幼馴染の川内と   作:語部創太

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1.帰宅

「先輩、タイピングおっそーい!!」

「やかましいわボケ! 初めてやるんだから仕方ないだろうが!」

 

 同期入社の島田が後ろでギャーギャー喚くのを言い返しながら、パソコンで入力している作業報告書と改善提案書に不備がないか再確認していく。

 

「というかなんで先輩呼ばわりなんだよ。同期だろ?」

「そりゃ4歳も違ったら、同期って感じはしないし」

 

 そっか、島田は高卒入社だったな。4つも年が違えば中学高校では先輩後輩ですらないほど離れているわけだし、同期って思えなくても無理ないか。

 

「その割にはタメ口だけどな」

「『敬語使わなくていい』って言ったのは先輩じゃん?」

「それはそうだけど、それなら先輩呼びもやめてほしいわ」

「無理」

 

 ……納得いかん。

 

「それにしても大変そうだな、その腕」

「うん。全然動かないや」

 

 タハーッと笑う島田の右腕はガッチリ白い包帯とビブスで固められている。現場での作業中に10尺の脚立から足を滑らせて落ちたそうだ。全治1ヶ月の島田が担当していた現場の責任者代理として白羽の矢が立ったのが、なぜか俺だった。そうして今回の出張が組まれたわけだ。

 

「こっちは人手が足りなくてさぁ」

「まあ、俺の方が忙しくなるのは年明けからって話だしな」

 

 人手が余っているところから人手が足りないところへ応援を出すのはよくある話だ。ウチでは俺が番の下っ端だし、クリスマスに何の予定も入ってなかった俺が応援に行くのは当然といえば当然。それは分かる。

 

 ……頭では分かるけど、心で納得するってのは別問題だ。

 

「終゛わ゛っ゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛…………」

「もう21時なんだけどぉ! おっそーい!」

 

 相手先に報告書を送付して、やっと仕事が終わった。定時が17時であることを考えれば、予定より4時間もオーバーしていることになる。

 

「というか聞いてねえぞ、年末の特別作業があるなんて!」

 

 それのせいで予定より現場が3時間も遅れたんだからな!?

 何が誰でも出来る簡単な現場だよ! アルバイトの人たちも疲れ果ててたぞ!?

 

「疲れた……」

 

 もうさっさと帰って寝たい。全身がゴキゴキ悲鳴を上げてる気がする。

 

「お疲れさま。どうする? 飲みにでも行く? ……せ、せっかくのクリスマスだし!」

「お前まだ未成年だろ」

「別に私が飲むとは言ってないじゃん!」

 

 島田が帰り支度をしながら飲みを提案してくる。何が悲しくてクリスマスに同期と2人で酒飲みに行かなきゃならんのだ。しかもアルコールは俺1人だけって。

 

「じゃあホテルに戻るの? クリぼっちの先輩の寂しさを癒してあげるよ?」

 

 そうなんだよなぁ……。河内の誘いも断ったから今年は1番寂しいクリぼっちなんだよなぁ。

 

「……………………いや、帰るわ」

「え? い、今から!?」

 

 どうせ明日明後日は休みだし、こっちに一泊するくらいならさっさと帰ってグッスリ眠りたい。

 

「じゃあまた今度な。怪我、お大事にな」

「ちょ、ちょっと先輩!? ……………………もぅ!!」

 

 島田が騒いでるけど無視だ無視。早くしないと終電なくなっちまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会社を出て新幹線に飛び乗る。ここから2回乗り換えること3時間、俺はようやく自宅の最寄り駅まで帰ってきた。

 

「あー、しんど」

 

 電車の中で仮眠は取ったが、それでも疲労と眠気で頭がボンヤリする。とにかく早く帰って早く眠りたい。

 

「お風呂は?」

「そっか……、入らないとな」

「沸かしといたよ」

「ありがと……」

 

 フラつく身体の汚れをよく擦ってしっかり落とす。風呂から上がったらそのままベッドに直行だ。

 

「ケーキあるよ?」

「それより眠りたい……」

「分かった。じゃあ明日に取っておくね」

 

 ベッドに潜る。冬のボーナスで買った布団はまだ冷たい。

 

「あたたかくない……」

「仕方ないなぁ。じゃあほら、ちょっとスペース空けて?」

「ぅん……」

 

 身体を少しずらすと、何か心地良い温もりが布団の中に入ってきた。

 

「それじゃ、おやすみ」

「おや、すみぃ……」

 

 心地良い温かさを感じながら、俺は深い眠りの世界に沈んでいった。

 

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