幼馴染の川内と   作:語部創太

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6,疑念

「ごちそうさまでした」

「お粗末さまでした♪」

 

 さて、朝食――というか昼食?――を食べて腹は膨れた。では、次に何をするか?

 それはもちろん、大掃除だ。いよいよ年末、大晦日になってまだ部屋が汚いなんて事態は避けなければなるまい。となれば必然、この土日で自室の掃除をしなければならない。

 

「じゃ、俺は部屋の掃除してくる」

「もう終わってるよ?」

 

 まずは何からしよう。布団を干すか。いらない衣服と本を捨てるのは先週やったから、あとは掃除機がけとエアコンのフィルター清掃、窓も拭かないと――

 

「――はい?」

「だから、掃除しといたよ?」

「どこの?」

「優馬の部屋の」

「……いつ?」

「優馬が帰ってくる前に」

「………………」

 

 何この子、怖い。

 

「だから、今日は一緒にゆっくりしてよう?」

「お、おぅ?」

 

 肩を掴まれソファに座らされる。河内やけに力強いな。そして河内も俺の左隣に腰を下ろしてくる。

 

「ふふ……♪」

 

 妙に近くない?

 肩と肩が触れ合うどころか、河内の手が俺の膝に乗せられるほど近いんだけど?

 

「ねえ?」

「な、なんでせうか?」

 

 吐息が! 吐息が当たってる! 耳元で囁かれて背筋がゾクゾクする。

 

「なにか、私に隠してることない?」

 

 …………隠してること? 少し考えてみるけど、トンと思い当たることはない。

 

「いや、心当たりはないな」

「……ふ~ん?」

 

 不満げに鼻を鳴らしながら、さらに密着してくる河内。もはや抱きついていると言っても過言ではないほど近い。

 というか、さっきから腕に柔らかいムニュムニュしたものが当たってる。男なら誰しも夢に見るOで始まってIで終わる双子山が俺の左腕を圧迫してくる。

 

「ホントに?」

「ほ、ホントですとも」

 

 なんか気恥ずかしくて、河内と顔が合わせられない。ズイッと近づけられた顔から逃れるように視線を明後日の方に飛ばす。すると、それが気に入らなかったのか河内がさらに胸を押し付けてきた。

 

 あ~、左腕が幸せなんじゃ~。

 

 待て待て落ち着け。冷静になれ俺。友人を変に意識してどうする。そもそも河内は昔からボディランゲージが激しい方だったろうが。そりゃ今日の距離感はいくら何でも近すぎるとは思うけど、久しぶりに会えたから喜びのあまりついつい近くなりすぎていると思えば納得できる。

 そうだ、ここは深呼吸して頭を冷ますとしよう。ハイ、吸って~……

 

「ねぇ、こっち見て……?」

 

 あ~、良い匂いがするんじゃ~。

 

 いやいやだからオチケツ……落ち着けって俺。急に河内がすり寄ってきて女の子の甘い香りが鼻孔をくすぐるどころか思いっきり吸い込んで脳の中が河内一色に染まったとしても落ち着けばなんとかな――

 

 

 

 いや無理でしょ。

 

 何この子、こんなに可愛かったっけ?

 どこぞの子犬かってくらいスリスリ身体を密着させてきて、女性の象徴である柔らかい山をムニムニ押し付けてきて、誘ってんのか? この歳になるまで童貞を貫き通して彼女の1人も作ったことがない草食系男子代表である俺を誘ってるつもりかぁ!?

 それなら見せてやるよ! 俺のヘタレっぷりがどれほどのモノかをなぁ! 「ちょっと河内、距離近くね?」この一言で俺が自意識過剰の勘違い男だってことを証明してやるよ!

 

「やっと見てくれた」

 

 おま、そこで笑顔はズルくねえ!?

 ゼロ距離で可愛い女の子の満面の笑みを見た俺が正気を保てるとでも思ってるのか!?

 そもそも何で俺の家に上がり込んで、部屋の掃除までしてくれて、ご飯まで作ってくれて、うっすら思い出してきたけど昨夜は風呂を沸かしてくれたのもお前だったよな!?

 何なのこの子、嫁さんなの? 俺の嫁さんかってくらい甲斐甲斐しく世話してくれてんじゃん!

 

 いやまあ分かってる。分かってるよ。俺の母さんから留守を頼まれたんだよな。幼馴染がヘロヘロになって帰ってきたから心配になって世話してくれてんだよな。

 分かってる。コイツがいまさら俺を男として見るなんてありえない。それこそ幼稚園でおもらしした所を見られるくらい昔からの間柄だ。恋愛感情なんかあってもとっくになくなってる。あくまで『友人』として世話してくれてんだろ?

 

 ……でも昨日、俺が寝てる布団に潜り込んできてたよな? いくら幼馴染とはいえ、一緒の布団で寝た記憶なんか1回もないぞ?

 いくら友人とはいえ、普通男の布団に潜り込んでくるか?

 

 

 

 ……………………あれ? 河内、ひょっとして俺のこと好きじゃね?

 

 

 

 いやいやいや、まさか。まさかそんな、ねえ。幼馴染と言っても高校は別々だったし仕事も違うし、そもそもこれまでそんな素振り1回も――

 

「……………………♥」

 

 疑念を払って隣を見れば、俺の腕に頬ずりして蕩けそうな笑顔を浮かべる幼馴染の女の子がいる。

 

 

 

 ――やっぱり河内、俺のこと好きじゃね…………?

 

 あまりにも自分に都合がよすぎる急展開に、俺の頭が思考を放棄する音がした。

 




 砂糖吐きそう。
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