鋼鉄は泡沫の幻想に坐す   作:柴猫

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ちょっとだけ長いです




霊夢たち一行が異変の元凶の完全終息に奮起する中、龍結晶の地、暴嵐が支配する上空をある一団が翔ける。

迷いなく柱状節理の岩々の間を縫うように飛んでいく様は、彼女らが極めて統率が取れていることを示すもの。彼女らはかつての王の寝床へと着き、一つの影が手で制す。

 

 

「ここで一旦様子を探る。全員止まれ」

 

天魔から派遣された、飯綱丸率いる烏天狗の実動部隊。二十人程の少数精鋭で構成された隊には、実力の高い射命丸文に、情報収集員として姫海棠はたての姿も見える。

隊の全員が淀みない動きで索敵、測量の機材を用意しようとするが、鉄を叩くような咆哮が彼女らの耳を叩き、手を止めた。

 

 

 

 

彼女らの視界に入ってきたのは、あのクシャルダオラが五頭ものモンスターと対峙する場面だった。

その相手は古龍の中でも指折りの凶暴性を持つ炎龍。しかも番だ。彼らが相手では、竜はおろか古龍すら苦戦を強いられるだろう。おまけにその場には、飛竜が三頭乱入している。

眼を奪われるような世にも珍しい金と銀の体色を持つ二頭の火竜。こちらもまた番だ。単独だが、臨界寸前のような甲殻に紫色に輝く爆鱗を垂らす竜。天狗たちも知らない希少種に特殊個体だ。

 

しかしあの歴戦王はその五頭を前にしても、逃げようとはしない。

 

 

炎王龍が王の首に噛みつこうとする。彼女はそれを横に避け、逆に炎王龍のたてがみに噛みついた。鋼を噛み砕くほどの咬力が、炎王龍の首を固く締め付ける。彼女の口内も相当な高熱が襲っているに違いないだろうに、熱がる素振りは一切見せない。

番の危機に炎妃龍が滑空してクシャルダオラを押しのける。追撃しようと飛行を維持しながら、炎を吐き出す。

だがクシャルダオラは横へと飛びのいてこれを躱す。放射中で隙だらけの炎妃龍の腹にリオレイアさながらのサマーソルトを放った。飛竜を一撃で絶命させるほどの威力を食らい、炎妃龍は墜落するほかない。

 

束の間、クシャルダオラと同じ土俵へと進み出た銀火竜が飛びついた。組み付く銀火竜を、番の金火竜が地上からのブレスで援護する。

銀火竜が王の背中へと爪を突き立てた。とてつもない硬度を持つ鋼の甲殻に、浅いが確実な傷がつく。クシャルダオラもこれは看過できぬ状況。

彼女は銀火竜を乗せたままそのまま一回転し、位置関係が逆転した銀火竜を拘束する。次に彼女は銀火竜の首元を牙でしっかりと押さえつけながら、そのまま地上の金火竜へと突撃する!金火竜もこれは予想外だったのか、ブレスを撃ちそこね判断が遅れる。金銀夫妻はそのままもみくちゃになりながら地面を擦って壁に激突し、衝撃によるショックにしばらく動きを止めた。

 

しかし追撃は出来なかった。上空から大量の紫色のような爆弾が雨のように降り注ぐ。炎龍といった強大な古龍でさえ、直撃を避ける程の威力の爆鱗だ。これもまた想定外の奇襲に、クシャルダオラは爆鱗の爆発を受けてしまう。直撃こそしなかったが、甲殻に小さい亀裂が走る。

 

 

五対一という絶望的に不利な状況に、決して引くことのないその背中は、龍結晶の光を受けて煌びやかに耀き、彼女らの目に焼き付いた。

 

 

「なんて戦い……」

 

「これは……天魔様が私たちを派遣した理由がよく分かる」

 

古龍と、それに比肩する飛竜の凄まじい激闘に、飯綱丸たちは驚嘆するほかない。しかし彼女らとて上位の妖怪である天狗。すぐに情報収集と作戦の組み立てに取り掛かる。

 

「典、何か分かるか?」

 

飯綱丸が懐から一本の竹筒を取り出すと、中から一匹の狐が出てきた。

菅牧典、飯綱丸の使役する管狐である。中から出てくるなり典は気分を悪くしたような顔で主人に言う。

 

「うぇ……この匂いは、何かの狂いのエネルギーですね……地底の瘴気とは違うような……私の煙に混じってきて、吐き気がします」

 

「ふむ、他には?」

 

「ケホッ、そうですね……この狂気は伝染性は弱いようです。おそらくかなり高純度であるのかと。あの光ってる結晶体に近寄りすぎなければ大丈夫だと思われます」

 

「分かった、もう戻って良いぞ」

 

その言葉を聞いた典はすぐに竹筒に戻った。

 

「なぁ~龍。まだ食えないのか?」

 

「もう少し待っていろ、百々世。ここからどうやって動くか……」

 

「いいけどよぉ、俺まだ晩飯食ってないんだよ。腹減った……」

 

この場に待機する天狗たちの中で一人だけ、天狗ではない妖怪がいた。

色あせた灰色の髪を無造作に伸ばした、天狗とは異なる魔力を纏った妖怪。

 

姫虫百々世。大蜈蚣であり、強大な龍をも食らう大妖怪だ。飯綱丸の親友であり、今回の作戦に適した、言うなれば一番槍の役割だ。彼女からしても多くの竜を食らえるのならと、飯綱丸、もとい天魔の推薦に乗ったわけである。

胡坐をかいて腹をさすっている様子からはその強さが分かりにくいが、これは強者の余裕という奴だろう。飯綱丸以外の天狗は彼女と目も合わせようとしない。自分たちの上司が連れてきたとはいえ、溢れ出す負の魔力の根源に近づこうとするものはいないだろう。だからこそ、百々世は暇を持て余していたのだ。

そこらへんの美味そうな結晶でも齧ってるか、そう思って百々世が後ろを向くと、彼女は目を開かざるを得なかった。

 

 

「うおわぁ!?何だこいつら!?」

 

その声に天狗たちは素早く反応し、作業を中断して即座に警戒する。そして大蜈蚣の視線へと顔を向けると、

 

「……ん?」

 

「なにこれ?」

 

 

 

そこにいたのは、モンスターだった。

 

一言で言うのならば、でっぷりと太ったトカゲであろう。体の下側と上面とで色合いがかなり異なり、何よりも目を引くのがその顎。自身の頭よりも巨大な、まるでスコップを何重にも溶かし合わせたような大顎を持つ顔が、彼女たちに向けられていた。

 

 

しかし驚くべきはそれだけでは無かった。岩賊竜のその背中には、珍妙な赤い仮面の奴らが三匹立っていたのである。大きさは子供くらいで、皮膚の色は少し褪せたような緑。石を粗く削った短剣を腰につけており、天狗たちを興味深そうに見つている。そのうち一匹が、声を発した。

 

『ホギャー!ホッ、ギャッギャッ』

 

「……何を言っているんだ?」

 

「さあ……」

 

当然、言葉が通じるはずもない。奇面族(ガジャブー)達は言葉を続ける。

 

『!ゥォフォ?ギャカバボーコ?』

 

「あー……何を言っているのかさっぱりなのだが」

 

ガジャブー達は天狗たちの足元を見て、まるで何かが足りないことを追及しているようだが、具体的には何も分からない。そのカエルみたいなモンスターを、どうやって手懐けたのか聞いてみたいが、これでは時間の無駄にしかならないだろう。

 

 

双方の意思疎通が難航していると、風が突如として猛烈に靡く。強風を扱いなれている天狗ですら足をふらつかせる様な暴風だ。だがそれだけでなく、真夏のそれを超えるような熱波も同時に肌を撫でた。

 

 

彼女らが振り返ると、そこには猛々しい炎を纏う炎龍の番の姿が目に飛び込んできた。先ほどでも陽炎が発生する程の熱量だったのに、それすらも超える熱さ。

温度上昇の原因はそれだけではなかった。金と銀の飛竜が今にもその身を包む金銀を溶かしてしまう位の劫火を、顔と首に留めているのだ。紅蓮滾る爆鱗竜のそれと同じ火もまた、辺りの空気をかつての灼熱地獄を彷彿とさせる温度へと変えていた。

怒りに燃える異様なまでの光を放つ目を歴戦王クシャルダオラへと向け、まさに焼き尽くそうとする程の殺意が嵐に乗ってこちらへと流れるような錯覚を、その場にいた皆が全身で感じ取った。

 

 

 

 

 

 

ホゴォォォォォ…

 

突然ドドガマルが明後日の方向へと吠えた。天狗たちはあの殺気に気をおかしくしたかと身構えるが、ガジャブー達は違った。長年共に寄り添ってきたトモダチは、何かの襲来を感じたのだと、奇面族は空を見上げた。

それを見た飯綱丸が共に空を見上げると、彼女はその異常性に口を覆った。大天狗としての視力が、その姿形をくっきりと目に焼き付けた。

 

 

 

黒銀の甲殻と鋭いシルエットを持つ、四本足のハヤブサのような姿。三本の筒を組み合わせた様な、異形の翼から赫赫とした炎のような物質を放射しながら飛行する様は、あたかも災厄の兆したる赫き彗星。それが遥か遠くから、見る見るうちに距離を縮めて来ているのだ。

 

「!!総員戦闘態勢!」

 

副隊長の射命丸がそう叫ぶ。彗星は熾烈極まる龍の戦いを空から追い抜き、天狗隊と奇面族達とに最も接近した。

 

 

彼女らが見たのは、まさに銀翼の凶星ともいえる、恐ろしい気配。天狗の源流たる彗星の体現者に、彼女らは深い畏れを抱かざるを得なかった。

 

赫い彗星は彼女らを一瞥もすることなく、ただ真っ直ぐに巨大龍結晶へと向かっていった。

 

 

「……どうしましょう飯綱丸様。このままでは……!」

 

「ああ、あれほどの強大さ。間違いなく博麗の巫女では力足らずだ」

 

「援護に向かいますか?」

 

飯綱丸が逡巡していると、遠くから甲高い叫び声が彼女らの耳を叩いた。

 

 

 

見れば、鋼龍が炎王龍の爆破に吹き飛ばされ、痛みにもがいていたのだ。そのすきに炎妃龍が極熱の熱風を放つ。ひび割れた甲殻から直接肉を炙られる激痛が、王を襲う。

空中へと逃げ反撃しようと息を吸うが、上空から銀火竜の劫炎がクシャルダオラの翼に直撃した。大きくバランスを崩した鋼龍に地上からの金火竜の爆炎が襲い掛かる。

遂に王は地へと叩きつけられ、その隙を逃すまいと金火竜が距離を詰める。起き上がろうとするクシャルダオラだが、猛毒が染み出る金の棘を持つサマーソルトが彼女の首を据え、岩壁に激突する。彼女の姿は見るにたえだえで、全身の甲殻が熱で逆向け、暴風を喚ぶ角も片方が根元から折られていた。

 

いくら歴戦王と畏れらていても、相手方も歴戦の猛者であり、何より彼女らは自身の生来の能力をより屈強なものとすることに成功している。風を操る能力を捨てたあの鋼龍では、いくらなんでも自身の身一つでは防ぎようがないのだ。

 

 

しかしどうする。このままでは鋼龍は間違いなく死ぬ。そうなれば奴らが巫女たちの元に乱入し、異変の解決作戦は水の泡だ。かといって先ほどの古龍も相当な脅威、野放しには出来ない。巫女たちが対処できる確立は相当低い。

 

防衛ラインを限界まで下げるか、それともここであいつに加勢して時間を稼ぐか。だが加勢したとしても、勝算はほとんどない。奴と共倒れする可能性の方が高い。ともすれば、賢者と巫女と合流し、徹底して防戦するか。こちらの方が味方を失うリスクは低い。彼女の知性はこちらに傾き始めていたが、天狗という種族のプライドと得体の知れない心に巣食う何かが、飯綱丸を悩ませていた。

 

 

 

『ギャー!ギャー!』

 

そこに奇面族の声が響く。彼らは自らの身の丈程はある剣を掲げながら、激しく鼓舞するように踊っている。気でもおかしくしたのかと思考が働いたと同時に、その踊りに彼女たちの胸の中のものが鼓動を強めていく。岩賊竜も呼応するように吠え、周囲から新たな奇面族が湧いて出てくる。

 

一際大きな燃える仮面を着けたキングガジャブーが、彼女らの前に躍り出て、激しく踊りだす。

 

 

『ヴー、ヴー!』

 

剣を下方―――手負いの鋼龍へとにじり寄る狂った竜たちに向け、飯綱丸の目だけをじっと見つめる。その視線に詰まった決意に、飯綱丸は鼻で笑った。

 

 

「全員、聞け。今からここを移動する。場所は……」

 

 

彼女の意見を聞いた天狗たちは皆驚きの声を上げた。

 

「ちょ、飯綱丸様。それはリスクが高いのでは……」

 

「安心しろ射命丸、手立てはある。他に異論のあるものは」

 

その場にしばしの沈黙。のち威勢のいい声が響く。

 

「いいじゃないか!それ、これにいちゃもんつけれる奴がどこにいるんだ?」

 

射命丸の肩を掴んで、豪快に彼女の体を揺らす。

 

「……承知しました。命令通り派手に行きましょうよ、派手に!」

 

「ふふ。全員、それでいいな」

 

あるものは未だ状況が飲み込みきれておらず、またあるものは不安そうな顔をしつつも、力強い頷きは皆同じだった。

 

 

 

「よし、始めるぞ!」

作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。

  • このまま続ける(頻度は相当落ちる
  • モンハン東方で新しく書き直す
  • モンハン東方はもう出さなくていい
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