一
華扇とやらの言う通り、あれから視線を感じることは無くなった。
代わりに人間……いや、それらと見てくれは似ているが違う、妖怪という奴らが私に会いに来るようになった。一部違うやつらもいるらしいが、少なくとも私が見た故郷の狩人とは、全く違う力を有しているのは分かった。硬い鎧も、鋭い獲物も持ってはいないが、純粋な身体能力は彼らよりも高く、古龍のような不可思議な力を扱える。そんな奴らがここには大勢いる。
全くもって強さを推し量ることはできない。私がこれまでに見た人間、夫から聞いた人間の特徴と全く合致していない。
油断ならないところに来てしまったが、私に移住する心づもりは全くない。華扇のような信頼できる奴らもいるし、ここの環境は大変に気に入っている。
それは目の前で遊んでいる妖精も含めて、である。
胸部のあたりを触っている妖精の頭をツン、と軽くつつく。妖精は少し驚くが、むしろ私の前足に抱き着いてきた。前足を持ち上げ、妖精はうれしそうな顔をする。それを見ていた他の妖精たちも前足にひっついてくる。重さなどあってないようなものだが、もう掴めるような場所はない。一匹の首元を口で掴み、持ち上げてやるとこれもまたきゃっきゃと声をあげる。
当初は触ってきていても無視したのだが、触れ合っているうちに何だかかわいく見えてきてしまい、こうして遊んでやることも増えた。監視の目が緩くなったからか、それとも子を育てていた時の母性がまた芽生えてしまったのか。とにかく私にとっても楽しいことには変わりなく、故郷に居た時とは打って変わって非常にリラックスしている。
「あ、いた!」
聞き覚えのある声が聞こえ、その方向を見てみると、そこには水色の妖精がいた。
妖怪たちが来ていたのと同じ頃に、私に会いに来た妖精だ。氷の力を有している妖精で、他の奴らと比べると桁違いに強い力を持っている……あくまで妖精の中でだが。しかも華扇に聞いたのだが、妖精達はここの力関係では最も弱い種族だという。そんな奴らの中での規格外なので、私からすれば他の妖精と変わりは全くない。
「何してるの大ちゃん?」
「えへへ~、チルノちゃんもやってみる?」
「やる!」
私の口に咥えられていた妖精が離れると、今度は氷妖精が口の方に来る。
「ねえ!さっきのあたいにもやって!」
そう言うと、氷妖精は私の顔の周りを飛び始める。さっきまで泥遊びをしてきたのか、ほこりが鼻に入ってくる。
くしゅん、と軽いくしゃみ。それだけで頭の周りを飛んでいた氷妖精は派手に吹っ飛ぶ。
「のわぁぁぁ!!?」
「チルノちゃん!?」
そのまま木の幹に激突し、動かない。頭を打ったのだろうか。ほどなくして立ち上がり、一言。
「違うよ!あたいは大ちゃんのやってた奴をやりたいの!」
他の妖精たちは笑い出し、不思議と私も心地よい感覚になる。
やはり、ここは良いところだな。もっと早くここに来ていればな。
暴風を操る古龍と幻想郷最弱の種族が遊んでいる所、霧の湖のほとりに建つ深紅の洋館。
紅魔館
幻想郷から見るとつい最近現れた場所。過去に幻想郷を侵略しようとしたレミリア・スカーレットが主の館であり、多くのメイド妖精や実力ある者たちが住んでいる館でもある。
幻想郷の中でも有力な勢力ではあるが、唯一彼女らが胸を張れない、いや恐れているとも言える存在が、この館に住んでいるのだ。
内装まで真っ赤な紅魔館の、入り組んだ通路の突き当りの螺旋階段。ゆらゆらと揺らめく蝋燭の炎の中を進んでいくと、扉が見える。何度か破壊されたような痕跡が残されている扉には、この館にあるような高貴さは感じられない。
部屋の中には、一人の少女がベッドで本を読んでいた。
少女、といっても背中に生えた歪な翼を見れば、人間でないことは一目で分かる。室内だというのに、金髪の上に館の主と同じ帽子をかぶっている。
フランドール・スカーレット
この紅魔館の主であるレミリア・スカーレットの妹である。本来ならもっと明るい―――吸血鬼に太陽光はよろしくないのだが―――部屋であってもおかしくは無いのに、こんなある種牢屋ともいえるような部屋に住んでいるのは、彼女の気性、そしてそれを致命的なものにする能力のせいであろう。
そんなフランが読んでいる本は、異世界のモンスターのことが書かれた本だった。
驚くことに彼女は四百年近くこの場所で隔離されているのだ。出ればいいではないかと事情を知らないものなら言うであろう。確かに彼女の能力があればどんなに強固な結界であれ〝壊す〟ことは容易い。しかしそれによって引き起こされるであろう被害は、計り知れない。それを館の住人、そして何よりフラン自身が理解しているため外へ出ることは無い。
そして、そんなフランが趣味としているのは読書。静かに過ごすにはこれが最適解であり、かつ常識を学ぶ機会にもなる。まあ、他者と接していない時点で常識を言えるのかは疑問ではあるが。そしてそれを四百年続けているため、ほとんどの物は読んでしまったのだが、今日は新しい本が来たのでそれを読んでいるところである。
パタンと、フランは本を閉じ、物思いに耽るようになる。
「古龍……ねえ」
現在、幻想郷に鋼龍という存在が来ていることはフランも聞いている。曰く、魔力の類を持っていないにも関わらず、幻想郷全域を包む暴風を発生させるほどの力を持っている。自分の姉も、食客みたいな魔法使いもそいつを気にしていて、その力の根源を探っているらしい。
だが、フランにとってはほぼどうでもいいことだった。万物には弱点の〝目〟がある。それを無理やり握りつぶせる彼女の能力があれば、どんな存在であれさしたる脅威ではない。古龍とやらがどんな強さを持っているのかは彼女は勿論、幻想郷の住民も正確に把握できていないが、かといってフランの興味を引くようなものでもない。
ベッドに横になり、彼女はまた何年とも知れぬ暇をもてあそぶことになる
ガシャン!!
途端そんな音が聞こえ、フランは体を起こした。
音がしたのは、扉からだ。誰か来たのかと一瞬思ったが、この館にそんな荒々しいドアの開け方をする者はいない。じゃあ客人か?しかし、扉の開け方からして友好的ではないのは伝わってくる。
同時に流れ出す妖気も、フランの肌に触れた。ずいぶん隠し方が下手くそな、下級の妖怪と同じようなものだ。目をつぶせばそれで終わるだろうか。フランはそんな風に考えていた。
もともとボロボロで、閉じ込める気のない扉は荒々しく開けられ、開けた張本人がのそのそと入ってきた。
ヒグマを超える黒い獣のようなものが、地面に四本の足をつけ歩いてくる。全身に棘が生えたそれは、驚くことに翼を持っており、また野太い双角も有していた。
なんだろう、この妖怪。一瞬フランはそんなことを思ったが、すぐに手を開いた。
どうせ話もできない。何の妖怪だか判明したところで、その場しのぎの退屈にしかならない。これまでの自身の経験から、フランは対象の目を探し、握りつぶそうとした。
だが、目を探そうとした所で、フランは生まれて数える程しか味あわなかった〝驚愕〟に見舞われた。
その妖怪には、握りつぶせる目が1000を超えていたのだ。
あり得ない。妖怪ですら数個以上、神であれば百個程度しか見たことのない目を、こんな奴が千個も持っているだなんて。予想だにしない出来事にフランはしばし困惑した。
だが、その獣妖怪から放たれる、これまた異常なほどの殺気を浴び、フランは困惑から立ち直った。
もうだいぶ昔、私がしたことを姉に烈火の如く叱られた時も、こんな殺気を感じた。しかし姉の怒気から感じた愛の欠片を、こいつからは一切感じない。
ただ、目の前の存在を、狩る、という気配のみだ。
フランの口元に、不気味なまでの笑みが張り付いた。
この獣は、フランの興味を
しかし、獣妖怪はそれに臆すことはなく、フランに襲い掛かった。
陽光が届かぬ暗闇の中で、二つの狂気は相対する。
ママクシャぁ……なんて言ってる場合じゃねえ。
ではまたいつか
作者の執筆意欲が消えて投稿を再開できるかもかなり怪しいので、今後のプランをどうすべきか、読者の方々の意見を聞きたいです。
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このまま続ける(頻度は相当落ちる
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モンハン東方で新しく書き直す
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モンハン東方はもう出さなくていい