鋼鉄は泡沫の幻想に坐す   作:柴猫

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剛欲異聞ネタバレ見ました。いやー、なるほど。そう来ましたか……





昼の紅魔館の一室。包帯が解かれたフランドールの右手を、パチュリーが手に取る。

 

「まだ痛む?」

 

「うん。動かしても痛みが出てくる」

 

その様子を、傍らでレミリアが見ていた。フランの右手はひどく焼けただれたような傷が残っており、人の目では見えない様な小さな静電気、または炎のようにも見えるエネルギー体が、触られるたびに迸る。

 

「どう?」

 

「……明らかに再生が遅くなっているわね。魔法的な処置をしても、効果が殆どかき消えてしまう。原始的だけど薬草治療でごまかすしかないわね。これって、乱入してきた古龍の目を潰したらこうなったのよね?」

 

「ええ、たしかバルファルクとかいう名前だったはずよ。そいつの、なんか、こう、胸の器官を壊したら火傷しちゃって」

 

うーん、とパチュリーはあごに手を当てて悩む。

 

「……確か、バルファルクはエネルギーを胸部で生成するから……フランが破壊したのはそちらかしら」

 

「壊した後にまた追いかけてきたけど?しかも、もっと赤黒くなってきて」

 

「きっと他にも生成器官があるのよ、予測だけど。でも、確信が持てたわ。これは龍属性による火傷ね」

 

「「龍属性?」」

 

二人の吸血鬼が姉妹そろって首をかしげると、パチュリーはモンスターの編纂書を持ってきて、あるページを開いた。

 

「こっちの世界に五行や三精、といった属性があるように、あちらにも同じ属性があるのよ。火、水、氷、雷。そして龍。

自然界における属性には、良くも悪くも特徴がはっきり分かれているのよ。それらが互いに相生、相剋の二つの面を持って循環することで、自然界は正しい循環を送れる。レミィ、聞いてる?」

 

「え?あ、もちろんよ。分かり切ってる説明だからね」

 

フランがジト目でレミリアに視線を送り、パチュリーは一つため息をつく。

 

「……まあ、いいけど。これらが属性の持つ役割というわけ。たとえどんな世界であっても、それは変わらない。

でも、この龍属性だけは違う。本来の属性の役割を全てかき消す……自然を冒涜する科学理論でも、こうはならない」

 

龍属性に侵されたフランの右手を優しく取りながら、そう言う。

 

「もっと気になるのは、古龍との関係。彼らの血にはこのエネルギーが秘められている」

 

「……それって?」

 

「自然の化身である彼らにとって、このエネルギーは毒よ。彼らの持つ能力と反発しあってしまうもの。最悪の場合は力の暴走につながるかもしれない。貴方たちが見たその古龍もそうなんじゃないかしら」

 

二人の脳裏に、復讐へ狂い、文字通り突然変異したあのバルファルクの姿が浮かぶ。あふれ出す自らの龍気に侵された黒い姿には、強大な吸血鬼である二人でさえ恐ろしさを感じないではいられなかった。

禍々しい火傷の痕を、フランは心配そうに見つめた。

 

「……治るの?この手」

 

「そんなに不安にならなくてもいいわよ。治療方法はあちらの世界で既に確立されてるわ。魔法の森に行けば、材料が手に入ると思うけど」

 

「美鈴に行かせましょうか。まだ咲夜には無理は頼めないしね」

 

三人はそう言って図書館から出た。

 

 

 

どかーん!!

 

「えっ!?」

 

フランが驚きの声を上げる。その理由は彼女たちの目の前にあった。

 

 

 

紅魔館に勤めている妖精メイドたちが、仕事を放棄して物を投げたり、弾幕を飛ばしあったりして遊んでいるのだ。その様子は遊びと言うには余りにも派手すぎるというか、半ば暴走に近い状態であった。

 

「お嬢様!?申し訳ありません、すぐに落ち着かせますので」

 

「いや、いいわ。私が直々にお仕置きしてあげる」

 

そう言ってレミリアは四方八方を飛び回る妖精の群れへと突っ込んでいった。

 

「これが龍属性の暴走ってやつなの?」

 

「……いや」

 

パチュリーは無差別に弾幕を放つ妖精たちの背中を見ながら、ある推論を打ち立てた。

 

 

 

 

 

「きっとこれは、いつもの(・・・・)めんどくさい奴の仕業ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって神霊廟。床で眠る屠自古の傍に、神子は神妙な面持ちで座っている。そこに新しいお湯を持ってきた布都が入ってきた。

 

「太子様。まだ完全に治ったわけではないのですから、床で安静にしていてください」

 

「心配するな。布都のお陰で大方治ってきたところだよ。それより、屠自古の方は大丈夫なのか?」

 

その場から動こうとしない自分の主に、布都は洗いざらい屠自古の病状を話した。

 

「結論から言いますと、かなり危険ですな。何か、毒?のようなものに侵されている様なのです。我が仙術を持ってしても、如何ともしがたいです。一応竹林の医者には来るように言っていますが、あの二人の治療にかかりきりでして、すぐには来れそうもない、と」

 

「……そうか」

 

神子は屠自古の頬へと手を添える。亡霊となった体からは冷たさと、あるはずのない僅かな熱も感じる。

バルファルク。大気中から酸素を取り込み、龍気という未知のエネルギーを吐き出す彗星の古龍。霊体である屠自古に攻撃を当てるなど、霊力などを用いなければ不可能なはず。加えて布都の龍脈術も効果を示さない。もしかしたら、彼女はこのまま成仏してしまうのではないか。

 

いや、それだけは駄目だ。私の願いに亡霊となってもついてきてくれる彼女を、このまま死なせるわけには行かない。共に天人へと至るのだ。必ず。何か、なにか治療法はないのだろうか。この自然の秩序に反する力を排除できる方法は……

 

 

 

「ハーイ、神子様!」

 

「痛っっ!!」

 

いきなり背中を勢いよく叩かれ、傷に重く響く痛みに神子は悶絶する。

床に空いた穴から神子の背中をビンタしたのは、霍青蛾。彼女が穴から出てくるのに続いて、口に袋を咥えたキョンシーも現れる。

 

「登れないー、持ち上げてくれー」

 

「ああ、ああ、分かった分かった」

 

宮古芳香は布都に引っ張り上げられて、咥えた袋は青蛾にひょいと取られた。

 

「良い子ね芳香ちゃん。あとでお肉あげるからねー」

 

「わーい、やったーー」

 

「ちょ待て待て青蛾殿。いきなり床に穴を開けて入るのはいくらなんでも」

 

「まあまあ物部氏。落ち着いてください」

 

青蛾は袋の口を開き、中から青い粉末状のものを取り出した。

 

「?それはなんじゃ?」

 

「治療薬ですよ。龍属性やられへの」

 

床に転がる神子の口の中へ、青蛾はその粉末を押し込んだ。

 

「むぐっ!?」

 

「大丈夫ですよ神子様。すぐに良くなります」

 

突然喉元へと迫った異物を、時間をかけながらも神子は飲みこんだ。途端、口を抑えてえずく。

 

 

「!!!!苦い……とてつもなく苦い!!」

 

「ええ、ええそうでしょう。にが虫の成分を濃縮して作ったのですからね」

 

「こうかは私でじっしょー済みだ」

 

「虫!?お主、太子様のお口にそんなものを!」

 

慌てないでくださいと言ったでしょうと、青蛾は屠自古の元へと近づき、粉末を布都の持って来たお湯へと混ぜる。

 

「古龍とは、とても素晴らしい生物ですよ。私たちの叡智を持ってしても不可能なほどの広範囲に及ぶ力、悠久にも等しいような生命力、獣には決して辿り着くことのできない知能。果たしてこれほどまでの力の根源は何なのか。

それは、この美しい結晶が全て語ってくれるでしょう」

 

青蛾は金剛に似た輝きを放つ、龍結晶を神子へと差し出した。

 

「けほっ。…それで、その正体はなんなのだ?」

 

「恐らくですが、彼らは自然の力を抑止しているのです。この龍属性エネルギーによって。お耳にしたことは?」

 

「確か、あちらの本に書いてあったな。文面には正体不明のエネルギーとあったが」

 

「そうです。龍属性は他の属性の力を封印します。炎や冷気といった五行的なものから、毒性のものに至るまで幅広く。古龍種はこの龍属性を用いて、自然界に存在する属性エネルギーを自らの体に留め、龍属性の出力を調整することでそれを放出する……これが彼らの能力のメカニズムでしょう」

 

布都が神子にお湯を差し出し、彼女はそれを一息に飲み干す。大部分の苦みは押し流され、未だ喉にこびりつく残留感を感じながらも、神子は青蛾の話に耳を傾ける。

 

「……神子様たちが戦ったその古龍は、龍属性に特化した進化を遂げた種なのでしょうね。龍属性として発露しなくても、その龍の一撃に龍の力が込められているのは明らか。ただ、霊体に直接攻撃したのではなく、屠自古殿の雷のエネルギーに反応した。そして屠自古殿自身にも傷を負わせた、正確に言えばこういうことになります」

 

今度はゆっくりと、屠自古の口へと薬剤を飲ませる。

 

「これはウチケシの実という、あらゆる属性やられを治すことの出来る実です。今の屠自古殿は、内包する雷の力が龍属性に侵され、それによる不安定化によって目を覚まさないのです。それをにが虫の増強作用を使って調合すれば……」

 

それまで本当に死体のように寝ていた屠自古が、勢いよく起き上がった。

 

「にっ!がーーーー!!!」

 

「おー。とじこ、お帰りだぞ」

 

「なんだこれ……って青蛾!お前の仕業か!」

 

「……ぜ、全快しておる」

 

ものの数秒でいつも通りに雷を落とせるまでに回復した屠自古は、神子を見て一時の激情を抑えた。

 

「た、太子様。お怪我は大丈夫なのですか」

 

「全く、心配させおって。私ならこの通りだ。青蛾殿に感謝しなさい。彼女の薬のお陰で我らは助かったのだから」

 

「え?こやつが我らを?」

 

「もー、信用されてないですわ」

 

「そうだぞ屠自古!青蛾殿が帰ってくるまで我がしっかり看病しておったのだからな。むしろ我に感謝すべきだぞ」

 

「いやお前に礼を言うのはもっと嫌だ」「何っ!?」

 

屠自古と布都がいつもの喧嘩を繰り広げ、青蛾と芳香はそれを煽る。いつも通りの日常の再来に、廟の主は幸せにほほ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ、ご無事でよかった。あの邪仙も少しは丸くなったか」

 

その光景を、扉から見ていた人物は安堵の息を吐いた。

 

「懐かしいな。あの二人も、あやつも全く変わらないし、物分かりの悪い侍従もいる。本当に、あのお方の周りは全く変わらないなぁ」

 

かつての自分、いや彼女を形成している一部分であった時にはなかった膨らみの底を見て、今度はどうしようもない無力感を孕んだため息をついた。

 

「「お師匠様ー」」

 

覗いていた扉は閉じられる。師匠と呼んだ二人の前には、威風堂々たる御姿があった。

 

「準備は済んだか」

 

「はい。いつでも踊れます」

 

緑色の服を着た少女の答えを聞き、二人に告げた。

 

 

 

 

 

 

「よろしい。舞、里乃。幻想郷全ての者の背中に、お前たちの乱舞を届けてこい!」

 

 

閉められていた扉が一斉に開かれ、名前を呼ばれた二人は踊り狂う。

 

 

 

その様子を尊大に睥睨する神の名は、魔多羅隠岐奈。

 

彼女の力はほどなく、幻想郷に轟き渡るだろう。




ほんの少し原作の流れを変えさせてもらいました。

ではまたいつか

作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。

  • このまま続ける(頻度は相当落ちる
  • モンハン東方で新しく書き直す
  • モンハン東方はもう出さなくていい
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