*2022年6月9日一部修正
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……頭が痛い。
宴会というのはまあそれなりに楽しかったが、ひと眠りした後のこの変な頭痛は嫌いだ。いや、これより痛い思いは数えきれないくらいには経験してきたが、この〝フツカヨイ〟というのはどうにも不快感の方が強く、中々面倒なものである。
酒を飲んだ直後はくしゃみが止まらなくてたまらなかった。鼻の奥のむず痒さが止まらなくなる、病気にでもなったかのような感覚だ。妖怪どもはよくこれを飲んでいられる。隠岐奈たちがなんとかしてくれたから良かったが、あのままであれば喉が枯れていたと思う。
ちなみに隠岐奈に小さくさせられたことだが、私自身が念じればいつでもあの大きさになれるらしい。何か良いことがあるのかと思ったが、「大きすぎると妖怪などど関わるときに不都合が起きやすいから」らしい。正直何を言っているのか分からなかったが、隠岐奈は紫や華扇と同じくらい頭が良いから、とりあえず聞いとけばいいだろう。
まあ、本当に色々な奴らが入り混じっているなとは改めて思った。
人間に鬼に河童。吸血鬼に亡霊、そして仙人と。頭がこんがらがりそうな位に種族の数が多い。以前はここまで種族の差など考えたことがない。ただ、強いかそうではないかが、区別する条件だった。
ふむ……確か鬼が酒と力で、河童は道具と頭の良さだったか。吸血鬼は弱点と利点がそれぞれ多く、亡霊は少しひんやりとしていて殴れない。仙人が元人間で、確か人の寿命を超えたものだとか。華扇も仙人だったらしい。意外だった。
特徴が多すぎていまいち覚えきれてないが、まあそんなところだろう。ただ〝タイシ〟とやらは私の力に興味があるらしく、時が来たらじっくりと話したいと言っていた、ような気がする。
まあ、幻想郷は広くないから、そのうち出くわすことだろう。
横になっていた体を起き上がらせ立ち上がる。私の体にかけていたり乗っていた妖精たちはずり落ちる。
「うお!?急にどうしたんだ、クシャ?」
氷…いや名前は確かチルノだったか。普通の妖精には名前はついていないが、力の強い奴は名前がついているらしい。名前なんてつけなくてもいらないような気がするが。
『少し出かけてくる』
「なんでだよー?あたいはまだまだ遊び足りないぞ」
「チルノちゃん、昨日隠岐奈って神様が言ってたことじゃない?」
大妖精がそう言うと、チルノはしばらく唸り、ポンと手を叩いた。
「あ、そっか。あいつらが来ないように〝ぱとろーる〟するんだよな!」
『?ぱとろーる?なんだそれは』
「……確かなんだったっけ。悪い奴が入ってこないようにすることって菫子が言ってたよーな」
「それって巡回っていうのじゃない?山の天狗さんたちがいつもやってるっていう」
それだ!とチルノは大妖精に言う。チルノは妖精の中では力が強いが、物覚えが得意でない。妖精は大体そうだが。よく一緒にいる大妖精は覚えることが得意で、他の妖精に比べて頭が良い。いたずらをよくするのは他の妖精とは変わらんが。
『まあ、そういうことだ。別についてきたいなら来ていいぞ』
「お、そうか。じゃああたいもそうする」
「チルノちゃん……でも、クシャはどこに行くつもりなの?」
『ん?前から行きたいと思っていた場所だ』
二人がきょとんとしている間、私のその場所の名前を思い出そうと頭を回転させる。……宴で誰かが言ってたような気がするが、どうやって頭を回転させるのか、そもそも回ったら頭が良くなるのか。聞いてみたが納得できる答えは無かった。記憶にないのが証拠である。
だが効果はあったようで、この幻想郷に初めて来た時から印象に残る不思議な場所の名前は、思い出してきた。
『年中花が咲いている場所でな、冬に山に出向いた時にも小さな花たちが咲いていた場所だ』
「「え」」
チルノと大妖精は顔を見合わせ、なぜか怯えたように口を引きつらせていた。
『分からんか?太陽の花畑だ』
晴れ渡る青空のもと、鋼鉄が羽ばたいていた。
独特な音を軋ませながら、かの龍が目指す場所は太陽の花畑。
クシャルダオラと遊び足りない妖精たちは彼女についていこうとしたものもいたが、行き先を聞いた途端、全員行くのを辞めてしまった。彼女のみがただ、盛りも過ぎた花畑へ向かっている。
宴会で摩多羅隠岐奈から伝えられた言葉は、『幻想郷に鋼の龍の痕跡を残し、モンスターの流入及び活動を抑えよ』だ。しかし彼女はこの言葉をほとんど忘れてしまっている。
理由は単純。その目的は彼女が
古龍という存在は、極めて強大な力を持っている。それは自然災害として、もしくは生物たちの本能に直接働きかける。モンスターという妖怪に匹敵する力を持つものたちは、風をまとう龍である彼女の遠く及ばないようなその力の強大さを、容易に感じ取れるのだ。彼女が自由な外出を許可される前までも、その気配がモンスターの活動を抑えていたことに一定の効果があったことは、知るものであれば誰しもが知る周知の事実であろう。
唯一の例外としては、古龍に匹敵する力を持つシェンガオレン。かの蟹は彼女の領域に対して酸弾を放つ愚行を行ったが、その末路はみなご存知の通り。存在そのものが天災である鋼龍の、その中の王とさえ呼ばれる力を持つ彼女にとっては、そこいらの古龍級、または古龍そのものなど、決して苦戦するようなものではない。
強すぎるゆえにあちらから勝手に避けるため、結界を張ったりするような複雑な操作はいらないというわけだ。
巣より羽ばたいて十分と経たず、彼女は太陽の花畑へ降り立った。
あれほどけたたましく鳴いていた蝉も地に落ち、夏の日差しを享受していた向日葵たちは力なく俯いていた。
旺盛とした輝かしさは、色褪せた茶色の枯れ野に変わっていた。こんな色のない場所を訪れる物好きは、変わり者の妖怪でもいないと言っていいだろう。
そんな場所に降り立ったのは、あらゆる意味で異質な鋼鉄の龍。圧倒的な重量から来る羽ばたきの風圧は、既に命無き草花を塵にしていった。
花畑に不自然と描かれた線状の道に着地し、クシャルダオラは道に沿って歩き始める。
うっかり踏みつぶした蝉の死骸をまじまじと見つめ、目を背けるように地面の一点を見つめる向日葵を興味深そうに匂いを嗅ぐ。
彼女なりに花畑を楽しんでいると、妙なものを踏みつぶした感覚が足の裏から伝わってきた。
俯いてみると、黄色い虫の群れが蔓延っていた。発達した後ろ脚に挟まれた腹部はでっぷりと太り、大あごをしきりに動かしながら鋼龍の周りを歩いていた。彼女が踏みつぶしたのはそのうちの一匹で、熟成されたアオキノコが腹から飛び出した痛ましい姿だった。なれど他の群れの個体は目に入っていないように、ただ歩みを進めるのみだった。
そうであるなら、虫一匹の殺害に古龍が気をかける必要はない。運の悪いオルタロスの死骸から目を離し、花畑観光を再開する。
が、彼女は虫を踏みつける数秒前に自分のいた場所に戻った。羽ばたきで数匹のオルタロスがひっくり返る。
妙な行動を取ったのは古龍だけではなかった。一直線にどこかへ向かて行っていたオルタロスたちも、クシャルダオラの方へ向かう。
オルタロスたちは鋼龍を避けるようにして、どこかへ行ってしまう。彼女は虫とは真反対から視線を逸らさなかった。鋼の翼が起こした重い風圧から抜け出せたオルタロスも、群れへ追いつこうとワシャワシャとしきりに足を動かしていった。
最後の一匹はキノコを蓄えられなかったのか腹が膨れておらず、起き上がるのに難儀していた。ようやく起き上がれた虫は、鋼龍の方へと向き直った。
いや、
甲虫は胸を貫かれ、地平線に消えていく仲間たちの背中を見ていた。やがて意識も風前の灯火となったところで大きく飛ばされた。
暗緑色の体液が滴る日傘を地面に立て、一人の女が歴戦王の古龍に向き合った。
「初めまして」
女は己のはるか上の視線から見下ろす蒼い瞳へ、普通に挨拶を交わした。並大抵の人妖が裸足で逃げ出す、普通の挨拶を。
生えたばかりの草の色の髪。赤いベストに同色のスカート。そしてそれらよりも紅い瞳。ちょうど、クシャルダオラとは正反対の色をしている。
風見幽香 四季のフラワーマスターと言われる花妖怪。
花妖怪なんて種族がいるのか。妖怪に詳しいものならそう言うだろう。
答えはどうだ?「目の前にいるじゃない」。その一言で終わる。彼女に限らず妖怪とはそういうものだ。そうであるのだが、やはり彼女はそういう中でも異質なのだ。
花妖怪という一見無害そうな響きに反し、大妖怪と恐れられる彼女の強さもまたその異質さをより高めている。
彼女に挑んだ馬鹿者は数知れず、帰った者は一人もいない。
それが花畑に来る者の数の少なさを物語る、最大の理由だった。人妖はなるべく幽香に遭遇しないように花畑へ出向き、出くわした場合は差し障りない挨拶をして、立ち去る。礼儀のない低能の妖と違い、彼女は紳士的だ。
その生存方法も彼女の機嫌次第という、かなり不安定なものであるが。
風見幽香の挨拶から数刻がたち、鋼龍が動いた。
一時羽ばたき、空に浮き、また地へと足をつけた。
その時にはもう、彼女は幽香の腰あたりの高さまでに小さくなっていた。
そして幽香に向けて首を下げた。
「……言葉の通じない奴かと思っていたけど、そうでもないみたいね」
対する幽香の反応はひどくそっけないものだった。眼前で突然に小さくなったことに、少し毒気を抜かれたのかもしれない。
「花の最期を看取りにでも来たのかしら?」
幽香は柴犬のサイズと化したクシャルダオラにそう聞いた。だが彼女は反応しない。辺りをしきりに見回しているだけだ。
何かを見つけたらしい、クシャルダオラは花畑へ突っ込んでいった。
「……」
程なく彼女は再び遊歩道に現れた。妖精を咥えて。
「うぇぇ!?ちょ、待って!隠れてたのは謝るからさ~」
「あら、蝶の妖精。まだ冬眠してなかったのね」
「うひぃ!は、花の妖怪さん……」
空色の髪に蝶の幼虫に似た角を持っている、綺麗な羽の妖精。エタニティラルバは鋼龍によって風見幽香の前に連れ出されていた。別に幽香は妖精を取ってこいなんて犬遊びをしたつもりはない。
「え、通訳を頼まれてほしい?いいけど……変なこと言わないでね」
鋼龍は、エタニティラルバを傍にしてようやく幽香に向き合った。妖精は咳を一払いし、緊張した表情で幽香に話しかけた。
『お前はここの主か?』
なるほどそういうことか、と幽香は得心した。
「主?そんな大層なものじゃない。ただここが気に入ってるだけよ」
クシャルダオラのそばにいたラルバが、突如として話し方を変え幽香に語り掛けた。話し方はいつもの弱い妖精のそれではなく、貫禄のある話し方。それとこの小さくなった古龍の雰囲気は、この上なく整合が取れていた。
「さっき言葉が通じないのに挨拶し返したわね。誰に仕込まれたのかしら」
蝶の妖精はクシャルダオラに向かってその言葉を反復し、再び幽香に言う。
『華扇が言っていた。相手が首を下げたら自分も首を下げ返して、だったか。やったのは初めてだが』
「そう」
目の前のモンスターとやらが、ある程度の礼儀を踏まえている。古龍が、下級妖怪に毛が生えた程度の知能を持つ他のモンスターとは違うことを、幽香は知った。
「いいわ、ちょうど暇だったのよ」
そう言うと幽香は踵を返して歩き始めた。
「ついてきなさい。良いところを教えてあげる」
幽香に黙ってついて行くクシャルダオラを、エタニティラルバは非常に嫌な予感を感じながらも、しぶしぶ後を追いかけた。
モンスターの特濃よこせこら
作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。
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このまま続ける(頻度は相当落ちる
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モンハン東方で新しく書き直す
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モンハン東方はもう出さなくていい