陽は中天からずり落ち、地平線の彼方へと吸い込まれようとしている中、私は神社の拝殿の中で瞑想していた。
クシャルダオラを追おうとして、余りにも多い幽霊たちを片っ端から掃除していると、突然紫が現れて、この異変の事実を私たちに告げた。
冥界とあの龍の故郷である、龍結晶の地が繋がり始めていること。モンスターの流入や、今起きている幽霊の暴走も全てそれが引き起こしているということ。このままでは、質量的に軽い幻想郷の方があちらの世界に呑まれてしまい、大変なことになると。
そしてその解決策として、まずあのクシャルダオラを龍結晶の地に送り込み、かの地で暴れるモンスターたちを一時的に鎮める。次に私と魔理沙、妖夢、そして紫と幽々子が出立し、異変の元凶を取り除く。
既にクシャルダオラは龍結晶の地に赴かせており、後は紫の用意する策の完成を待つだけ。その準備には少し時間をかける必要があり、日暮れまでに準備をしておくこと。それだけ言って、紫はさっさと帰ってしまった。
唐突すぎる出来事にしばらく呆然としていたが、話しているときの紫の表情はこれまでに見たことないほどに真剣であり、少なくとも嘘ではないとは思った。
華扇は幻想郷にいるモンスターを鎮めるのに専念すると言い、魔理沙の方も何やら秘密兵器があると言って行ってしまい、私も神社に帰り、対モンスター用の属性お札やらなんやらをあるだけ全部用意して、夕暮れを待っていた。
急過ぎる最終決戦。いつもみたいに妖怪たちと戦ってからとか、そんな前哨戦もない。……しかし思えば、モンスターたちの流入も、その前のクシャルダオラの降臨も突然だった。あの世界の移り変わりが早すぎるのか、それとも幻想郷がのんびりしすぎなのか。恐らく後者だろう。
目まぐるしく変わってしまった幻想郷が、今夜、その変動の流れに終止符を打つ。
「紫の奴め……既に元凶は知っていたのか」
妖怪の山の山頂。禅宗様の風式がどこか漂う大屋敷に、天狗の棟梁たる天魔が大急ぎで出ていく九尾の式神の背中を目で追いながら、声の奥に悔しさを滲ませる声で呟いた。
しかし恨めしさの感情を籠らせた視線はさっさと瞳から消し、差し出された書状を睨みながら思考を巡らせる。
天狗としてどう対応するのか。奴がこんな文書を送りつけるのは、さっさと決断しろとでも言いたいのだろう。あの妖怪は昔からそんな態度だ。この不遜な態度に今更憤慨する気も起きないし、そもそも今はそんな状況ではない。
だが聞くところによれば、その龍結晶の地の竜どもはとんでもなく強いという。竹林に住みついた鬼気の餓竜と同等か、それ以上の強者がひしめく土地。あの鋼の王にすら襲い掛かるほどにまで凶暴で、実力も兼ね備えたモンスターの巣窟。そしてそれら全てが例外なく、我を恐れて暴れ回っているという。そんな危険極まる修羅場に、部下たちを行かせるなど気が気でない。
かといって幻想郷のみの治安維持に専念するだけというのも、幻想郷の一勢力としての天狗としては不満もあるだろう。プライドの高い鼻高なんかはそう言うに違いあるまい。
さて、どうしたものか……
「……飯綱丸よ。おるか」
私がそう言うと、館の中に疾風が駆け巡り、目の前に一人の烏天狗が侍っていた。紺を基調とした服装に、流麗な翼と烏の濡れ羽色のような髪を湛えた、美女も多い天狗の中でも際立って見える烏天狗の大将。
「お呼びでしょうか、天魔様」
「うむ、お前に少し頼みたいことがある」
私は飯綱丸にこれまでにあったこと、そして私が考えたことを話した。
「………………そのためお前に隊を率いて、龍結晶の地とやらに出動してもらいたい」
「良いのですか?あのスキマ妖怪の言う通りに動いて」
私は長年使いこんだ葉団扇を、飯綱丸に向ける。
「良い良い。確かお前は、大蜈蚣の妖怪と親しいと聞いたぞ」
私の問いは完全に予想外だったのか。飯綱丸も、普段は滅多に見せない驚愕の表情を取った。
「まさか、あいつを出すと言うのですか」
「ああ。我々はモンスターに関してはほぼ無知だ。そんな状態で、特に強いモンスターの巣窟に行けば自殺も同じ。
ただ分かっていることはある。こちらの世界の常識も、あちらにも通用するということ。龍殺しの大蜈蚣が居れば、経験の差を埋めるのに役に立つだろう。少数精鋭、速さを重視して隊を組んだ方が良いであろう。モンスターの戦闘は…あまり重視せんでもお前の親友が食ってくれるか」
「……まったく、あなたには一生敵いそうにない」
「ふふ、夜伽であればそうもいかんかもな?」
「御冗談はおやめ下さい」
「おお怖い怖い。そんな目で睨むな」
そんなやり取りをしている間に、急ぎ筆で任務内容を書いた文を飯綱丸に渡す。
「これがお前に頼みたいことだ。いいか、隊の誰も死なせるな」
御意、の一言の余韻が消えぬうちに、既に彼女の姿は無かった。
天魔は遂にきたる逢魔が時を、一点の曇りない目つきで見つめていた。
紅魔館の内部では、レミリアがいつになく歯を見せて笑っていた。
「ははは!成程ね、そういうことだったの」
「へー、あのスキマ妖怪も馬鹿みたいに愚直ね。こんなんで異変を解決できるのかしら」
「フラン、その言い方はちょっと違うわね」
不思議そうに小首を傾げるフランに、レミリアは茜色に染まった西の空を見て言った。
「あいつはね、そもそも
「?」
「まあ、あいつの行動か、幻想郷の様子を見ていれば、おのずと分かるんじゃないかしら」
それより、とレミリアは既に消えゆく太陽の光を背に、フランの耳のそばで囁いた。
「今夜は忙しくなるわよ、フラン」
姉の言葉に悪魔の妹はニヤリと笑みを浮かべた。
悪魔の館に、二つの哄笑がこだました。
幻想郷の一部の住民たちに、八雲紫からの伝書が届いた。
元凶の正体に、あるものは予想外な反応を、またあるものはどこか脳裏に浮かんでいた妄想が、現実のものであることに再び慄く。
時を同じくして、博麗神社の拝殿内に一人の女性が音もなく現れた。
「準備は出来たかしら?」
いつもの人をからかうような問いかけ。しかしその声の奥底には、どこか揺れ動くものを感じた。
私は彼女を真っすぐ見て、瞑想で凝った肩を軽く回した。
「ええ、さっさと終わらせちゃいましょ」
私はいつも通り、異変を解決するだけ。
それが博麗の巫女としての、数少ない大仕事。
「今回は、いつもよりちょっと派手に、異変を解決する。それだけよ」
紫はそんな私を見て、いつもみたいに笑って、スキマを開いた。
「そう。あなたはそれでいいのよ、霊夢」
紫のスキマを越えると、冥界に出た。その名が示す通り、一つの星もない暗い空が辺りを支配していた。
しかし、本来なら冥界に溢れるほど蠢いている幽霊の姿は、今は一つとなかった。ただ辺りを静寂が支配する、普段ではありえない光景が、そこにあった。
「冥界の幽霊たちは皆例外なく、巨大龍結晶へと向かっているわ。それで閻魔たちは大忙しだけど、そのおかげでようやく元凶の居場所を突き止められたの」
背後の白玉楼から華胥の亡霊が現れる。主のすぐそばには、見慣れない太刀を持った妖夢も付いて来ていた。
「ん?あんた見慣れない物担いできてるわね」
そのことを指摘すると、妖夢は少々困ったような表情で答えた。
「紫様が用意して下さったものらしいです。何でもあちらの世界の太刀なのだとか」
「……にしては大きすぎないかしら、それ」
「モンスター相手なら、あれ位でないと効果がないのよ。大丈夫、妖夢に合わせて軽い物を用意したから」
口を挟んできた紫に、妖夢は頭を下げて礼を言った。
「お、もう皆準備万端らしいな」
声のした方を見上げると、昏い空に荷物を背負った白黒の魔法使いが箒にまたがっていた。魔理沙は地面に着地して、違和感無く会話の輪に入った。
「結構飛ばしてきたのに、お前もかなり早く来てたんだな」
「え?今来たばっかよ」
「何?」
「あー、私は紫に連れられてきたから」
私の発言に、魔理沙は悔しそうに紫を睨むが、当の紫は扇子で口元を隠してにやついている。
「全く、負けず嫌いは相変わらずね」
紫がそう言うと、昏い空に明かりが差した。
西の方角、そこから地平線全てが煌めく色に染まっている、荘厳な青い夕焼け。
地平線には虹色に輝く結晶で出来た巨塔が聳え建っており、その後ろから黒々とした噴煙が、空を隈なく塗りつぶす。
黒雲に結晶から発せられる光が当たり、より一層不気味なまでに神々しい光が強くなる。
「……あれが、異変の元凶」
「ええ、そうよ」
「何かこう、すごいエネルギーを感じます……」
その光景に先ほどの空気は消え、とてつもないエネルギーの流れを、私は肌で感じた。
「時間は無いわ、すぐに発ちましょう
目指すは収束の地。そこが全ての異変の源よ」
五人は冥く輝く夕焼けへと飛翔する。五人全員が例外なく、一切の余念も無かった。
噴煙に染まる曇黒の空に、赫い光が迸ったような気がした。
作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。
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このまま続ける(頻度は相当落ちる
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モンハン東方で新しく書き直す
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モンハン東方はもう出さなくていい