光が見える。
たかい、たかい塔の上。
私はただそこへ身を任せるがままに飛んで行った。
天はただ青を下ろし、大地は白に包まれている。
ようやく頂上が見える位置まで達すると、誰かが座っていた。
私はその子へ近づいていく。それとともに視界が端から白く染まっていく。
あと少し……あと少し……手を伸ばし、その子の肩へ触れようとして―――
―慌てないの 焦らない 時はいずれ―
「………………ん」
布団をはがして、体を伸ばす。それと同時に欠伸。
障子を開け放つと、部屋の中に朝日が差し込んで来る。どこかで朝を喜ぶ鳥の鳴き声が聞こえた。朝日を浴びて、もう一度体をうんと伸ばす。
博麗神社にいつもの朝が、いつも通りやってきた。
着替えを済ませ、朝ごはんもいただき、食器を片付ける。いつもは結構騒がしい博麗神社だが、朝は本当に静かだ。いや朝に誰かが居ても困るのだが、来る奴もいないこともないのが幻想郷である。
ほうき片手に境内へ出て、落ち葉を掃除する。もう秋も間近に迫って来たからか、落ち葉の数も多くなってきた気がする。あの鋼龍の影響もあるのかも知れないが、最近は大人しくなってきたようだ。やっぱり監視されていたのが落ち着かなかったのか、まあ私も天狗に尾行まがいの事はたびたびされてるから、気持ちは多少分かる。
あの後、華扇の助言から、クシャルダオラの監視を外すことになった。一部の奴ら、特に山の勢力は否定的だったけど、神子やレミリア達の方は自分たちの能力もあってか反対はしなかった。まあ、あいつらもあいつらで未知の力に興味があるのだろう。
監視を止めた効果は予想以上に大きく、以前はここまで風が吹いていたのだが、今はもうそよ風レベルだ。それぞれの思惑はあるのだろうが、まあ私としては面倒ごとさえ起きなければ良い。
「こんにちは」
…そう思っていた矢先に、八雲紫はスキマから顔を出してきた。
「面倒ごとさえ起きなければ良いと思っていたのに」
「あらあらずいぶんやさぐれてるわね。何かあったの?」
「……いちいち言わないわよ」
わざとらしい顔で質問してくる紫を一蹴し、掃除を続ける。
「そういえば、あの古龍も大人しくなったわね」
「クシャルダオラでしょ?別にここを支配しようなんて思ってないらしいから、放置することにしたわ」
「それは博麗の巫女としてどうなの?」
「私が戦うのは異変を起こしたやつ。今回のは異変っていうより騒動よ。私が出ばる幕じゃないわ」
「…そう。まあ、いいでしょう」
紫は扇子を口元に当て、幻想郷を眺める。それを見て、ふと疑問に思ったことをぶつけてみる。
「ねえ、どうしてあいつを幻想郷に入れたの?」
「どうしてって?」
「だっておかしいじゃない。あんたが幻想入りしていない存在をここに入れるなんて、何かあるんでしょ」
扇子を口元から外し、紫は答えた。
「古龍はどういう存在だと思う?」
質問に質問で返され若干不服に感じたものの、今は答えを知りたい欲の方が勝った。
「どうって……神様や妖怪みたいに人間の恐れや信仰を必要としないし、動物みたいに他の生き物を食べようとしないし、意にもかけない。なのに、力は一級の神様と同等……こんな感じかしら」
紫は僅かな微笑を浮かべた。それは……子供をほめる時の親のそれに少し似ていた。
「間違いではないわね。あくまであれを幻想郷に当てはめるなら、だけど」
「じゃあなんなのよ」
「結界が対象とするのは生物、及びそれらに付随する道具。それは分かってるわよね」
頷き、紫の話を聞く。
「でも、古龍は違う。あれらは私たちが定めた生き物とは、根本から何もかもが異なっている。生と死の概念は共通のようだけどね」
「……つまり結界が定める生物の理に当てはまっていないから、結界でも防ぎきれない?」
「理由の一つはね」
紫は指を二本立て、不可解な微笑を顔に浮かべた。
「もう一つ、こっちの方が重要ね。〝古龍は天災そのものである〟そう本に書いてあったでしょ?」
「なんで知ってるのよ……」
「結界が防ぐ対象に、自然現象はないのよ。天災の象徴、自然そのものであり、自然の一部である古龍にとって結界なんて意味はないの」
集めた落ち葉が風にあおられ派手に境内を舞う。その一枚が私の靴に引っかかり、カサカサと音をたてる。
「ちょっと待って、そもそもあいつは異世界の存在。異なる世界同士が交わることはたまにあるけど、さすがにあのクシャルダオラはそんな力持ってないはず。なんでここに来たのよ」
またしても紫は扇子を口元に当て、クスクスと笑った。
「あの世界はね、特殊なのよ」
「え?」
「古い時代からあの世界は多くの異世界と交わって来たの。言うならば、あの世界は次元の波に飲まれながら存続してきた、って言ったほうがいいかしら。当然、私たちが生きてるこの世界ともね」
紫は扇子を畳んだ。
「何百年位前かしらね。西の人間たちが海を征していた時代に、あっちの世界からモンスターが流入して来たの。多くは遠く離れた島に住みついたのだけれど、一頭はこの国まで飛んできた……」
「それが、妖怪の山を襲った奴?」
「まあそうね。あちらの世界では、ネルギガンテと呼ばれたものよ」
ネルギガンテ。名だたる山の妖怪達を殺しまわった、クシャルダオラと同じ古龍。レミリアの話ではあのクシャルダオラと戦い続ける姿が見えたらしく、極めて高い凶暴性と強さを持つことは間違いないだろう。
「そんなわけだから、あの世界からモンスターの流入を止めるのは厳しいし、古龍に関しては言わずもがな。だったら、あいつらの力を利用するのが得じゃないかしら?」
「う、うーん」
「あら、時間ね。それじゃ、私は戻るわ」
そう言って紫の姿はスキマに消えて行ってしまった。
疑問はまだ残っているものの、これ以上詮索してもあいつは素直に答えてくれないだろう。まあ、理由は聞けたからそれでいい。
靴に挟まった若緑色の落ち葉は、風にあおられどこかへ消える。
私は鳥居の中の幻想郷を眺める。
あれほどの超常的存在がいながら、あの世界の人々は生き抜いてきている。本にはそういったモンスターを〝狩る〟ハンターという存在が記されていた。
彼らはどう思いながら、自分たちの世界で暮らしているのだろう。妖怪と違ってモンスターは生き物だ。祈るだけでは決して生き延びられない。それでありながら、彼らはそれと共存している。
なかなか、世界は広いものなのだなと。柄にもなくそう思ってしまう。
今、一頭の妖怪が
敵との差も図れなかった哀れな妖怪は、今は捕食者の胃袋に収めらていた。
捕食者は口についた血を舐め、満足そうに鼻息を吹く。日も斑にしか射さない深い森の中で、それは余りにも異質であった。ここにいてはいけない存在かのように見える。
すると捕食者はある方向へと向き直った。
鈍いものなら気付きすらしないが、それには分かっていた。
風に運ばれた、鉄の匂い。それを嗅いだ捕食者は、目を開き、警戒していた。
分かっているのだろう。今の自分では返りうちに合うだけというのが、少なくとも今喰われた妖怪よりかは。
捕食者はまたどこかへと足を運ぶ。どこに行くかはそれ自身も分からない。
ただ、獲物を求めるその鋭い眼光から、おのずとそれが求める者が何かは分かるだろう。
彷徨うように歩を進める狩人は、やがて森の闇へと消えていった。
紫の言ってた島云々は、MGSPWとのコラボのことです。
それと、誤字報告ありがとうございます。気になる誤字がありましたら、報告お願いします。
ではまたいつか
作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。
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このまま続ける(頻度は相当落ちる
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モンハン東方で新しく書き直す
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モンハン東方はもう出さなくていい