鋼鉄は泡沫の幻想に坐す   作:柴猫

4 / 62


日が出て沈んでを7回ほど繰り返した。

 

相変わらずこの地は澄んでいて、竜の咆哮も足音も聞こえない。風も葉のにおいを連れてきて、空は常に青を広げている。

監視者の気配は変わらずだが、それを除けばとても住みやすい土地だ。ここに来てから戦いは一度もない。時折、故郷のことを思い出しもするが、やはり私はここがお気に入りらしい。

 

ただ、変わったことが一つある。

 

それは目の前で遊ぶ羽の生えた人間。

数日前に一人やってきてから、日を追うごとにどんどん増えて来たのだ。今はもう五十を超えている。どうやらこいつらは、私の力のおこぼれを得たいようだ。今もいくつかが私の甲殻を触ったりしている。角を触ろうとする奴もいたが、さすがに拒んだ。

 

ここまで増えるとうっとうしく感じていくと思ったが、不思議とそんな気は起きなかった。そして共に触れ合って分かったのだが、羽人間たちはなんと我々と同じような能力を使うのだ。つぼみすら成っていない花を数分で咲かせたり、未熟な果実を熟れさせたりできる。あの冥灯龍を討った狩人でさえこんな能力は使わなかったはずだから、初めて見たときは少し驚いた。この羽人間たちは私たちと近しい存在なのだと改めて感じた。追い払う気が起きないのはそれなのかも、とも。

ただ、それらの現象も数人が頑張ってようやく発現できるレベルで、風を起こせるという羽人間も、起こせる風は生まれたての同種にすら劣る。あまりにも弱すぎる。故郷の翼竜にすらボコボコにされそうだ。まあ、ここには翼竜はおろか草食もいないのだが。

 

ともかく眼前で遊んでいるものと、私のエネルギーを積極的に得ようとする二つに分類される羽人間たち。私はそれらをただ見ているだけ。

 

平和だ。しかし、それは長く続いていくと彼女は思わなかった。

のんびりとした空気は、ある日突然予兆もなしに消し飛ばされてしまう。故郷での経験が、そう語っている。そして壊しかねない者の存在は分かっている。本来なら即座に叩くべきなのだ。だが、それは自身の力を過信した者が行うもの。そうやって来た古龍や強大な竜が、次々と散っていったのも、彼女は見て来たのだ。

鋼龍という種は、もともと防御に優れた龍である。こちらから仕掛ける必要はない。仕掛けてきたら、それに値する風を返してやればいい。この当たり前のことに気づくのに、私は千年かかった。

 

 

これらの理由から、鋼龍は動かなかった。ただただ妖精と戯れているだけと、幻想郷の面々は認識していた。

だがはっきり言うが、彼女らはなにも彼女を分かっていなかった。全身が鋼鉄である、それだけ。風を操る能力も、嵐を呼ぶだけなのか、それとも別の使い方が出来るのか、それも分からなかった、未知の存在。この一週間、彼女らはとても逡巡していたであろう。

唯一、異変解決者の二人だけは、魔法使いの持ってきた本により、文面だけではあるがかの存在を知ることができたが。

 

 

 

 

しかしそれも今夜、皆はいやでも思い知らされることになる。

 

 

 

 

―――

日が沈み、幻想郷は妖怪の時間になった。妖精たちはそれを恐れたのかすぐに帰っていった。

最も、鋼龍にとっては妖怪など、奇面族や翼竜と同じく目するほどでもない存在たちだ。そこらを跋扈してる奴らならの話だが。

 

彼女は上を見ていた。そこには漆黒の天と、それにまばゆく星々があった。

夜空とは、噴煙がないだけでこうも美しくなるものなのか。初めて来たときもそうだが、全く飽きる気配はない。ここに住む人間は、もしやこの空を見たくてここに住んでいるのか?行動範囲が狭かったとはいえ、龍である私が見とれてしまうのだから、あながち間違いではないかもしれない。だとすると、この地以外の場所はずっと煙が出ているのだろうか。

 

そんなことを考えながら眺めていると、彼女の目におかしなモノが映り込んだ。

一言で言い表すのなら、空を飛ぶ金属光沢の蜘蛛、だろう。羽も無いのに飛んでいるのは疑問だが、生き物ですらない城が飛んでいるのだから、もはや突っ込むようなことではないのだろう。それは夜空を横切るように移動して、この地で最も高い山―――妖怪の山―――に姿を消した。

 

座っていたクシャルダオラは四足で地面を捉え、先ほどの未確認飛行物体の方向を向いた。その目に映っていたのは、興味。

飛行する生物は重く硬い甲殻を持つことは余りない。火竜などは空気抵抗を減らせるような作りであって、地に生きる獣竜と比べると、甲殻は脆い。脆いといってもあくまでそういう進化をした竜と比較すればであり、人から取ってみれば鉄なんかよりよっぽど丈夫なのは共通である。無論、一般の生物ならの話だが。だが、あの蜘蛛はそういった認識を無視したものなのだ。それは興味を惹かれるのもむべなるかな、といったところだ。

しかし、クシャルダオラが関心を向けたのは、そんな人間が頭を捻って考えるようなことでもない。

 

舌なめずりをして、クシャルダオラは翼を振った。

地が震える。未曽有の力の奔流が、空気にのって幻想郷を流れる。不動と思われていた鋼は、しかし生き物であって、不変など有り得ない話だったのだ。

狙いは鉄の蜘蛛。

 

 

久しぶりの、〝鉄狩り〟だ

 

 

 

―――

人も訪れぬ地、妖怪の山。

名の通り、人を食らう妖怪たちが住まう山。妖だけでなく、神々の住まいでもあるこの地は、かつて鬼たちが支配していたが、鬼達はどこかへと姿を消し、今は天狗たちが支配している。

妖怪という種は、総じてプライドの高い者どもであるが、天狗はその中でも非常に高い部類に入る。その為、人間であれ、それ以外であれ、矢鱈に縄張りに入ることを嫌う。故に、山にはおいそれと入れないものである。

 

 

だが、そんな山に侵入者がのこのこと入ってきたのである。

頭に兎の耳を生やした者たち。一見すれば兎の妖怪と思われるが、竹林の妖怪兎とは違い、ほとんどがぴったりとした制服を着用している。無論、中には違う服装の者もいるが。

 

玉兎。地上の兎ではなく、夜空に浮かぶ月に住む兎。

月と聞いて普通は、雅なもの、という認識があるだろう。だが、月の真実はそれだけではない。

彼女ら玉兎は、月の民の部下のような立ち位置のものである。そして月の民は地上など比べ物にならないほど、文字通り上をいく種族である。知能、技術、戦闘……どれを取っても、無類なのである。もし、月と地上が全面戦争を行うのなら、地上は命なき浄土になるのは必然であろう。

天狗たちが玉兎を攻撃しないのは、それもあるからだろう。それに玉兎はかまけていたのだ。

 

月に住む民は高慢で高貴なのだが、玉兎はあまり責任感がなく、気まぐれなのである。地上の妖怪たちが、月の力を恐れて自分たちに攻撃しないのをいいことに、機械に仕事を任せ、怠けていた。その様子は遠足にでも来たかのような光景である。

そんな機械、探査船が行っているのは、地上の浄化……という名の環境破壊である。

探査船が地面の草に光を当てると、その草は一瞬で枯れ、枯れ葉すら残さず消えた。木に対しても同様で、文字通り根こそぎ枯れる。

傍から見れば何をしているのか、と思うだろう。しかし月の文化は地上を置き去りにしたもので、地に住む者どもは分からないのはもはや当然である。

 

 

彼女らからしてみれば、楽なものである。じゃんけんで負けて地上に来たけど、以外と楽な仕事じゃん、そんな感情であった。ある玉兎は食べながら他の仲間と雑談したり、違う者はコーヒーと思しきものを飲みながら読書したりと。まあ、天狗の縄張りでよくそんなのんびりできるなと思うものであった。しかし月は不変の存在であり、そこに住む者もまた、無限の安寧に浸っていたのだ。

 

ああ、今回は楽な仕事だな。口うるさい上司もいないし、穢れさえ気にしなければ割と良いかも……

 

 

 

 

 

 

 

夜空から、鋼が降ってきた。

正確に言うのなら、鋼龍が月の探査船に墜落した、だろう。地上を涸らしていた鉄の蜘蛛は、龍の一撃の前にあっけなくひしゃげて、沈黙した。

突然の襲撃に玉兎たちが驚き、慌てて武器を取る。しかし、余りにも遅すぎた。

クシャルダオラは大きく翼を振った。飛行ではなく、周りの人間を吹き飛ばすためのもの。それの前に立っていられた玉兎はいなかった。

吹き飛ばされながらも、立ちあがった玉兎たちが見たのは、古龍。それも、冥灯龍のエネルギーを取り込み、寿命を超越した歴戦王のクシャルダオラだったのだ。

玉兎たちが真っ先に取った行動は、逃亡。あんな穢れまみれの奴の前に立っていたくなかった。そして何よりも、自分たちの本能が、あれに逆らうな、と全力で警鐘を鳴らしていたのだ。

 

逃亡していく玉兎の背中を見やり、クシャルダオラは〝獲物〟を掴み、そのまま寝床へ飛び去っていった。

 

 

彼女からしてみれば、能力も使わない非常に容易い狩りであった。

 

 

 

「どうして月の兎が……?それに、あのドラゴン……」

 

その様子を見ていた緑髪の巫女は、自身の仕える神社ではなく、もう一つの神社へとすっ飛んでいった。

 

 

 

これが、幻想郷の創造以来の大異変の予兆なのは、この時点ではまだ誰も知らない。




妖精「わー凄い生命力!遊び放題だー」

玉兎「え、何なんあの生命力…穢れまくってるやん!こんなんと関われるか!」
こんな感じです。


ではまたいつか

作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。

  • このまま続ける(頻度は相当落ちる
  • モンハン東方で新しく書き直す
  • モンハン東方はもう出さなくていい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。