一
陽光の届かぬ死の世界で、動くものといえば幽霊くらいであろう。亡者の気質の塊は、不規則な動きで冥土を飛び交っている。彼らの現世では人口増加で食料が足りず、未だ多くの魂が冥界へとやってくるのだろう。彼らを裁く是非曲局庁も相当な負担であろうが、当の霊魂たちは全く気にしていない。
今日もまた、時の止まった死の世界で無為な時間を過ごすのみ…………
――――――――――。
ふと一つの霊魂が、地平線の向こうが妙に明るいのに気づく。
とても大きな光であった。現世の太陽に決して劣ってはいない光が、冥い空を静かに照らしていた。
その光に魅入られた魂たちは、一つ二つ四つと、まるで宵の百鬼の行脚のように列を成し、迷いなく真っすぐ光へ向かっていく。
死の存在が再び終息した時、一体彼らは何になるのだろうか。
幻想郷は今日も晴天である。
外の世界ではやれ異常気象だの温暖化だの何だのが叫ばれている中で、ここはそういう類の喧騒からも隔絶されているようだ。燕の雛も巣立ちして、風を切る感触にはしゃいでいるよう。
既に旧暦の睦月。しばらくすれば、けたたましい蝉の鳴き声が聞こえてくる時期。
霧雨魔理沙はいつものように神社へ向かっていた。黒帽子の中から、金髪が風を受けてたなびく。
数分としない内に境内へと降り立ち、勝手知ったる神社の中へ入る。
「おーい、華扇はいるかー?」
「居るわよー」
魔理沙は居間へと足を運び、探していた人物と、太陽も中天に差し掛かるのに横になっている神社の巫女に会った。
「おいおい霊夢、まだ昼にもなってないぜ。いつも以上の怠けっぷりだな」
「……魔理沙?」
霊夢のしょぼしょぼした眼と、魔理沙のシャキッとした瞳が合う。長年の付き合いからか、魔理沙は霊夢の様子に違和感を覚えた。
「なんだか耳鳴りが激しくてね、そのせいでよく眠れていないらしいの」
「そうなのか。何か心当たりはあるか?」
魔理沙の問いかけに、霊夢は少し考えるように視線を天井に向けた。
「うーん……一週間位前からかしら。夜になると耳がキーンって喧しいのよ」
「一週間……ああ、なるほどな」
魔理沙は霊夢の耳鳴りの原因を悟ってしまったようだ。
幻想郷を震わせた巨大蟹、シェンガオレン。60メートル級の超大型古龍、ラオシャンロンに比肩する危険度を持つ甲殻種。
そのラオシャンロンの頭骨をヤドにしており、発見当初は〝謎の龍〟なんて呼ばれていたそうだ。正体は竜ですらない蟹だったわけだが、それが分かった当時のハンターたちはさぞ仰天しただろう。現に魔理沙や霊夢を含めた面々は、その瞬間を実際に体験しているのだから。
侵攻するシェンガオレンが人里を踏みつぶしてしまうところで、山の妖怪たちやその場に居合わせた者たちと交戦。最初は優勢だったものの、シェンガオレンの巨体から繰り出される重い一撃と周囲の大地を根こそぎ溶かし尽くす酸弾に押され、さらに妖怪を食らう半妖半古龍のネルギガンテまで乱入し、あわや壊滅の二文字が見えるところだった。
そんな場の状況を文字通り全てひっくり返してしまったのが、あのクシャルダオラ。
あろうことか自身の三倍はでかいシェンガオレンに真正面から立ち向かい、硬い甲殻や恐るべき酸弾ブレスをも正面から撥ね退けた。
極めつけに、高空から黒い暴風―――龍風圧―――を纏った滑空攻撃。魔理沙達の攻撃が霞んで見えるほどの超威力。それは砦蟹を頭から粉砕するだけにとどまらず、その周辺の森をも更地に変えてしまうほどであった。ちなみに現在は山の祟り神が更地を元の森に修復し、さらに砦蟹のブレスが着弾した箇所も、現在復興が進められているようだ。
あの王の一撃の破壊力は音となっても耳に響き渡るのだから、それが霊夢の耳に残響して耳鳴りがひどいのだろう。一週間経ってもというのが少し気になるが、時間がたてばすぐに治るだろう。
「まあ、それは置いておいてだ。最近気になることがあってな」
「モンスターのこと?」
「まあそれもあるが、最近幽霊が活発に動いているのを知ってるか?」
魔理沙の問いかけに答えたのは質問された華扇ではなく、畳から起き上がった霊夢だった。
「幽霊?それなら神社にも結構来るわよ」
「ホントか?」
「うん、昼間はいないんだけど夜になるとわらわらと集まってくるのよ。おかげで寝てるときに寒いったらありゃしないわ」
「霊夢のところにもか……華扇のところはどうだ?」
華扇はキョトンとした顔で首を横に振った。
「そもそも私は仙人よ?幽霊なんて死の存在を、家に入れる訳ないじゃない」
「そうか、まあそうだよな。だとすると一体……」
「ちょっと魔理沙、あんたの質問の意図が分からないんだけど。説明してもらえる?」
霊夢が魔理沙に質問を逆に投げ返すと、思考をまとめていた魔理沙は口を開いた。
「ああ、すまん。なんだかここ最近、妙に幽霊の数が増えていてさ。私の家にも、同業者の所にも結構来てるんだよ」
霊夢の脳裏で大量に湧く幽霊を追い払っている人形遣いの姿がよぎる。まあ、彼女であれば幽霊何ぞ苦戦はしないだろうから、差しあたって問題はないだろう。
「幽霊の増殖は魔法の森だけかと思ってたんだが、どうもそうじゃないらしい。幻想郷中で幽霊が大量に湧いてでてるらしいんだ。霧の湖も妖怪の山も迷いの竹林も、人里にまで来てるんだよ」
「里にまで来てるの?」
「ああ。でもおかしいよな。夏が本番になって皆が怪談話を始めて増えるのが普通だが、暑くなってきたとはいえまだ梅雨も来てない。数も例年に比べると異常なほど多い。しかも、発見されてる幽霊は妙に攻撃的らしいんだ」
「うん?」
霊夢は膝を組んで顎に手を当てる。
「思えば除霊の依頼が結構来ていたような気が……」
「あなたが休んでいたから、全部山の巫女が持っていったわよ」
「な!くそう、油断も隙もないわね……」
霊夢が頭を掻いて悔しがっていると、今度は華扇が魔理沙へ聞いた。
「最近の異常気象のせいじゃないかしら?季節の魔力が狂い始めているから、幽霊が触発されて出てくるようになったんじゃない?」
「……うーん、確かにそれもあり得るけどなー。だとしたらもっと段階的に増えるべきじゃないか?お前の言う異常気象は、割と前から起きていただろう?」
二人が頭を悩ませている中、霊夢が立ち上がった。
「そんな異変の元凶なんて、今考えても分からないんだから。とりあえず、幽霊を追い払うのが先じゃない?」
「まあ、それも一里あるけど……じゃあ元凶はどうやって突き止めるのよ?」
霊夢はお祓い棒を取り出して、居丈高に言い放った。
「それは……まあ退治し続けてれば分かるでしょ」
相変わらずの霊夢の通常運転に、二人は何も言うことはなかった。実際に、彼女の発言はある意味で正しい対応なのだから。
三人は神社から境内に出る。初夏の空気を感じさせるような陽光が、彼女らに降り注ぐ。目にも容赦なくかかってくる日の光に、霊夢は手でそれを遮った。
目に入ってくる光が少なくなったことで、彼女の視界は遠くの青空に煌めく影を捉えた。
それは自ら光っているのではなく、太陽の光に反射して光っているようだ。鏡や水の反射とは違う、独特の鋭さを持つ反射光に、霊夢は見覚えがあった。
あの時は太陽が西に沈む直前であったが、一年経った今でもはっきり覚えている。幻想郷へやってきた、暴風を従える鋼の王。
「ねえ、二人とも。あれ見て」
魔理沙と華扇が、霊夢の指さす先を見やる。
「……え、なんで!?静かにしておくように言ってあったのに!」
「おいおい、しかも結構な速度で飛んでるじゃないか」
そう三人が見ているうちにも、鋼龍は天狗を置いていくようなスピードで飛行している。明らかにいつもののんびりした飛行ではない、かなりの速度が出ているのが遠目でも分かる。
「ひとまず行きましょう!何が起こったのか確かめないと」
「はあ……ほんっとに迷惑しかかけない奴ね!」
「まあ、落ち着けって。言いたくなるのは分かるけどさ」
三人は空へと翔けだし、遠方の鉄の輝きへ急いだ。
前回クシャが出したオリジナル技を説明し忘れていたので補足。
急降下メテオダイブ
・幻想郷の王クシャの最大技。龍風圧を纏い、高空へ飛翔。そこから相手へ急降下し攻撃する(鋼龍式降竜とか言わない)。着地時に龍風圧を全解放した突風を巻き起こす。
・自身の鋼の甲殻の硬さと重量を活かした本体のライダーキックは、撃龍槍五本の威力に匹敵する。並の古龍では即死。超大型モンスターも、急所に当たれば言わずもがな。
・ただしかなりの高さまで飛翔しないといけないので、予備動作が非常に長い。ついでに避けられると反動もあって非常に大きな隙を晒してしまう。素早いモンスター相手だとほとんど当たらない。地中へ隠れることのできるモンスターも同様。
作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。
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このまま続ける(頻度は相当落ちる
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モンハン東方で新しく書き直す
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モンハン東方はもう出さなくていい