではない。
もはや砦そのものが動いているかのような威迫、そして重量。一歩踏み進めるだけで小枝のように木々がへし折れ、小規模な地震を起こす。
まさに生きる天災。私たちに止められるのかどうかも分からない。
でも、やるしかない。
私はあのモンスターを良く知らないけど、それでも倒すことはできるはず。今までだってそうやってきた。
大丈夫、自信を持て。私は博麗の巫女だ。
「魔理沙、行くわよ!」
「!ああ、任せとけ!」
私と魔理沙は巨大蟹に射程距離まで近づく。
「!巫女が動いた。総員攻撃開始!」
射命丸が天狗の部隊に指示を飛ばし、妖術による攻撃が蟹に襲い掛かる。
「よーし、私たちもやるよ!」
河童たちは地上から、見慣れない大砲を用いて攻撃する。恐らく河童蛙の嘴を用いた新兵器だろう。
「私たちも行きますよ!」
寺の連中も各々の武器を用いて攻撃を始める。山の三柱も乾坤と奇跡の力を振るい、庭師とメイドも巨大な脚に刃を向けた。
岩壁の破壊に集中している巨大蟹に、魔力的な攻撃の嵐が襲い掛かる。
元々の巨体も合わさってか、外れた攻撃は無かった。辺りにもうもうと地煙が漂う。
「よし、やったか?」
アンカーを飛ばしていた村紗が、攻撃の当たり具合を見てそう言う。確かにあの規模の攻撃をまともに食らえば、如何な大妖怪であれ再起不能に陥るだろう。それくらい本気の威力だったのだ。
「……いや」
土煙から、青銅の脚が大地を抉る。
巨大蟹は、全くの無傷だった。青銅色の外殻はなんら変わりないように鈍く輝いており、朽ちているように見えたヤドの頭骨も同様で、表面のコケを削ぎ落とすのが精一杯だった。
「……割と強く撃ったつもりなのだが……」
「防壁も、もうあと一撃でダメか」
加えて、そいつは私たちに対して反撃の姿勢を見せておらず、未だ壁を破壊することに専念している。その岩壁もそこかしこにひびが入り、あと一撃で粉砕されるのは明らかだ。
だが何も攻撃が入らなかったからといって、それで諦めるほど私たちもバカじゃない。他の奴らもそう。これで万策尽きるほど、幻想郷の者たちは浅くはない。
「作戦変更だ!諏訪子はもう一度壁を作れ。なるべく頑丈にな。早苗は後方から援護を頼む」
「あいよ」「了解です!」と、守矢の神々は流石のチームワークを発揮する。
しかしそれなら、山の妖怪たちも劣ってはいない。
「天狗隊は奴の上に回れ。風で奴の進行を妨害しろ!河童たちは引き続き奴の脚を、なるべく関節を狙え」
天狗の顔をあらわにした射命丸が、迅速な判断を下し、指令を出す。
「よーし、私もちょっと試したいものがあるんだ!」
魔理沙もそう言って、前方に飛び出していった。
彼女らが一斉に行動を始めたと同時に、巨大蟹の前方にモクモクと雲が膨れ上がった。それは徐々に人の形を成していき、巨大蟹は不思議そうにその様子を見つめる。
見越し入道の雲山と、それを扱う一輪が共に巨大蟹に立ちふさがる。
「私と雲山があいつの注意を引く!姐さんたちはその隙を突いてください!」
一輪の作戦に、寺の妖怪たちは一斉に攻撃を始める。
その中で最も早く先手を打ったのは、聖白蓮だった。肉体強化魔法をフルに活用し、巨大蟹の胴体へ一気に迫る。
「セイッ!!」
振りぬかれた拳は蟹の甲殻を叩き、その衝撃を内部まで届かせた。巨大蟹が少し動きを止めたが、即座に攻撃してきた白蓮を押しつぶそうと左前足を上げた。
それを阻止すべく、蟹の体高とほぼ同じにまで巨大化した雲山が左前脚を持ち上げる。不安定な態勢の巨大蟹が、雲山をどかそうともがく。だが雲の体である雲山に対して、鋏による物理攻撃はほとんど効いていない。
その隙を狙って、左後脚に何百もの御柱が命中する。御柱の当たった部位が真っ赤に腫れ上がったかのような色へ変色した。
そしてその脚が力なく地面につく。前へ押し込む雲山と白蓮に、巨大蟹は右の脚で抵抗する。
「撃てー!」
踏ん張り続ける右前脚の関節に、水弾が撃ち込まれた。河童の技術力か、または素材となった河童蛙のおかげか、威力の高い砲弾を食らった右前脚の踏ん張りが弱くなる。
「押せー!」
上空から援護していた天狗たちが右前脚に張り付き、左のそれと同じように持ち上げる。妖怪の上位者たる天狗のパワーも相まって、巨大蟹はバンザイをしているかのような格好に陥る。
残すは右の後ろ脚。
「よっしゃ行くぜ!」
それを予期していたのか、魔理沙が後ろ脚へ得意のマスタースパークを放った。手加減なしの、山の表面を焼き払うほどの火力を、右後脚に集中させる。
魔力が尽き、白煙を上げる脚。だがそれでも巨大蟹は脚を崩そうとしない。充血しようがそれを我慢して、必死に押し込まれないように踏ん張る。
「ちっくしょう!いけると思ったんだがな」
「いいえ、上出来よ魔理沙」
渾身の魔法を使った魔理沙に私はそう呼びかけ、あらかじめ
「〝
左前脚が位置する地面に穴が開き、蟹の脚がそれに嵌まる。
「お願いです、ミシャグジ様!」
早苗がそう祈祷すると、大地から岩塊で構成された大蛇が現れた。諏訪の祟り神は蟹の前足に絡み付き、天石門別命の作った穴から出れないように拘束する。
巨大蟹は妖怪たちの力に押し負け、地面にひっくり返された。無防備な胴体が露わになり、蟹は必死に脚をバタつかせもがく。
「今だ、総攻撃!」
弱点をむき出しにした蟹へ、私たちは一斉に攻撃を仕掛けた。
シェンガオレンの放った酸弾によって、破壊された森の一角。
その威力は地面ごと森を消し去り、直撃しなかった木々も無残な姿になってしまった。
そんな惨状に、いち早く駆け付けた存在がいた。
その様子を見ていた妖精、そしてクシャルダオラである。
ただの頭骨となった巨龍の頭蓋から放たれた酸弾は、彼女の縄張りを大きく外れた場所に着弾した。彼女の縄張りで遊んでいた妖精達は非常に怯えていたが、彼女自身は特に動ずることは無かった。
爆発が起きてからしばらくして、数匹の妖精達が興味を示して着弾場所へ向かった。他の妖精達も羊の群れのようにそれにつられ、ついに彼女も追ってきた、というわけである。鋼龍にとって、自身を動かすのは大規模な爆発よりも、妖精の動向であるようだ。
目の前に広がる光景は、さしものクシャルダオラにも衝撃的であった。
酸弾の破片が付着した木々は奇怪な形状へと成り変わり、多くの物体を溶かしたような異臭が彼女らの鼻腔をつく。
大きく抉れた土壌は、もはや再生不能なのは明らかであった。スケールこそ大きくかけ離れているが、泥翁竜の液体と同じように、ここは死の大地へと変わってしまったのだ。
クシャルダオラは地面を爪で引っかき、手に乗ったグチャグチャの土を眺める。かなりひどい匂いがする。予測するに、地面に含まれていた有機物すらも溶かし尽くしてしまったようだ。
彼女はそれを地面に投げつける。ふと、自分の腕を見てみると、僅かではあるが表面が溶けていた。
クシャルダオラは向き直り、遠方で再び放たれた酸弾を目にする。
それを見て、彼女の胸中にふつふつと何かが沸き上がる。この幻想郷に来て彼女が初めて抱き、かつての故郷で若き日の彼女が日常的に振りまいていたもの。
鋼鉄は天へ叫んだ。金属音交じりの咆哮に、空は隠れるように暗雲へ消えた。
程なくして暴風雨が幻想郷へ襲い掛かり、妖精達が目をつぶる。
王は天へ舞い昇り、烈風の鎧を身に纏った。雨粒がそれを避けるように落ちる場所を変える。
鋼鉄と暴風の王は、己が領域を侵す不埒者へ鉄槌を下すべく、黒雲を走った。
早苗のミシャグジ様降ろし。一応設定見る限り早苗も諏訪子の血を引いてるから出来そうなんですけどね。ただ本人とは雲泥の差ですけど。
ではまたいつか。
作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。
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このまま続ける(頻度は相当落ちる
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モンハン東方で新しく書き直す
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モンハン東方はもう出さなくていい