鋼鉄は泡沫の幻想に坐す   作:柴猫

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マレニアよ
フリーデ見習え
駄目リゲイン




『……それで、その後はどうなったの?』

 

『どうなったのかは知らん。ただ奇面族の奴らとよく一緒だったから、野垂れ死んではいないだろう』

 

クシャルダオラの話が終わったのは、既に月も天頂へ登り切った頃だった。貴重な情報を書き込みつつ、慣れないだろう長話を終えた彼女を労う。

 

『お疲れ様。いろいろ話を聞かせてもらってありがとうね。これは貰っておいて』

 

月で製造された人工インゴットをクシャルダオラに渡すと、彼女はじっくりと匂いを嗅いでから咀嚼する。

天然物の鉱物が極めて少ない月では、銃器などの製造には隕石を加工したインゴットを用いている。昔は金山彦命が一柱でやっていたのだが、緩やかな人口増加に伴って量産品はそうした〝妥協案〟によって作られている。

 

『……粗いな』

 

『やっぱり……あなたの故郷の鉱石には敵わないわね。これでも地上の鉱石よりは硬いのだけれど』

 

『別に食わなくてもいいのだが、落ち着かなくてな。そこらへんの鉱石では柔らかすぎて食っている気がしないしな』

 

すっかり寝息を立てた輝夜を起こさないように、鈴仙を連れて庭に出る。

 

 キキャァ

 

「またね」

 

鋼の翼を羽ばたかせ、古龍ははるか彼方へ飛び立っていった。

 

「ふぅ……」

 

「鈴仙も疲れたでしょう。今日はゆっくり休みなさい」

 

「は、はい」

 

額を押さえ、覚束ない足取りで屋敷へと戻っていく。古龍の波長という慣れないものを弄ったからか、鈴仙の疲労は思ったより溜まっていたようだ。それに随分と話し込んでしまった。明日は代わりにてゐを行かせようか。

体をほぐしながら、眠りこけてしまった姫に毛布をかける。蓬莱人となってから風邪とは無縁とはいえ、寒さなどは普通に応えるのだ。

 

 

 

 

 

「いい加減に出てきたら?」

 

 

虚空へ睨みを利かせると、予想以上にすんなりと盗み聞きの犯人は出てきた。

 

「妖怪の賢者ともいわれる貴方が、随分と趣味の悪いことをするのね」

 

八雲紫は何も答えない。だが視線だけは言いようのない感情が渦巻いている。

 

「別に私は貴方の気に障ることはしていないと思うけれど?」

 

「………………」

 

「…まあ、いいわ。彼女たちのことについて聞きたいんでしょ?」

 

肯定するように、スキマから扇子を取り出して口元を隠す。

 

「結論から言えば、彼女たちの急回復……いえ〝蘇生〟に関してははっきりとした原因は不明よ。ただ、あなたがくれたサンプルから、少しだけ正体には迫れたわ」

 

箪笥から彼女たちのカルテを取り出す。

 

「古龍の血。霊夢と魔理沙が蘇ったあと、血を調べてみた結果、彼女たちの血中には古龍の血と類似する成分が発見されたわ。異常な再生はこの血によるものだと推測。天彗龍の龍氣によるものかとも調べてみたけど、少なくとも関連性は無いわね。どこかの誰かが私の治療を妨害した、とも取れるけど――」

 

目を細めて紫を見つめ、彼女が微動だにしないことを確認する。

 

「まあ、だとしても不明点が多すぎるわね。どこの誰が、何のためにわざわざ古龍の力を使って二人を生かしたのかは分からずじまい。これが現時点で出せる証拠」

 

お役に立てばいいのだけれど。そう彼女に囁き、私は資料を渡す。

 

「協力感謝いたしますわ」

 

「構わないわ。こちらとしても、これから〝資料提供〟をよろしく」

 

ぶっきらぼうな態度は変わらず、紫はスキマを開く。その真意は最後まで隠し通し、ただスキマは閉じていった。

 

「……何だったのかしらね」

 

「あの妖怪の態度?」

 

ふと振り向くと、冷たくなったお茶を飲む輝夜が座敷にかけていた。

 

「気にはなりますけど、こちらにとっては大した問題ではありませんから」

 

「……」

 

「姫様?」

 

「……そうね。覗き魔たちもいないし、ここで話しておくわ」

 

能力を使ったのだろう。輝夜の目はこの上ない宝玉のように輝いていたが、それに影を与えるような不安も見て取れた。

 

「二人が快復する前の日だったかしら。妙な気配……というか勘?よく分からないけど、そういうのを感じたのよ」

 

「もう少し具体的に言えますか?」

 

「そうねぇ、あえて言うのなら……〝無〟かしら。でも、完全な虚無でもない、こう……分からないわね。永琳が感じてれば分かったんじゃないかしら」

 

「そうは言われましても、いくら頑張っても過去は変えられませんし」

 

笑いながら、姫に続きを促す。

 

「それで、その〝無〟が二人の部屋に行ったと思ったら、次の瞬間には消えてたのよ。幽霊かと思ったけど、それにしては薄いというか、穢れが無さすぎるというか――」

 

「分かりました。十中八九、それが霊夢たちを蘇生させた張本人でしょうね」

 

「それで?私の証言から目的は分かるかしら」

 

「ええ、全く持って分かりません」

 

これ以上ないほど〝にっこり〟とした笑みを浮かべた永琳の降参宣言に、輝夜はちゃぶ台に額をぶつける。

 

「もー、いつもの名探偵永琳はどこに行ったのよー」

 

「探偵を名乗った覚えはありませんよ?そもそも、証拠が乏しすぎる現状では予測をつけることも困難です。いくつか仮説はたちますが……」

 

「じゃあ、それを聞かせて頂戴」

 

老若男女問わず全ての存在を魅了する笑みを浮かべた姫に、私はため息をついた。

そもそも輝夜は一連の事件の犯人が誰であれどうでもよい。真実には興味こそあれ、それは彼女にとって暇つぶしでしかない。そして暇つぶしが出来るのなら、永琳の大胆な仮説でもいいのだ。永遠を生きる二人にとっての、いつものことである。

 

「分かりました。では、私からも質問させていただいてよろしいでしょうか?」

 

「え?私、仮説なんて思い浮かばないわよ?」

 

「いえ、それではありません」

 

キョトンとする輝夜に、永琳は視線を合わせる。

 

「二人が退院した翌日。私の記憶が正しければ、寺子屋で昔話の読み聞かせがありましたよね?」

 

その言葉を聞いた輝夜はビクリと肩を震わせ、額から脂汗が滝のように流れる。

 

「鈴仙が苦労してましたよ?楽しみにしていた子供たちにせがまれ、教師の半妖からも苦言を言われたと。おまけに怨虎竜の捕獲にも駆り出される始末」

 

「た、たしかに読み聞かせを忘れていたのは悪かったわ。でも、鈴仙の負担が増えたのって永琳の指示でしょ?え、永琳って意地悪ね~。無実の姫様に罪を被せて――」

 

「怨虎竜が出た場所で火災と弾幕の痕跡がありました。大方道すがら妹紅と出会って喧嘩していたのでしょう?それで永遠亭に戻ってきた。どうです?他称名探偵の私の推理は?」

 

・・・

 

 

 

「…たまには猫とじゃれ合うのもいいと思うの!」

 

「それでは今夜は寝かしませんから」

 

夜の竹林に乙女の叫びが木霊した。

 

 

――――――

 

「クシャー。朝だぞ、起きろー!」

 

チルノの大声に、妙に重くなった瞼を開ける。

どうやら随分と寝ていたようだ。すでに太陽は山からだいぶ離れており、朝という時間帯はもう過ぎたのだと分かる。目の前には頬を膨らませたチルノだけでなく、サニーたちもいた。

 

「クシャも寝坊?分かるわ、その気持ち。涼しくなってくるこの季節って、中々お布団から出れないのよね」

 

「サニーの寝坊は今に始まったことじゃないでしょ。まあ、なんか無性にだるくなるのは私もだけど」

 

サニーとルナが寝坊について話している。なるほど、私は〝寝坊〟したのか。また一つ覚えた。

 

「最近クシャ寝る時間が長くなってきてるぞ」

 

『あー……あっちで暴れてきたのが来てるのか?いや、それにしても遅いな』

 

「年のせいかしら。クシャって何歳なの?」

 

『歳……数えたことが無いから分からんな』

 

スターの返事に適当に返しをうつ。しかしながら最近妙に体が重い。病にかかった感触は無く、戦いで負った古傷が痛むわけでもない。ただなぜか知らないが、だるいという感覚が根強く体に押しかかってくる。

 

「もしかして……クシャも寿命が近いんじゃないの?」

 

「「え!?」」

 

「何言ってるんだスター!昨日までクシャは元気だったぞ!きっと疲れてるだけだ!」

 

「私に怒らないでよ!それに、クシャみたいな古龍ってすごい寿命が長いって、本で読んだことあるわ」

 

「な、なーんだ。それならまだまだ遊べるのね」

 

「そうよ!まだクシャと一緒にイタズラしてないもん。来年の花見対策で派手にやりましょうよ!」

 

頼りないような粘ついた重さに耐え、私は起き上がる。チルノたちの目は楽しそうだが、どうにも底からではないように見えた。

 

『いつ死ぬかなぞ私には分からん。あと一回陽が登ったら死ぬかもしれんし、強い龍か竜に襲われて死ぬかもしれん』

 

「そ、そんなことあるわけないわよ。クシャが見張りをしているんだから、他のモンスターが来たりなんてしない――」

 

『生きている以上、絶対などありえん。いつかは死ぬ。古いも新しいも、強いも弱いも関係なくな』

 

そんな〝当たり前のこと〟を言うと、なぜかチルノたちは黙りこくる。遊んでいた周りの妖精たちも、不安げな顔をしている。こやつらはしばらく経てば復活するから、死ぬことを理解していないのか。

いや、会ってそこまで経っていないはずなのに、私のことを心配してくれているのか。むず痒くなるが、しかし常識は変えられない。生きている以上、いつか死ぬのは当然なのだから。

 

「……私、そういえば本で読んだことがあるわ。外の世界では、〝しゅうかつ〟をするんだって」

 

「シューカツ?シュークリームとかつ丼のミックスみたいなもんか?」

 

「違うわよ。ルナが言ってるのは終活。人間がおじいちゃんおばあちゃん位になると、死ぬことを前提にして生活するってこと。例えば、死ぬまでにやりたいことをする、とか」

 

「それってクシャみたいに言うと、いつもと変わらなくない?」

 

 

 

「……いや、そうか。そういうことか!」

 

チルノが大声を出して興奮し、ルナが驚いてこける。

 

「ならクシャは私たちともっと遊ばなきゃいけないってことだ!」

 

「は、鼻が……」

 

「ほら、起きなさいルナ。で、何がどうなってその答えになるの?」

 

サニーの疑問に、チルノは自信満々に答える。

 

「いつかクシャと遊べなくなるなら、今のうちにいっぱい遊ぶってことだ!死神から聞いたことがあるぞ。『未練を残して死ぬと亡霊とか怨霊になりやすい』って。きっとシューカツってのはそういうことだろ!」

 

チルノの大声に辺りは静まり返ったと思えば、わぁと声が再び響く。

 

「なるほど!それならクシャともっと遊べるってことよね!よーし、じゃあ早速遊びたいことリストを書きましょう!」

 

「……え、まってそれって何も解決してないんじゃ……?」

 

「はいはーい!じゃあ、クシャと一緒に紅魔館の仲間たちと掃除のお手伝い(いたずら)しましょ!」

 

「ちょ、スターあのメイドに刺されたいの!?」

 

妖精が皆集まって楽しそうに笑い合う。何故だかそれが太陽よりも眩しく、だが目を離せずにはいられないように見入った。はっきりと分かるのは、さっきと違って心の底から楽しそうにしていることだ。

妖精は私たちと違って弱く脆く、せいぜいが周りの環境に依存した不死性しか持っていない。だが、その実は私のような、古き竜たちと根源を一つにしている。

…気のせいだろうか。この関係はまるで……そう。新しい竜によく見える、同じ種が長い年月を経つにつれ、まるで別の姿に変わっていく羨ましい現象。

 

 

 

進化。弱き妖精のただ一つ持つ古き権能であります、王たる黒鉄よ。

 

 

誰かに声をかけられたような気がして、森の奥に目を向けたが、そこには誰もいなかった。

華扇……ではない、確実に。そうなると紫か。あれも何を考えているか分からんが、この程度のイタズラは幻想郷では普通、と言っているのか?

 

まあ、誰でもいいか。彼女たちの言う『しゅうかつ』に付き合っていこう。一人で回るより妖精たちがいた方が群れの力で行ける場所も多いはずだ。

それに、その方が楽しい。きっとな。

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、クシャはどんな遊びがいいかしら?」

 

『そうだな……弾幕ごっこはしてみたい』

 

「オッケー。花見対策に雪合戦、紅魔館突撃も入れてっと」

 

「え、結局それ採用したの!?」




ゆえ里帰り
タンジアたのちぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!(字余り)

追記:久しぶりに推薦見たら推薦に入ってました。確認遅れてすいません。そして推薦者様、ありがとうございます。

作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。

  • このまま続ける(頻度は相当落ちる
  • モンハン東方で新しく書き直す
  • モンハン東方はもう出さなくていい
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