鋼鉄は泡沫の幻想に坐す   作:柴猫

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壱拾壱章 語られぬ異変、暴かれる神秘


惹かれゆく淡い灯が立ち消え、霊たちは何事も無かったかのように冥界へと帰って行った。

とんでもない数の霊を捌いていた者たちは息を吐き出し、その場にへたり込んだ。

 

 

 

 

 

もう、終わったんだ。

 

 

まさしくその通り。

元凶は短かったその生を今度こそ全うし、大地へ還った。もう、幻想郷が竜たちの災禍に飲まれることは無い。

以前と全く同じ、という訳でもあるまいが、それはこれまでの異変でも同じだ。とにかく平和が戻ってくる。その事実のみで十分である。

 

 

 

だからといって、これでめでたしめでたしとはならないのも、またこの世の趨勢か。

 

幻想郷の者たちは、その事後処理に追われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう……これで最後かな」

 

季節外れの彼岸花が咲き乱れる、彼岸の岸。小野塚小町は薄汚れた船から出ていく数体の霊魂を見送って、溜まった疲れとともにそう呟いた。

 

「あ~しんどいなぁ。話する暇もありゃしないよ」

 

人里では霊魂暴走事件、いや、正確には冥灯龍異変と呼ぶべき異常は、現在進行形で収束しつつある。かの古龍が放つ幽界の灯は立ち消え、殆どの霊魂は正気に戻った。あれに近づきすぎた霊魂たちは未だ暴れているが、死神仲間や現世の彼女らが何とかやってくれているだろう。

小町の仕事は戻ってきた霊魂たちを彼岸へ回収すること。ほぼ全ての霊魂は戻ってきているため、この調子なら心配ないだろう。

 

「さーてと、少しサボりでもしようk」

 

「小町?」

 

そこらへんの岩に寝そべろうとした小町に、声がかけられた。恐る恐るといった調子で振り向くと、少し視線を下に下げたところに、自分の上司の姿があった。

 

「え、映姫さま!?もう戻られたので!?」

 

「ええ。急務だったので手早く終わらせてきました。それより、冥界含め死後の世界全土が引っくり返るほどの騒ぎの中、あなたは暢気に怠慢するのですか?」

 

「いえいえそんなとんでもない!ただ、チョーット腰を下ろそうかなとしていたところで……」

 

どこの世界でも、上の者と下の者の立場は変わらない事を証明するかのようなやり取りを交わす二人。映姫はジーッと小町を見ていたが、やがて視線を外し、小町は胸をなで下ろした。

 

「今回の異変は、幻想郷の地理と狩猟世界とを繋ぐ異変の中で冥界の土地が利用された異変であり、同様の事例が再び起きないよう、幽冥界全体で再発防止に取り組む。……とのことです」

 

「は、はぁ」

 

「八雲紫と西行寺幽々子、それに伴う幻想郷の人妖たちの独断行動については、不問とするそうです」

 

「……まぁ、我々からしたらそれくらいしか言えないですよね。

所で、その狩猟世界ってのは?」

 

彼女らしくもなく、映姫の目が少し泳いだ。小町はそれには気づかずに、鎌を杖代わりにして映姫の返答を待った。

 

「……モンスター、と呼ばれる強大な獣たちが跋扈する世界。人間も原始的な暮らしを営んでいるが、一部の技術はこちらを凌ぐほどである、と聞きました」

 

「へぇ」

 

「〝狩るか、狩られるか〟それがあの世界のルールらしいです。体系化された魔術の類も一切なく、天界や地獄といった機関も確認できないようです」

 

「さらっと衝撃的な言葉を聞いた気がしますが……どうして閻魔様たちはそんなにあの世界に詳しいので?」

 

今度は小町でも分かるほど映姫の目線が不安定になった。まずいことを聞いたか、と思ったが映姫はちゃんと口を開いて答えた。

 

 

「その、聞いたのですよ。現地の情報に詳しいお方から」

 

「……それって誰なんですか?」

 

 

 

「…ヘカーティア・ラピスラズリ様からです」

 

 

「……ほへぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かなづちが釘と木材を打つ音が、通りにこだまする。どこか疲れた様な表情を浮かべる住人たちは、しかし力強く、壊れた家屋や道具の修理に勤しんでいた。

 

 

人里

白昼堂々突然やってきた幽霊たちの暴走に、一時は騒然とした里だったが、寺の住職さん方の援護に助けられ、反撃を開始。それでも暴れ続けていた幽霊たちが、不意に正気に戻ったようになり、そのまま消えていってしまった。

何はともあれ幽霊たちの襲撃を乗り越えた住人たちは、これも命蓮寺の協力を得て現在復興に取り組んでいる。

 

 

そんな風景の一角に、僧侶の聖白蓮と話をする青い髪の女性がいた。

 

「……そうでしたか。幻想郷でそんな大きなことに発展していたとは」

 

「すいません、私たちも紫殿の文で先ほど知ったばかりで」

 

「いや、貴方たちの応援あってこそだよ。流石にあの数の幽霊は厳しくてね。妖怪なら自警団でもある程度は対処できるのだが、幽霊相手だと難しいところがあってね」

 

「いいえ、慧音さんの適切な避難指示あってこそですよ」

 

白澤との半妖である上白沢慧音は、聖の言葉に礼を言いつつもすぐに対策を話し合った。

 

「そうか……異変の原因を考えると、優先すべきは幽霊対策ではなく、モンスターへの対抗手段の確立か」

 

「そうなりますね。もう、人々に対して彼らを外来種と説明するのも限界があります。猟師の方々などは既に気が付き始めているようですから」

 

「それに一部の勘が鋭い人にもね。無用な混乱を生まないための措置だったが、もう潮時だろう。山の神や霊廟の仙人ともかけあってくれるかな」

 

「ええ、分かりました。といっても、彼女たちは既に気づいていると思いますが」

 

 

 

 

そんなやり取りを交わしている彼女らを、人混みの向こうから覗く視線があった。

 

「……なるほど、そういうことだったのね」

 

地味な色合いの外套を纏う少女は、稗田阿求だった。彼女は現在起こっている外来種騒ぎに違和感を感じ、小鈴と共に調査を行っていたのだ。たまたま通りで見かけた白蓮を尾行していたところに、先の話を聞いた次第である。

 

あの外来種たちは、モンスターというのか。恐らく少し前に襲来したあの謎の巨龍もそうだろう。あれほどの存在が幻想郷に多く来ていると公にすれば里は恐慌状態に陥るだろう。それを防ぐために里の人々に隠していたのは分かるが、なぜ自分にだけそのことを教えてもらわなかったのかが腑に落ちない。いや、もしかしたらその余裕がないほどに切羽詰まっていたのだろうか。今の彼女たちの話では分からないが、何か異常が起きていたのは違いない。

 

更に詳しく情報を知りたいが、ここで姿を明かす必要もないだろう。少し遠いが、博麗神社に行って巫女に話を聞こう。これほどの異変であるのならば、彼女が知らないはずはないだろう。最近留守にしていることが多いと聞くが、正確な情報を手に入れるためには可能な限り急いだほうがいい。九代に渡って転生を繰り返した私の、これ以上ないくらい正確な経験則だ。

 

 

そうして歩き出した阿求の耳に、再び二人の会話が入ってきた。

 

「そういえば、あの古龍(・・・・)はどうなんだ?何やら今回の異変解決に尽力したとか」

 

「ああ、それですか?さぁ詳しくは何とも……里の防備に必死だったので」

 

「まあ、そうだな。寺には妖精もいないから、彼女(・・)の噂も入りづらいだろう。時間を取らせてすまない」

 

「いえいえ」

 

 

 

古龍。その単語を聞いて自然と阿求の足が止まった。彼女の受け継がれてきた記憶の上澄みに、それは刻まれていたからである。

 

小鈴が魔理沙さんから受け取った奇妙な本に記されてあった、生物の総称。天災にも等しいほどの力を無意識に放出し、現れただけで国を閉ざし、消してしまうような、太古から語り継がれている伝説。余りに現実離れしすぎていた内容だったため、阿求も小鈴もまともに扱っていなかった。

 

だが先ほどの話を聞く限り、慧音はそれが当たり前にいるかのような口ぶりだったし、聖もそれに疑問を覚えていないようだった。

 

 

まさか、あの荒唐無稽にもほどがあるようなでたらめな存在が、幻想郷にいる?なぜ?

 

 

 

 

私が知らない間に、幻想郷はどこまで変わったというの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖怪の山の頂にほど近い場所に立つ屋敷。日の高さの割には余り光の入らないその中で、二人の天狗が向かい合って話していた。

 

「……ご苦労であったな、飯綱丸よ。見事な働きであったな」

 

「そのように褒められることではありません。私が少し無茶な判断を下したばかりに、隊に無駄な傷を負わせてしまったのは事実で……」

 

「謙遜するな。お前が一番知っているだろうが、あの危険極まる龍結晶の地へと事前情報もなしに向かって全員生還。しかも現地で言葉も通じぬ原住民を味方につけるとは。そこらの大天狗にできる技ではない」

 

「……ありがとうございます」

 

天魔は飯綱丸の目を見て、いたずらにこう言った。

 

「あの鋼龍を助けたことで咎められると思っていたのだろう?」

 

さとり妖怪を前にしたように心を見透かされた龍は目を見開いた。

 

「案ずるな。既にあの龍の放逐は私の重要事項ではない。いい利用方法を思いついてな。死んだら死んだでそれまでと思っておったが」

 

「……あなたの考えには毎度驚嘆させられる」

 

ふふふ、と機嫌よく笑いながら天魔は飯綱丸の報告書を手に取った。

 

「ともあれ、お前も疲労困憊であろう。明日からしばし暇を出すから、休息すると良い。隊の天狗たちにも同様にな」

 

「お心遣いに感謝いたします。では」

 

飯綱丸は翼を広げて屋敷から飛び去った。

しばらくして天魔は廊下を通って縁側へと出て、青空の元に広がる妖怪の山を観た。

 

 

幻想郷の中でも特に恵まれた土地は、青々と茂り、妖怪でも感嘆するほどの壮観な光景を見せている。未だ計画段階だが、山の中に存在するという〝あの鉱物〟をはじめ多くの資源もまた、存在するのだ。

 

「ふふ……あの龍の存在があれば、我らがこの山全てを掌握することも夢ではあるまい」

 

その欲望を孕んだ独り言は、季節外れの秋風が払ってくれる

 

 

 

 

はずだったが、

 

 

「……!何奴!」

 

突如より背後から異様な気配を感じ、数瞬も待たずに天魔は振り返った。

 

しかしそこにはただ屋敷の廊下が広がるのみで、怪しいものの影は一切なかった。

葉団扇を構えたままに、天魔はその場から風のようにいなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危ない危ない。勘は衰えていないようだな」

 

艶めかしい、だが何か底知れないものを帯びた女性の声が響く。

 

「全く。せっかく奴と与してストッパーを用意してやったのに、懲りずに逆に利用しようとするとは。悪知恵の働きすぎるものだ」

 

トントンと、座る椅子の肘掛けを指先で叩く。

 

「これ以上調子に乗らせないように、一つ大きく出るか。巫女には悪いが仕方ない。害獣駆除も急いでやらないといけないからな」

 

 

 

 

 

今再び、異変の扉が開かれんとしていた。




ああああああ!!!また章挿入忘れたーー!!


すいません本当に……

作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。

  • このまま続ける(頻度は相当落ちる
  • モンハン東方で新しく書き直す
  • モンハン東方はもう出さなくていい
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