鋼鉄は泡沫の幻想に坐す   作:柴猫

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寒暖差激しすぎないです?おてんとさん?




人里の外れ。

中々見ないであろう行列を成した人々が、一様に厳かな、しかし暗い顔をして練り歩いていた。

行列の中ほどには飾り付けられた棺桶が運ばれており、傍らには遺族と思しき女性や子供がとめどない涙を流している。

 

「……近いうちに出るとは思っていたが、思ったより早かったな」

 

道端に生えた木に寄りかかりながら、私…赤蛮奇は重いため息をついた。

 

「被害者は山菜取りだったんじゃろう。誠実で、ご近所さんからの評判も良かった。惜しい人を亡くしたものじゃわい」

 

「ふーん。たかが人間一人に詳しいね」

 

「そらそうじゃろ。気前のいい常連さんじゃったんだからな」

 

ふぉっふぉっふぉっと見た目にそぐわない婆くさい笑い声を出した少女…二ツ岩マミゾウは煙管を取り出すと、大きく吸った。

 

「ルールを知らない妖怪に殺されたのなら、巫女が退治すれば丸く収まる。それでごまかせればよかったんだがな」

 

「まったくじゃ。霧の湖から出てきた肉食竜に殺されたとなっては、今までの妖怪退治とはセオリーが違ってくる。人の恐れを必要とせず、それでいて下手な妖怪よりも強い。モンスターの存在は、幻想郷の人と妖怪のバランスに、どてっぱらから横やりを入れるようなもんじゃよ」

 

どこか遠くを見る目をしながらマミゾウは煙管を吹かす。

 

「人間からしてみれば扱いは妖怪と変わらんじゃろう。じゃがこれまでの守り方は通用せん。霊験や術式など、奴らからしてみれば小細工となんら変わらん」

 

「逆に妖怪から見れば、モンスターは新たに人の恐れの対象となり、自分たちが忘れられかねなくなる、か。私みたいな奴はそこまで気にはならんが、あんたらみたいな大物にとっちゃ死活問題となるわけだ」

 

「ほっほっほっ。儂はそこまで大物でもないわい。しがない狸の一匹さ」

 

嘘つけ。その意味もかねてジト目で睨むと、狸は困ったように笑う。

 

「こうなるのが分かってなかったわけじゃないんだろう?お偉いさん方はどうして対策を取らなかったんだ?」

 

「いや、策はとっておったよ。古龍クシャルダオラに幻想郷を巡回させて、モンスターたちの動きを制限しようとな。まあ、彼奴ららしからぬ不確定な対策でもあったがな。それも人里、及び妖怪の山には立ち入らぬという内容のものじゃがの」

 

「やる気あるの、それ?山はともかくとして、里は幻想郷にとって心臓みたいなもんでしょう?そこをおろそかにしちゃあまずいじゃない。もっと里のことを思ってやりなさいよ」

 

「里に隠れ住んどる妖怪のお前さんが言うのか……」

 

聞かなかったふりをして首を一回転させる。マミゾウはいつの間に足元にやってきた狸を撫でながら、耳をそばだてる。

 

「山菜取りを仕留めたのはマッカォとかいう跳狗竜じゃ。群れの数から察するにボスであるドスマッカォも確実におるじゃろう。しかし奴らは霧の湖を巣にしとったはずだが」

 

「それなら姫……知り合いに聞いた話だけど、その古龍が氷精のかまくらによくやってくるって言ってたわよ。それで逃げて来たんじゃないかしら」

 

「……ふむ。やはり人任せ、いや龍任せはよくないという事かの。裏目に出るとはまさにこのことじゃわい」

 

マミゾウも大きくため息をつくと、空を紅白色が駆けていくのが、二人の視界に映った。

 

「やっぱり巫女も動くか。人と妖、おまけにモンスターの調停者もやらなきゃならないとは、随分な過重労働じゃないか。ええ」

 

同意を求めて振り返ると、そこには葉っぱ一枚だけが舞うのみで、先ほど話していた化け狸の姿は無かった。

 

「……里も随分と騒がしくなるなぁ」

 

どうかこれ以上面倒なことになりませんように。心の中で祈りながら、私はそそくさとその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

神社から霊夢と離れ、魔理沙は人里を歩いていた。

客を呼び込む商売人に、走り回って遊ぶ子供たち。誰が見てもいつもと変わらない日常の風景に、微かな違和感を覚える。

 

(妙だな。里から死人が出たっていうのに、噂にすらなっていない)

 

妖怪に化かされたとかいう噂は―恐れを得るための妖怪側の事情もあるが―あっという間に広がるが、そもそもとして人間は噂好きな生き物だ。まして人死にが出たともなれば、どこかから話は出てくるものだと思っていたが、いくら聞き込みと聞き耳を立ててもそれらしい噂はまるで出なかった。

 

(となると誰かが情報を操作しているってことになるが――)

 

それらしい人物がいそうな場所に足を運ぶと、案の定寺子屋で子どもたちを送り出す慧音の姿が見えた。

 

「む、魔理沙か。ここに来るとは珍しいな」

 

「ああ。そっちこそお疲れさん。で、少し話を聞きたいんだがいいか?」

 

その言葉を聞いて慧音は全てを察したのだろう。寺子屋の裏に私を連れ、重い口を開いた。

 

「――確かに彼の死亡は発見者以外には漏らさないように徹底させている。だが私の独断ではない。マッカォたちを討伐してから、彼の死を公表する。そこからモンスターへの対策を本格的に始めるつもりだ。……稗田家や諸々の重役は承知済みだし、命蓮寺や神霊廟の人たちにも伝えている。念のため守矢神社にも伝えに行こうかと思っていたんだが」

 

「それに関しては問題ないぜ。居合わせてた早苗も話を聞いたからな。今頃二柱が対策を練っているだろうよ」

 

「……すまない。私がもっと早く手を打っていれば……」

 

「こんな事態に初見で上手く対処しろってのが難題だぜ。慧音はよくやった方だと思うぞ」

 

「だが、死人が出ることは避けられたはずだ!護衛を付けていれば、少なくとも彼は死ななかったはず。そのうえ彼の死を利用しなければならないなど……」

 

責める慧音に、魔理沙は黙り込むしか出来なかった。

 

「ああ、すまない。魔理沙に当たることじゃなかった」

 

「気にしてないからいいさ。霊夢はもう動いてるからな。すぐに終わる」

 

私は箒にまたがって空へと浮かび上がる。

 

「それに、あいつにばっかいいとこ取らせちゃかっこつかない!これからモンスター退治は私に相談しろよ!」

 

人里から彗星が瞬き、遠慮なく巻き起こる突風に慧音は顔を顰めながらも、やがて笑みを浮かべる。

 

「まったく……霊夢に負担をかけたくないなら、そうと言えばいいのにな」

 

慧音は人里の子ども全てに教鞭を取っている。幼い魔理沙や霊夢の教師をしたのも慧音だ。ゆえに二人の関係が如何なるものかは知っており、それが今でも続いていることも、手に取るように分かるのだ。

 

空の彼方へすっ飛んでいった、大きな背中を眩しそうに見つめながら、慧音はその場を後にした。

 

 

 

 

雲一つない里の天上に、火が猛っているのには気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

陽光と葉陰が入り乱れる森に、けたたましい鳴き声と紅い火花が散っていた。

 

何匹目かのマッカォが顔面に火を浴び、もんどりうちながらも息絶える。仲間たちはそんな逃げ腰を無視し、目の前の外敵を排除せんと吠え掛かる。

 

鋭い牙をこれでもかと見せつけるマッカォの群れに、霊夢は怯むことなく針を投げる。何匹かに命中したそれは、刺さると同時に雷光を帯び、鱗を貫通して直接痛みを与え、痙攣する。針を避けたうちの三匹が、霊夢を仕留めようと駆ける。

一匹目の体当たりを悠然と躱し、続く二匹目の蹴りも飛んで避ける。重力に従う霊夢の体に、三匹目が振り放った尻尾が迫る、が霊夢はそこで飛行し、空振りしたマッカォの派手な顔面に針を刺し、電気を炸裂させる。

 

博麗霊夢は妖怪退治を生業とする巫女であり、彼女の霊術は妖怪に対して決定的な有効打を与えられるが、純粋な肉体のみを持つモンスターに霊力は相性が悪い。ただの猪に護符を構えたところでなんら効果が無いように、だ。

だがしかし、それが霊夢の全てではない。あらゆる法則を無視して空に浮く力に、巫女としての実力も―普段の生活からかすみがちだが―相応に高い。

華扇に教わった獣人族の印だけでなく、巫女としてそこに神の力を込めることで、先の戦いに比べて霊夢の対モンスターへの武器性能はかなり向上している。

これもまた、霊夢の天性の才能がゆえに成せる柔軟性の賜物であろうか。

何より博麗の巫女に敗北は許されない。モンスターが相手では話は違うだろう。そう言っても誰も反論しないはずだが、霊夢はモンスター相手でも負けたくは無かった。

 

空中へと浮き、陰陽玉と札を構える霊夢の姿に、マッカォたちは威圧されたのかじりじりと後退していく。

無論霊夢は彼らを逃がすことなく殺すつもりで、逃亡しようものなら空から弾幕の雨で火炙りにする。里の人間を殺した以上、彼らにかけられる慈悲はもう無い。

 

霊夢の蹂躙が始まろうとしたとき、森の奥から野太く大きな咆哮が木霊し、全ての視線が集まる。

姿かたちこそマッカォと大差ないが、冠のような鶏冠は艶やかに輝いており、顔の赤みも他と比べてあまりに鮮やかだ。

何より目を引くのはその大きさ。人の腰ほどの高さだったマッカォたちと違い、そのままでも人の頭を噛み砕けるように大きい。

 

 

マッカォたちのリーダー、跳狗竜 ドスマッカォ。

 

 

『ボヮァァァァ!!』

 

「……やっと出てきたわね」

 

より険しい顔になった霊夢が、陰陽玉と札を射出体勢に入る。ドスマッカォは冠羽を激しく揺らして叫び、荒れ狂う。

 

 

先手を取ったのは霊夢。空中から燃える札と雷光迸る針を同時に撃つ。ドスマッカォは迷わず突撃する。雷針は無視し、炎札を優先的に避ける。マッカォたちはまだ小型の範疇だったから効いたものの、そもそもマッカォという種は雷撃には耐性がある。針程度では怯みすらしない。

一旦距離を取った霊夢が、今度は陰陽玉からも青い炎札を放つ。発射されたそれはドスマッカォを追うように迫る。意思を持っているかのような札の動きに、ドスマッカォは反応できずに焼かれてしまう。

怯んだ跳狗竜に霊夢はお祓い棒による連打を叩きこむ。命中するたびに炎を放つそれは弾幕以上のダメージをドスマッカォに与える。

 

が、霊夢の攻撃は突如背中を叩かれた衝撃により吹き飛ばされた。見ると子分のマッカォたちが激しく吠えながら襲い掛かってくる。

およそ味方のことも考えない、群れた悪漢のような波状攻撃に霊夢は回避せざるを得ない。全ての攻撃を木の葉のように回避する霊夢に、猛攻から立ち直ったドスマッカォが駆ける。

ジャブ、尻尾ぶん回し、タックル。まさにアウトローの如き攻撃に、霊夢は徐々に追い詰められていく。飛行できれば再び形勢は逆転するが、ドスマッカォの猛攻がそうさせない。

 

無理に飛ぶのではなく、まずは痛手を与える! 頭部を狙ったジャブをギリギリの股抜けで後ろに回り込み。燃えるお祓い棒を足に叩きつける。熱を伴った痛みを感じたドスマッカォは、後ろも見ずに乱雑に尻尾を叩きつける。躱しきった霊夢だが、舞い散る砂埃に空を飛んで退避する。

 

そして呼吸を整えようとした霊夢に、とてつもない速さの蹴りが放たれた。

 

「……っ!?」

 

慌てて回避した霊夢だがオプションの陰陽玉に蹴りが直撃し、粉々に粉砕される。

 

陰陽玉を破壊したドスマッカォはくるりと―尻尾で立って霊夢に向き直る。

これがドスマッカォの最大の特徴、発達した棘と衝撃を吸収する肉球のついた尻尾は、ドスマッカォの全体重を支えるに足る。

そこから放たれる渾身の飛び蹴りは、あの轟竜の突進を一時とはいえ抜くほど。まともな防具を付けていない霊夢など、一撃で粉砕されるであろう。

事実霊夢は先の飛び蹴りを目に収めることが出来なかった。それを回避できたのは彼女の第六感、いうなれば勘だ。思えば銀翼の凶星の襲撃も勘で察知した霊夢だ。未知の攻撃への対処能力はずば抜けている。

 

とはいえ陰陽玉を失った霊夢に、遠距離戦の効果はかなり薄くなってしまった。必然として近距離で戦わなければならいものの、それはドスマッカォたちの距離。ボスと群れの波状攻撃は、一発でも食らえば袋叩きにされておしまいだろう。

陰陽玉を破壊した手ごたえからか、ドスマッカォは尻尾で立ったままじりじりと距離を詰めてくる。マッカォたちもボスの反撃で昂ったのか、一斉に突っ込んでくる。

 

「一か八か、ねっ!」

 

残り全てのお札を構え、波として襲ってくるマッカォの群れを迎え撃つ。その時。

 

 

ギィィィィィン!!

 

 

『ギャウ!?』

 

鼓膜をつんざく高音が森に響き、衝撃でドスマッカォが姿勢を崩して転倒する。マッカォたちも突然の異音に驚き、動きを止めた。

そして彼らの頭上に真っ赤に染まった木の実が落ちてくる。

 

「おりゃあ!私特性のニトロダケ拡散爆弾だ!貰っとけ!」

 

地面に、あるいはマッカォに落ちた実はその大きさに見合わない爆発を起こし、マッカォたちを焼き払っていく。

 

「よう、苦戦してるじゃないか」

 

「誰のせいだと思ってんのよ、誰の」

 

箒に跨った相棒―霧雨魔理沙はニカッと笑い、手の中の瓶を弄ぶ。

新たな乱入者に、マッカォたちは気圧されたように後退していく。先の魔理沙の爆撃で、半数ほどのマッカォは焼け焦げており、生き残りにも重度の火傷が目立つ。

すると群れの内の一頭が逃走し、それに率いられるように一斉に逃げていく。

 

「なっ!?まだ親玉が残ってるでしょ!?」

 

「なんだ、霊夢。マッカォは統率力が弱いから、ピンチになると勝手に逃げだすんだ。ドスマッカォを置いてな」

 

「追いかけないと。じゃなきゃまた被害者が出るわ」

 

空を飛んで追いかけようとした霊夢の前に、ドスマッカォが立ちふさがる。

 

『ボギャァァァァ!!』

 

後退した霊夢は魔理沙と並び、札とミニ八卦炉が構えられる。

 

「なるべく早く片付けるわよ」「ああ」

 

鼻息を荒く牙を剥く跳狗竜と異変解決者二人が向き合い、再び狩りが始まる―――

 

 

 

そうして高まっていた緊張の糸は、爆炎に焼き尽くされた。

 

「「なっ!!?」」

 

咄嗟のことに二人は下がり、周囲を見渡すも、何もいない。

突然降って出た炎に右往左往するドスマッカォは、耐えきれないとばかりに背を向け、

 

 

 

業火に身を包まれた。

 

「な、なんなんだよ!」

 

ドスマッカォに直撃したのは、火球。辛うじて見えたそれから、二人は空を見上げ、

 

 

 

 

 

雄大な翼を持って飛行する、赤い飛竜の姿を見る。

 

二人は知っている。地脈の収束地にて激戦を繰り広げた、空の王者。

 

 

 

「「リオレウス!」」

 

『ヴェェァァァァァ!!』

 

名を呼ぶ声に応じるかのように、飛竜の王は木々を揺らして吠えた。




レウス「乱入と前座扱い?辞表は叩きつけてきた」

作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。

  • このまま続ける(頻度は相当落ちる
  • モンハン東方で新しく書き直す
  • モンハン東方はもう出さなくていい
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