鋼鉄は泡沫の幻想に坐す   作:柴猫

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新章に入ったので、題を漢数字から普通の数字に変えました。あと遅れてすいません。


12章 交わりはより深く


博麗神社

 

桜色の海はほぼ枯れて落ち、木々は秋の到来へと備えるため葉を赤くしていた。

 

「おーっす!霊夢はいるかー?」

 

そんな神社に声を張って一人の少女が現れた。

 

 

小柄な体格には似合わない大きな二本の角に、円や四角、三角錐のついた特徴的な鎖を巻いているのは、かつて鬼の総大将と呼ばれた伊吹萃香である。

 

萃香は張戸を開けて神社に土足で入り込もうとすると、そこに鋭い声が響く。

 

「ちょっと、駄目ですよ!土足で入らないでください」

 

宴会用のシートを広げていた少女が、萃香を注意した。

 

 

深緑色の髪から小ぶりな角が生え、腰の辺りには犬に似た尻尾を生やしている。妖怪と同じく人外の存在であるが、それらとは違う神聖な力を持っている。

 

高麗野あうん

寺社仏閣で見かける狛犬。その神霊が今回の異変で受肉した、神獣である。

 

「えー、別にいいだろ?それくらい」

 

「はぁ。霊夢さんはまだ帰ってきてませんよ。少し永遠亭で療養してから戻ってくるそうです」

 

「おお、そうか。全くあいつらもあんな面白いことやるなら、私にもひと声かけてくりゃいいのに」

 

「あの時はそれどころじゃなかったことくらい、萃香さんでも分かってるはずですよね?」

 

あうんが萃香を少し睨むと、「冗談冗談」と瓢箪の中身を呷る。

 

「しかし、霊夢も魔理沙もいないから、誰が解決するんだと思ってたが……まさか、ねぇ」

 

「ああ、それは私も驚きましたよ。てっきり守矢神社の早苗さんが出てくるものだと思ってましたので」

 

あうんと萃香は目を合わせ、既に収束しつつある四季異変の経過を思い出していた。

 

「……まあ、霊夢さんが帰ってくる頃には準備も終わるでしょうし、先に呑んでていいですよ」

 

「お、気が利くじゃないか」

 

「言っても手伝ってくれないでしょうし。ただ、邪魔はしないでくださいよ」

 

萃香は神社の屋根へと登り、散りゆく桜を眺めながら一口酒を呷った。

 

 

 

「あの怪我から突然回復だなんて、一体全体なにが起きたんだろうねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人里

大方の復興作業が終わり、汗を拭った彼らは手元に握られた新聞に目線を落としていた。そこには四季異変の情報も書いてはあるが、人々の興味を奪っているのはそちらよりも厚く印刷された新聞の方だった。

 

「『幻想郷を襲ったモンスターの災禍!その全貌とは!?』ってさ。どうして今更こんな記事を書いたのかしら」

 

ソファに腰かけながら、小鈴は定期契約を結んでいる文の新聞を開いた。

 

「流石にもう隠せなくなったからよ。妖怪たちの予測よりもモンスターの流入する量が多かったからね。猟師とか、その道の人からすれば、モンスターを外来種に説明するほうがうさん臭く見えるものよ」

 

「ふーん」

 

向かって座る阿求が緑茶をすすりながら、冷静に分析していく。

 

「なんでそう分かるの?」

 

「一に、モンスターたちの生命力が高すぎるのが原因ね。猟銃を撃っても全然弱らないし、逃げる速さもケルビと鹿では兎と亀。陸続きの外の世界の動物としては、おかしすぎるのよ」

 

「はー、なるほどね」

 

「あとは、能力。前に目撃されたイャンクックってモンスターなんて、口から火の玉を吐いたり出来るのよ?あれじゃ立派な妖怪よ。……あれであっちの生態系では下位に属するっていうのが信じられないわ」

 

大きなため息を吐き、阿求は出された緑茶を一息に飲み干した。小鈴にとっては少し苦かったのか、ズ、とだけ飲んで喉を冷やす。

小鈴は新聞をめくり、そこに書かれた記事に目を落とした。阿求もそれを覗く。

 

「あぁ、霊夢さんたち無事だったんだ。今日の宴会で顔を出すって」

 

「あら、前に行った時はいなかったのに」

 

「いいじゃない、二人とも回復したんだし。そうだ、快気祝いに何か持っていこうかしら」

 

小鈴がそう言うと、阿求はハッとしたような顔になったかと思えば、すぐに思案に耽った。考えがまとまったのか、立ちあがって小鈴に言う。

 

「それならいいお酒手に入れたから、それを持っていきましょうか。ついでに色々聞き出したいこともあるし」

 

「あんたにとってはそっちが本音でしょ……」

 

親友の考えを悟った小鈴は何とも言えない呆れと、阿求のそれに同調している自分の好奇心と共にそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻想郷と一言に言っても、少し歩いてみれば、その顔はすぐに変わってしまう。

東端の博麗神社から道なりに進めば、命蓮寺や神霊廟、賢者によって安全が約束された人里に行き着く。運よく妖怪から逃げおおせた外来人は、砂上のオアシスのようなこの地に辿り着き、巫女の手で外の世界へ送り出されるか、外に生きがいを見いだせない者はここで一生を過ごす。

 

 

その里から少し離れれば、迷い込めば二度と抜け出せない迷いの竹林が広がる。厳密にはそこの案内人に頼めば、奥にある永遠亭で高度な治療を受けられる。人里からは割と親身な異郷といえるか。ただ最近はかなり危険度の高いマガイマガドの存在もあり、里の間では重い病や怪我をしないように注意がなされている。

 

 

竹林と里を挟んだ向かい側には、雲にも届くほどの高さまでそびえる妖怪の山がある。最近は守矢神社のロープウェイのお陰で一般人の往来もあるが、それは広大な山のほんの一部分に限っての話であり、妖怪にとっての聖域であることは今も変わっていないだろう。……ビシュテンゴが柿を礫に勝手次第を繰り返しているのが問題になっているが。

 

 

山の麓から少し歩けば、小高い丘に行き着く。太陽の花畑である。山の上の神社に参拝する人間がいる妖怪の山に対して、こちらは奥へと入るものはかなり少ない。花畑は四季のフラワーマスターと称される大妖怪お気に入りの場所であり、奥地は捨て子の埋葬地であったことと危険な毒人形がいるのが大きな理由だろう。プリズムリバー楽団のライブがあれば活気に溢れるが、肝心のライブがプケプケの注意を引くかもしれないということで中止が検討されている。

 

 

それらから少し離れると、年中深い霧に覆われた湖がある。霧の湖は、太陽の畑よりもより人の往来が乏しい。単純に里から離れているのもあるが、視界が悪いため妖怪の襲撃や妖精の悪戯に遭いやすいのと、畔に建つ悪魔の館があるのが最大の理由だろう。ただしそのお陰か、ここにはマッカォの影がちらつくだけで、大型のモンスターは見られない。

 

 

日の光もまばらな深い森が生い茂る。魔法の森は幻想郷で最も人や妖怪の手が入らない地である。この地に生息する特殊なキノコの胞子によって、人のみならず妖怪も幻惑されてしまうためだ。ここに住んでいるのは魔法使いと僅かな妖怪だけだろう。

しかしババコンガという色々と最悪なモンスターが移り住んでしまったことで、ここの妖怪はせっせと逃げてしまった。元々好き好んでいたわけではないのだろう。ただ魔法使いの場合はそうもいかない。特に自身の魔法に森のキノコが欠かせない魔理沙は、人形遣いや魔法地蔵と力を合わせて駆除に取り組んでいる。成果は……あまり芳しくないとのことだ。

 

 

 

かの古龍が住んでいるのは、そういった地名のついた場所からは大きく離れた場所。具体的には、山や竹林から見て北の方角。里から歩いていくと半日以上はかかる森の中だ。

といっても、妖精の生息が比較的多いというだけで目ぼしいものは無い。人の存在もなければ組織立った妖怪の手も入らない。気にするまでもないような野良妖怪程度しかいないような場所だったのだ。

あの龍が降り立つまでは。

 

そういう意味では、彼女が幻想郷の面々からいきなり敵視されるようでない理由にもなったのだろう。もしくは彼女の本能が、そうした無益な争いから避けようとこの地へと導いたのか、彼女自身も分からない。

今、彼女がこうして妖精たちと戯れる余裕があるのなら、こんな議論はなんの意味も成さないだろう。

 

 

 

 

 

 

耳に入るような風が気持ちいい。錆びている時は動きにくくて、自分の甲殻の軋む音がうんざりするほど流れる。耳をつんざくような音も、私にとっては大きなストレスだ。

出て行った妖精たちは既に戻っており、いつもと同じように遊びまわっている。私の体に触ってくる者も多くなり、背中で遊んでる者も出てきた。重さなど無いに等しいが、しつこすぎるのはゆすって落とすようにしている。

 

 

「そこで、あたいが背中ヤローにドカンと一発アイシクルフォールを決めてやったのさ!これにはあいつも吹き飛ばされるままに!」

 

朽ちた私の脱皮殻の上に立って自慢げに話し、その下で耳を傾ける妖精に囲まれたチルノ。肌は未だ浅黒く染まっているが、私のように錆びているわけではないようだ。羨ましい限りである。

話の内容を聞く限り、私と会った後に幻想郷中を飛び回って戦っていると、雪が積もった森で……地蔵?だったかそんな奴と鉢合わせしたらしい。戦っているとそいつの背中に扉———どういうものかはよく知らない———があって、そいつに引きこまれたと思ったら、そこは同じ扉が並ぶ妙な空間だったらしい。

そこで変な動きの人間二人と、その奥にいた金髪の、なんか、そう、すごい奴と戦ったらしい。チルノの発言ではこれくらいしか理解できなかった。

 

 

脱皮しているときは気に留めていなかったが、妖精たちの言葉が分かるようになったのだ。今でもチルノの話を聞いている妖精が、「えー、ホントなの?」「やっぱりチルノはすごいや」「きっといつものほら話だよ」「……ZZZ……もう食べられない……」とかそう言っているのが、意味としてはっきり分かる。

どうしてこうなったのか、心当たりはまるでない。故郷に戻って、凶暴化したあの強者たちを退けただけなのだが。

昔、夫から竜と心を通わす人間がいるという話は聞いたことがあるが、どうもそれとは違う気がする。幻想郷では、異種族と会話ができる奴らの方が多い。

 

まあ、いいか。

特にあって困るものでもないし、華扇や紫にでも聞けば分かるだろう。

 

 

遠くから、目立つ服を着た妖精が向かってくる。右手に持つ松明の光が激しく揺れながら、私の近くで止まった。

 

「ふう、いたいた。……なんか前より数が多いような」

 

『お?変な恰好の妖精か。久しぶりだな』

 

「え?しゃ、喋ったー!?」

 

変な皮をまとった妖精が驚いてこける。ああ、こいつと最後に会ったのは割と前だった。その時の私は喋れなかったから、驚くのも当たり前か。

声に反応したのか、自信ありげに話していたチルノが錆びた鉄塊から降りてきた。

 

「あ、ピースじゃん。お前がここに来るなんて珍しいな」

 

「わっ、チルノ。まだ日焼けしてたのか。そ、それよりこいつって喋れたのか?あたい聞いたことないぞ」

 

「うん。あたいも昨日初めて話したからな」

 

「ええっ!?」

 

ピースと呼ばれた変な皮の奴とチルノが話している。

 

「な、なんで?」

 

「そんなのあたいも知らないぞ。クシャに聞いてみたらどうだ?」

 

「え。……いいのか?」

 

『私も原因は分からんぞ。華扇か紫あたりなら分かると思うが』

 

そのピースという妖精に話すと、少し怯えた様子を見せたが、すぐに落ち着いたようだ。前から思っていたが、どうもこいつは普通の妖精とは違う雰囲気がする。こう冷静なところも、考えをまとめるのが早いことも。

 

「……まあ、いいんだそれは。霊夢が呼んでたぞ。今回の異変解決でチルノとあんたが呼ばれたから、来いってさ」

 

「え、あたいもか?」

 

「前のモンスター異変と今回の四季異変の解決祝いをまとめてやるっぽいぞ。始めるのは今夜からだけど、先に鬼が酒飲んでる」

 

「おお、そうか。そんなにあたいの武勇伝を聞きたいなら、行ってやるか!」

 

そういうとチルノはすぐに飛んで行った。

 

「あんた……クシャも行く?」

 

『どこにだ?』

 

「神社だよ、博麗神社。山じゃないほうの神社だ」

 

ああ、あそこか。赤白の人間の巣だな。そこまで広くない場所だ。去年も思ったが、あそこに妖怪が大勢来るのか?…確かに興味はあるな。

 

『こいつらとじゃれたら、行く』

 

「うし、分かった。伝えとくよ」

 

ピースも羽を羽ばたかせて飛んで行った。

 

 

 

宴会とは、そんなに楽しいものなのだろうか?




おそらく次回の投稿が更に遅れると思います。なにとぞ、気長にお待ちください。

それでは皆さん、よいお年を。

作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。

  • このまま続ける(頻度は相当落ちる
  • モンハン東方で新しく書き直す
  • モンハン東方はもう出さなくていい
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