鋼鉄は泡沫の幻想に坐す   作:柴猫

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巨大蟹の胴体に、数え切れないほどの傷が走る。御柱と岩塊が甲殻を叩き、風刃と金属の刃が露出した関節部分を斬る。比較的柔らかい部分の甲殻を拳が砕き、星の魔法、それと燃えるお札が肉を焼く。

 

 

 

 

 

ギギシャァァァァァ!!

 

巨大蟹がヤドの頭骨を振るわせながら、横へもんどりうちながら体勢を立て直した。私たちは即座に後退し、巨大蟹を再び見据える。

 

かたにくや脚のつなぎ目から青い血がだらだらと流れる。心なしか足取りが重くなっているように思う。どうやら総攻撃は十分に効いていたようだ。

しかし、手放しに喜んではいられない。口の部分からは激しく泡が吹き出ており、鉄柱のような鋏を大きく掲げている。感情のない目からつかみ取るのは難しいが、本気で私たちを敵視しているのは間違いないだろう。

 

 

巨大蟹は大きく脚を踏み鳴らし、鋏をこちらに向かって振りまくる。雑な狙いだが、当たれば一撃でくたばるのは一目瞭然。皆回避や防御に徹している。咲夜は瞬間移動を駆使して、的確に避けつつ投げナイフの反撃を行ってはいるが、金属よりも硬い蟹の甲殻には全くダメージを与えられていない。

 

蟹の方も振り回すばかりでは埒が明かないと分かったか、こちらに対して横向きになりつつ脚を大きく上げた。

そして勢いよく振り降ろす。傷ついているとは思えないほどにまで体重が籠った一撃。正面にいた天狗と河童たちが余波に巻き込まれ、大きく吹き飛ばされてしまう。

 

「全員一か所に留まるな!散開しろ!」

 

一撃で戦闘続行が出来なくなった妖怪たちを見て、神奈子がそう叫ぶ。諏訪子が十数匹のミシャグジを呼び出し、巨大蟹へ攻撃させる。

散開する私たちに対して巨大蟹は鋏で地面をつかみ取り、大岩を持ち上げる。そうしてそれらを私たちに投げつけた。寺の連中が何発か当たってしまい、地面へと落ちる。

 

「ナズーリン!星!」

 

白蓮が落ちてゆく弟子たちへ駆けつける。

 

巨大蟹は自身に纏わりつくミシャグジを鋏で握りつぶす。破片がばらばらと土に還り、巨大蟹が歩みを進めれば、その破片も小石へと砕ける。

ガチガチと鋏で空を断ちながら、蟹は私たちへ突進する。私は近づいてくる奴の目に、火属性のお札を投げた。

 

元々私のお札は相手を追いかける追尾性能を持たせたものだ。精神的な攻撃に弱い妖怪たちを退治するために作ったもので、なまじ動物の形質が強いあちらのモンスターには全く効果はない。

だが、あちらの世界に存在するという魔法モドキを利用した札はそうはいかない。妖怪退治用に使うには威力が高すぎるが、モンスターにダメージを与えるなら十分な効果を発揮する。これほどの魔法を、書いただけで扱えるなんて、どんな魔法使いが考案したんだろう。本職ではないものの、興味はある。

とはいえただ闇雲に撃っても、モンスターを倒すことは出来ない。彼らにも属性がよく効く部位と効かないところがある。札は消耗品だから、無駄遣いは出来ない。

 

 

弱点の目に撃った火のお札は命中し、巨大蟹の目からジュウッッ!という音が耳に届いた。蟹はその痛みに悶え、辺りを問答無用に鋏で攻撃する。だが片目が潰れた影響か、これまで多くの弾幕を避けてきた私たちにとっては、避けれない訳はなかった。

 

とりあえず巨大蟹の攻撃範囲から離れ、近づいてきた神奈子と早苗と話しかける。

 

 

「これからどうする?あいつ、かなり頭にきてるぞ」

 

「……私と諏訪子で攻撃しても、満足なダメージは通らないだろう。もう一度奴をひっくり返すしかない。それには……」

 

「山の妖怪が必要と、でもあいつら大丈夫なの?」

 

私は、森の一角に身を隠して治療している天狗と河童たちを見る。中には結構な重傷を負っている奴もいて、この場での戦闘復帰は難しいと見える負傷者もいた。

 

「あの蟹が里に侵入したら、とんでもない事態になる。天魔も増援の派遣は惜しまないだろうな。だが、出来るだけ数が欲しい」

 

「つまり、山の妖怪たちの回復を待って、もう一度攻撃を仕掛ける。という作戦ですね!」

 

早苗の言葉に神奈子をは首を縦に振る。

 

「今戦えるのは私と諏訪子、霊夢に魔理沙、メイドに庭師、入道尼僧に船幽霊くらいか。早苗には妖怪たちの回復を頼みたい。出来るか」

 

「はい、任せてください!」

 

「うむ、頼もしい」

 

巨大蟹討伐への具体的な作戦が固まり、私たちはそれぞれの役割を全うすべく動き始める。

 

 

 

 

そう意思を決めた時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルルルァァァァァァァァ!!

 

 

 

今までに、私が聞いたことないような荒々しい咆哮が耳を劈いた。それに伴って、天狗や河童の悲鳴が聞こえる。

 

「何!?」

 

私たちは慌てふためく山の妖怪たちを追い回す、黒い影を見た。

 

「まさか……!」「クソッ、マジかよ!」

 

咲夜の姿が消え、魔理沙が猛スピードで森に向かう。

 

私はすぐさま魔理沙の後を追う。後に妖夢が追随し、遅れて早苗がついてくる。

 

 

 

森の奥から現れた黒い影が、その姿形が詳細になる。

 

 

黒い鱗と甲殻、鋭い棘に身を包んだ、筋肉の発達した強靭な肢体。前足には鋭い爪を持ち、頭部には悪魔のような大角を戴くが、右の角は再生途中で根元から折られたような傷が残っている。

 

 

 

 

魔王のようなその風貌に、私は見覚えがあった。人里に出された張り紙に、よく似た妖怪を見たのだ。半妖でありながら妖怪を食らう妖怪であり、古龍を血を引く者。

 

「ネルギガンテ!」

 

咲夜と魔理沙は即座に弾幕を放ち、ネルギガンテはそれを横っ飛びで躱す。

 

「ネルギガンテ!?里に張り出されてたあの!?」

 

「この気配は……!」

 

早苗に妖夢も、目の前のこいつが本能的にやばいと感じたのか。大幣と楼観剣を構え、回避したネルギガンテに攻撃を飛ばす。

だが、ネルギガンテはこれを真正面から体当たりで相殺。その勢いのまま二人へ突っ込む。

 

「わわわ!」

 

「早苗!」

 

体当たりで突っ込んでくるとは思わなかったのか、早苗の動きが遅れた。私は早苗を抱きかかえて、振るわれる翼から逃げる。

 

「あ、ありがとうございます霊夢さん……」

 

「ったく、気をつけなさいよ」

 

妖夢は攻撃を仕掛け終えたネルギガンテに楼観剣を振るう。幽霊十匹分の殺傷力とかいうよく分からない謳い文句の刀は、確かにネルギガンテに傷をつけられていた。

 

しかし、斬られたはずの棘がものの数秒と経たずに野太く、そして鋭く再生したのだ。初めて見る私たちは驚きを隠せない。

 

「気をつけろお前ら!そいつは再生すればするほど強くなる!」

 

ネルギガンテが反撃として、左手を地面に叩きつける。妖夢は手の一撃を回避したが、左腕に生えそろった白い棘が叩きつけられた瞬間破砕し、妖夢を襲う。

 

「くぅっ!」

 

何本かの棘が体を掠め、小柄な妖夢の体を弾き飛ばす。

その威力に恐恐とする私たち。早苗は妖夢の支援に周り、残りの三人はネルギガンテに立ちはだかる。

 

「魔理沙、こいつの対抗策とかある?」

 

「どうだろうな……防御もパワーも桁違いだからな。遠距離攻撃は出来ないから、遠くから弾幕で牽制するくらいか……」

 

「現状、それくらいしかないわね」

 

私たちはその考えに至り、ネルギガンテから少しづつ距離を取る。奴の眼光は鋭く私たちを睨み、気を抜けばふらついてしまいそうだ。

 

 

 

しかし突然、ネルギガンテが私たちの右へ猛然と走り抜けた。その視線の先には、未だ大きく距離を取れていない妖怪たちの姿が。

 

「まずい!」

 

「あいつ、ずっと妖怪たちを目につけていたのね……!」

 

咲夜が急接近してナイフをネルギガンテに投げるが、そいつは一切怯まない。妖怪たちとの距離は瞬く間に縮まり、遂にその魔の手が振りかざされる。

 

「嫌ぁぁ!!」

 

狙われた哨戒の白狼天狗が声を上げる。ネルギガンテは無慈悲に獲物を狩るようにその手を振り降ろそうとした。

 

 

 

 

 

 

 

しかしそれは叶わず、謎の異空間から放たれたレーザーによって怪物は吹き飛ばされた。

 

「……紫!」

 

スキマから現れた賢者、八雲紫は、かつて不良天人へ向けた感情を目の前の怪物へと向ける。

 

「ようやく姿を現してくれたわね醜い妖怪。あなたの存在は今、ここで消える」

 

紫は空間に多くのスキマを開け、滅尽龍へ攻撃の体勢を整える。ネルギガンテも紫の怒気をものともせず、かの大妖怪を殺さんと咆哮する。

 

巨大蟹から放たれたブレスが、森を大きく揺れ動かす。山の二柱に、寺の妖怪たちが懸命にその注意を引き続ける。

 

 

それを合図とするように、紫が攻撃を仕掛ける。殺意の籠った弾幕を、空へ飛んで躱すネルギガンテ。そのまま紫へ突撃するが、あえなく躱される。

またもネルギガンテは紫へ飛びかかる。右手に生えた棘をばらまき、回避する紫を貫かんとする。紫はバラバラに飛んでくるそれらの棘を一本残らずスキマへと送り、さらにスキマから先ほどの棘が放たれ、逆にネルギガンテにダメージを与える。

 

紫の境界を操る能力に翻弄され続けるネルギガンテ。しかしその戦意が切れることはなく、むしろ怒りを燃やして紫へ立ち直る。

 

 

 

 

 

このまま紫優勢で続くと思われた戦いは、突如として終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻想郷が一瞬で嵐に巻き込まれ、暴風が私たちを襲う。今まで感じたことのない風に、私たちは吹き飛ばされないよう必死に耐える。

 

 

あれほどまでに闘志を滾らせていたネルギガンテが、何かに怯えるように即座に立ち去った。

 

「!待ちなさい!」

 

紫が背を向けたネルギガンテに弾幕を放とうとするが、刹那

 

 

 

 

 

 

ゴアァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 

鋼を激しく叩いたような声が、私たちの耳に響く。暴風雨の中、私は雨が降り注ぐ上空へ目を向ける。

 

「…………あれは……!」

 

 

 

 

 

視線の先には、黒風を身に纏う鋼の古龍が空中に鎮座するように重々しい威圧感を放っていた。

 

 




ようやっとクシャが本気出してくれた…次回は気合入れて作るつもりです。

ではまたいつか。

作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。

  • このまま続ける(頻度は相当落ちる
  • モンハン東方で新しく書き直す
  • モンハン東方はもう出さなくていい
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