鋼鉄は泡沫の幻想に坐す   作:柴猫

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「……なるほど。幽霊達が活発になっているのは、そういうことだったのね」

 

「ええ。そして残念だけど、もう猶予はあまり残されていないわ」

 

常闇の世界に建つ楼閣で、二人の女性―――八雲紫と西行寺幽々子が話し合っていた。そこにいつものような談笑は無く、ただ淡々と話が続く。

 

「前に私からあなたにモンスターへの干渉は控えるように言った手前、頼みにくいのだけれど……」

 

「分かってるわよ。紫の能力だけじゃ、厳しいものね。大丈夫、そういうことなら専門よ」

 

「……ありがとうね、幽々子」

 

紫は申し訳なさそうに礼を言う。幽々子はそれにいつもの微笑で応じた。いつもの空気が流れ出すのを、紫が扇子を閉じたことでその空気は虚空に消える。

 

「出立は今日の日暮れ。それまでに準備をお願いできるかしら」

 

「構わないけれど、紫はどうするの?」

 

紫の背後からスキマが開き、焦点の合っていない無数の目が外界を覗く。

 

 

 

 

「野暮用ができたのよ。それも急ぎのね」

 

 

紫は忽然と姿を消し、後には彼女が飲み干していない湯呑の湯気が僅かに揺れるのみであった。

 

 

「もう、止められないのね。この流れは」

 

幽々子は冥界の空へと昇ろうとしてすぐさまに消えた湯気を眺めながら、そう独りごちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

私の体を照らす太陽は、純白の雲に隠されてもなお、その光は私の目へ届く。噴煙に比べれば葉っぱのように薄いあの雲も、いずれは空を覆い尽くす巨大な嵐となって雨を生む母となるのだろう。

私も昔はあの雲のように色々と薄っぺらかったであろう。甲殻も筋肉も、私の精神とやらも。それが今やあの山のような生き物を倒せるようになるとは、私も大きくなったものである。

 

 

 

しかし縄張りに入ってきた狼藉者を木っ端みじんにしたやったのはいいが、あれからまた監視されるようになってしまった。カッとなって本気で力を解放したのがまずかったか。どうにもここの奴らは見た目と違って警戒心が高いらしい。それは必然と言うべきか、まあ小さい生物は大抵そうなので構わないのだが、しかし私に敵対心がないことは華扇を通じても中々分かってもらえない。種族の壁とは、地面とあの雲のように離れているのかもしれない。

私としてもそろそろ色々な場所を巡って行きたいのだが、当の華扇から「しばらく留まっていてほしい」と頼まれるのはどうも……予想外だった。華扇からすれば私がここの奴らにとって目の敵になるのを阻止しようとしてくれているのは、人の言う〝感謝〟に値するのだろう。だがその行動も全て納得できるかというと言い難いところもあり……

 

 

そんな風に頭を抱えている―――私の骨格からしてそんなこと絶対無理なのだが―――と、一匹の妖精が私に近寄ってきた。こいつはよく私のエネルギーを積極的に得ようとしてくる一匹で、最初に会った奴でもある。そいつの頭をつっついてやると、幸せそうに顔を綻ばせる。

 

縄張りの侵入者を殺す時にかなりの勢いで吹っ飛ばしてしまったからか、妖精たちはしばらく寄ってこなくなってしまった。

その時は非常にショックであった。こうも気分が落ち込んだのは、若いころに遊び相手にしていた岩賊竜を誤って踏みつぶして殺してしまった時以来だった。なんであろうか、胸の辺りが私の甲殻より重くなるような非常に嫌な感覚である。その後、私から彼女らに慎重に近寄って行って謝ろうとした。こう、あれだ、頭を上下に振る人間風の謝罪。あれを行ったのだ。

 

どうやらそれは妖精達にも通じたらしく、今はいつもと変わらない数の妖精達が私の巣で遊んでいる。それにしても、人間(と妖怪)はかなり多くのジャスチャーを持っているようだ。それに言葉という、彼らの使う複雑な鳴き声が加われば、相当高度なコミュニケーションが出来るのであろう。故郷にいた奇面族と遜色ない、いや奴らの生活や扱う道具を聞く限り、それ以上かもしれない。

 

 

だが奴らの力を持ってしても、幻想郷に竜が入ってくるのは抑えられていないようだ。依然として竜たちはここに住み着いているし、前に妖怪の群れが赤い顔の鳥竜の群れと戦っているのを見たのだ。結果、妖怪の群れ共は負けた。見る限り木っ端な妖怪の群れで、妙な力も扱えていなかったが、それでもたかが鳥竜に負けるのは弱すぎやしないだろうか。

赤顔の群れが湖周辺に陣取ってから、氷の妖精がよくこちらに来るようになった。住処を圧迫されて避難してきたのだろう。よくそやつらの文句を言っていたのも覚えている。

 

別に私が出れば一瞬で終わるのだが、かといってそんな雑魚相手に私が出るほどでもないだろう。それにあそこの畔には、紅い悪魔がいる。名前は……れ、レプリカ?そんな名前だった気がする。もしだったら奴らが退治してくれるだろう。前に巨大な魚竜を仕留めていたから、鳥竜の群れくらい造作もないとは思う。

 

別に私としては、ここに竜が棲みつこうが対して気にはしない。煩すぎるのは勘弁だが、しかし少しくらい音があるくらいがちょうどいい。何もない土地など、全く面白みもないからな。

妖怪からすれば自分たちの住処を荒らされたくないだろうが、奴らももう少し寛容であってよいのではないか。竜も悪い影響ばかり引き起こすわけではない。旨いやつもいるし、ついでに甲殻の補強もできるやつもいるのだ。ああ、久しぶりに溶岩竜が食いたくなってきた。前に仕留めた蜘蛛は甲殻こそ硬く、食べ応えはあるのだが味がない。保存はかなり効くようだから、脱皮の時のために取っておこうか。

ともあれ、他の場所から来た竜たちに、こうも騒ぐ必要があるのか甚だ疑問に思う。こやつらであれば、前もって竜たちの情報を手に入れることも出来たのではないか。確か人間はそうして竜へ対抗するのだと、夫から聞いたことがある。だがそれを有りにしたとしても、

 

 

住んでいる場所が違かろうが、大いなる力を持っていようが、結局皆同じ命であることに変わりはしないのに。

 

 

 

 

そんなことを思考しながら妖精の頭を撫でていると、不意に空中が裂けた。私は撫でるのを止め、広がる裂け目を凝視する。

そこから出てきたのは無数の目。意志がこもった竜のものとは違う、人の目だ。それらが無数に蠢いている様に、怯えた妖精は私の体に隠れた。他に遊んでいた妖精も素早く木々に隠れる。

 

 

『ごきげんよう、妖精の王様』

 

次に驚くことに、そこから人間が出てきた。金色の長い髪で、華扇のそれと似た、よりふっさりとした服。手に小さな棒を持ち、他の奴らとは違う怪しい目つきが私と合う。

 

『妖怪?』

 

『あら、一目見ただけで分かるなんて。あなたもこちら側に入りたいのかしら』

 

『?普通に分かるだろう。他の奴らと違って、お前らは纏う空気が決定的に違うからな』

 

『あら、そう』

 

突然出てきたのに妙に落ち着いている妖怪。おまけに私と何ら変わりなく話している。ただ、華扇のように自然な感じとは言えないな。きっとこれも奴らの使う妖術、とかだろう。

 

『まあ、ここで無駄な時間を過ごすつもりはないしね』

 

『ならなぜお前は出てきた?』

 

『では問題。あなたは今の幻想郷をどう思うかしら』

 

 

……なんだ、こいつ。

他の妖怪とは違う。前に二本の角の小さな妖怪と会ったが、あれに近い異常さ。それに気づいた私は座るのを止め、立ち上がって向き直る。

 

『手短に言え。お前は私と話がしたいのか』

 

『いえ全く?初対面だし特に話すことはない。強いて言えば』

 

『協力、とやらか?』

 

何となくで聞いた言葉に、謎の妖怪は棒をまるで翼のように開き、口元に当てた。そんな使い方が出来るのか、あの棒。

 

『正解よ。であれば話は早いわ。私についてきて頂戴』

 

『……少々いきなりすぎないか。私は華扇に』

 

『ここで静かにしてて、って?逆よ。今あなたを動かさないで、誰を動かすというのよ』

 

 

 

正直言って、全く信用できない。だが、なんであろうな。どうもこいつの言う通りにしなければ、いや()()()()()()()()()()気がするのだ。私の内から湧き上がるこの感情は何だ?何なのだ?

 

 

 

 

足元の妖精が、怪訝な顔で私の目を見てくる。

一つ、私は息をつき彼女の髪を揺らした。

 

 

〈とりあえず動いたらいい。あとの事はあとで考えろ〉

 

 

 

『分かった』

 

『…本当に?』

 

『ついて来いと言ったのはお前だろう。なぜお前が疑問に思うのだ』

 

目の前の妖怪は安堵したように息を吐くと、広がっていた目の裂け目を閉じた。

 

『礼を言うわ。それでは、私について来て』

 

 

 

 

私は静かに翼をはためかせ、飛翔した。眼下の妖精が手を振っているのを、私は見えなくなるまで見続けた。

作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。

  • このまま続ける(頻度は相当落ちる
  • モンハン東方で新しく書き直す
  • モンハン東方はもう出さなくていい
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