鋼鉄は泡沫の幻想に坐す   作:柴猫

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拾章 それは新生の鼓動たらん


冥界から流れる小川に沿って、私たちは飛び続ける。無言の空間に、ただ水が流れる音のみが反響する。

静寂の帳を降ろしていた夜空は煌々と輝きを放ち、まるで昼のような青い光が周囲に満ちる。その中心となっている巨大龍結晶は、まるで私たちを飲み込もうとしているかのように、その輝きを更に強くする。

 

 

 

 

そして何の予兆も無く、辺りの風景が変わる。

 

漠然と広がっていた草原は消え、すぐ目の前に結晶の壁が押しつぶすように私たちを包み込む。天上の僅かな隙間から届く光を龍結晶が乱反射し、一帯はどんな王族にも手に入らぬ荘厳この上ない景色へと変貌した。

 

「わぁ……」

 

「こいつは……たまげたな」

 

圧倒される私たちに対し、紫と幽々子は目を移らせることなく真っすぐ進む。眼下を流れるこれ以上なく碧い河川に気を取られないようにしつつも、私は二人に付いていく。

 

 

徐々に龍結晶の密度が濃くなり、注意して飛ばなければ結晶に引き裂かれてしまいそうなまでに狭くなりつつあった時、紫が地に足をつけた。

 

「この先よ」

 

幽々子も飛行を止め、人と同じように足を運ぶ。私たちも降り立ち、紫の後を付いていく。

 

 

 

体を押し込ませながら龍結晶のすき間を縫ってものの一分も経たぬうちに、私たちは開けた場所へと出てきた。

 

「あ……」

 

私の口から無意識に声が溢れる。

 

 

 

 

見上げるような巨体を、地に臥せる龍。透き通るような青い皮膚からは、溢れんばかりの霊光が溢れ出す。あの鋼龍の巨体すら覆えてしまいそうな巨大な幽翼、魚の鰭のような尻尾、そして頭部に生える一分の歪みすらない黒い角。

いっそ禍々しく思えるほど雄大で、今にも動き出しそうな存在。そして、幻想郷とこの龍の世界を繋いだ、元凶。

 

「……ゼノ・ジーヴァ」

 

紫が畏れを抱かずにはいられない、とでも言うようにそう呟いた。隣に立つ幽々子は眩しそうに両目を瞬かせる。

 

「全員、始めるわよ」

 

冥灯龍に群がる幽霊を払い除け、紫は五十以上にもなるスキマを開いた。

スキマはゼノ・ジーヴァを円状に取り囲み、裂け目から無数の目が覗くそれは、複雑怪奇な術式がこれでもかと書かれた札へと変化する。

そして地面に張られた札同士を繋ぐように注連縄が出現し、ゼノ・ジーヴァを囲んだ。ここまで来て、私は紫の目的を理解したような気がした。

 

「それで、封印するの?」

 

「いいえ、この龍を()()()殺すのよ」

 

紫は術式の発動を着々と進めながら言う。

 

「ただこいつを消滅させるだけでは、この異変は解決しない。解決するには、この龍に吸い込まれた龍脈と幽霊のエネルギーを完全に除去しなければならない。この結界でゼノ・ジーヴァの龍脈への干渉を止め、次にスキマで取り込まれたエネルギーを除去する。幽霊たちの方は幽々子に任せるわ」

 

「分かったわ」

 

妖夢が何を言っているのか分からない、という表情で自分の主に尋ねた。

 

「幽々子様。この龍は、生きているのですか?」

 

すると幽々子の方も、答えに迷うように指をあごに当てた。

 

「うーん、死んでいるけども生きている、かしら?」

 

「?」

 

「この龍は、既にこの世界のハンターに討伐されているのよ。でも、そもそも古龍種は少なくとも人の手で完全な絶命をすることは出来ない。人間たちが倒したと言って意気揚々と帰り、その後また立ちあがって人目に付かないところでゆっくりと体力を回復させていくの。ただ、この竜は起き上がるだけの体力を回復する前に、何らかの要因で大きなダメージを受け、再生も許されずに亡くなった」

 

「ん、じゃあ結局こいつは死んでいるってことじゃないか」

 

魔理沙が口を挟むと、幽々子は首を横に振った。

 

「確かにこの龍は命を落とした。でも、未だ魂は体に残ってる」

 

「え?いやいや、死んだら魂は身体から離れるだろ。なんでこいつはまだ自分の身体に執着してるんだよ?」

 

「冥界の幽霊たちがこの光に集まってきたように、この龍の魂も導かれたのよ。()()()()()()()()()()()()()()、ね。いえ……これが今まで集めてきた老齢の古龍の光かしら?まあ、自分の身体に執着したゼノ・ジーヴァの霊魂は、復活の為に魂魄をかき集める必要があった。そしてその時ちょうど、幻想郷の龍脈がこの地へ伸びてきた。

後は龍脈から幻想郷へと干渉し、この世界との境界を薄くした。そして冥界へと穴を開け、幽霊たちを呼び寄せた。そしてその力で、この龍は再び息を吹き返そうとしているのよ」

 

「うーん、スケールが桁違い過ぎるな……」

 

魔理沙のぼやきに、私と妖夢は同意せざるを得ない。蘇生の為に異世界(幻想郷)の力を利用するとは。この世界のモンスター、とりわけ古龍は色々と大きすぎるというか、何というか。

紫と幽々子は冥灯龍のそばに立ち、両手を合わせる。

 

「ねえ、私たちはどうすればいいのよ」

 

「そうねえ~、私たちがこれに専念している間、周りの警戒をお願いするわ。しっかりね、妖夢」

 

「はい!」

 

妖夢は真面目に返事をする。その様子を見ていた紫も、私に言う。

 

「この式は繊細だからね。邪魔が入らないように、頼むわよ」

 

「はいはい、分かったわよ」「おう、任せとけって!」

 

 

紫と幽々子が、術式を唱え始める。

それに呼応して死の結界は緩やかに紫色の光を放ち、ゼノ・ジーヴァの肢体を覆い尽くす。周囲に漂っていた霊魂が突然不規則に動き始め、一部は二人に攻撃を始める。

 

 

それらの動きを見せ始めた霊魂を、片っ端から退治する。全員この程度のことは朝飯前で、特に危なげも無く処理していく。

徐々に数が多くなっていくが、それも問題ない。妖夢が近づく幽霊を斬りまくり、魔理沙の超火力の魔法が火を噴き、私のお札で幽霊たちは即無力化されていく。

 

 

一段落が付いたところで、遠くからあの咆哮が聞こえた。この鋼が激しくすれるような咆哮は、間違いなく、クシャルダオラだ。今私たちが幽霊の処理で済んでいるのも、あの龍がたった一頭で龍結晶の地のモンスターを足止めしてくれているおかげだ。龍結晶の地のモンスターは幻想郷に流入してきたモンスター達とは格違いと聞いたが、そんな奴らをまとめて足止めできる鋼龍の王の力は本当に凄いの一言で表せない。

 

私は、見たことないほどの集中力で唱え続ける紫の背中を見る。

やっぱりあいつは、最初からあの龍の王の力を利用する腹積もりだったのだろう。そうに違いない。

あの龍の力を使えば、幻想郷の危機を乗り越えることは可能だろう。事実、あの龍が来たのは月の民が侵攻してくるほんの数週間位前だった。幻想郷のことになると躍起になる彼女だ。天邪鬼の反逆やオカルトボールの所で対抗策を出したかったのだろう。およそ地上に敵うような奴らがそうおらず、かつ月の民を遠ざけるような巨大な生命力を有した存在。それがあの歴戦王クシャルダオラだったのだ。

まあ、実際今こうして幻想郷の守護に協力してくれるのは、私の仕事も減って良いのだが。どうなるか分からないものである。

 

 

 

 

そうして思考を張り巡らせていた時、咆哮が耳を叩く。クシャルダオラのものではない。しかしどこかで聞いたことがあるような咆哮。

私はすぐさま上を見た。そして、上空に羽ばたく存在と視線が交錯する。

 

燃え盛る火のような甲殻に黒いラインが走る。バランスを取るためであろう尻尾には、余分に生えたにしては過剰な殺傷力を持つ鋭い棘。強靭な足にはこれも鋭い毒爪が生え揃う。

その竜を象徴する翼は、天狗のそれとは比べ物にならないくらい雄大な、王が携えるべき外套のごとし。

 

 

 

火竜 リオレウス

 

この世界に生きるあまねく竜種を代表すると言っていい、天空の王者だ。彼の竜は口元に炎を滾らせ、大地を焼き立たせるような火球を放った。

 

 

初見の私と妖夢はこれを龍結晶に隠れてやり過ごし、降り立った火竜と対峙する。

リオレウスは真っ直ぐにこちらを睨み、私たち三人の後ろで冥灯龍の消滅を行っている二人には注意はいっていない。

 

「たとえ竜であっても、ただ斬るだけです!」

 

妖夢の気合いに、リオレウスは鼓膜を叩きつけるような咆哮を浴びせる。

 

 

 

 

 

狩るか、狩られるか。いま、この世界では最も見られるような戦いが火を切った。

 




さぁて戦闘シーンだ。指が武者震いを起こしてるぜ……


ではまたいつか

作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。

  • このまま続ける(頻度は相当落ちる
  • モンハン東方で新しく書き直す
  • モンハン東方はもう出さなくていい
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