鋼鉄は泡沫の幻想に坐す   作:柴猫

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サンブレイクまだ……?




幻想郷の四季が狂った。

本来の季節は初夏が来ようとしているところなのに、里や太陽の畑は例年以上の猛暑。博麗神社は桜の海。妖怪の山は紅葉の畳。魔法の森は銀世界。

 

 

誰がどう見ても、明確な異変だった。直接的な被害こそまだ出ていないが、精霊や妖精に妖怪の活発化と、何かの意思が蠢いているのは明白であった。早く異変の収束を願う者たちは、そこで異変とは違う異常に気付いた。

 

 

 

 

普通ならば異変にはすぐに出てくるはずの博麗の巫女が、一週間経っても現れない。彼女とよく行動を共にする魔法使いも同様であった。神社に確認しに行った稗阿礼の子自身が、彼女たちの姿を見れなかったというのも、里では話の種になっていた。

 

ならば他に異変を解決できる者は、と待ってみるも出てこない。

それもそのはず、何せ彼女らはつい先日までモンスターたちと戦っていたのだから、すぐに異変解決に赴けるほど余裕な者はいない。

 

 

異変解決への光明が見えない、原因もまるで分からない不安な状態が続く中

 

 

 

 

 

 

 

「いやっほーーーい!!」

 

馬鹿騒ぎをしている妖精が一匹いた。いつにもまして元気百倍!といった感じのチルノは、夏の若葉に冷気を当てて凍らせる。付近のうだるような暑さが葉についた氷を溶かし、水となって地面に滴る。

 

「いやー、やっぱ夏はこうでなくちゃな」

 

カンカン照りの太陽と凍り付いた森の木々を見て、満足げに鼻を鳴らすチルノ。葉に付いた霜に反射した光が、浅黒く染まったチルノの肌に届く。

 

「……それになんだかすごい力が湧いてくるぞ!今なら幻想郷も支配できそうだ!」

 

普段からサイキョーサイキョーと豪語しているチルノだが、今のチルノは普段以上に色々と漲っているようだ。

 

「よし、そうと決まれば早速出発だー!」

 

 

 

 

 

そしてチルノは幻想郷を飛び続ける。行く先々で精霊や同族たちを蹴散らすその様は、日焼けした様な肌もあいまって猪のよう。発揮する冷気の力も、急に寒くなって飛び出してきた雪女が驚くくらいには冷たかった。

確かにチルノは、妖精の中ではずば抜けて力がある。過酷な地獄の妖精であるクラウンピースとタメを張れるくらいには強い。氷という、一見生命力とは縁のないものだが、その分競合相手が少ないためこれほど強いのだ。

 

 

ただ強いとは言えど、あくまで妖精の範疇でだ。幻想郷全体から見れば下級妖怪ほどのレベル。それなのに、今のチルノは余りにも強い。いや、()()()()。特に何か急に強くなるようなマジックアイテムを使ったわけでもないのにこれだ。端的に表すのなら、暴走が最もしっくり来るだろう。

要は、チルノもまた異変の影響を強く受けたに過ぎないのだ。

 

 

 

 

そんなことは露とも知らず、チルノは妖精の群れへと勝負を仕掛ける。妙に必死な妖精の説得もむなしく、チルノは奥へ奥へと進んでいく。その後も妖精の群れが異常なくらいの大群でチルノを止めようとするが、今の彼女に止まるという思考はなかった。

 

かつて襲ってきたランポスの群れよりも苛烈な攻撃を退け、チルノが森の奥へと進んでいこうとした、その時。

 

 

 

 

 

 

チルノの猛進は、突風によって防がれた。木々の枝が折られるほどの強風に、小柄な体が地面に落ちる。

 

「いてっ!」

 

氷をばらまいて衝撃を緩衝し、なんとか着地できたチルノ。

 

しかし直後、異様な気配が周囲に広がる。

チルノはこの感覚に覚えがあった。それは、とても強い妖怪と会った時の感覚。目の前のものを鬱陶しいと不快がる感情。違いは、それらを凌ぐ重圧が今のチルノの身に圧し掛かってきていること。

 

森の奥から、巨大な影が歩いてくる。

 

 

 

ギシッギシッ

 

それが徐々に近づいてくるたびに、葉擦れの音より不快な、重い金属音が響く。同時に、小さな氷精の体が震え始める。寒さのせいではない。

 

 

葉の間から差し込む太陽の光が、少しずつ、その正体を暴いていく。

 

 

 

赤茶色に錆びた金属の甲殻。何条もの傷が走ったその様は、ボロボロになった車の外装のよう。体を覆うように広い翼も色は抜け、翼膜には穴が何か所も空いている。頭部に戴く角は半分以上が折れ、根元から折られた右角の根本は大樹のこぶのように潰れていた。

 

「あれ?クシャも日焼けしたのか?」

 

自分たちがよく遊んでもらっている相手だと分かり、チルノはいつもの調子で声をかけた。名前を呼ばれた鋼龍は、どことなくぎこちない動きで首を回し、チルノを見た。

 

「いつもと目が違う。」心からそう感じる様なクシャルダオラの視線を直に浴び、チルノの腰が引けた。

 

 

 

 

『……氷のか。何しに来た』

 

 

突然、チルノの耳に声が届いた。いつも通わせる〝声〟とは違う、〝振動〟と言ったほうがいいような響きだった。

 

「え?クシャ、いつの間に言葉を覚えたんだ!?」

 

『……そんなことはどうでもいいだろう。で、用は?』

 

〝振動〟は明らかに不機嫌なのが分かるほど、歪を孕んでいた。少し頭の足りないチルノでも、今の彼女を決して刺激してはいけないのは身に染みて分かった。さっきの妖精たちはこれを恐れていたんだとも、同時に思った。

 

「あ、ええと。なんか力が湧いてきたから、いっちょ幻想郷中の奴らを一泡吹かせようと思って」

 

『それで、私のところに来たのか?』

 

「ち、違うんだ!少し道に迷っただけで……ほら、ここの妖精達がいないからさ。いつものお前の寝床だって分からなくて、つい……」

 

先ほどまでの勢いはどこに消えたのか。王の圧倒的な威圧に、小さな妖精は今にも立ち崩れそうだった。

思わず後ずさりしたチルノが、足を引っかけてこけた。見れば、以前クシャルダオラが捕ってきた月の探査船が、原型をとどめないほどに食われ、配線やら何やらが散乱していた。

 

だが錆びたクシャルダオラはチルノと向き合い、さきほどよりも少し落ち着いた〝振動〟の調子で話しかけた。

 

『あいつらには今出ていってもらっている。私が脱皮をするのでな』

 

「だ……だっぴ?」

 

『そうだ。異変解決、とスキマ妖怪は言っていたかな。妖怪たちと組んで故郷の猛者どもと戦っていたら、結構な傷を負ってな。時期もちょうどだから、いっそ脱皮の準備を進めているわけだ』

 

「へぇ~。クシャって虫みたいなことするんだな」

 

『間違ってはいないな』と、錆びた鋼龍の口から発せられた吐息が、チルノの耳を震わせる。

 

『こうなるとかなり動きづらくなるし、柔らかい内側の甲殻に擦れて痛いのだ。脱皮中など隙でしかないから、とてつもなくイライラしてしょうがない。苛立って見たものすべてに攻撃してしまうかもしれんから、彼女らには避難させているのだ』

 

「………………ん?それってあたいも逃げたほうがいい?」

 

『体ごと砕かれてズタズタにされたくなかったら、すぐに』

 

チルノはすぐに離陸し、空へと飛んでいく。そのすんでに、『氷の』とクシャルダオラが呼んだ。

 

「氷のじゃないよ!あたいにはチルノって名前があるんだい」

 

『……そうか、チルノだな。覚えておく』

 

「おう!じゃあなー!」

 

チルノは夏の空へと翔けていき、その青い髪は空に溶けこんでいった。錆びたクシャルダオラは、石畳の上に座る。

 

 

痛みに耐えながらも体をくねらせて、硬くなった古い外殻を剥がそうとしながら、彼女は思った。

 

『(……妙に背中が痒いな。あの紅蓮の飛竜に上から爆撃されたのがきたか?)』

 

 

背中の異物感は無視に努め、錆びた王は脱皮に集中する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もし、目の前に自分が最も欲しいものが山のようにあったら、どうする?

 

当然、貪るに決まっているだろう。罠と警戒していく者も、結局は獣のようにそれへと群がる。どんな生き物も、決して欲には逆らえないのだから。

 

 

 

 

なら、目の前にいる黒い龍も、そんな生き物の内の一つだろう。

 

筋骨隆々とした黒い体を棘で覆う、側頭部からは巨大な角を生やした魔物。生物学的に言うならば、古龍目 滅龍亜目 ネルギガンテ科に属するモンスター、滅尽龍 ネルギガンテと答えるのが正解のように見える。

 

 

ただ、それでは部分点にとどまる回答だ。

 

確かにもとはそうだったろう。でも彼はもう古龍であることを捨てたのだ、自分から。代わりに生命として不合理な存在である妖怪を喰らうことで腹を満たす、それが妖怪 ネルギガンテとしての彼の本当の姿。

 

 

 

だから今彼がやっている行為は、決して彼の腹を満たすものではない。

 

時が止まっていたように静かに死んでいた冥灯龍の亡骸に、嬲るように荒々しく牙を突き立てては咀嚼し、喉を通して体へと吸収していく。既に暴走した天彗龍を骨も残さず平らげた後だというのに、腹に入れるペースはむしろどんどん速くなっている。

彼の舌はひたすら、苦い、まずい、味は最悪だ!と脳内へと訴えていた。でも彼の理性はそれを拒否し、赤い血がべったりとついた青い肉を体内へと送っていく。その目は腹を満たして満足した獣のそれではなく、上へ上へと上がりつつある力に、己の野心が褒めている欲望のそれだった。

 

 

 

しばらくして、そこに冥灯龍はいなくなった。いや、そこにいたという証拠を示すものがなくなったと言った方が正確だ。

 

ただ一頭、蠢いているのは、先ほどよりも黒みを増した姿の()()。静かなる地脈の収束地を脅かすような、凶悪な棘が全身からあふれ出していた。

 

 

 

 

 

 

咆哮。それは言葉で表すのも憚られるほどに残虐な笑い声。もしくは、自分の獲物へ己の力を知らしめる喇叭。

 

 

そう、それでいい。

 

飛び立つ先はここではない世界。忘れられた最後の桃源郷。あれはそれを己の糧として絞りつくそうとする。確実に、どんな困難に出くわしても。

それが本能だから。

 

 

 

だから、急ぎましょ。あなたの道を閉ざしたくないなら、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————————————

 

命がもたらす喧騒から隔絶されたような静寂に包まれる竹林。白く控えめな花が咲き誇るのは、六十年に一度だけの彼らの祝宴。

 

 

外はこんなにも綺麗なのに、全く目を開ける気配のない人間が二人。黒髪と金髪の少女は、絶対安静の中で寝ていた。この亭の主治医は症状の解明。彼女のペットである元月の兎は薬の材料の調達に幻想郷中を走り回されていた。

 

外の風が彼女らの髪を撫でる。

永遠亭は沈黙したように歪みの音も聞こえず、二人が生きていることを示す小さな呼吸のみが響く。

 

 

 

 

 

 

音もなく、少女が現れた。白い無地のワンピースを着た、普通の少女。

 

パタ、パタ

裸足が木の床を歩き、二人の顔へと近づく。少女は二人の顔をまじまじと見つめ、なよやかな指で霊夢の口元を開けた。

 

 

 

少女も口を開け、そこから滴る一滴の鮮血を霊夢の喉へ注ぐ。同様に魔理沙にも口移しを行い、優しく口を閉じさせる。

 

 

 

眠る二人の顔を見ながら、白い少女は部屋から出て行った。

 

 

 

 

この時点で、これを知る人は誰もいなかった。

作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。

  • このまま続ける(頻度は相当落ちる
  • モンハン東方で新しく書き直す
  • モンハン東方はもう出さなくていい
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