「川内! おめでとう、改二への改装が決定した!」
執務室。出撃から帰ってきた私たちを出迎えてくれた提督が、満面の笑みで迎えてくれた。
「…………ありがとう」
私の成長を喜んでくれる提督。嬉しいと思う反面、少し暑苦しい人だなって思う。
「どうだ川内。今日辺り、お祝いに飲みにでも行かないか? 最近、一緒に行ってなかったしな」
「…………遠慮しとくよ。今日からお休みもらってるから、実家に帰りたいんだ」
「そ、そっか。ちなみに昼なら、どこか遊びに行ったりとか――」
「報告は終わりました。退室してよろしいですか?」
「あ、あぁ……」
退室して巡洋艦寮に戻る道すがら、吹雪が声をかけてきた。
「川内さん。最近、少し変じゃないですか?」
「……そう、かな?」
「だって毎日、夜になったらすぐ提督のところに飛んでいって騒いでたのに、進水日の辺りから妙に静かというか」
「……ちょっと、疲れてるのかもね」
「そうですか?」
「うん。そうだよ」
そう。疲れてるのは嘘じゃない。今日24日からおやすみをもらうために、夜間哨戒の引継ぎや夜戦担当艦の育成と、忙しかったのはたしかだ。
ただ、前より提督との距離を取るようになった理由は、それだけじゃない。
久しぶりにアイツに会って、私は気付いてしまったのかもしれない。
それは、アイツ――私の幼馴染である山中優馬と、神通の誕生日プレゼントを買いに行った1週間後のことだった。
「姉さん」
「……………………」
「姉さんってば!」
「うぇっ!? ど、どうしたの神通。急に大声出して」
「姉さんがボーッとしてるからですよ!」
「そ、そんなに?」
慌てて椅子から立ち上がる。何か急ぎの用でもあったっけ?
「川内ちゃん。またソレ見てたんだ?」
ベッドでゴロゴロしていた那珂が指差したのは、私の机の上にある髪飾り。注連縄を模したような赤い髪飾りは、私の誕生日のお祝いにって優馬がくれたプレゼントだった。
「毎日飽きもせず眺めてはしまい、眺めてはしまい――そろそろ使ってはどうですか?」
「だよねぇ。せっかくのプレゼントなんだし、川内ちゃんには似合ってると思うよ?」
「うん……。それはそうなんだけどさ……」
2人の言い分も分かる。1回だけ鏡の前で試しに着けてみたけど、私に似合ってると思った。きっとこの姿を見せれば、提督だって「可愛い」と褒めてくれるだろう。でも――
「最初に見せるのは、アイツがいい……」
「「……………………」」
せっかくもらったプレゼント。最初にお披露目するなら幼馴染の優馬以外に思い浮かばなかった。
「恋じゃん」
「恋ですね」
「そ、そんなんじゃないってば!」
これを言うと、毎回2人からからかわれる。恋だの好きだの、私とアイツはそんな関係じゃないってのに。
……優馬は、いつも私のことを「友人」だとか「親友」って言ってくれる。それだけ信頼してくれるのは嬉しいし、急に電話した時もすぐに会いに来てくれたのは、めちゃくちゃ嬉しかった。本当ならもっと話したかったけど、鎮守府で別れた時は少し寂しかった。それもきっと、大切な幼馴染だからだ。
「やっぱり好きじゃん」
「どう見ても好きですね」
「だ~か~ら~!」
髪飾りを見ると、これをくれた時の優馬の澄まし顔を思い出す。なんてことのないようにそっぽ向きながら渡してくれたけど、耳だけ赤かったのは夕焼けによる錯覚じゃないはずだ。
それから、最後に笑顔で手を振ってくれたのも忘れられない。久しぶりに見た優馬の満面の笑顔は、すごく輝いて見えた。
「――――っ」
まただ。優馬のことを思い出すと、胸がキュッてした後に心臓がバクバク鳴り出す。変な病気にもかかっちゃったのかもしれない。
「病気は病気でも、恋の病気だね」
「恋煩いってやつですね」
「他人事だと思ってぇ……」
でも医務室で診てもらっても何ともなかったしなぁ。
「でも意外だよね」
「何が?」
「川内ちゃんは提督のことが好きなんだと思ってたよ」
「そうですね。あれだけ積極的に近づいていってましたからね」
「そ、そんなにすごかった?」
「「もちろん」」
「お、おぅ……」
たしかに、夜になる度に提督のところまで走っていっては夜戦だ夜戦の時間だと騒いでいたのは私だ。【川内】になってから夜が来るたびに気が高ぶるようになった身体は、暴走気味になっていた。加えて、提督のことを男性として気にしていたのも確かだと思う。
ぶっちゃけた話、提督はイケメンだ。アイドルばりに整った顔にスラリとした体型、気遣いも出来る優しい性格と完璧超人。そりゃあ女の子が惚れないわけがない。実際、提督は鎮守府のほとんどの艦娘から大人気だ。鎮守府で唯一の男性には、常に女の子たちがすり寄ってくる。きっと私も、そんな提督にすり寄る女性の1人だったんだろう。でも、そこまで本気だったのかと言われるとそうでもなかったというか――
「……なんかさ。恋に恋する年頃だったといいますか」
「まあ気持ちは分かるかな」
「訓練学校時代から、ずっと女性しかいませんでしたもんね」
「そういう2人の浮いた話とか聞いたことないんだけど?」
「那珂ちゃんはアイドルとしてどう輝くかしか興味ないからね~」
「私は故郷に許嫁がいますし」
「「ちょっと待って」」
なんか聞き逃せない単語が出てきたような?
神通の許嫁の写真を見せてもらったり惚気話を聞いたりと楽しかったけど、その日から改めて私と優馬の関係について考えた。神通や那珂にも相談した。…………まあ、2人からめちゃくちゃからかわれたりはしたけど。
そして那珂が言ったその提案が決め手だった。
「川内ちゃんさ。来週のクリスマスで一緒に過ごしたい人って誰?」
「……………………へ?」
「目を瞑って想像してみなよ。自分が思う理想のクリスマスを、自分の隣に誰がいるのかを」
言われるままに目を瞑る。そんなに特別じゃなくていい。2人でご飯食べに行ったり、夜にケーキを食べたり。のんびり2人で過ごしたい人…………。
『――――河内』
…………優馬の顔が、思い浮かんだ。
「それが答えだよ」
「……………………そっか」
好きなんだ。優馬のことが。
自覚した瞬間、顔が熱くなってきた。頭の中に優馬の顔が、一緒に過ごした思い出が浮かんでは消え浮かんでは消え、脳裏に焼き付いていく。
「~~~~!!」
「そうと決まれば話は早いですね! さっそくクリスマスデートをお誘いしましょう!」
「ムリムリムリ!?」
「大丈夫、川内ちゃんは可愛いから即オッケーだよ!」
「だ、だって優馬は私のこと友人としか思ってないし! かっこいいから、きっと彼女とかいるし……」
「「いいからさっさと誘いなさい!!」」
「心の準備が出来たらするからぁ!」
…………結局、当日の朝になるまで決心がつきませんでした。
まあ、そういうわけで。ここ数日元気がなかったのは、デートに誘う文句を考えていたらすっかり寝不足気味になってしまった訳でして。
「……………………よしっ!」
吹雪たちと別れてすぐ、スマホを取り出す。電話帳の1番上に来るように設定している優馬の番号をタップする。
数コールして、スピーカー越しに幼馴染の声が聞こえてきた。
『もしもし?』
「もしもしー? 元気ー?」
『あんまり元気じゃないかもしれない』
「……大丈夫?」
『ダイジョブダイジョブダイジョーブ博士』
「何それー」
……どうしよう。緊張で頭が真っ白なんだけど。なに喋ってるか分からない。とりあえず優馬と必死に会話しつつ、話を切り出す機会を伺う。そして単刀直入に用件を伝えた。
「その、さ」
『はいはい。何ですか?』
「今日と明日、一緒に遊ばない?」
切り出した瞬間、沈黙が訪れた。
あ、あれ……? 何かマズったかな?
『あー……』
「や、やっぱりダメだよね!? 先客いるもんね! ごめんね変なこと言っちゃって!!」
『いや、なんというか……』
ダメだった。やっぱりダメだった。優馬にはクリスマス一緒に過ごす相手がいた。失恋した。せっかく気付いた恋なのに、ほんの数日でビリビリに敗れた。
『すまん河内』
「う~……、謝らないでよぉ。私が悪いことしたみたいじゃん」
どうしよう。家に帰るのやめようかな。優馬と顔合わせるの気まずいよぅ。コイツが彼女を連れて家に帰ってきたりしたら、私その場で泣き崩れる自信ある。もういっそのこと寮の自室に引き籠って――――
『俺、今から出張なんだ』
「…………………………………………へ?」
良かった。優馬に恋人いなかった。ホッとした瞬間、膝から崩れ落ちた。
とりあえずここまで。
あとは書けたらうpしていきます。