呪術師と審神者   作:あれなん

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【番外編 五条ルート(上)】夏油と夜蛾は親切心()で呪霊が現れても五条に連絡が行かないようにした

 

 

定期的に審神者と呪術高専側とで行われる会議の後、終了時間にもよるが自然と飲み会に突入することが多い。高専内で飲酒は良くないという夜蛾の判断から高専の近くの飲食店に毎回ぞろぞろと集団で移動している。

 

審神者も一応参加しているが、やはり気心が知れている者たちで飲んだ方が楽しいだろうと端の方で注文した料理を食べ、腹を満たしていた。

 

審神者の向かいには家入が座って紫煙をくゆらせている。どちらも口数が多い方ではないのが逆にお互いにとって居心地が良いらしかった。

 

 

「蘇芳ちゃん、ちょっとそこの座布団取ってくれないかい」

夏油が酔って前後不覚になった五条の腕を肩に回し運んできた。

 

「五条さんまた飲まれたんですか?」

「外に捨てておけ」

審神者はまだ表面上だけでも心配している素振りを見せたが、家入は慣れているのか辛辣だった。

夏油は五条を壁の方に寝かせ、そのまま家入たちのテーブルに座った。

 

 

「こっちくんな」

「硝子たちは飲んでないのかい?」

断固拒否する家入の言葉など聞こえていないかのように夏油は流す。

 

 

「今は煙草で十分」

「規則で外で飲めないんです」

その2人の言葉に夏油は肩を竦めた。

 

「そういえば、蘇芳、前に会った時よりやつれてないか?」

「隈も硝子よりひどいね」

「あぁ、雑務が多くて…皆さん釣書とか押し付けられないんですか?」

その言葉に夏油と家入は審神者の言った雑務の内容がわかった。

 

 

「届いたが燃やした」

家入は言った。

「私もいちいち返したりしてたけど、面倒になったからそのまま置きっぱなしだね」

 

「それができればいいんですが…無駄に家柄がいいとかで御断りの返事をするのも慎重になるんですよ」

 

「きみらよりぼくのほうがたいへんだから!」

目が覚めたのか五条が呂律が回っていない口で会話に飛び込んできた。

 

「術式の希少さに加えて家柄もありますからね」

審神者の言葉に五条は手を体の前にクロスさせて全身で表現する。

 

「ぶっぶー!!まだたりない!」

 

「?」

 

「ぼくのかお!いいでしょ!」

 

その自信満々の言葉に夏油と家入は聞き飽きているのかため息をついている。

 

「何とも判断ができないのですが…」

 

「はーー?まじしんじらんない!め、ちゃんとついてんの?」

馬鹿にしたような五条の言い方に思わず審神者は喧嘩を買ってしまう。

 

「その程度の顔なら見慣れてるんですよ」

審神者は鼻で笑った。確かに何度か見た付喪神の顔はどれも良かった。夏油と家入も頷いた。

 

「ばっかじゃないの!ぼくとあんなのくらべるなんてほんとばーーか!」

 

「夏油さん、これ、車道に捨ててきていいですか?」

 

「酔っぱらってるから!勘弁してやって!」

五条を池に捨てた前科がある審神者を夏油は必至に抑えた。

 

身を起こした五条ではあったが、まだ酔っているようでテーブルにへばりついている。

 

「結婚するだけならまだしも、大方、結婚した後は血を継いでいる子を望まれます。男性は楽かもしれませんが、女性だと大変ですよね」

話に戻った審神者に夏油は理解ができず聞き返した。

 

「楽って…?」

 

「女性は妊娠出産をすることがなぜか結婚とワンセットのように思われます。自身の妊娠出産を望まない場合、卵子採取して代理母へという選択肢になります。しかも日本では認可されていないので海外の病院に行かないといけないんですよ。お金も時間も体力もかかりますが、男性は基本出すだけでいいので」

家入は審神者の言葉にうなずいている。夏油はそんな言葉が審神者から出るとは思わず絶句する。

 

「子は兎も角、とりあえず形だけでも結婚して周りを黙らすことができればいいのですが…呪術師の中で、お金を積めばどうにかできる方いませんか?」

 

「…ぎそうけっこんとかしないの」

さっきまで溶けていた五条がちょっと回復したようで、会話に参加した。

 

「偽装結婚ですか…どちらにしても別居婚になるのでそれでもまぁ…というところですね」

 

「ちょっと待って、一応審神者って神に仕える身なのにそんなことして大丈夫なのかい?」

 

「どんなものにも抜け穴はあります。神前式をせずに、事前に契約上の関係と言っていればたぶん大丈夫ですよ。」

 

「じゃあ、ぼくときみとでぎそうけっこんしない?」

 

「いいですねそれ」

 

繰り返し言うが審神者はこのとき疲れ果て正常な判断はできておらず、五条に至っては酔っ払っていた。まだ正常であった夏油と家入は冗談だと思い笑った。

 

審神者と五条は次の日冷静になってちょっと後悔していたが、デメリットに対してメリットが大きすぎた。書類は郵送でやり取りされ難なく役所に提出された。

 

 

 

 

 

慌てたのは呪術界と政府側だった。任務の報告書と共にペラ一枚で出されたその報告に激震が走った。

 

呪術界からはあの五条と結婚する女なんて術式目当てか狂っているかのどちらかだと言われ、他の審神者連中からは結婚生活がいつまで持つかの賭けが流行った。最短予想は3日だった。

 

現世と本丸で別れて生活しているため、特に五条と審神者に変化はなかった。むしろ釣書の山がさっぱり消えて快適でもあった。

 

しかし審神者側である問題が発生した。

本丸で過ごす刀剣男士が万屋で買い物をしている際に他の本丸の刀剣男士から自身の主の結婚について耳にしてしまった。詰め寄られた審神者は明日の編制を告げるような軽さで肯定する。

刀剣男士たちとしては・・・・蝶よ花よと育てた審神者が、どこの馬の骨ともわからない男と結婚したというのだ。

結婚相手と思われる男と接触した刀剣男士は他の者からその男について情報を吐かされたが、ちゃらんぽらんだとか中身が鶴丸と鯰尾掛けて2で割っていない感じとか明らかに事故物件でしかなかった。

 

刀剣男士たちは何時間も話し合った。あの行かず後家(ごけ)まっしぐらと噂されている審神者がやっと見つけた相手なのだ。それを刀剣男士たちの一存で跳ね除けていいのか。実際の所は紙切れ一枚の契約関係であるが、そんなことをつゆ知らず、刀剣男士たちは顔面中から液体を垂れ流して話し合った。

 

刀剣男士たちが出した結論は簡単であった。

 

今が糞野郎でも、自分たちで叩き直せばいいじゃない。

その一言に尽きた。

 

 

翌日、朝餉の席で刀剣男士全員がジャージや着物といった内番服ではなく戦闘服で揃っており、神妙な表情でそのことを伝えられると審神者は迷わずGOを出した。

 

 

五条ははじめから嫌な予感がしていた。所謂虫の知らせというやつだ。婚姻届を合わせて審神者とは契約書を締結していた。

実質公序良俗に反しているため裁判となるとてんで役に立たないが、ないよりましという考えから作成した物であった。その契約書には親族への挨拶も含まれていた。

案外審神者はうまくやっていた。五条家の顔合わせでも年寄の嫌味混じりな質問にも「禁則事項です」でやる気なく貫き通していたのは笑った。

 

契約上審神者と五条は同等であり、優劣はない。つまりは五条家に審神者に挨拶に行かせたのだから、五条も同じようにする必要があった。

 

審神者からは事前に餞別とばかりに大量の本が五条の元に届けられていた。どれもマナーや歴史に関するものである。五条はいいところの子ではある。しかしそれは高専に入学してからそれまでに教えられたマナーやらは忘れ去っていたため無いに等しかった。

 

様々なことを経験している五条としても政府の施設に入るのは初めてのことであった。指紋やら目の網膜やら体中のデータを取られ秘密保持契約書まで結ばされた。

 

施設の奥に位置しているゲートまでは目隠しをされ、それはそれは物々しかった。

ゲートと思われる物の前に立たされ、大きく一歩踏み出すように言われると、空気が一気に変化したことを肌で感じた。

 

目の前には五条家と並ぶかそれ以上の日本家屋がある。

縁側から入り込もうかと考えたが、さすがにまずいかと思いなおし、玄関を探す。玄関はすぐに見つかった。とりあえず目の前にあったチャイムを鳴らす。すぐに軍帽を被ったおかっぱの子どもが出てきて、中に入るように促された。ぽいぽい靴を脱いでそのまま上がり(かまち)に乗った。するとじっとその様子を見ていた子どもが棒状のなにかを取り出し勢いよく五条のケツに目掛けて振り下ろす。術式を常に展開しているため当たることはなかったが、年末にあるお笑いの番組の罰ゲームを思わせる攻撃に五条は目を丸くした。

 

「っ!…急になに?!」

 

「礼儀作法がなっていません。玄関からやり直してください」

 

「は?」

 

目の前の子どもが言うことには、今回五条を本丸に呼んだ目的は、本当に主の結婚相手に相応しいのか見極めるためである。相応しくない行動が見受けられた場合、その場で矯正を行う。簡単にまとめるとそのようなことを言っていた。むしろその場で切り捨てられないだけでも幸いだと思えというような子どもの口ぶりに、やっぱり虫の知らせは正しかったのだと五条は悟った。

 

外套の脱ぐタイミングやら靴の揃え方やらちくちく言われては何度もやり直しをさせられて、玄関に入って靴を脱ぐまでにたっぷり30分はかかったし、当たりはしなかったがケツバットが5回は振り下ろされた。

 

やっとのことで子どもに許され、座敷まで案内された五条であったが、既に心が折れそうだった。特級呪霊が何体か出てきてくれても今ならスキップして喜んで祓いに行くだろう。

 

通された和室の畳の縁を踏まないようにして慎重に座布団に正座した五条であったが、既に部屋にいた藤の花を思わせる髪色の男に刺すような視線を向けられた。

 

襖を閉めていない廊下に審神者の姿が見えた。五条の机を挟んで向かいに座った男は審神者に投げかけた。

 

「…主、まさかこの男をこのままでいさせるつもりではないだろうね?」

 

男的には五条の精一杯の作法でも合格の基準には達しなかったようだった。

 

「歌仙、前田がしていたようにケツバットで勘弁してやって」

審神者はそう男に告げると、五条に対しても言う。

 

「五条さん、折角本を送ったのに読まなかったようですね。精々頑張ってください」

 

 

五条は特級呪霊がどこかに現れて、呼び出しがかかること心の底から祈った。

 

 

 





審神者が夜蛾に本丸で行う内容を伝えると、五条の休暇を5日間確保してくれた。
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