呪術師と審神者   作:あれなん

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【1】ことあと夏油は定期的にMRIを受けることになる

 

「この任務はオマエたち2人に行ってもらう」

 

その夜蛾の言葉に五条と夏油は嫌な顔を隠さなかった。

任務に次ぐ任務に嫌気がさしていたこともある。たまにはこんな片田舎ではなく、渋谷かどこかで女の子を引っ掻けて遊びたいと思う年頃だ。

 

『星漿体の護衛と抹消』

 

その面倒くさそうこの上ない任務の詳細を夜蛾と夏油から聞き、五条は内容を脳内で反芻させた。しかし夜蛾が教室から退室する前に言っていたことを思い出し、補助監督の運転する車内で形の良い眉を顰めた。

 

「…しっかし、この任務に宮内庁からの派遣があるってダリィな」

隣に座る夏油も同じように考えていたようで肩を竦める。

 

「先生に聞いたけど、監査と銘打って高専に視察があったけど、任務に同行することは初めてらしいよ」

 

「ウゲェ…死にかけのじいさんが来たらどうするよ。星漿体の護衛に加えて介護なんて俺はやらねえぞ。傑、介護はまかせた」

 

「私も嫌だね」

 

「いいじゃねえか、傑の呪霊でじいさんをちょっとの間だけぱっくんちょしてくれたら問題ないだろ?」

 

「…ぱっくんちょしたらしたで大問題になりそうだけどね。まあ、どうするかは集合場所に行けばわかるでしょ」

 

そんな軽口を叩きながら、星漿体のいる建物に向かう。

いかにも金持ちが住んでいそう場所に、高専の古臭い建物もどうにかなんねえかなどと比較してしまうのは仕方がない。

 

宮内庁からの派遣と落ち合うことになっているベンチに向かうと、じいさんではなかったがある程度想定通りといったところだろうかスーツをきた男が1人と狩衣を纏った小柄な女性1人が佇んでいた。

 

顔を隠すようにつけている雑面には認識阻害のような効果が付与されているのか、記憶に残らない、小柄な女性という認識も幻術かもしれない。観察している夏油を置いて、五条はずんずんとその人物に向かって歩いて行った。

 

「なあ、あんたか?宮内庁からの派遣って。精々俺らの足手まといになるなよ」

その失礼な言葉を吐く五条の口を塞ぎ、夏油はかぶせるように言う。

 

「すみません…こいつ人間5日目でして…」

 

「――いいえ、ご心配なさらず」

声からしてまだ若い女のようだと夏油は判断した。

口を覆っていた夏油の手を抜け出し、五条は言う。

 

「ちぇっ…めんどくせえな」

 

既に目の前の人物に関心を無くしそっぽを向いた五条を放っておき、夏油は簡単に挨拶をする。

 

「高専から任務を命じられました私は夏油傑、あっちのえのきは五条悟です」

 

「宮内庁時間遡行軍特別対策班所属、審神者名 蘇芳と申します」

 

えのきと紹介され、夏油に噛み付かんばかりに怒っている五条の頭をアイアンクローしつつ自己紹介を続ける。

 

「…審神者の方でしたか、ということはそちらの方は…」

 

「あぁ、高専の方だとそこまでご存じなのですね。ご想像の通り、私たちに力を貸してくれている付喪神です。…このことはどうぞ内密に…」

 

夏油は目の端で男たちを見る。自身や五条も顔は人より良い方だと自覚しているが、男はそれに並ぶほどだった。次に言葉を紡ごうをした夏油を遮ったのは爆発音であった。

 

 

「あーーーーー!!あいつら何がしたいのか意味不明!!!」

沖縄の所謂高級ホテルの一室で五条が叫んだその言葉に夏油は心の中で大きく頷いた。襲撃者を制圧している間も審神者たちは2人を手伝うでもなく、微動だにしていなかった。

理子や黒井とは簡単に挨拶をしていたが、高専に所属していない2人に審神者なんて言葉知るわけもなく、政府の人で敵ではないと理解したようだった。

 

昼間にで五条と理子がなまこと戯れている間も審神者たちは後ろからひっそりとついてきているだけで逆に気味が悪かった。

 

「まあ、もともと手伝ってくれるなんて一言も言ってなかったからしょうがないかもね」

 

「審神者が視界に入る度に目がちかちかして鬱陶しいんだけど。早くどっかいってくれねえかな」

 

「審神者は他の人と見え方が違うのかい?」

 

「あ――、なんか光ってる。たぶんなんかの加護じゃね」

 

「なんかって…まったく…。審神者は別次元で引きこもってるのに今回に限って出てきたのかも気になるところだけどね」

その言葉に五条も同意なのか沈黙が生まれた。

 

「そういや、傑もあの審神者からお守り渡されたか?」

 

「ああ、理子ちゃんたちに渡してたやつだよね。さっきホテルですれ違った時にもらったよ。悟の分も預かってるよ。ほらこれ」

 

いかにも神社で売っていそうなお守りの一つを五条に放った。五条はキャッチしたお守りをサングラスをずらしてまじまじと眺めている。

 

「…これすげえな」

ぽつりと漏らした言葉に夏油は聞き返した。

 

「なんかついているのかい?」

 

「バリアみたいなもので隠されてるから微妙だけど、なんかの加護が渦巻いて見える」

 

「そのなんかが知りたいんだけど…」

 

「まあわざわざくれたんだから、もっといて損ないだろ。なんかあっても俺たち最強だし」

 

「…まったく……」

 

沖縄のほぼほぼ観光旅行と化した旅も終え、高専結界内に到着した。

慣れ親しんだ場所に戻ってこれたという安心感から緊張が和らいでいた。

 

一瞬の出来事だった。

 

「―――ッ!長谷部!!」

 

その叫び声のすぐ後に金属同士がぶつかった鋭い音が五条の真後ろで響いた。五条が振り向くと同時に小型のナイフがいくつも投げられ、その一つが五条の脇腹に刺さった。

 

「主!お怪我はございませんか?」

 

「大丈夫!長谷部はその人押さえておいて!」

 

襲撃者のナイフは審神者の方にも投げられていたようで、破れた雑面が地面に落ちていたが怪我はないようだった。

 

「悟!大丈夫か!?」

 

「問題ない、それより天内優先だ!」

 

付喪神は襲撃者の刃を抑え込んでいたが、持っていたナイフを投げられ距離を取らざるを得なかった。付喪神と襲撃者の間に五条は立ち、夏油と審神者に対して理子をつれて目的地に行くよう告げた。その言葉に夏油と審神者は理子たちの腕を引き、奥に進んだ。

 

薨星宮本殿

 

灯りはまばらでどこかひんやりとした空気が漂う。夏油もここまで来たことはこの任務がなければなかっただろう。

 

審神者と黒井は参道で別れた。黒井と理子の別れの言葉と涙が夏油の心に染みを残す。2人きりとなり夏油は理子に選択肢を告げた。

 

同化(抹消)か帰るか。

 

夏油は理子の本心を聞きたかった。ぽろりと漏れた理子の言葉はだんだんと勢いが増した。

 

「…もっと皆と…一緒にいたい!!」

その言葉に安心し、理子に手を差し出した。

 

乾いた破裂音と金属音がほぼ同時に空間に響いた。

 

「おー、大将の読みが見事に的中したな!」

付喪神だろうか小刀を構えた少年が理子と銃を構えた襲撃者の間に立っている。

 

「理子ちゃん!こっちに!」

 

夏油は慌てて理子の腕を引いた。さっきまで下ってきた道を走りながら戻る。参道では理子との別れに涙を流していた黒井が本殿の方向を睨んでいる審神者と長谷部と呼ばれていた付喪神に庇われていた。

 

「黒井!!」

 

「お嬢様!?」

 

黒井と理子は再度お互いを強く抱きしめあった。

 

「――薬研が襲撃者に対応しているようですね」

そう審神者は夏油に告げる。

 

「いつの間に付喪神を理子ちゃんにつけていたんだい」

 

「お守りとともに託しておきました、――万が一のために」

 

金属同士がぶつかる音が木霊する。

 

理子と黒井を壁側に寄らせ、夏油と長谷部と呼ばれていた付喪神、審神者で庇うように立った。一層重い破裂音の後、先ほどまで響いていた音が止み、沈黙が下りた。本殿より足音が聞こえ、夏油は呪霊をいつでも出せるように構える。

 

本殿に続く道から出てきたのは先ほどの少年であった。多少服は汚れていたが、傷一つ負っていなかった。

 

「奴さんは一旦退却みたいだぜ、大将」

 

「…そう」

 

「――、で、どうするんだ嬢ちゃん」

 

急に少年から話題を振られた理子は目をぱちくりとさせた。

 

「…どういうことだい?」

 

「嬢ちゃんは結局同化することを選ばなかった。ってことは、同化だどうだって盛り上がってる外野をどうにか納得させる理由が必要になったってこった」

 

その言葉に理子たちと夏油は言葉を詰まらせた。

夏油は五条と同化について理子の意思尊重することは決めたが、その後は投げやりであった。

 

「―――あります」

審神者の漏らした言葉に全員の視線が集まった。

 

「理子さん、沖縄のホテルで2人で話したことを覚えていますか?」

その審神者の言葉に理子は首を縦に振った。

 

「理子さん、あなたに戦う勇気はありますか?」

 

「……――あります!」

 

「私はあなたが現状から抜け出す道を提示できます。しかしそれはあなたを戦いの前線に立たせることとなる。楽しいことばかりではない。それでも後悔はありませんか?」

 

「…私は、それでも生きたい!守られているだけじゃなくって、守りたい!黒井も夏油さんたちも!!」

 

「――――わかりました」

 

審神者はその理子の言葉に頷き、どこかに電話を掛けた。

 

「本丸NO16605、審神者名 蘇芳。審神者候補となる霊力保持者を発見。審神者名 蘇芳はこの霊力保持者天内理子を審神者候補として推薦致します」

その言葉に夏油と黒井は目を白黒させた。

 

理子ちゃん(お嬢様)が審神者に?

 

電話の向こうと話が着いたのか審神者は通話を切った。

 

「…これで理子さんは審神者候補となりました。パワーバランスとしては呪術界よりもこちらの方が強い。すぐに宮内庁から連絡が来るはずです」

 

その言葉通りに夏油の携帯に5分と立たず夜蛾から連絡が入った。

理子が審神者候補になったことは隠され、ただ星漿体の役目を外されたとだけ告げられた。

 

薨星宮の外に出ると地獄さながらの有様であった。

壁や地面は抉れ、樹木はその巨木を支えるための根のみを残し、消飛ばされていた。五条は石畳に倒れており、上半身の半分を失った襲撃者の遺体も近くにあった。

 

「悟!!」

慌てて夏油が駆け寄る。理子たちもそれに続いた。

五条のそばに力なく座り込んだ夏油に理子たちは最悪の事態を想定し、唇を震わせた。

 

「悟……が寝てる…」

 

夏油が五条の身体を揺するが疲れて爆睡し高鼾をかいたままなかなか起きず、五条の頬を強めにはたくとやっと瞼を開いた。

 

「――なんだよ…すぐるか… っ!おい傑!天内どうなった!?」

 

「あー、悟…後ろ」

その夏油の言葉に振り向いた五条の頬に理子のビンタが炸裂した。

 

「――寝てるなんて!心配して損した!!……けど、無事でよかった…」

 

「あったりまえだろ!俺ら最強だぜ?」

 

泣きながら言う理子に対して叩かれた片頬を赤く腫らし、五条はいい笑顔で告げた。

五条を除いて全員がその言葉にため息をついた。

 

全員高専の保健室にぶち込まれ、手当てと身体検査を受けることになった。五条以外はほぼ怪我を負っていないため早々に解放され、全員がベンチにぐったりともたれかかっていた。襲撃に対する緊張と沖縄旅行、さらには先ほどの恐怖から解放されもう一言も発したくなかった。

 

「…そういえば蘇芳さん、ずいぶんと若いですね。お嬢様よりもお若いんじゃないですか?」

 

黒井は雑面をつけていない審神者の顔を見てそう言った。その言葉に夏油は審神者の顔をまじまじと見た。顔の輪郭はやわらかで、まだ幼さを漂わせている。顔を雑面で隠し、伸びた背筋と所作やはっきりとした物言いは大人と認識されるほどだろう。そのちぐはぐさに夏油は静かに驚いた。

 

「理子さん今14歳でしたよね。…私は12の年になりました」

 

「ッ!」

 

驚きの声をうまく飲み込めた自分自身を夏油は褒めた。理子と黒井は失敗したようで奇声を発していた。

 

既に時計の短針は真上を通り過ぎ、月は高く昇っている。理子と黒井、そして審神者は高専の寮の空室を貸し出された。

理子は黒井と一緒の部屋がいいと言い、枕を持って同じベッドに寝ているらしい。

 

夏油は目が冴えてしまい眠る事もできず、自販機で買ったお茶を啜っていたが、なぜだか落ち着かなかった。

 

「こんばんは」

その静かな声に夏油は身を固まらせた。

 

「…驚かせないで、蘇芳ちゃん…」

 

「すみません、驚かせるつもりはなかったのですが。良い夜ですね、お月見ですか?」

空を見上げると確かに満月だった。

 

「…――蘇芳ちゃんはなんで戦うんだい?感謝もされずただ傷ついて、悔しくないのかい?」

 

「…夏油さんは誰のために戦っているんですか?」

質問を質問で返される。

 

「私は、呪術師は非呪術者を守るためにあると考えている。だからだよ」

 

「脆いですね。そして愚か」

 

「は?」

 

「「誰かのため」聞こえはいいですが、その誰かが自分の意思と違う行動をとれば裏切られたと思う。他人に期待するなんて、まるで子供のようですね」

夏油は思わず審神者の胸ぐらを掴んだ。

 

「っ、君に!何がわかる!!」

 

「ではなんですか?非呪術者から感謝されたいんですか?崇められたいんですか?奇跡だ、魔法だと」

 

「…」

 

「そのような考えなら高専を退学すればいいではないですか。そして市井で呪霊相手に戦うことなく、非呪術者相手に手品でもしていればいい」

 

「…」

 

「――少しいじめすぎたみたいですね」

その言葉に夏油は顔を上げる。審神者の胸ぐらを掴んでいる手は疾うに力を無くしていた。

 

「…私は5歳のときに徴兵されました」

 

「徴兵?」

 

「呪術者は少数ですが、それ以上に審神者になれるほど霊力が高いものはごく稀にしか存在しません。血縁も関係ない。だから霊力があるとわかった時点で強制的に身柄を確保されました」

 

「…それは…」

 

「私の場合もそうでしたが、着の身着のまま説明もなく別次元に連れて行かれるものがほとんどでした。徴兵された中には幼い子供や子を持つ親もいましたが、機密上、外部と連絡は許されず家族と会うことすらできませんでした。 料理なんてできるはずもなく、3日ほど生の野菜と水を飲んでしのぎました 」

 

「…」

 

「そんな状況で霊力を持たない人のために…なんて言っていられると思いますか?」

 

「それでも君は持たない人を憎く思わないんだね」

 

「なにも知らない人にどうして怒る必要があるのですか?他人よりそのシステムに私は怒りを向けました」

 

「システム?」

 

「ええ、実際、強制的な徴兵で審神者は数を増やしました。しかし死亡率をしては1年足らずでで2分の1になった。愚かとはこのことですよ」

 

「…2分の1」

呪術師も死亡率は高いがそれ以上だ。

 

「私が生き残ったのはただ運がよかっただけですよ。それに私はこんなところで死んでたまるかと思ってました。家族に会いたかった。だから怒ったのですよ。このシステムを作った者に対して。同調してくれる審神者は多く、機密情報のため内容は端折りますが、その怒りは昇華され、形となった。結果としてシステムを変えることに繋がりました」

 

「今では徴兵制はなくなり、スカウト制になりました。またちゃんとした研修制度も設けています」

 

「それは…すごい」

 

「呪術界も改善はいくらでもできると思いますよ? 実際に戦っているのは夏油さんたちではないですか。今のシステムを作った人たちはあと10年もすれば御陀仏で墓の中ですよ 」

 

「!」

 

「話は戻りますが、その時、「誰かのため」になんていっていてもなにも変わりませんよ。会ったことのない他人に期待するなんて時間と体力の無駄だと思いませんか。そもそも理由なんてもっと単純でいいと思います」

 

「単純…」

 

「「私自身」がそのシステムを気に入らなかったから変えました。自分の周りの人たちを守りたかったから戦っています。それでいいではないですか。夏油さんはなにが嫌いでなにが大切ですか?」

 

「……――、わたしは、」

 

夏油の頭に幼い頃の記憶と高専の寮で五条や灰原たちと徹夜でばか騒ぎした記憶が蘇る。「見える」ことで家族から気味悪がられ、友達もいなかった。夕方になってからも家にはなかなか帰らず、同級生が帰った薄暗い公園で一人ブランコを漕いでいた。あんなに楽しそうに同級生たちは遊んでいたのに、静かな公園にひとつだけ響くブランコの金属音がひどく悲しかった。

 

自分のように「見える」ものが集まった高専はひどく心地よかった。下級生の灰原や七海を巻き込んで徹夜で脱衣麻雀したり、スイパラに行って五条以外は胸やけで次の日まで苦しんだことはいまでも思い出し笑いすることがある。

 

「――私は、私のような子供をたすけたい。理解のない周囲にひとり苦しみ虐げられているひとを、呪術師を、仲間を、救いたい」

 

「…やっと夏油さんの本音がきけましたね」

柔らかな声を出した審神者の顔には微笑が浮かんでいた。

 

「もうこんな時間でしたか」

急に響いたバイブ音に、携帯を取り出した審神者は立ち上がり、そばにあった窓を開けて身を乗り出した。

 

「!なにして…」

 

「本当は皆さんが寝ているときに片付けたかったんですが、夏油さんが起きていることは想定外でした」

そう夏油に向かって言うと、校庭の方に向かって歩き出した。審神者は何かの術なのか空間に手を入れ、刀剣を取り出す。懐から出した短刀と合わせて4本を地面に並べると審神者は柏手をその場で打った。季節外れの桜は夏油の方に風に乗って流れてくる。

 

「念の為、建物すべてに結界を張っているので、出ないでくださいね」

 

そういうと審神者は暗闇の方を睨んだ。

夏油もそれを見つめていると、空間がひび割れ、甲冑やらを纏ったモノが溢れ出てくる。呪霊でグロテスクなのは見慣れているがそれとはまた違った威圧感だ。

 

それに対峙する審神者の背中は夏油よりもはるかに小さく、ひどく勇ましかった。

 

 

審神者と付喪神は敵を一瞬のうちに葬ったあと、呆然とする夏油を残し、どこかに報告するためにその場を立ち去った。

 

明くる日、夏油は完全に寝不足だった。審神者と付喪神の戦いに興奮したことも要因ではあったが、審神者の言葉がぐるぐる頭の中を巡っていた。

黒井と理子は審神者とともに一度政府の方で、今後について詳細に話を聞くらしい。政府から高専の車よりも上等そうな車が3人を迎えに来ていた。

五条と理子は元気にやれよなどとじゃれあっている。

 

審神者は雑面をつけることはやめたようで、素の顔をさらしている。お日様の下で見る審神者の顔は昨日よりもさらに幼く見えた。その審神者に夏油は呼び止められる。

 

「――あぁ、夏油さん。少ししゃがんでいただけますか?」

 

「?、こうかい?」

 

「…舌、噛まないようにしてくださいね」

 

突然振るわれた拳に唖然とする。審神者からまさかグーパンを頬に食らうとは思わず、夏油は痛いというより驚きで目を真ん丸にさせた。体幹がしっかりしているため転げることはなかった。審神者の拳はしっかりと腰に力が入ったいいパンチだった。

 

「くそがき!傑を傷物にするなんて何考えてやがる!」

驚く夏油に変わって五条が審神者に怒っている風を装っているが、長い付き合いでわかる。あれはおもしろがっている。

 

「…効果はじきにわかるとおもいます」

そう言い残し、政府の車に審神者は向かった。

理子と黒井もそれを追いかける。

 

 

それは審神者と理子の件から1,2か月経過した頃だった。

下級の呪霊を五条と夏油で倒し、いつものように夏油は取り込んだ。

動きを止めた夏油に五条は聞く。

 

「…」

 

「……?傑、どうした」

 

「味をかんじない」

 

「…ファッ!?」

 

この後、五条によって夏油は高専の医務室にぶち込まれ、大学病院でMRIやCTを受けた。結果としては呪霊を取り込む際の味を感じないだけで、通常の味覚は機能していた。

また味覚チェックと称して五条おすすめの砂糖もりもりのスイーツを食べさされ、逆に味覚と胃をやられることになる。

 

 




そして審神者は山のように始末書を書いた。
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