鋼鉄は泡沫の幻想に坐す   作:柴猫

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今回から永遠亭回です。


14章 月を肴に昔語りを


 

 

--ガァァァァァァ!!

 

--ギュァァァァァ!!

 

「ひぃぃぃぃぃぃ!!」

 

背後で生じた爆風に体を攫われ、草むらに顔面から激突する。すぐに、痛みを感じる間もなく鼻をつく瘴気が辺りに満ち、知識と本能に従って脇目も降らずに全力で走る。

さきほどまで転がっていた場所は爆炎に呑まれ、人骨と同じ強度の竹が根元から折れた。支えを失った幹は風と重力に従って私の方に迫ってくる。

 

「なんでこっちなのぉぉぉ!??」

 

恨み言を吐きながら、死臭を纏う竹たちをひらりひらりと躱していく。

息も絶え絶えになりながらだったが、これ以上折れてくる竹がないことが分かると、一息。

 

 

 

直後、先の爆風を上回る猛烈な突風が再び襲い掛かる。

 

「ピョーーーン!!?」

 

自分でも意味が分からない叫びをあげてしまったが、空中で体勢を立て直し、近くにあった太めの竹を掴む。

奴らから隠れるように竹の幹に隠れるが、小柄な私を覆ってくれていた竹は背丈ギリギリを残して吹っ飛んでいった。

 

 

「れいせー-ん!!早く戻ってきてよー--!!」

 

 

人畜無害な竹林の兎、因幡てゐは腹の底から声を出したが、すぐそばで巻き起こった爆発と突風にかき消された。

 

 

 

平和な竹林に突如として襲来し、永夜異変ぶりにお師匠様の手を煩わせた害獣、マガイマガド。

これまたついさっき飛来し、あのお師匠様の興味を非常に惹かせる古龍、クシャルダオラ。

 

周囲のことなど知ったことかと言わんばかりの激戦を繰り広げる二頭の覇気は、かなり距離が開いているはずの私にビリビリと響いてくる。

 

「うぅ……どうしてこんなことになったのよ……」

 

 

 

 

 

事の発端は、数十分前に遡る。

優雅に空を飛んでいるクシャルダオラに声をかけたのが始まり。正確には、そこらへんで遊んでた妖精に飴を渡して呼んで来いと言ったらホントに来てしまった、の言い方が正しい。

話に勝るのは、その威圧感。私もそれなりに強者に対面したことはあるが、獣としての本能がここまで警鐘を鳴らしたのは初めてのことだった。

こんな簡単に来るとは思っていなかったので正直心の準備不足だったが、こいつは私みたいに顔色を窺うことは出来ていなかったらしく、平静を装いながら永遠亭に案内しようとした。

 

 

そこにあの怨虎竜の急襲である。鬼火という摩訶不思議なガスの爆発で加速した体当たりはクシャルダオラに直撃した。

だがクシャルダオラは死んでいなかった。尻尾で思い切りぶん殴って反撃に転じると、そこからはもう大乱闘。ちなみに通訳の妖精たちはマガイマガドの奇襲によって死んだ。そのうち蘇るだろうから真っ先に見捨てたけど。

 

 

見たことがない量の鬼火を全身に纏わせるマガイマガドが、鋼の龍に吠え掛かる。

 

 

 

そもそもなぜあいつがここにいるんだ。

怨虎竜という種族は極めて凶暴で危険なモンスターだ。そのうえ大食漢で、多くの竜が恐慌して群れを成している中に乱入して、モンスター達をかっくらうという恐れ知らず。

鈴仙の作った狂気の檻に押し込める際にもだいぶ苦労し、お師匠様が直々に出向いてようやっと檻入れに成功したのだ。

 

わざわざ私がこいつを出迎えに来たのも、いつの間にか壊れていた檻の修復に鈴仙が駆り出されていたからだ。ついでにマガイマガドの捕獲も鈴仙がやってくれるはずだったのに、まさかこっちに来るなんて思ってもみなかった。

 

 

主武装たる槍のような尾を展開し、十文字槍として古龍の胴を貫こうと突撃する。あの巨体に速度、当たれば無事では済まないはず。

だがクシャルダオラは避ける素振りを見せなかった。突き出された尻尾をそのアギトで掴んだのだ。引き抜こうとするマガイマガドだが、クシャルダオラに一本背負いのように地面に叩きつけられ、ブチッ!という嫌な音とともに大きく投げ飛ばされてしまう。

鉄の口から怨虎竜の槍尾が吐き出され、私の近くの地面に突き刺さる。

 

かなりのダメージを負っているはずのマガイマガドが、腹の底から怨みを吐き出すような、唸る咆哮を響かせる。

 

 

 

紫煙がかの竜の全身を包んだ、と思った時には、鮮やかな色となった鬼火がマガイマガドの全身を覆っていた。

 

爆発で急加速した餓竜の腕刃が、鋼の竜の首を刎ねんと振るわれる。流石の反射神経か、古龍はそれを後ろに飛んで避ける。

だがそこに怨虎竜の追撃。飛翔したクシャルダオラに飛び掛かり、地上へ落とさんと飛び乗る。

想定外の行動に、クシャルダオラは慌てながらも虎を振り落とした……ように見えた。

 

バシュン!

爆発音とともにマガイマガドの巨体が空へと舞い上がり、再び鋼龍に組み付いた。

 

 

マガイマガドが操る鬼火は、釣瓶落としの操るそれではなく、仕留めた獲物を骨ごと食らって濃縮した可燃性ガスの一種だ。

攻撃と同時に鬼火をまき散らすことで時間差攻撃に利用したり、獲物に直接纏わせることで攻撃と共に爆発させ確実に致命傷を負わせるなど。ただでさえその有り余る身体能力を持っているのに、そこに鬼火を使った多彩な攻めまで可能なのだから、やたらと賢者が動向を気にしていたのも納得である。

そして鬼火の利用方法の極致ともいえるのが、空中で爆裂させることにより生じた爆風で空を飛ぶという荒業。比喩でも何でもなくその巨体が空中を飛び回るのだ。檻入れの際にも、この技を使って師匠の右腕を嚙み千切って地に叩き落とし、地上にいた私と鈴仙が巻き添えを食らった。あの威力は、人間であれば確実に即死級、オーバーキルも良いところだ。

 

 

その技を今実際に受けているクシャルダオラは、振り落としては再び追いつかれ、また地に落としては取っ組み合いに発展する。不意の急襲を何度食らっても落ちる気配のない飛行能力は天狗を超えているが、それに何度も突撃を繰り返すマガイマガドもしつこいに程がある。

 

十回以上繰り返された攻防の末、怨虎竜の執念が鋼龍を捉えた。

凸凹が目立つ右の側頭部に爪を引っかけ、天空にあるまじき鋼鉄を地へ引きずり落そうと、マウントポジションを取って大地に激突しようとする。

 

それも私に向かって

 

 

 

「え?……はぁぁぁぁぁ!!?」

 

もはやこの距離では逃げ切れない。叩きつけられた鉄塊の下敷きになって押しつぶされるなんて、そんな兎らしくない最期は送りたくない。

せめて全身粉微塵は免れようと、妖力の壁を生成し、せめてもの悪あがきを試みようとした。

 

だが。

 

激突の直前、クシャルダオラが後ろ脚を使いマガイマガドを浮かした。

そこから鉄の体とは思えないほどきれいに体を捻り、一瞬のうちに立ち位置が逆転したのだ。

 

激突、そして轟音。

 

 

 

クシャルダオラの全体重がかかった蹴りに、哀れ怨虎竜は地面に埋まりもがいていた。

鬼火の誘爆もあってか、全身の鱗や甲殻がはげ、ところどころから肉がはみ出ている中々にショッキングな惨状だった。

 

 

なおも脱出しようと動く落ち武者に、鋼鉄の古龍は静かに歩み寄る。

 

激しくもがいていたマガイマガドだったが、眉間を赤い光線が貫いたかと思うと、突然糸が切れたように動かなくなった。

 

「はー、やっと見つけたわ!」

 

 

疲労困憊とした声で、元月の兎は額の汗を拭った。

 

 

 

 

 

 

 

 

姫様の趣味か、もしくは師匠の手慰みだろうか、永遠亭は多種多様な庭園が混在している。芸術の類は全く知らない鈴仙だが、白玉楼の庭師がわざわざ視察に来るほどには美しいらしい。師匠の才を持ってすれば、きっとどんな文化遺産も裸足で逃げ出す作品が出来上がるのだろう。

だが芸術の世界には変人も多くいる。もし師匠がそちらにのめり込んでいたら、元の頭脳も相まって会話すら成立しなかったかもしれない。

 

植えられた松の木が大きく揺れ松ぼっくりが散乱している様子に、私の思考は現実に引き戻される。

 

「あぁっ!ちょっと待ってそれ揺らさないで!」

 

慌てて鋼龍を松から引きはがそうとするが、全力で引っ張ってもうんともすんとも言わない。

玉兎兵としてそれなりに鍛錬は積んだはず。筋力だって並の妖怪に比べれば高いはずなのだけれど。

 

てゐの治療に向かった師匠は、後でクシャルダオラにたっぷり聞きたいことを聞くのだろう。その準備として、私はこの龍と波長を合わせなければならない。

松ぼっくりを食べている古龍に視線を合わせて、波長の同期、チューニングを行う。

 

全ての生き物には波長がある。短気な者は短く、穏やかな者は長い。前者は妖精に、後者は長く生きた大妖怪に当てはまりやすい。

妖精と会話が出来るのだから短いのか、果ては古の龍と言われるだけあって長いのか。

 

この龍は後者に属するようだった。だが波長の長さがとんでもない。

あの花妖怪にせま……いや明らかにその3倍以上はある。ここまで波長の周期が長い物体が存在したのか。私は内心驚きつつも、波長を合わせようと意識を集中させる。

 

余すことなく松ぼっくりを噛み砕いた鋼龍が、私と目を合わせた。

蒼かった。地上から見える空のような、どこまでも見られているような色合いだった。

 

「……きれいな瞳」

 

今まで合わせたことがないほどにまで波長を引き延ばし、徐々に波が重なり合う。

 

 

『聞こえるかしら?』

 

『……ああ、聞こえる』

 

『良かった、チューニングはオッケー。あとは師匠が来るまでちょっと待ってて』

 

三日月の控えめな月光が庭を包み込む。

 

『話せるのだったら、最初からお前が来てくれれば良かったのだが』

 

『私の能力はあなたの言葉が分かるまでに時間がかかるの。あなたが倒した竜のことを追ってたから、迎えはあいつに任せたの』

 

『あのちっこい奴は、お前の部下か?』

 

『え?うーん……どうなのかしら。地上の兎たちをまとめているのは実質的にはてゐだしなぁ』

 

『あれよりお前の方が強いだろう?群れをまとめるなら一番強いお前かと思ったが』

 

龍の体は光を反射し、虹色がかかったような輝きを帯びる。生々しい生気を孕んだ光沢が、私の視界に広がっていく。

 

『私はもともと一兵卒みたいなものだから、誰かに命令するのは苦手なのよ。命令されるのは得意だけど』

 

『イチヘイソツ?お前の名前はイチヘイソツなのか?』

 

『違う違う。私はただの月の兵士ってことよ。元、だけど。この際だから名前を言っておくけど、私は鈴仙・優曇華院・イナバよ。覚えた?』

 

クシャルダオラは私の目を見る。サファイアのような輝きが、赤く輝いているはずの私の瞳をまっすぐ射抜いてくる。

 

『月?』

 

『あなた月も知らないの?ほら、今あそこで光っている大きな丸……あー、一応聞くけど三日月は分かる?』

 

『〝星の友〟のことか?』

 

『……え、なんて?』

 

急に飛び出した未知の単語に、思わず聞き返してしまう。

 

『ここからは見えないが、私の故郷で青い星がある。しかるべき時が来ると、全ての生き物はあの星を目印に何かを目指すらしい。

 日によって形を変えるのは、皆を導き疲れている青い星を笑わせるため、だったかな』

 

『……ふふっ。ずいぶんロマンチックな話ね。それで?モンスターたちは青い星を頼りに何を目指すのかしら』

 

『さあな。私にその時が来たことは無いからな』

 

余りにも突拍子のない与太話に、私は笑い飛ばした。文字通りの堅物である―あくまで私の第一印象だが―この古龍から聞けるような話とは予想外も予想外すぎたのだから、仕方あるまい。

 

『そのお話って、誰から聞いたの?あなたの親からかしら』

 

『夫からだ。親とはまともに話す前に食われた』

 

『え……だれに?』

 

『尽くを滅ぼす龍だ。お前たちの言葉では、ネルギガンテというのだったか』

 

ネルギガンテ。私が地上に落ちる前に幻想郷に現れ、妖怪の山を中心に暴れまわった古龍種。

当時の賢者たちが総出で当たるほどの騒動だった、とてゐから冗談交じりに聞かされたことがある。

嫌なことを聞いてしまったか。不快に思わせては師匠の聞き取り調査に支障を出してしまう可能性がある。私は笑いを抑え、手振りで分かりやすく謝意を示した。

 

『ご、ごめんなさい。その、悪気はなかったの』

 

『なぜ、謝る?』

 

「……え?」

 

『私の親は、私を育てている隙を突かれて死んだ。当然だろう、子育てだからで、他のことが楽にはならない。

私を生んだ親が死んだのは、油断していたからだ。両親の死体が奴の腹を満たしてくれたおかげで、私は生き残れたのだがな』

 

再び想像もしなかった返答に、私はしばらく絶句するしかなかった。

 

 

どう反応したらよいのか分からなくなった私の後ろから、艶やかな声が届いた。

 

「一人でなにしてるの、イナバ?」

 

「ふぅわっ!?ひ、姫様…」

 

振り返った先にいたのは、世にも美しい少女。師匠の仕える主であり、私の主人(ペット的には)でもある。

 

 

「あらあら。もしかして銅像を買ったの?意外ねぇ、イナバにそんな趣味があったなんて」

 

この世の異性全てを射止める姫の視線が、鉄の彫像の青い瞳に反射した。




思ったより9月が立て込んでまして、すいません。
ちょっと投稿ペースが遅くなるかもしれないです。ご承知おきください。

作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。

  • このまま続ける(頻度は相当落ちる
  • モンハン東方で新しく書き直す
  • モンハン東方はもう出さなくていい
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