鋼鉄は泡沫の幻想に坐す   作:柴猫

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我慢もここまでと暴れるレウス君。まあこれまでの扱いがひどすぎたからね。仕方ないね。


そして堪忍袋の緒が切れているのは彼だけじゃないそうですよ…




蒼天に穴を空けたような、燃え盛る炎。

それは里を抜けると急降下して火球を放ち、森の緑に紛れて消えた。

 

「あわわわ……あれってリオレウスじゃない?」

 

「前に魔理沙さんが言ってたモンスターだっけ?でも、仲間たちに聞いても見てないって……」

 

「嘘よ。仲間たちはともかく、あれだけ大きいなら私の眼に入るはずよ」

 

「おいおい。それよりどうするんだよ?あんなクレイジーな炎をバンバン吐くやつ、放っておくわけないだろ?」

 

「え、行くの!?やめとなさいって丸焦げになって死ぬわよ!」

 

突如飛来した飛竜の王に、慌てふためく四匹の妖精たち。

そしてそれを窘めるような、重い落ち着いた声が彼女らの下から聞こえる。

 

『……なるほどな。外ではお前の腹は満たせんかったか』

 

「?それってどういうこと?」

 

『お前らは気づいていなかったのか?』

 

小さい王の問いかけに、四人は頭を捻るばかり。無理もない、独り言ちて言葉を紡ぐ。

 

『まあいいか。ともかくあれは放っておいていいだろう』

 

「え、いいの!?」

 

『あれが狙っているのは人間ではない。大方あの赤顔を狩りに来たのだ。人間たちの巣は眼中になかろう』

 

そう言って踵を返そうとした鋼龍の視界に、彼女の見知った顔が現れる。

 

茨木華扇。顔を見るのは随分久しい。だが明らかにこちらに会いに来たわけではなく、険しい目をして人間たちの巣へ向かっていく。

 

「あ。あの人って神社によく来る仙人じゃない?」

 

『そうだな。よし、追うぞ』

 

そう言って華扇を見て、重く小さい体ながら脱兎の如く走っていく。

 

「えええ!?ちょっと待って!」「急すぎるぞクシャ!」

 

サニーとピースが駆けだし、スターもそれに続く。

 

「ちょ、待って…プギャ!」

 

石ころに足を取られたルナも、人にばれることなど無視し、飛んで彼女らを追う。

 

 

 

そして緑を焼き尽くす火が、彼女の目をこれでもかと覆った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グルァァァァァァァ!!!』

 

吠えたリオレウスが口に炎を迸らせ、火球を放つ。

霊夢と魔理沙はそれぞれ反対方向に避け、各々の獲物を構える。

 

「私が引き付ける!魔理沙は隙を見て撃って!」

 

「分かった!あいつの攻撃に一発も当たるんじゃないぞ!」

 

空を飛ぶ巫女はリオレウスへと突っ込む。

人でありながら空を飛び、あまつさえ己に突っ込むという信じられない行動に、しかしリオレウスは冷静だった。爪を開き、霊夢を掴もうとする。

それは想定内。急制動をかけて上へ飛び、雷針を頭部へ放つ。火竜と目が合う。敵意をむき出しにしながらも、先の跳狗竜とは違う感情も混じっていた、ように見えた。

弱点をつく雷針を、リオレウスは急降下で避ける。そして下へと回り込み、霊夢を噛み砕かんと牙を剥く。回避した霊夢だが、巨体の巻き起こす暴風に阻まれ、弾き飛ばされる。

太陽を背にしたリオレウスは霊夢に向かって火球を放つ。避けた霊夢にもう一発。その回避先にも更に一発。

裾を焦がしながらも霊夢は健在だった。いつの間に神の力を借りたのか、お祓い棒には雷が迸っていた。火球の迎撃を躱し、お祓い棒を振り上げる。

 

だが、リオレウスが翼を一瞬だけ畳むと、火竜の後光の如く陽光が霊夢の眼を灼く。勘に従い、霊夢は結界を貼った。

直後、衝撃。視界の回復した霊夢は自分が地上に弾かれている光景を見、枝を掴んで回転して衝撃を殺し、地面に着地した。

 

「霊夢!」

 

「私は大丈夫。それよりあいつから目を離さないで!」

 

駆けつけてきた魔理沙は、リオレウスが自分たちを回って飛びながら、突撃する瞬間を待っているようだった。魔理沙は記憶から、編纂書に書かれていた火竜の大技であることを見抜く。

 

「あいつ、前に私たちが戦ったやつより強い。頭も回るわ」

 

予想を外したはずの攻撃への対処、弱点となる雷への警戒、あまつさえ太陽を背にする優位性を熟知している。少なくとも収束地で戦った個体よりも冷静で、かつ攻撃や戦法は極めて効率的だ。以前の戦法では通用しない。

 

「じゃあどうする?」

 

空を舞う炎が、少しずつ地上に近づいていく。

妖夢がいてくれれば前線を任せられたのだが、無いものねだりをしても何にもならない。

 

「森の中に陽動する。それしかないわ」

 

「だ、大丈夫かよ霊夢?下手したらお前が――」

 

「心配しなくてもいいわよ。なんだか今日は調子がいいの」

 

好機と見たリオレウスが、木々をへし折りながら突っ込む!

 

「分かった。でかいの準備しとくから、それまで耐えてくれよ!」

 

「あんたこそ気取られないようにね!」

 

木々をなぎ倒してもなお止まらないリオレウスだったが、いきなり急制動をかけると外敵へ回り込む。

回り込んだのは――黒と白の金毛の人間。

 

「うおゎ!?」

 

猛毒滴る爪の一閃が眼前を通り過ぎ、リオレウスの股を縫うように森へ逃げ込む。

リオレウスは魔理沙へと飛びだし、木々を掠めてぴったりとついて行く。

 

「魔理沙!」

 

霊夢もリオレウスの後を追うが、相当な速さだ。針は当たらないし札もこの距離では蚊の一撃に等しい。

魔理沙とリオレウスの距離は見る見るうちに縮まっていく。箒を全速力で飛ばし木々を縫うようにジグザグに飛ぶが、背後から感じる視線は一瞬たりとも外れない。

魔理沙はスカートから魔法瓶をまき散らし、鮮やかな光が森中に反射する。こりゃたまらんと火竜は上昇して光の群れから距離を取る。

そちらが遠距離ならばと、リオレウスは火球を放つ。凝縮された業火は木々の天井など容易く貫き、地面を破壊する。だが火球は直撃することはなく、天から降る火球すらも黒白の人間を仕留めきれない。

 

複雑な森の中で火球を避ける魔理沙の姿に、空の王は喉を鳴らした。

 

惜しいが、これ以上は時間をかけていられない。

リオレウスは喉に大量の炎を溜め、魔理沙に横付けするように背後からずれる。

 

王者のアギトから放たれたのは火の渦。木々を一瞬で炭に変える暴力的な熱が魔理沙を襲う。

 

「う、うぁぁぁぁ!!」

 

箒に火が付き、もんどりうって魔理沙は地面に転がる。

もはや灼熱地獄と化した森の中で、魔理沙はなんとか飛びかけた意識を連れ戻す。

 

 

 

そして視界を埋め尽くす赤が、小柄な少女を吹き飛ばした。

 

「がっ……!」

 

仰向けに地面に転がる魔理沙に、リオレウスは野太くも鋭く響く咆哮を上げる。

容赦ない炎熱が辺りを覆いつくす中、その飛竜は意にも介さず火の粉を振り上げ、これでもかと勝利したことを示す。

 

「魔理沙っ!!」

 

霊夢は倒れる魔理沙のそばに降り立ち、抱きかかえる。

脈はある。ひどい出血もない。おかしい。炎の檻に閉じ込められたあの状態ならば、この歴戦の飛竜は魔理沙を――殺せたはずだ。なのになぜ気を失わせる程度で済ませている?

困惑が渦巻く中、霊夢はリオレウスと目を合わせる。

 

 

火が目を灼く。頭の奥から紅が視界を覆う。

 

 

 

―そう。それでいいのです。さあ、もっと深く!―

 

 

誰かの――少なくとも男の声が頭の中に残響する。頭を抑えながらも、急襲に対応できるように目は合わせ続ける。

絶対に魔理沙は守る。この前の泥翁竜の時の借りがまだなのだ。いや、そんな俗物的な関係では、断じてない。

 

瞳の奥から誰かが話しかけてくる。

構うな!今は目の前の竜に対処しろ。寸分の動きも捉えろ!

 

 

 

リオレウスが足を半歩下げる。

 

雄大な翼が熱を押し下げ、空の王は火の幕の奥へと下がっていった。

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

息が上手くできない。先ほどから頭痛と目の痛みがどんどん鋭くなっている。早く、この火から逃れなければ。

 

「うぐぅ……!?」

 

だが足が言うことを聞かない。地面に突いた両手が、土が、上手く見えない。なんで。力を使いすぎたわけでもないのに。

 

「が、ォォォ……」

 

自分のものとは思えない、潰れた声が喉から出てくる。胃から何かがせりあがってくる。

視界が、瞼を開けているはずの瞳から色が消えていく。

 

 

 

 

 

―そんなに来たいの?……いいわよ。いつでも迎えに行ってあげる―

 

 

 

 

炎上網に囲われた霊夢の意識は、親友の横で深く落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カンカンカンカン!

けたたましい半鐘の音が、だがそれ以上の騒乱の声にかき消されていく。

 

「慌てるな!女子供は里山の方へ逃げろ!誰かご老人がたの避難を助けてあげてくれ!それ以外は消火の用意を!」

 

慧音はあらん限りの声を振り絞り、逃げ惑う住民たちに指示を出していく。自警団の面々が避難誘導を行い、若者や壮年の男たちが大量の水桶と火消し道具を持って山火事の方へ向かう。

 

「慧音!」

 

振り返ると妹紅が駆けつけてくれていた。この騒ぎだ。里の外までも響いていたのだろう。

 

「妹紅か!すまない、手を貸してくれないか」

 

「元からそのつもりさ。つっても、私じゃ火を消すのは無理だが……」

 

「ああ、それなんだが。あの山火事は自然に起きたものじゃない。火竜リオレウスの仕業だ」

 

「リオレウス?そいつってもう幻想郷から出てったんじゃなかったのか」

 

「ずっと居場所が分からなかったから、いない可能性が高かったというだけだ。……しかしなぜ突然現れたんだ?」

 

妹紅の視界に、仙人と尼僧が部下を引き連れて火元へ向かっていくのが入った。いつぞやの異変よりも大所帯だ。感覚としては捉えにくいが、いつもの異変よりも大事なのだろう。

 

『ボギャァァァァ!!』

 

「うお!?」

 

小屋を破壊して現れたのは、ドスマッカォ。

それを見た慧音が即座に攻撃しようと構えるが、妹紅は肩を引っ張って連れ戻す。

 

「妹紅!?」

 

「待て慧音!そいつ様子がおかしい」

 

よく見てみれば、全身が激しい火傷でボロボロになっている。血反吐が混じりながらも吠え掛かるが、足取りも覚束ないさまは虚勢以上の効果は無い。

 

威嚇に怯まない相手と知ったか、ドスマッカォは勢いよく走り出す。その先には――

 

「っ!皆が危ない!」

 

二人は急いで走り出し、ドスマッカォを追う。

角を曲がり、焼け焦げた姿を認識するも追いつけない。手負いの獣に油断するなとは誰が言ったか。目の前には避難する集団がいる。

 

「全員走れーー!!」

 

喉が千切れるほどの大声はなんとか届いたが、もう遅すぎた。振り返った子供たちに、ドスマッカォが飛び掛かろうとする。

 

「させるか!」

 

妹紅が全身に炎を纏わせ突撃するが、恐怖に固まる子供たちにドスマッカォが攻撃を外すことは無く。

 

そのまま前足で頭蓋を砕くさまを、二人が幻視した。

 

 

 

 

 

そしてその幻は、天から降った炎に焼かれた。

 

「なんだ!?」

 

急制動をかけて止まった妹紅は、上を見上げる。

 

炭となって燃え、黒煙を上げる狗竜の遺骸に、ゆっくりと降り立つそれは、王者の風格。

地を踏みしめた天空の王者は咆哮を上げ、己の存在を誇示する。

 

『グルァァァァァァァ!!』

 

 

 

里の住民たちは恐慌の波に飲まれ叫びだすが、リオレウスが振り返って一瞥すれば、皆震えあがって静寂となる。

妹紅と慧音の上を、命蓮寺と神霊廟の面々が飛び越し、リオレウスを囲む。

 

「お前と会うのは久しぶりだな、空の王者よ。今度も私が直々にお前を地に下してやろう。跪け!」

 

「ここまで来たのなら、もう後戻りはできませんよ。モンスター」

 

囲まれたリオレウスだったが、その視線をちらりと上に向け、蒼天に浮かぶ複数の黒点を見据える。

 

「天狗……」

 

上を天狗、前方を仙人、後方は寺の連中、地上は妹紅と慧音が住民たちを守る位置で構える。

囲まれたリオレウスは滞空し続ける。目前の仙人を睨み続けながらも、周りへも目を配らせて隙を作らない。

だが、それでも攻撃は仕掛けない。ただじっと、睨み続けるだけだ。

そしてこの場の面々も、里の住民への被害を考慮して何も手が出せなかった。すぐに逃げてくれるのが一番なのだが、先の咆哮でほとんどが腰を抜かしていた。

膠着したこの状況。皆の緊張の糸でがんじがらめにされた空間。

 

 

 

そこに、場違いな妖精が一匹、通り過ぎる。

 

 

真っ先に反応を示したのはリオレウスだった。いきなり飛び上がってなぜか虚空に吠え掛かる。当然そこには誰も立っていない。

 

「……何をしている?」

 

火竜か、妖精に向けた言葉だろうか。

一匹だけだった妖精に、二匹四匹、一気に十匹と数がどんどん増えていく。

 

「ちょ、待て待て待て!」

 

「多すぎますよこの数は……どこから湧いて来たのです……?」

 

雲山を巨大化させた一輪の威嚇にも怯まず、明らかに異常な妖精の動向に星は訝しむ。

里の空半分を覆う妖精たちが右往左往に飛び回る様に、答えを出せるものはおらず。

 

ただ上空で旋回し、地上を見ていた文たち烏天狗だけは、その違和感に気付く。

 

「ねえ、文。あいつら」

 

「流石にはたてでも気づきますよね。

 あの妖精の群れ、風を巻いて嵐を作っています……!」

 

ちょうど台風の目のように、里の住民も含めて円を作る妖精たち。その動きはいつもの無秩序なものではなく、綺麗に統率されている。

 

ならばこれは、誰かを迎えるための準備なのだろう。

 

 

 

陽光を受け、天から煌びやかな何かが落ちてくる。

 

鉄塊と呼ぶにはあまりにも生々しい光沢が、妖精嵐の中で燦燦と輝く。

 

 

 

 

 

折れた右角と右目に包帯を巻いた、しかしこれでもかと王威を放つ龍。

空の王でさえも、奴隷の如くひれ伏してしまうほど、あまりにも煌びやかで、暴力的だった。

 

 

 

『ゴァァァァァァァァァァァァ!!』

 

 

 

突然の謁見に火竜は振り向き、そのまま急いで空へと飛び去った。

 

それを見届けた鋼の王は迷うことなく、天へと昇って行った。後を追う妖精たちで姿が隠されたのち、古龍の姿はどこにも見えなかった。

 

幻ではないだろう。

だって、その姿はあまりにも硬く、重く、人々の脳裏に刻まれてしまったのだから。

 

 

 




歴戦王の中でクシャが一番綺麗だと思います

ではまたいつか

作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。

  • このまま続ける(頻度は相当落ちる
  • モンハン東方で新しく書き直す
  • モンハン東方はもう出さなくていい
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